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強制執行が決まったときに差し押さえるものがない状態なら、財産を奪われることはないと安心してしまいがちです。
確かに差し押さえるものがない状態では強制執行はできませんが、一度の手続で終わるわけではない場合もあるため、弁済できない状況が続けば財産を失う可能性は十分あります。
そこで、強制執行で差し押さえるものがない場合、どのような流れで手続されるのか、注意点などを次の5つに分けて詳しく解説していきます。
- 強制執行とは
- 差し押さえの対象になる財産の種類
- 差し押さえの対象にならない財産の種類
- 差し押さえるものがないときの強制執行の流れ
- 強制執行の通知が届いた際の対処法
強制執行されるリスクがあるものの、差し押さえるものがないときにはどのような手続になるのか不安な方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
目次 ▼
1章 強制執行とは
「強制執行」とは、債権回収の「最終手段」として有効な手続であり、主として次の2つの場合において相手から支払いや建物の明け渡しなどがないときに利用されます。
- 勝訴判決が出ている
- 裁判上の和解が成立している
債権者が裁判所に申立てを行うことにより、債務者の財産を差し押さえることができる手続であるため、差し押さえられた財産は強制的に「売却」して現金に換えられ、弁済に充てられます。
この強制執行で財産が差し押さえられてしまうのは、主に次の3つのパターンに分かれます。
- 一般的な借金滞納による強制執行
- 公正証書による強制執行
- 税金などの強制執行
それぞれ詳しく説明していきます。
1-1 一般的な借金滞納による強制執行
強制執行で財産が差し押さえられてしまうパターンの1つ目は、一般的な借金の滞納があった場合です。
督促状や催告状を送っても借金が滞納されたままの場合、債権者は財産を差し押さえて換価し、返済分に充てようとします。
しかし強制執行による差し押さえは、債権の存在を公的に証明する「債務名義」が必要です。
そこで債権者は、「支払督促」の申立てや「訴訟」を提起し、勝訴判決を得るなどで債務名義を獲得します。
債権者が裁判所に強制執行を申立てることで「差押命令」が発出され、債務者は所有する財産を処分することを「禁止」され、差し押さえによる債権回収が行われます。
1-2 公正証書による強制執行
強制執行で財産が差し押さえられてしまうパターンの2つ目は、「公正証書」により債務名義を取得されているケースです。
公正証書とは、個人または法人からの嘱託により、公務員である公証人が権限に基づいて作成する公文書です。
離婚協議書や慰謝料請求などの示談書が公正証書である場合、取り決めた内容に従わない場合は強制執行できることを記す「強制執行認諾文言」があることにより、「債務名義」として扱うことができます。
たとえば養育費の支払いに関する内容の取り決めがあり、「滞った場合には強制執行されてもやむを得ない」という内容が記されていれば、債務名義として財産を差し押さえることが可能になります。
1-3 税金などの強制執行
強制執行で財産が差し押さえられてしまうパターンの3つ目は、「税金」の滞納があった場合です。
税金を納めることは国民の「義務」であり、公的に確定している債務といえます。
そのため税金を納期限までに納めなかった場合、裁判手続を経ることなく、税務署自身による強制執行による差し押さえが認められています。
電話や郵便による督促の段階で何も対処せず放置していれば、財産調査などが実施され、最終的には財産を差し押さえられます。
裁判を経ないため、税金滞納は通常の借金滞納よりも早急に対応することが必要です。
2章 強制執行で空振りとなるとその後はどうなる?
強制執行が行われたものの空振りとなると、一旦は何も差し押さえられずにすみます。
ただし、借金の返済義務がなくなるわけでも、その後も財産が差し押さえられないわけではありません。
強制執行が空振りになった後は、連帯保証人へ借金の請求、債権を回収できるまで強制執行が繰り返されます。
強制執行が空振りになった後の流れは、本記事の5章で詳しく解説します。
3章 差し押さえの対象になる財産の種類
強制執行により差し押さえの対象となる財産は、金銭的価値のある財産です。
3章で詳しく説明する差押えの対象にならない財産以外はすべて対象になるといえますが、主に次の3つです。
- 不動産(持ち家など)
- 動産(自動車・貴金属など)
- 債権(給与など)
それぞれどのような財産か説明していきます。
3-1 不動産(持ち家など)
強制執行により差し押さえの対象となる財産として、持ち家などの「不動産」が挙げられます。
「土地」や「建物」などの不動産が強制執行による差し押さえられると、競売により「売却」され返済に充てられることになります。
ただし、不動産の換価は査定に時間がかかることや、競売のために裁判所に予納金が必要になるため、高額の借金回収に充てるときや不動産価値が高い場合でなければ後回しにされると考えられます。
3-2 動産(自動車・貴金属など)
強制執行により差し押さえの対象となる財産として、車などの「動産」が挙げられます。
「自動車」や「貴金属」などの動産も売却されて返済に充てられますが、所有している動産の調査が難しいことや、運び出しや換金に手間や費用がかかるなどのデメリットがます。
そのため、高価な動産を所有していなければ債権者にとってメリットがあるといえないため、実際には強制執行されるケースは少ないといえます。
なお、自動車ローンを滞納した場合には自動車の引揚げになることがほとんどです。これは裁判所を通した強制執行(差押え)ではありませんが、財産が持って行かれるという点は同じです。詳細は以下の記事で説明しています。
3-3 債権(給与など)
強制執行により差し押さえの対象となる財産として、給与や預金口座などの「債権」が挙げられます。
真っ先に差し押さえられやすいのが「給与」や「預金口座」といえます。これは、仮に不動産や動産など所有していなくても、無職でなければ勤務先から給与を受け取っていると考えられるからです。
特に、給与は毎月の給与額の4分の1を、完済するまで継続的に差し押さえられるため注意しましょう。
4章 差し押さえの対象にならない財産の種類
強制執行が手続されても、債務者の財産すべてが差し押さえの対象になるわけではではありません。
債務者の最低限の生活維持のため、法律で差し押さえが禁止されている「差押禁止財産」については、強制執行されても対象から外されます。
差押禁止財産とは、債務者やその家族の生活を保護する観点により、生活する上で必要不可欠なものや必要最低限度の金銭など差押さえを禁止している財産のことで、主に以下のものが挙げられます。
- 生活に必要な衣服・寝具・家具・台所用具・建具
- 生活に必要な食料・燃料
- 66万円までの現金
- 職業で必要な器具その他のもの
- 学習に必要な書類および器具
- 給料手取額の4分の3相当額(手取額が44万円を超えるときは33万円)
- 退職金債権の4分の3相当額
- 年金・生活保護・児童手当などの受給権
そのため強制執行で財産が差し押さえられることが決まっても、いきなり一文無しになるわけではありません。
たとえば給料が差し押さえの対象の場合、手取額の4分の1は差し押さえられるものの、4分の3は手元に残すことができます。
ただしボーナスなどで手取額が44万円を超える場合は、33万円を超える部分すべてが差し押えの対象です。
5章 差し押さえるものがないときの強制執行の流れ
差押禁止財産以外の財産を所有していないときや、無職で収入がない場合など、差し押さえるものがない状態で強制執行が決まっても何も回収されることはないといえます。
しかし強制執行が「失敗」しても、それで終わりではありません。
差し押さえるものがないときの強制執行は、次の3つの「流れ」で手続が進みます。
- 強制執行が空振りになる
- 連帯保証人に請求
- 回収まで繰り返し実施
それぞれの流れについて説明していきます。
5-1 強制執行が空振りになる
差し押さえるものがない状態で強制執行しても、「空振り」で終わることになります。
たとえば勤務先を退職していて、そもそも給与債権がない場合には強制執行したくてもできません。
強制執行の申立ては、「何」を差し押さえるのか、対象となる「財産」を特定することが必要だからです。
銀行口座に対する強制執行の申立ては可能であっても、預金ゼロで差し押さえるものがなければ回収できないため、その結果、空振りに終わることになります。
家族名義の財産の扱い
強制執行で債務者名義の財産など差し押さえるものがない場合、気になるのは「家族名義」の財産の扱いでしょう。
ただし差し押さえの対象はあくまでも「債務者名義の財産のみ」であるため、たとえ差し押さえられるものがなくても家族名義の財産が代わりに差し押さえられることはありません。
5-2 連帯保証人に請求
差し押さえるものがない状態で強制執行しても空振りに終わるため、債務者の代わりに「連帯保証人」が請求されることになります。
返済滞納中の借金に連帯保証人がいる場合、「保証債務の履行請求」により債務者に代わって連帯保証人に返済義務が発生します。
保証債務の履行とは、債務者から借金弁済がない場合、保証人などが借金を肩代りし弁済することです。
債務者には差し押さえられるものがない場合でも、連帯保証人が代わりに財産を失う可能性があるといえます。
5-3 回収まで繰り返し実施
差し押さえるものがないときの強制執行は1度きりではなく、回収まで「繰り返し」実施されます。
強制執行の申立てでは、どの財産を差し押さえるか示さなければならず、申立て時点で債務者に差し押さえるものがなければ「空振り」で終わります。
しかし、その後に財産を「形成」する可能性はあるため、債権回収まで繰り返し強制執行される可能性はあるといえるでしょう。
たとえば債務者が退職などで収入がなく、1度目の預金口座の強制執行は空振りで終わったとしても、2度目または3度目の時点では新たな仕事で収入を得ていれば口座に入金されている可能性があるからです。
再度の強制執行が繰り返されれば、今は差し押さえるものがない状態でも、財産を「回収」されてしまいます。
6章 強制執行の通知が届いた際の対処法
強制執行の「通知」が届いたとき、価値のある財産など何も差し押さえるものがないからといって安心してはいけません。
勤務先から支払われている給与もその対象であり、無職で収入がない場合でも強制執行は繰り返し手続される場合があるからです。
そのため、裁判所から強制執行の「通知」が届いたときには、次の2つの「対処法」を検討しましょう。
- 債権者と交渉する
- 専門家に相談する
それぞれの対処法について説明します。
6-1 債権者と交渉する
裁判所から強制執行の通知が届いたときには、債権者と「交渉」することが必要です。
しかしすでに裁判所に強制執行の申立てを済ませている場合、支払いの時期や方法に関する交渉をしたくても応じてもらえない可能性があります。
そのため問題を解決させたいときには、訴訟を提起する「前」にできるだけ早く交渉することが必要です。
6-2 専門家に相談する
裁判所から強制執行の通知が届いたときには、できるだけ早めに専門家に相談してください。
債務者単独で債権者と交渉したくても応じてもらえない場合や、どのように話を進めればよいかわからないこともあるでしょう。
特に返済したくても他にも借金を抱えていて支払いが難しい場合、支払督促や訴状が届いた時点で早めに対応することが必要です。
専門家を頼ることで、債務者の借金問題解決に向けた提案を受けることもできるため、いずれにしても早めの相談をおすすめします。
まとめ
強制執行は債権回収の最終手段ですが、差し押さえるものがない状態では空振りで終わることになります。
しかし債務者の代わりに連帯保証人が請求されれば迷惑をかけることになり、繰り返し実施されれば、今は差し押さえるものがなくても後で回収される可能性はあるといえます。
もしも裁判所から強制執行の通知が届いたときには、早期に専門家に相談することが必要ですが、特に返済したくても他にも借金を抱えていて支払いが難しい場合は早めの対処が求められます。
専門家を頼れば借金問題解決に向けた提案を受けることもできるため、差し押さえなどの不安があるときにはグリーン司法書士法人グループへまずはご相談ください。
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よくあるご質問
- 強制執行で差し押さえるものがないときには、どうなる?
- 差押禁止財産以外の財産を所有していないときや、無職で収入がない場合など、差し押さえるものがない状態で強制執行が決まっても何も回収されることはありません。
しかし、強制執行がなくなるわけではなく、下記の方法で借金が回収されます。
・強制執行が空振りになる
・連帯保証人に請求
・回収まで繰り返し実施
強制執行について詳しくはコチラ
- 差し押さえられない財産とは?
- 下記の財産は、差押禁止財産であり、差し押さえられず手元に残せます。
・生活に必要な衣服・寝具・家具・台所用具・建具
・生活に必要な食料・燃料
・66万円までの現金
・職業で必要な器具その他のもの
・学習に必要な書類および器具
・給料手取額の4分の3相当額(手取額が44万円を超えるときは33万円)
・退職金債権の4分の3相当額
・年金・生活保護・児童手当などの受給権
差し押さえられない財産について詳しくはコチラ