結婚前の借金でも配偶者に支払義務はある?返済できない場合の対処法

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

借金返済の知識
結婚前の借金でも配偶者に支払義務はある?返済できない場合の対処法

この記事は約 13 分で読めます。

夫や妻に結婚前の借金があったことが発覚した場合、婚姻生活による借入れではないのに返済資金を家計から捻出することに納得できないと考えてしまうものでしょう。

ただ、借金はあくまでも個人の借入れであるため、結婚前後に関係なく配偶者が支払義務を負う必要はないといえますが、結婚生活を続けるのなら借金問題を解決することが必要です。

また、結婚する前に婚約者に借金があることが発覚した場合など、それを理由に婚約解消できるのか悩むこともあるでしょう。

そこで、結婚前の借金について、配偶者の支払義務と返済できない場合の対処法について、次の3つの章に分けて詳しく解説していきます。

  1. 配偶者の借金は共有財産にならない
  2. 配偶者が返済義務を負うケース
  3. 結婚前の借金が発覚した場合の対処法

婚姻生活中に夫や妻に結婚前の借金があったことが発覚した方や、婚約中の相手に借金があることを知ってしまった方などは、問題解決に向けてこの記事を参考にされてください。

1章 配偶者の借金は共有財産にならない

配偶者が夫や妻に「内緒」で借りた借金があったとしても、本来、借金はあくまでも「個人」のみのものであり、夫婦の共有財産として扱われません。
したがって、結婚したからと言って夫や妻が結婚前にしていた借金を一緒に返済する義務は負いません。

共有財産とは
共有財産とは、婚姻生活中に夫婦で協力し築いた財産であり、不動産・預貯金・退職金・年金などが該当します。

財産の所有名義がいずれか一方の配偶者のみだった場合でも、もう一方の貢献があって築いた財産とみなされれば共有財産として扱われます。

これに対し、一方の親から受けた贈与や相続の財産は、共有財産に含まれない固有財産とされています。

そのため、夫や妻に「結婚前」や「結婚後」の借金があったとしても配偶者に返済義務はなく、離婚する際に夫や妻の借金を「財産分与」で引き継ぐ必要もありません。

2章 配偶者が返済義務を負うケース

借金はあくまでも個人の借入れであるため、「保証人」でなければたとえ配偶者でも返済義務を負うことはありません

保証人とは
保証人とは、お金を借りた主債務者が、当初の契約どおりに返済できなくなったときに代わって返済する義務を負う人です。

ただし、夫や妻の借金が夫婦「共有」の借入れとしてみなされる場合には、「配偶者」も返済義務を負うことになります。

そこで、次の結婚前後の借金に分けて、配偶者が返済義務を負う「ケース」を説明していきます。

  1. 結婚前の借金
  2. 結婚後の借金

2-1 結婚前の借金

「結婚前」の借金は、お金を借りた「本人」のみに責任があるため、配偶者が返済義務を負うことはありません。

ただし結婚する前にその借金の「保証人」になっていた場合には、返済義務を負うことになってしまいます。

また、結婚前の借金がある状態で亡くなった場合には、残された配偶者が「相続」することで返済義務を負うことになりますが、相続放棄や限定承認などで引き継がない方法を選ぶこともできます。

2-2 結婚後の借金

結婚後の借金についても、夫や妻の借金はあくまでも「個人」の借入れであり、たとえ生計を共にする配偶者であっても返済義務を負いません。

しかし例外的に、次の「ケース」に該当するときには配偶者にも「共同責任」が及ぶことになります。

  1. 日常家事債務である場合
  2. 保証人になっている場合

それぞれ詳しく説明していきます。

日常家事債務である場合

配偶者に共同責任が及ぶのは、借金が「日常家事債務」である場合です。

日常家事債務とは
「日常家事債務」とは、夫婦が共同生活を送る上で日常的に支出される債務のことです。

夫婦いずれかの契約による借金であっても、日常家事債務である場合には「連帯」して責任を負うことになります。

日常的に支出される債務か判断する際には、次の項目を「総合的」に判断することになります。

日常的に支出される債務か判断する項目

  • 購入した商品とその価格
  • 夫婦の社会的地位・職業
  • 経済的な状況
  • 地域の慣習

実際には線引きが難しく、「個別」で判断することがほとんどであるため、該当するか不安があるときには専門家に相談することをおすすめします。

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保証人になっている場合

配偶者に共同責任が及ぶのは、借金の「保証人」になっている場合です。

結婚する前後に関係なく、夫や妻の借金の保証人になっていれば、本人が返済できなったときに返済義務を負うことになります。

3章 結婚前の借金が発覚した場合の対処法

夫や妻に結婚前の借金が「発覚」したときには、隠していたことに対する苛立ちや腹立たしさ、結婚生活に借金問題を持ち越されたことへの「不安」などを感じてしまうものでしょう。

仮に「家計」から返済資金を捻出することになれば、結婚生活に何らかの「影響」を及ぼす可能性もあるといえますが、協力して問題を解決できる場合もあります

そのため、夫や妻に結婚前の借金が発覚したときには、次の6つの「対処法」を検討してください。

  1. 借金の詳細を確認する
  2. 借金返済に協力する
  3. 離婚を検討する
  4. 借金の原因から断絶させる
  5. 貸付自粛制度を申請する
  6. 債務整理を検討する

それぞれどのような「対処法」があるのか説明していきます。

3-1 借金の詳細を確認する

夫や妻に結婚前の借金が発覚したときには、まず借金の「詳細」を確認しましょう

借金の「理由」が、たとえば家族を助けるためや奨学金返済、収入の激減などやむを得ない事情であれば、同情の余地もあります。

しかしギャンブルや浪費などの場合、単にお金にだらしない性格である場合や、借金癖が抜けていない可能性も考えられます。

また、ヤミ金融業者など危ない業者からお金を借りていれば、早急に弁護士や警察に相談する必要があるため、どこから借りたのか確認しておく必要があります

どのくらい借金があり、毎月の返済額などの確認しなければ、その後の対処方法も変わってくるため、すべて正直に話してもらうことが必要です。

3-2 借金返済に協力する

夫や妻に結婚前の借金が発覚したとき、借金の返済に「協力」することも対処法の1つです。

なぜ借金をしたのか理由によっては、家計の中から返済資金を捻出する方法で返せばよいという結果に至ることもあるでしょう。

ただ、家計が圧迫されたり節約を強いられたりなど、生活が苦しくなることで夫婦の信頼関係が崩れる可能性もあります。

もしも夫婦で協力して借金を返していくのなら、しっかりと借金返済に向けた計画を立てておき、完済するまで「協力」し合うことが必要です。

3-3 離婚を検討する

夫や妻に結婚前の借金が発覚し、お金を借りた「原因」によっては信頼関係が壊れたり信用できなくなったりすることも考えられます。

この場合、「離婚」を検討することも方法として挙げられるでしょう。

たとえ借金の原因に同情の余地があったとしても、「多額」の借金を隠していた場合には、子育て費用を捻出できないリスクや婚姻生活を継続できない可能性が高くなります。

婚約中の相手に借金があることが発覚した場合も婚約解消を検討することになるでしょうが、実際には借金がある事実のみを正当事由とした離婚や婚約破棄は認められないでしょう。

「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すれば可能とも考えられるものの、それぞれの事情や状況によって判断は変わるため、借金を理由とした離婚や婚約解消については弁護士に相談することをおすすめします。

3-4 借金の原因から断絶させる

夫や妻に結婚前の借金が発覚し、ギャンブルや浪費などが原因の借入れである場合には、その原因から「断絶」させましょう

特に「ギャンブル」と「借金」がセットになっている場合、「ギャンブル依存症」など根の深い問題であるとも考えられるため、医学的な「カウンセリング」を受けることも必要になる可能性があります。

原因から断ち切ることができなければ、たとえ夫婦で協力して完済できたとしても、また借金を繰り返すかもしれません。

借金の原因から断絶できるお金の使い方や交友関係の構築、生活習慣を身につけるように、夫婦で話し合い実践していきましょう。

3-5 貸付自粛制度を申請する

夫や妻に結婚前の借金が発覚し、また借入れを繰り返す恐れがあるときには、日本貸金業協会に「貸付自粛制度」を申請することもできます。

貸付自粛制度とは
貸付自粛制度とは、ギャンブル依存症や浪費の習癖があることで、本人やその家族の生活に支障をきたす恐れがあるなどの理由により、貸金業者に対し貸付に応じないように求める制度です。

5年以内で登録することができますが、注意したいのは申告できるのは「本人」のみであることです。

本人が借金をしないという強い「意志」のもと、自ら「申告」することが必要となります。

3-6 債務整理を検討する

夫や妻に結婚前の借金が発覚し、自力で解決が難しい場合には、「債務整理」を検討しましょう

夫婦で協力して借金を返済するつもりでも、借金の件数や総額によっては、自力で解決できるとも限りません。

その場合、「専門家」の力を借りて債務整理をすることをおすすめしますが、選べる手続は次の3つです。

  1. 任意整理
  2. 個人再生
  3. 自己破産

それぞれどのような手続か説明していきます。

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任意整理

「任意整理」とは、債権者に将来利息や遅延損害金をカットしてもらう交渉をし、減額させた借金を3~5年で返済する手続です。

対象とする借金を選ぶことができるため、結婚前の借金のみを手続した後、アルバイトなどで収入を増やしてもらい本人に解決してもらうこともできるでしょう。

婚姻生活中の家計から返済資金をできるだけ捻出したくない場合でも、毎月の返済を少なく抑えることができます。

個人再生

「個人再生」は、裁判所に申立てを行って借金を5分の1程度など大幅に減額させ、原則3年で返済する手続です。

すべての借金が手続の対象となるため、結婚後の本人名義の借入れも対象となることがデメリットですが、持ち家の住宅ローンは特則を利用することで変わらず返済を続けることができます

結婚前の借金返済の負担が大きく、結婚後に購入した家の住宅ローンは返済中という場合には、検討できる方法です。

自己破産

「自己破産」とは、裁判所に申立てを行うことで、借金返済を免除してもらう手続です。

借金返済から免れることは大きなメリットといえますが、結婚前後に関わらずすべての借金が対象であり、本人名義の財産は処分の対象になります。

また、債務者は自身の給料などを使わずに貯めて、配偶者の収入で生活していた場合なども、婚姻費用の分担の観点から破産管財に請求されてしまうことはめずらしくありません。

本人の財産と同一視されることで、配偶者の財産にも対象となることはあることは留意しておくべきです。

いずれにしても個人再生同様に、配偶者の協力なしでは手続できない方法ともいえるため、慎重に検討することが必要です。

まとめ

夫や妻に結婚前の借金があることが発覚した場合、一緒に返済義務を負うのかと心配になることもあるでしょうが、たとえ配偶者でも保証人になっていなければ返済義務を負うことはありません。

ただし借金が日常家事債務に該当する場合には、配偶者も返済する責任があります。

日常家事債務ではなく、夫や妻独自の借金である場合でも、協力して返していくのなら家計から返済資金を捻出することになるでしょう。

しかし自力で返済することが難しい金額の場合、結婚前の借金が原因で婚姻生活を破綻させる可能性も否定できません。

もしも配偶者の借金が発覚し悩んでいるときや、適切な判断をしたいけれど迷いがあるという場合には、一度グリーン司法書士法人グループにご相談ください。

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結婚相手が借金をしていたら返済義務はありますか?
原則として配偶者の借金の返済義務はありませんが、下記のケースでは請求されてしまいます。
・配偶者の借金が日常家事債務の場合
・配偶者の連帯保証人になっているとき
・配偶者の名義等を使って借りている場合
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