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会社が倒産した場合、残った借金の返済義務を経営者が負うことになれば、経営者だけでなくその家族の生活にまで影響が及ぶことになってしまいます。
しかし法律上は、会社は「法人」であり経営者は「個人」であるため、別人格として扱われます。
そのため会社が倒産しても経営者が会社の借金の返済義務を負うことはないといえますが、影響が及んでしまうこともあります。
そこで、会社が倒産したら経営者はどうなるのか、生活や家族に対する影響について次の4つの章に分けてわかりやすく解説していきます。
- 会社の倒産による経営者に対する影響
- 会社の倒産で経営者が自己破産した場合
- 会社の倒産で経営者が自己破産した場合の制約
- 会社が倒産するときの従業員への対応
どのような場合に会社の倒産で経営者が責任を負わなければならないのか、その後の生活や家族に及ぶ影響などについて、理解を深めておきましょう。
目次 ▼
1章 会社の倒産による経営者に対する影響
会社が倒産しても経営者とは「別人格」として扱われるため、法人の財産が経営者個人の所有物になるわけではなく、法人の債務の返済義務を負うわけでもありません。
「法人」とは、「自然人(人)」ではないものの法律上「人格」を認められ、権利・義務の「主体」となる資格を与えられたものです。
そのため法人である会社の倒産は「会社自身」の責任であり、借金に関しても法人自身が義務を負うことになるため、その責任や返済義務が経営者に及ばないのが原則といえます。
ただし次のケースに該当する場合には、会社が倒産したことで経営者に影響が及ぶ可能性があります。
- 会社の借金の連帯保証人になっている
- 会社からお金を借りている
- 職務で悪意または重大な過失があった
それぞれどのようなケースで影響が及ぶのか解説していきます。
1-1 会社の借金の連帯保証人になっている
経営者が会社の借金の「連帯保証人」になっている場合、会社が倒産した後に残った借金の返済義務を負うことになります。
会社が倒産すると、会社保有の財産はすべてお金に換えて借金の返済に充てられ、返済しきれなかった債務は「消滅」します。
しかし中小企業が銀行などから融資を受けるときには経営者が「連帯保証人」であるケースが多く、この場合には経営者個人が会社に代わり返済しなければなりません。
経営者個人が銀行などからお金を借り、会社に貸し付けているケースにおいても、その経営者個人の債務は消滅せず残ります。
そのため会社が倒産するときには、経営者個人も同時に「自己破産」するケースが多いといえます。
経営者の家族への影響
会社が倒産することになったとき、経営者が会社の借金の連帯保証人になっていても、その「家族」まで法的な責任を負うことはありません。
ただし次の場合には、経営者の家族の財産も回収される可能性があります。
- 経営者の家族も会社債務の連帯保証人になっている
- 家族名義でも実質的には経営者個人の財産と認められる
1-2 会社からお金を借りている
経営者が会社からお金を借りている場合、会社が破産すれば返済義務を免れるわけではなく、借りたお金を会社に返さなければなりません。
会社が倒産すると、「破産管財人」が会社の財産を管理・換価して債権者に「分配」します。
破産管財人とは、破産者の所有する財産を管理・換価し、債権者に分配する役割を担う裁判所の代わりとなる人であり、裁判所が選任します。
貸したお金を返してほしいと請求する「権利」も会社から破産管財人に移ることになり、破産管財人から経営者に対して返済を請求される可能性があります。
ただ、会社の倒産に伴い経営者個人も自己破産手続することで、経営者の会社に対する債務もなくすことができます。
1-3 職務で悪意または重大な過失があった
会社の職務において、経営者に「悪意」または重大な「過失」があった場合には、倒産の責任が経営者に及ぶ可能性があります。
経営者の経営判断に誤りがあったことにより会社が倒産してしまったという場合でも、その責任を経営者が負うことはありません。
しかし、経営者など取締役は、善良な管理者の注意義務を負った上で、忠実に職務を行うことが求められています。
そのため職務上の注意義務を怠ったときや、忠実に職務を行わず悪意や重大な過失がある行為をしたときには、第三者に生じた損害を賠償する責任を負うことになります。
1-4 税金未納のまま倒産した
会社が倒産し法人格が消滅することになれば、滞納していた「税金」や「社会保険料」などの請求権も消滅します。
しかし次に該当する場合は、例外的に滞納している税金や社会保険料を支払う責任を負うことになります。
- 合名会社・合資会社などで無限責任を負う社員
- 事業を譲り受けた役員・従業員・株主などの特殊関係者
- 重要な財産を無償や格安で譲り受けた方
- 納税保証している方
「無限責任」とは、出資額に関わらず、会社が倒産したときなどは会社のすべての債務に対する弁済義務を負うことであり、個人事業主や合同会社・合資会社の社員などが該当します。
対する「有限責任」では、出資額の範囲においてのみ責任を負うことで、株式会社や合同会社の役員や社員などが該当します。
なお、個人の自己破産では税金の支払いは免除されませんので、取り扱いの違いに注意しましょう。
2章 会社の倒産で経営者が自己破産した場合
中小企業の場合、会社の借入れやリース債務を経営者が連帯保証することが一般的です。
また、経営者個人がカードローンなどでお金を借り、そのまま会社に貸し付けて運転資金に充てることも少なくありません。
そのため、会社が破産申立てすれば、同時に経営者も自己破産を申立てるという流れになりやすいといえるでしょう。
経営者が自己破産して「免責」が決定すれば、会社の連帯保証債務・個人の借金返済は「免除」されますが、経営者個人の財産は次の2つの扱いとなります。
- 経営者個人の財産は没収される
- 個人の財産でも一部は残すことができる
それぞれ詳しく説明します。
2-1 経営者個人の財産は没収される
会社倒産と同時に連帯保証人である経営者も自己破産した場合、経営者個人が保有する財産も「没収」されることになります。
裁判所から選任された破産管財人が換価・回収することになりますが、経営者が「自宅」を所有しているときには家族の生活も住む場所を失うなど影響が及ぶ可能性があります。
仮に自己破産ではなく「個人再生」など別の方法を検討したくても、たとえば個人再生では債務総額5千万円までという要件を満たすことが必要です。
会社の保証をしていればこの要件をクリアできない可能性があると考えられ、さらに会社倒産後の収入では余裕がなく、いずれにしても断念することになるでしょう。
2-2 個人の財産でも一部は残すことができる
経営者が自己破産した場合でも、すべての財産が没収されてしまうと生活を送ることができなくなるため、個人の財産の「一部」は残すことができます。
破産管財人に没収されず自由に使うことができる財産は「自由財産」といいますが、次の財産がその対象です。
- 破産手続開始後に取得した財産
- 99万円までの現金
- 差押禁止財産(家財道具・公的年金・小規模企業共済の共済金など)
- 裁判所が自由財産拡張を認めた財産
3章 会社の倒産で経営者が自己破産した場合の制約
会社の倒産で経営者が自己破産した場合、所有している財産を失う以外だけではありません。
経営者は次の5つの「制約」を受けることとなり、中には家族の生活に影響が及ぶ制約も含まれます。
- 職業・資格の制限
- 手続中の行動制限
- 郵便物の受け取りの制限
- ローンやクレジットの利用制限
- 官報への掲載
それぞれどのような制約か説明していきます。
3-1 職業・資格の制限
自己破産しても就職や起業に関する制約はありませんが、以下の「職業」や「資格」などは自己破産手続中に制限を受けます。
- 警備員
- 証券会社の外務員や生命保険の外交員
- 宅地建物取引士・税理士などの士業
- 公証人
- 交通事故相談員
- 固定資産評価員
ただし資格を剥奪されるわけではなく、制限を受けるのは自己破産手続中のみです。
自己破産による免責が決定・確定すれば、「復権」により資格も復活します。
また、会社が破産したら取締役の地位も失うことになります。
3-2 手続中の行動制限
自己破産中の引っ越しによる転居や宿泊を伴った旅行や出張は、裁判所の「許可」を得ることが必要です。
破産手続が「同時廃止」で進む場合には、申立てと同時にその破産が確定するため、「自己破産手続中」という期間が存在せず、移動の制限を受けることはありません。
しかし「管財事件」の場合、保有する財産の換価処分について破産管財人に「協力」しなければならず、手続中に財産の「持ち逃げ」や「処分」などのリスクがある行動は制限されます。
そのため、会社の倒産・経営者の自己破産をきっかけに引っ越しを予定しているときや、気晴らしに家族旅行など計画しているときには、その影響を受けると考えられます。
3-3 郵便物の受け取りの制限
自己破産手続中は、「郵便物」の受け取りについても制限されます。
所有する財産などの状況を正確に把握し、「財産隠し」などを起こさないための措置であり、破産管財人に一旦は転送された後、確認・管理されます。
転送郵便物が破産管財人に届くと「連絡」があり、直接または郵送で郵便物を受け取ることができます。
3-4 ローンやクレジットの利用制限
自己破産した事実は、「信用情報機関」が管理している信用情報に「金融事故」として記録されるため、ローンやクレジットの利用は制限されます。
そのため自己破産手続中に限らず、手続終了後も5~7年間はローンやクレジットの利用など借入れはできなくなります。
3-5 官報への掲載
自己破産手続開始決定が出されると、その事実が「官報」に掲載されます。
官報とは、内閣府が発行し、国立印刷局が編集・印刷・配信している国の機関紙です。
ただ、官報は一般の方の目に触れることはないため、官報を通して自己破産したことが知人や友人などに知られることは少ないでしょう。
4章 会社が倒産するときの従業員への対応
会社が倒産すれば日常的な営業や業務はなくなり、破産管財人により会社の財産が管理・換価されることになるため、必要な範囲でのみ法人として存続することになります。
そのため会社の倒産により破産を申立てるときには、従業員を「解雇」することが必要であり、次の6つの対応が求められます。
- 破産申立て予定であることを伝える
- 破産申立て前に従業員を解雇する
- 債権者一覧表に労働債権として記載する
- 失業保険の手続
- 社会保険の手続
- 住民税・所得税の手続
それぞれどのような対応が必要か説明していきます。
4-1 破産申立て予定であることを伝える
手続が終われば会社は法人格を失い「消滅」するため、雇用している従業員が働く場所もなくなります。
そのため従業員には、破産申立て前にその予定である旨を伝えることが必要です。
4-2 破産申立て前に従業員を解雇する
会社の倒産においては、破産申立て前に従業員を「解雇」することが必要です。
従業員を解雇するときには、30日前までに「解雇予告」をすることが必要であり、予告せず解雇するときには平均賃金30日分以上の「解雇予告手当」を支払うことになります。
4-3 債権者一覧表に労働債権として記載する
従業員の「給料」や「解雇予告手当」に充てるお金がないときには、破産申立てのとき提出する「債権者一覧表」に「労働債権」として記載します。
給料や退職金など労働債権については、一般の債権より「優先」して支払われることになります。
4-4 失業保険の手続
従業員が解雇されれば収入を失うため、「失業保険」を受け取ることができるように手続が必要です。
その際、以下の書類を退職から10日以内に管轄の「ハローワーク」に提出します。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 離職証明書
- 解雇通知書の写し
提出後にハローワークから「離職票」を受け取り、従業員に交付します。
4-5 社会保険の手続
会社が倒産するときには、管轄の「年金事務所」に次の書類を提出し、「社会保険」の適用事業所廃止手続を行います。
- 適用事業所全喪届
- 従業員の資格喪失届
4-6 住民税・所得税の手続
毎月の給料から「住民税」を天引きする「特別徴収」の場合、「普通徴収」に切り替えることが必要であるため、役所に給与所得者異動届を提出します。
源泉所得税については離職日までの「源泉徴収票」を作成し、従業員にすみやかに交付することが必要です。
まとめ
会社が倒産した場合、経営者が会社の借金の連帯保証人になっていれば、同時に経営者も自己破産することがほとんどです。
借金返済から免れるためには会社と経営者の同時に破産手続が必要といえますが、会社の財産や経営者の財産は換価回収されることになっても、経営者の家族の財産まで没収されることは基本的にはありません。
ただ、会社の倒産でそれまで働いてくれた従業員が、給料や退職金を受け取ることができない状態を作ってしまうと、従業員やその家族の生活に影響を及ぼします。
倒産や自己破産を予定する場合でも、従業員の給料などは支払うことができる計画を立てて準備することが望ましいといえるため、不安があるときには弁護士またはグリーン司法書士法人グループへご相談ください。
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よくあるご質問
- 会社が倒産すると社長はどうなる?
- 会社が倒産しても社長が責任を問われることは原則としてありません。
しかし、下記のケースでは会社の借金を社長が払わなければならない恐れがあります。
・会社の借金の連帯保証人になっている
・会社からお金を借りている
・職務で悪意または重大な過失があった
・税金未納のまま倒産した
- 会社が倒産したら連帯保証人はどうなる?
- 経営者が会社の借金の「連帯保証人」になっている場合、会社が倒産した後に残った借金の返済義務を負うことになります。
中小企業が銀行などから融資を受けるときには経営者が「連帯保証人」であるケースが多く、この場合には経営者個人が会社に代わり返済しなければなりません。