自己破産後も選挙権はなくならない!手続きによるデメリットも紹介

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

自己破産

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 この記事を読んでわかること

  • 自己破産でなぜ選挙権を失わないのか
  • 自己破産でなぜ選挙権を失うと誤解されているの
  • 自己破産で制限・影響すると誤解されていることは何か
  • 自己破産することでどのようなデメリットがあるか

自己破産すると、選挙権がなくなるわけではありません。

借金返済に追われる日々が続き、ついに返済できない状況に陥ったときには、自己破産を検討することも必要です。

ただし自己破産で選挙権や被選挙権を失いたくはないといえますが、公職選挙法による選挙権を失う条件に自己破産は含まれていません。

そのため自己破産で選挙権が奪われることはなく、借金返済が免除されることで新たな生活をスタートできますが、手続によるデメリットはあります。

そこで、自己破産後の選挙権の扱いや、手続することで実際にどのような影響やデメリットがあるのか解説していきます。

1章 自己破産しても選挙権・被選挙権はなくならない

自己破産をしても、「選挙権」や被選挙権が奪われることはありません

債務者が「返済不能」に陥ったとき、裁判所に破産の申立てをして、借金返済を免除してもらう手続が「自己破産」です。

借金を返済できなくなった方を「救済」するための制度であり、懲罰ではなく国民に認められた生活再建に向けた正当な手続といえます。

債務者の経済生活の再生における機会を確保することを目的としているため、社会生活を再スタートする上で必要とされる選挙権などは「保護」されます

総務省の公式サイト「選挙権と被選挙権」に掲載されている選挙権および被選挙権を失う条件にも、以下のとおり自己破産は含まれていません

  1. 禁錮刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの者
  2. 禁錮刑以上の刑に処せられ、その執行を受けることがなくなるまでの者(執行猶予中の者は除く)
  3. 公職にある間に犯した収賄罪により刑に処せられ、実刑期間経過後5年を経過しない者又は刑の執行猶予中の者。ただし、実刑期間経過後5年を経過した者は、更にその日から5年間被選挙権が認められない。
  4. 選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁錮刑以上の刑に処せられ、その刑の執行猶予中の者
  5. 公職選挙法に関する犯罪により、選挙権・被選挙権が停止されている者
  6. 政治資金規制法に定める犯罪により、選挙権・被選挙権が停止されている者

2章 自己破産をすると選挙権を失うと誤解されている理由

自己破産をすると、選挙権を失うと誤解されているのは、「過去」の法律が関係します

公職選挙法の第11条1項1号には、選挙権及び被選挙権を有しない者として「禁治産者(成年被後見人)」の記載がありました

禁治産者とは
禁治産者とは、1999年12月8日に改正されるよりも前の民法で、常に心神喪失の状態にあり、一定の利害関係人からの申立てで家庭裁判所から禁治産宣告を受けた人です。2000年4月1日に改正民法が施行され、成年後見制度ができてからは成年被後見人という名称に改められています。

「禁治産者」は財産を治めることを禁じられているといった意味で付けられた名称です。

そのため財産の管理が難しいと判断された人であるため契約などの法律行為はできず、戸籍にもその事実が記載され、監護・代理・財産管理などをする後見人が付けられていました。

成年後見制度ができてからも選挙権も付与されていませんでしたが、2013年6月30日に公職選挙法の一部が改正され、現在は成年被後見人も選挙権・被選挙権を有します。

自己破産と禁治産者・成年被後見人は、直接かかわりがありません

ただ、自己破産と禁治産者を混同した様々な憶測や疑いが拡散され、その1つである選挙権を失うといった「誤解」が生まれたと考えられます。

3章 自己破産をすると制限される・影響を受けると誤解されていること

自己破産をすると、選挙権を失うことはないため、誤解しないようにしましょう。

しかし選挙権以外にも、以下の制限や影響を受けるなど、「誤解」されていることが複数あります。

  1. 自己破産をするとパスポートを発給してもらえない
  2. 自己破産をすると戸籍・マイナンバーに記載される
  3. 自己破産をすると年金を受け取れない
  4. 自己破産をすると会社を解雇される
  5. 自己破産をすると結婚できない
  6. 自己破産をすると就職・転職できなくなる
  7. 自己破産をすると起業できなくなる
  8. 自己破産をすると銀行口座を開設できなくなる
  9. 賃貸借契約ができない

何について誤解されているのか、それぞれ説明していきます。

3-1 自己破産をするとパスポートを発給してもらえない

自己破産しても、パスポートは発給されます。

パスポートを初めて申請するときには、申請書以外に以下の書類が必要です。

  • 戸籍謄本(発行日から6か月以内のもの)
  • 本人確認書類
  • 住民票(都道府県で住民登録している方・発行日から6か月以内のもの)
  • 手数料
  • パスポート用写真(6か月以内に撮影したもの)

上記の書類に自己破産した事実が記載されることはないため、パスポートの発給・更新にも特に支障をきたすことや没収されることはありません。

ただし管財事件で自己破産手続が進む場合、手続期間中は裁判所や破産管財人といつでも連絡が取れる場所にいなければならないため、手続が終わるまでの長期の海外渡航は一部制限されることがあります

3-2 自己破産をすると戸籍・マイナンバーに記載される

自己破産しても、戸籍やマイナンバーにその事実が記載されることはありません。

「戸籍謄本」に記載される内容は以下のとおりです。

  • 本籍地
  • 戸籍の筆頭者の氏名
  • 戸籍に記載されている人全員の氏名
  • 戸籍に記載されている人全員の生年月日
  • 戸籍に記載されている人全員の父母の氏名・続柄
  • 戸籍に記載されている人全員の身分事項(出生・婚姻等)

そのため自己破産など、経済的な状況に関することは記載されません

また、マイナンバーと個人情報で紐付けられているのは、年金の「基礎年金番号」や雇用保険の「雇用保険被保険者番号」です。

自己破産をしたことが記載される「官報」や「信用情報機関」とは連携していないため、自己破産の事実が登録されることはありません。

3-3 自己破産をすると年金を受け取れない

自己破産をしても、「公的年金」は受給できます。

「年金」は、主に次の2つの種類に分けることができます

公的年金国民年金(老齢基礎年金)・厚生年金(老齢厚生年金)
私的年金公的年金の上乗せ給付を保障する制度(企業年金・個人年金など)

公的年金は、法律で差押えが禁止されている「差押禁止財産」に該当するため、自己破産しても受給できます。

また、私的年金に含まれる以下の「年金」も、公的年金として扱われるため差し押さえられることはありません。

  • 確定給付企業年金
  • 確定拠出年金
  • 厚生年金基金
  • 国民年金基金

3-4 自己破産をすると会社を解雇される

自己破産したことを理由に、会社を解雇されることはありません。

「労働契約法」における労使間の労働契約の解除は、「客観的に合理的な理由」がある場合や、「社会通念上の相当性」を必要とします。

「客観的に合理的な理由」とは、たとえば傷病による就業困難・能力不足・出勤不良・企業秩序に反する行動などがある場合です。

「社会的通念上の相当性」とは労働者の状況や行為に相当な処分であることといえます。

たとえば、軽微な就業規則違反などに対して、指導や注意処分など段階を踏まず解雇処分にすることは認められません。

自己破産を理由に解雇処分を受けることはないといえますが、「不利」な扱いを受ける恐れはあると留意しておきましょう。

また、会社役員は会社と委任契約を結んでいる立場であり、自己破産は「委任終了事由」に該当します。

そのため自己破産すれば「解任」されることになり、再度、破産手続開始決定後に株主総会で再選されることが必要です。

3-5 自己破産をすると結婚できない

自己破産をしても、法律上、何の問題もなく結婚はできます。

「民法」では近親者間の婚姻は禁止しているものの、自己破産や経済的理由において禁じる規定はありません。

婚姻届の提出の際には、戸籍謄本以外にも本人確認書類(運転免許証など)が必要です。

しかしどちらにも自己破産の「事実」が登録されることはないため、婚姻手続を通じて結婚相手に自己破産したことを知られることもないでしょう。

3-6 自己破産をすると就職・転職できなくなる

自己破産をしても、就職や転職はできます。

勤務先に自己破産した事実を申告する必要はないため、就職や転職に支障をきたすことはほぼないと考えられるものの、以下のとおり自己破産手続中は一部の「職業」や「資格」が制限されます

制限を受ける職業または資格
不動産・建築関連 建設業、宅地建物取引士・土地家屋調査士・不動産鑑定士・生命保険募集人・貸金業者・弁護士・司法書士・行政書士・税理士・公証人・公認会計士・司法修習生・社会保険労務士・廃棄物処理業者・警備員・旅行業務取扱主任者など

また、自己破産すると「官報」に掲載されるため、勤務先が下記の業種の場合には手続した事実を知られてしまい、業務に支障をきたす恐れもあると留意しておきましょう。

官報を閲覧する可能性がある業種など
士業(弁護士・司法書士など)・金融会社・保険会社・信用情報機関・自治体の税務担当・警備会社など

3-7 自己破産をすると起業できなくなる

自己破産をしても、新たに事業をスタートすることや会社を設立するなど、起業はできます。

ただし、起業に向けて「初期投資」の資金や、事業開始後の「運転資金」が必要です。

自己破産により、必要最低限の資産は処分している中、信用情報は「ブラックリスト扱い」のため銀行融資を受けることもできません

そのため起業後に手元の資金不足に陥り、資金繰りが悪化するなど事業運営に影響が及ぶ恐れはあります。

3-8 自己破産をすると銀行口座を開設できなくなる

自己破産をしても、銀行口座は新たに開設できます。

新しい口座開設の上、預貯金・引落し・振込みなど、通常どおりの使い方が可能です。

自己破産したカードローンなどがある銀行でも口座開設はできますが、既存の口座は一度凍結され、保証会社による代位弁済がなれます。

代位弁済前に同じ銀行で新規口座を開設・入金すれば、債務と「相殺」されるため注意してください。

3-9 賃貸借契約ができない

自己破産しても、賃貸物件を借りる上で、賃貸借契約を結ぶことができます。

ただし「信販系」と呼ばれるクレジットカード会社関連の家賃保証会社の保証が必要な物件では、審査に落ちてしまう可能性もあります。

この場合、信用情報ではなく、独自の審査基準では保証の可否を判断する独立系の家賃保証会社の賃貸物件で契約しましょう。

また、すでに賃貸物件に住んでいる方の場合も、家賃滞納がなければ自己破産を理由に退去する必要はありません。

4章 自己破産をするデメリット

自己破産をしても、選挙権を奪われることはなく、就職や結婚などの制限もありません。

ただし多額の借金の返済が免除されるメリットの大きい手続であるため、次の4つのデメリットにより、生活が変化する可能性はあります。

  1. 自己破産をすると必要最低限以外の財産を処分されてしまう
  2. 免責許可を受けるまでは一部の職業・資格を制限されてしまう
  3. 信用情報機関に事故情報が登録される
  4. 官報に氏名・住所が掲載される

それぞれどのようなデメリットがあるのか説明していきます。

4-1 自己破産をすると必要最低限以外の財産を処分されてしまう

自己破産をするデメリットとして、必要最低限を超える財産は処分することが挙げられます。

借金返済を免除する手続であるため、「生活維持」に必要な最低限の財産以外は処分の対象です。

ただ、法律で差し押さえが禁止されている「差押禁止財産」については、処分の対象になりません。

すべての財産が差し押さえられるわけではなく、無一文になるわけではありませんが、残すことができるのはあくまでも必要最低限の財産のみとなります。

4-2 免責許可の確定までは一部の職業・資格を制限されてしまう

自己破産をするデメリットとして、自己破産手続中に「免責許可」が確定するまで、一部の職業や資格は制限を受けることが挙げられます。

先にも紹介しましたが、自己破産手続中に制限されるのは、以下の「職業」や「資格」などです。

  • 宅地建物取引士
  • 生命保険外交員
  • 生命保険募集人
  • 貸金業
  • 不動産鑑定士
  • 弁護士・司法書士・税理士など
  • 旅行業
  • 警備員など

制限されるのは免責許可を受けるまでですが、上記の職業に就いている場合には自己破産手続中に職場に迷惑をかける恐れはあります

4-3 信用情報機関に事故情報が登録される

自己破産をするデメリットとして、信用情報機関に5~7年間は「事故情報」として登録されることが挙げられます。

事故情報が登録されるブラックリスト扱いになると、ローンやクレジット契約を結ぶことはできなくなります。

信用情報機関は3機関ありますが、事故情報の「登録期間」の目安は以下のとおりです。

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信用情報機関加盟機関事故情報の登録期間(目安)
CIC 信販会社・クレジットカード会社5年以内
JICC消費者金融・クレジットカード会社5年以内
KSC 全国の銀行10年以内

4-4 官報に氏名・住所が掲載される

自己破産をするデメリットとして、「官報」に氏名や住所が掲載されてしまうことが挙げられます。

官報は内閣府発行の機関紙であり、主に政府や省庁などが発表する文書・告知、会社の決算報告などが掲載されます。

主に金融業・不動産業・士業・公的機関の一部などが閲覧することはあっても、一般的な業種で扱うことはほぼありません。

ただ、自己破産に関しても破産者の氏名や住所が掲載されるため、官報から自己破産の事実が周囲に知られることは多くないとしても、可能性はゼロではないといえます。

まとめ

自己破産を理由に、選挙権を奪われることはありません。

他にも自己破産をするとパスポートを発給してもらえないのではないか、戸籍に記載されたり結婚・就職できなくなったりするのではないかといった不安があるようですが、いずれも誤解です。

必要最低限以外の財産を処分されることや、免責許可を受けるまで一部の職業・資格を制限されてしまうなど、制限はあるものの大きな制限はないといえます。

ただし上記に加え、信用情報機関に事故情報が登録されることや、官報に自己破産した事実が掲載されるなどデメリットはあります。

借金を自力解決できなくなったときの解決方法は自己破産以外にもあるため、最適な解決方法を選択するためにも、まずはグリーン司法書士法人に一度ご相談ください。

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