給与の差押えは個人再生の申立てで解除される?強制執行停止までの流れとは

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

個人再生
給与の差押えは個人再生の申立てで解除される?強制執行停止までの流れとは

この記事は約 10 分で読めます。

借金を返さずに滞納し続け、督促など届いているのになお返さなかったときには、最終的に給与が差押えられる可能性があります。

給与の差押えがされれば、他の支払いに充てるお金がなくなるだけでなく、日々の生活さえ送ることができなくなるでしょう。

このような場合、「個人再生」を申し立てれば給与の差押えが停止しますが、自動的に止まるわけではなく、所定の手続が必要です。

そこで、

  1. 個人再生で給与の差押えを停止させる2つの方法
  2. 個人再生が給与差押えの阻止に有効である2つの理由
  3. 個人再生手続中の給与の扱い
  4. 給与の差押え停止後に給与を全額受け取る方法

の4つについてそれぞれ章ごとに詳しく説明していきます。

給与差押えで困っている方の中で、個人再生を検討しているときにはぜひ参考にしてください。

1章 個人再生で給与の差押えを停止させる2つの方法

「個人再生」 とは借金総額を5分の1程度にまで減額してもらうための手続ですが、給与の差押えも「停止」することができます。

ただし個人再生で給与の差押えが停止されるのは裁判所に申立てを行ってからであり、次の2つの方法による手続が必要となります。

  1. 個人再生手続き開始決定による強制執行の停止
  2. 「強制執行中止命令」を申し立てる

それぞれどのような方法なのか、必要な手続について説明していきます。

1-1 個人再生手続き開始決定による強制執行の停止

個人再生を申し立てた後は、裁判所が書面内容を審査するなどいろいろな手続を経て、書類に不備や問題がないと判断されれば裁判所から「個人再生手続開始決定」が出されます。

「個人再生手続開始決定」が出されることで強制執行は中止されるため、給与の差押えについても「解除」されることになります。

ただし個人再生の手続を進めていく「申立裁判所」と、給与の差押えを強制執行した「執行裁判所」 は同じではないため、執行裁判所に対し、給与差押えの中止命令が出されたことを伝えることが必要です。

そのため個人再生を申し立てた裁判所から開始決定が出たら、次の2通を執行裁判所に提出し、給与の差押えを停止するように求めましょう。

  • 個人再生の開始決定書の写し
  • 強制執行手続停止の上申書

これにより執行裁判所は差押え手続の中止を決定します。その決定通知が債権者にも届くため、給与差押えは停止され、取立てできなくなります。

1-2 「強制執行中止命令」を申し立てる

申立てから開始決定までは1か月程度かかることもありますが、開始決定までの間に給与が差し押さえられたままでは生活できないという場合、裁判所に「強制執行中止命令」を申し立てましょう。

ただし先にも述べたとおり、個人再生の手続を進めていく裁判所(申立裁判所)と、給与の差押えを強制執行した裁判所(執行裁判所)は同じではありません。

そのため給与の差押えを停止させるためには、申立裁判所から書類を受け取り、執行裁判所に提出して、給与差押えを解除してもらうことが必要です。

2章 個人再生が給与差押えの阻止に有効である2つの理由

そもそも、個人再生を申し立てることにより、なぜ給与の差押えを阻止することができるのでしょうか。

その理由として挙げられるのは主に次の2つです。

  • 債権者に給与差押えの取り下げを願い出ても応じてもらえない可能性が高い
  • 個人再生手続開始決定後に給与差押えはできない

それぞれの理由について詳しく説明していきます。

2-1 債権者に給与差押えの取り下げを願い出ても応じてもらえない可能性が高い

個人再生を申し立てずに、直接債権者に差押えを停止してもらえないか頼んでみればよいのではないか、と考える方もいることでしょう。

ただ、債権者が給与を差し押さえたのは、借金の返済が滞り約束通りの期日までに返してもらえなかったためです。

次回からは必ず返すと願い出たところで信じてもらえるとも限らず、差押えを取り下げてもらえるとも限りません。

差押えにより給与から確実に返済してもらえる状態にある中、借金を返すという約束を守らなかった相手の言葉をうのみにし、給与差押えを取り下げるメリットは債権者にはないといえます。

しかし、個人再生では給与差押えの「中止命令」を申し立てることができ、中止命令は法律に基づいて裁判所から発せられるものなので、債権者は従うしかありません。

そのため、直接債権者と交渉するよりもスムーズに給与差押えを停止することができます。

2-2 個人再生手続開始決定後に給与差押えはできない

個人再生の申立てを行い、個人再生手続開始決定が出された後は、債権者が新たに差押えを申し立てることはできません

個人再生手続開始決定により、すでにされていた給与の差押えは中止されるだけでなく、新たな差押えもできなくなります。

借金を返済せずに滞納したままにしていれば、いずれは給与を差し押さえられてしまう可能性がありますが、まだ差し押さえられていないのなら早めに個人再生の手続を検討したほうがよいでしょう。

3章 個人再生手続中の給与の扱い

個人再生により給与の差押えが止まることになったとしても、差押え前のように債務者個人が給与を管理できるわけではなく、すぐに通常どおり受け取ることができるわけではありません。

個人再生手続中の給与は、主に次の2つの扱いとなります。

  1. 認可決定が確定するまでは勤務先が管理する
  2. 強制執行取消命令が出れば受取可能

それぞれの個人再生手続中の給与の扱いについて説明します。

3-1 認可決定が確定するまでは勤務先が管理する

給与の差押えが中止されたとしても、受け取ることのできる給与は差し押さえられていたときの金額のままであり、元通りになるわけではありません。

その理由は、給与差押えが中止になっても、それはあくまで一時的なものであり、執行裁判所の差押え命令の効力自体は失効しているわけではないからです。

個人再生の手続の結末によっては、差押えが再開する可能性もあるという「前提」になっているため、認可決定が確定するまでは「保留状態」となり、給与を支払う勤務先が「一時保管」することになります。

給与差押えが正式に取り消しとなるのは、個人再生の再生計画の「認可決定」が確定したときです。

認可決定が確定した後は、執行裁判所に次の書類を提出します。

  • 差押命令中止の上申書
  • 再生認可決定(原本)
  • 認可決定確定証明書(原本)

これらを提出することで、執行裁判所が差押え命令を正式に取り消し、差押えが解除されます。その後にようやく、勤務先から一時保管していた給与が支払われます。

仮に個人再生手続が進まずに失敗し再生計画の認可を受けることができなければ、一時停止されていた給与差押えは再開されてしまう(すなわち、勤務先が保管していた給料は債権者に支払われる)ため、慎重に手続を進めることが必要といえます。

3-2 強制執行取消命令が出れば受取可能

個人再生の認可決定が確定すれば、差押えになっていた給与を通常どおり受け取ることができるようになります。

しかし認可決定まで待てないという場合には、個人再生を申し立てた裁判所に「強制執行取消命令」を申し立て、認めてもらうことができれば手続の途中でも給与を受けることができます。

「強制執行取消命令」の申立てが可能となるのは、以下のとおりです。

  • 給与の手取り額が少なくなることで生活に著しい支障が及ぶ場合
  • 手続費用の積立てができないなど個人再生に著しく支障がでるおそれがある場合

などです。

ただし強制執行が中止された後に取り分けられた給与は、個人再生の再生計画の認可が確定したときにまとめて支払われることになります。

個人再生を申し立てることで給与の差押えが停止されても、受取金額は元に戻るわけではなく、少ない手取り金額で生活を送らなければならないことは留意しておきましょう。

4章 給与の差押え停止後に給与を全額受け取る方法

個人再生により給与の差押えを停止することができたのに、手元に受け取ることのできる金額は少ないままでは何の意味もないと感じる方もいることでしょう。

その場合、個人再生の再生計画の認可決定よりも前に、給与差押えを「失効」させ全額支払ってもらう方法もあります。

給与差押えを「失効」させ、給与を「全額」受け取る方法は主に次の2つです。

  1. 強制執行の取消命令を出してもらうため裁判所に申し立てる
  2. 債権者に給与差押さえを取り下げてもらうよう交渉する

それぞれの方法について説明していきます。

4-1 強制執行の取消命令を出してもらうため裁判所に申し立てる

給与の差押えが停止されても、全額受け取ることができないことで著しく生活に支障をきたす場合や、個人再生手続が進まなくなるといった影響が及ぶと裁判所が判断し、給与差押えを取り消すように「取消命令」を出してくれればその効力が失われ、給与の全額受け取りが可能となります。

そのためには給与差押えが中止された後、個人再生を申し立てた裁判所に「強制執行の取消命令」を出してもらいましょう。

「取消命令」が出されることにより、勤務先に取り分けられていた給与をまとめて受け取ることができます。

4-2 債権者に給与差押えを取り下げてもらうよう交渉する

個人再生で給与差押えを止めるより、債権者に直接連絡をして自主的に取り下げてもらうように「交渉」してみましょう。

個人再生の手続を始めた場合、

  1. 給与差押えの中止命令の申し立てが可能になる
  2. 給与を差押えていた債権者は給与を受け取ることができなくなる
  3. 手続が進み認可決定が出る
  4. 勤務先が管理していた給与は債務者に全額支払われる

という流れで債務者は給与を受け取ることになるため、個人再生の申し立て後に債権者が給与差押えを維持するメリットはほとんどないといえます。

そのため個人再生を申し立てた後に、債権者に対し給与差押えの取下げを依頼すると、取下げに応じてもらえることもあるのです。

取り下げに応じてもらうことができれば、「中止命令」や「取消命令」などの申立てをすることなく、給与を全額受け取ることができます。

まとめ

給与の差押えにより実際に受け取れる金額が少なければ、個人再生の申立てをしたくてもできないのでは?と不安に感じる方もいるでしょう。

しかし、給与が差し押さえられていたとしても、個人再生手続は可能です。

むしろ、個人再生は給与差押えを停止させるための対応策として非常に有効といえます。

ただし給与差押えにより、手取り額が少ない中でも返済原資を積み立てることは継続しなければなりません。

一人で給与差押えについてどのように動けばよいのか、個人再生の手続をどのように進めればよいのかわからないということもあるでしょう。

このような場合、安心して気軽にグリーン司法書士法人グループへ相談してみてください。一緒に解決できる方法を考え、最適な方法を提案させていただきます。

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よくあるご質問

差し押さえを解除するにはどうすればいい?
個人再生で差し押さえを解除するには、下記の2つの方法が有効です。
・個人再生手続き開始決定による強制執行の停止
・「強制執行中止命令」を申し立てる
個人再生で差し押さえを解除・停止する方法について詳しくはコチラ
差し押さえられる財産にはどんな種類がある?
差し押さえ対象になる財産は、主に下記の通りです。
・預貯金
・現金
・給与など
・債権
・不動産
・動産
差し押さえ対象財産について詳しくはコチラ
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