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亡くなった方が借金を残していた場合、その借金は相続財産の一部とみなされます。つまり、遺産相続とはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続することです。
しかし、相続人はこの借金を必ずしも引き受ける必要はありません。相続放棄や限定承認といった手段を使えば、借金の額を限定したり、引き継がずに済みます。今回の記事では、借金を受け継がない方法について、くわしく解説します。
目次 ▼
1章 亡くなった人の借金も相続の対象に含まれる
亡くなった人の財産には、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金というマイナスの財産も含まれます。相続は被相続人の財産全体を引き継ぐという原則にもとづいており、このマイナスの財産も相続対象となります。
相続財産の中に借金が含まれる場合、相続人はその借金を返済する義務を負います。ただし、相続人には借金を含む相続財産を受け入れるかどうか選択する権利があります。
よって相続人は、相続財産の調査を通じて、プラスの財産とマイナスの財産の全体像を把握する必要があります。
マイナスの財産を含む相続財産を承認することは、相続人にとって大きな負担となりえます。このため、相続放棄や限定承認の手続きを通じて、借金の負担から逃れる方法が法律によって提供されています
なお相続には、以下の表のように順位があります。
相続順位 | 相続人 | 詳細 |
---|---|---|
順位なし | 配偶者 | 常に相続人 |
1位 | 子 | 亡くなった人の子供全員 |
子供がすでに死亡している場合は、孫やひ孫が相続人となる | ||
2位 | 父母 | 子供がいない場合は、両親 |
両親が死亡している場合は、祖父母が相続人となる | ||
3位 | 兄弟姉妹 | 父母もいない場合は、兄弟姉妹 |
兄弟姉妹が死亡している場合は、甥・姪が相続人となる |
2章 亡くなった人の借金を受け継がない方法
相続は原則として、故人から資産だけでなく負債も受け継ぐことを意味します。亡くなった人の借金が発覚した場合、その責任を背負い込むことになるかもしれません。
しかし、相続放棄や限定承認といった手段を利用すれば、このような状況を避けることが可能です。ここでは、これらの制度の概要、手続き方法、および期限についてくわしく見ていきましょう。
2-1 相続放棄
相続放棄とは、故人の財産全体(資産と負債)を一切引き継がない選択を意味します。この制度を利用することで、故人の負債を引き継ぐ必要がなくなります。
相続放棄の手続きは、相続が開始したことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。手続きには、必要な書類の提出が伴います。
手続きは自身で行うことが可能ですが、相続に関する知識がない場合、書類の不備や提出漏れなどが原因で申述が認められない可能性があります。そのため、法律の専門家に相談することが推奨されています。
なお、相続放棄は過払い金を受け取る権利も放棄することになります。たとえば残債額よりも多額の過払い金請求ができそうなケースでは、放棄しないのが得策であることも考えられるでしょう。
そのため、相続放棄や限定承認すべきか判断するためにも、相続に精通した司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
また、相続放棄の手続きを行う際、事前の財産調査が重要です。調査を怠ると、後から財産が存在していたことが判明しても、相続放棄の撤回はできません。
2-2 限定承認
限定承認は、故人のプラスの財産の範囲内で負債を引き継ぐ手続きです。この制度により、貴重な形見分けなど、特定の財産を引き継ぎつつ、負債の負担を限定できます。
限定承認の手続きも、原則として相続が開始したことを知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。共同相続人全員で家庭裁判所に申し立てることが必要で、手続きは複雑です。
限定承認を手続きするには、相続放棄と同様に相続人調査や相続財産調査を行わなければならず、非常に手間がかかります。 そのため、これらの手続きを適切に行うためには、法律の専門家に依頼するのが賢明です。
3章 亡くなった人の借金の有無・金額を調査する方法
亡くなった人にあったかどうか、またその金額を調査する主な方としては、次の5つが挙げられます。
- 信用情報機関に情報開示請求を行う
- 故人の自宅や郵便物を調べる
- 故人の通帳でお金の流れを確認する
- 知人や親族に尋ねてみる
- 不動産の登記簿謄本を確認する
個別に見ていきましょう。
3-1 信用情報機関に情報開示請求を行う
信用情報機関は、個人のローンやクレジットの利用履歴を登録しており、相続人は被相続人の信用情報を取得できます。JICC、CIC、KSCの3種類の信用情報機関に情報開示請求をすることが推奨されています。
信用情報機関に情報開示してわかるのは、あくまで登録されている金融機関、会社からの借金です。だからこそ、信用情報機関にて開示請求するだけでなく、後述する自宅・郵便物の確認や通帳でお金の流れを確認しなければなりません。
また、故人が保証人になっているケースにおいては、信用情報機関で調査することは不可能です。心当たりの知人友人などに、尋ねる必要があるでしょう。
なお、故人の信用情報の申請には、開示請求の申請書、相続関係を証明する戸籍謄本類などの必要書類が必要です。
申請方法には郵送やオンライン、窓口があり、費用は方法によって異なりますが、およそ500円から1,000円程度です。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で、窓口申請は制限されているため、事前の確認が欠かせません。
信用情報の開示については、以下の記事でくわしく取り上げています。信用情報の調べ方(開示請求手続きの方法)もわかりやすく解説しているので、併せて参考にご覧ください。
3-2 故人の自宅や郵便物を調べる
故人の自宅を調べることで、借金関連の契約書類や通帳の引き落とし内容など、債務に関する重要な情報を見つけることができます。また、郵便物には支払督促や返済状況の明細が、送付されていることもあるでしょう。
パソコンや携帯電話のチェックも重要で、オンラインでの借り入れ情報や債権者からの連絡が見つかることがあります。メールやブラウザのブックマークを通じて、未確認の債務が発見されることもあるでしょう。
このプロセスを通じて、故人が生前に結んだ債務の存在と範囲をより正確に把握できます。見落としを防ぐためには、故人の個人的な記録やデジタルデバイスの調査が効果的です。
3-3 故人の通帳でお金の流れを確認する
故人の銀行通帳を調査することで、返済や引き落としの記録を確認し、借金の存在や返済状況を把握できます。通帳には、定期的な出金(引落し)の記録が残っていることが多く、債務の手がかりになるでしょう。
この方法は、特定の返済日に合わせた金額の出金を通じて、ローンやクレジットの返済が行われているかが判断できます。さらに、故人が使用していた銀行や、金融機関の種類を特定する手がかりにもなりえるでしょう。
従って、故人の金融活動の全容を理解するには、通帳の詳細な調査が不可欠です。この調査により、相続する前に知るべき債務の全貌が明らかになる場合があります。
3-4 知人や親族に尋ねてみる
故人の知人や親族から、故人が借金をしていたかどうかの情報を得ることも、有効な方法のひとつです。ただし、情報の正確性や偏りに注意が必要です。
情報提供者から借金の返済を要求された場合は、即座に応じるべきではありません。債務の調査中であることを伝え、相続放棄の可否を検討中であることを理由にひとまず拒否するとよいでしょう。
このアプローチを通じて、故人の借金に関する補足的な情報を収集できます。しかし、最終的な決断には、公的な記録や文書にもとづいた確認が必要です。
3-5 不動産の登記簿謄本を確認する
故人が不動産を所有していた場合、登記簿謄本を確認し、不動産に抵当権が設定されていないかをチェックすることが重要です。登記簿謄本には、不動産が担保となっているかどうかの情報が記載されています。
抵当権が設定されている場合は、抵当権者に連絡を取り、債務状況を確認する必要があります。不動産の登記簿謄本は、法務局にて取得可能です。
この手続きにより、故人が残した不動産関連の借金や、負債の存在を確認できます。不動産の登記情報は、相続財産の評価や債務整理の際にも、重要な役割を果たすものです。
住宅ローンは団体信用生命保険を使って、完済できる可能性があります。莫大な住宅ローンを背負いたくないからと早まって相続放棄をすると、負担のない不動産を手放すことになりかねません。
また、団体信用生命保険の保険料請求には期限があるので、住宅ローン支払中の方の相続の際には速やかに調査する必要があります。
これら5つの方法により、亡くなった人の借金の有無や金額を、効果的に調査できます。重要なのは、多角的な視点から情報を収集し、正確な相続財産の評価を行うことです。
4章 亡くなった人の借金を相続してしまったら債務整理も検討しよう
相続放棄の期限を過ぎてしまったり、どうしても受け継ぎたい財産があったりした場合には、債務整理を検討しましょう。
債務整理には、主に3種類の選択肢があります。任意整理、個人再生、自己破産などです。それぞれの方法にはメリットおよびデメリットがあり、借金の状況に応じてもっとも効果的な手段を選択することが肝要です。
債務整理の主な種類ごとの特徴やメリット、デメリットについては、以下の表にわかりやすくまとめてあります。
債務整理の種類 | 任意整理 | 個人再生 | 自己破産 |
---|---|---|---|
特徴 | 裁判所を通さずに、債権者と直接交渉して借金の減額や返済計画の見直しを行う方法 | 裁判所に申立てを行い、借金の減額と返済計画の認可を得る方法 | 裁判所に申立てを行い、全ての借金を免除してもらう方法 |
メリット | ・手続きが比較的簡単で費用が安い ・裁判所への申立て記録が残らない ・家族や勤務先に知られ | ・借金を大幅に減額できる ・住宅ローンや車ローンなどの財産を守れる ・将来、再び借金問題に陥る可能性が低い | ・借金が全て免除される ・新しい生活をスタートできる |
デメリット | ・減額できる金額は債権者との交渉次第・将来、再び借金問題に陥る可能性がある | ・裁判所への申立て記録が残る | ・裁判所への申立て記録が残る ・官報に永久に掲載される ・一定期間、クレジットカードやローンを利用できない ・一定期間、就業制限を受ける |
適したケース | ・債務額が大きくなく、将来的に返済できる見込みがある場合 ・任意整理の詳細 ・解決事例はコチラ ↓ 借金をなくせる任意整理とは?メリット・デメリットや向いている人 任意整理の経験談・解決事例 | ・一定収入はあるが債務額が大きく、任意整理では難しい場合 ・個人再生の詳細 ・解決事例はコチラ ↓ 小規模個人再生とは|給与所得者再生との違いやメリット・デメリット 個人再生の経験談・解決事例 | ・債務額が非常に大きく、他の方法では返済が難しい場合 ・自己破産の詳細・解決事例はコチラ ↓ 自己破産とは?メリット・デメリットや手続きの流れを徹底解説 自己破産の経験談・解決事例 |
債務整理の種類と生活への影響に関しては、以下の記事でくわしく解説しています。ぜひ、そちらも参考にご覧ください。
以下の返済シミュレーションツール【バーチャル債務整理】を使えば、借金問題の解決のために債務整理を行った場合に、借金がどれくらい減るのかの目安がわかります。
債務整理を行うことで、借金の一部または全部を減額し、返済計画を再編成できます。しかし、自己破産のように一定の財産を失う可能性があるため、手続きを進める前に専門家のアドバイスを受けることが賢明です。
司法書士などの専門家に相談し、自身の状況に合ったアドバイスを受けましょう。また、債務整理に関するデメリットを理解するためにも、以下の記事を参考にしてください。
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まとめ
亡くなった人の借金を相続してしまった場合、債務整理が有効な選択肢となることがあります。各債務整理方法の特徴を理解し、自身の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
手続きを進める際は、法律の専門家に相談することで、より適切なアドバイスを受けることができます。また、債務整理にはそれぞれメリットとデメリットが存在するため、十分な情報収集が必要です。
亡くなった人の借金問題に直面した際は、焦らず慎重に対応することが大切です。最終的には、専門家の助けを借りて、最適な解決策を見つけ出しましょう。
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