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自己破産の手続で破産管財人が選任されるのは、申し立てた自己破産が管財事件として扱われるときとされていますが、破産管財人は利害関係人と債権者の利益確保を重要な職務としています。
そのため自己破産を検討している方にとって、破産管財人の存在はとても気になってしまうものでしょう。
そこで、破産管財人とはどのような人なのか、選任されるケースやその理由について次の 5つの章に分けて説明していきます。
- 破産管財人とは
- 破産管財人が選任される3つの理由
- 破産管財人の5つの業務
- 破産管財人選任後の3つの制限
- 自己破産で破産管財人と接触するタイミング
破産管財人は債権者の代表といわれることもある立場の人のため、自己破産するならこの記事を参考に理解を深めておきましょう。
目次 ▼
1章 破産管財人とは
「破産管財人」とは、破産手続で破産財団に属する財産を管理・処分する権利を有する者であり、自己破産が「管財事件」に振り分けられた場合に裁判所が選任します。
自己破産には「同時廃止」と「管財事件」がありますが、破産管財人が選任されるのは「管財事件」のときのみです。
原則として、破産管財人は破産者や主要な債権者と利害関係のない弁護士が選ばれます。
破産管財人に求められるのは幅広い法律知識と経験のため、一定条件を満たす「弁護士」から裁判所が「選任」することが一般的です。
破産管財人が就任するのは「破産開始決定時点」のため、裁判所に「予納金」を納めたタイミングで選任を開始することとなるでしょう。
予納金とは、自己破産するときに裁判所に支払う費用です。
破産手続前に破産者がどのくらいの財産を所有しているかわからないため、手続で必要な費用だけは予め支払わなければならないことになっています。
予納金を支払うことは破産手続開始の要件となっているため、裁判所に自己破産を申し立てた後すぐに一括で納めることが必要です。
なお、同時廃止の場合の予納金は約1万2千円ですが、破産管財人が選任される管財事件では約22万円の予納金が必要となります。
管財予納金の積立について、裁判所に申し出れば半年程度の分割は認めてもらえることもあります。この積立てができないと手続きが進まず、最悪の場合には却下となってしまいますので注意しましょう。
2章 破産管財人が選任される3つの理由
自己破産では、破産者の財産を換価処分しお金に換え、債権者に対し「配当」する手続を行います。この配当業務が管財人の一番重要な職務であると言ってもいいくらいです。
そのため破産者がどのくらい財産を所有しているか確認し、隠している財産がないか調査することが必要です。
また、換価処分する前に、破産者が勝手に売ってお金に換えてしまうことのないよう、管理することも必要となります。
これらのことを踏まえると、破産管財人が選任される理由は次の3つだと言えます。
- 換価した財産を公平に分配するため
- 財産隠しを防ぐため
- 免責を認めてよいか調査するため
それぞれ説明していきます。
2-1 換価した財産を公平に分配するため
破産手続が開始されると、破産管財人が破産者の財産を管理します。
債務者が所有する財産を、
- 特定の債権者のみの返済に充てることがないようにする
- 浪費・散逸から守る
ことが必要だからです。
自己破産では、原則、日常生活に必要とされる範囲を超えた財産は所有し続けることができません。
仮に、特定の債権者にのみ借金を返済している「偏頗弁済」があった場合、破産管財人は「否認権」を行使して財産を取り戻すこともあります。
偏頗弁済とは、すでに借金の返済など支払不能状態であるのに、特定の債権者にのみ返済することです。
2-2 財産隠しを防ぐため
債務者が所有している財産を隠してしまうことを防ぐためにも、破産管財人の管理が必要です。
たとえば売れば20万円を超える価値がある車を所有しているのに、隠して所有し続ければいずれ換金し、特定の債権者の返済に充てたりポケットマネーにしたりする可能性があります。
確かに車がなければ移動は不便に感じることもあるでしょう。
しかし、貸したお金は返せないのに一定の価値がある財産は所有し続けることが可能になると、債権者は貸したお金を全く返してもらえないのに債務者は必要以上の財産を持ち続けるという、不公平な扱いを受けることになります。
自己破産は、債務者から見れば借金をチャラにする手続きという面が確かに強くなりがちですが、本質的には「返せるものは返したうえで」残りをチャラにする手続きなのです。
そのためにも、債務者の財産を適切に管理する破産管財人が重要な役割を担うのです。
2-3 免責を認めてよいか調査するため
自己破産する人の中には、浪費やギャンブルなどを理由に借金が増えたことが理由というケースもありますが、この場合には借金返済を免除してよいか問題となります。
自己破産には「免責不許可事由」といって、借金の返済免除を許可しない要件が定められています。
これらがある場合でも裁判所による裁量免責で破産が認められる可能性はあります。軽微なものであれば同時廃止手続の中で裁判所自身が判断するのですが、程度がはなはだしい場合には破産管財人がじっくり調べて裁判所に意見を出し、それを元に最終判断をすることになります。
そのため破産管財人は、破産者の返済免除を認めてもよいか調査を行うことになります。
3章 破産管財人が選任される管財事件になる5つのケース
自己破産が「管財事件」に振り分けられたとき、裁判所は破産管財人を選任します。
「管財事件」になるケースとは、主に次の5つです。
- 一定の財産を保有しているケース
- 免責不許可事由に該当しているケース
- 個人で自己破産を申し立てたケース
- 資料不足などで調査が必要なケース
- 個人事業主や法人が破産するケース
それぞれ説明していきます。
3-1 一定の財産を保有しているケース
一定の「財産」を保有している場合には管財事件として扱われます。
一定の財産とは、
- 現金33万円以上
- 個別財産20万円以上
のいずれかです。
個別財産については、たとえば次のような項目でそれぞれ20万円以上であるかが基準となることが多いといえます。
- 現金・預貯金
- 不動産
- 生命保険の解約返戻金
- 退職金
- 自動車
3-2 免責不許可事由に該当しているケース
「免責不許可事由」に該当するときや、該当すると疑われる場合は管財事件で手続が進むと考えられます。
ただし免責不許可事由に該当する場合でも、裁判所の裁量により免責が認められる可能性があることは前述したとおりです。
3-3 個人で自己破産を申し立てたケース
司法書士や弁護士など専門家に依頼せず、直接、破産者本人が申し立てを行った場合も管財事件で手続が進みます。
この場合には、申立てに専門家が全く介在していないので、ほぼ確実に管財事件となります。
3-4 資料不足などで調査が必要なケース
資料が不足している場合や、破産に至った経緯などが分かりにくい場合など、詳しく調査を必要と裁判官が判断すれば破産管財人が選任されることになります。
3-5 個人事業主や法人が破産するケース
個人事業主や法人が破産する場合には、代表者個人の破産だとしても事業・法人も破産します。
事業・法人の破産は代表者個人の財産だけでなく、事業に関連する資産や給与などの管理も必要になり、財産管理が大変複雑になるため管財事件として扱われます。
4章 破産管財人の5つの業務
破産管財人は、破産者の所有する財産を管理・処分し、お金に換えて債権者に配当する人です。
破産者の一切の財産は「破産財団」に属することになり、その財産を管理・処分する権利は破産管財人に「専属」することになります。
破産財団とは、
・破産者の財産
・相続財産
・信託財産
であり、破産手続で破産管財人にその管理・処分をする権利が専属するものです。
他にも最終的に破産者の借金返済について、免除してよいか調査も行います。
以上のことを踏まえ、破産管財人の「業務」は次の5つです。
- 債務者と債権額の確定
- 財産の管理・換価
- 借金の経緯・原因の調査
- 裁判所や債権者に対する報告
- 自己破産で破産管財人と接触するタイミング
それぞれ説明していきます。
4-1 債権者と債権額の確定
破産管財人は、破産者の借金はどこから、いくら借りているのか調査します。
自己破産では、破産者が所有する財産を債権者に配当するため、誰が「債権者」なのかを確定させることが必要になります。
また、「債権額」も確定させることが必要ですが、債権者に対する配当はそれぞれの債権額に応じた按分で行われることが理由です。
不動産などの資産に抵当権などが設定されていれば、担保として抵当権をつけた抵当権者は他の債権者よりも優先して弁済を受けることができるため、誰が抵当権者か調査により確定させることも行います。
4-2 財産の管理・換価
破産手続が開始後は、作成された「財産目録」などをもとに破産者の財産を管理します。
財産目録は、破産者が所有する資産の確認のために必要となる書類です。
破産管財人が破産者の財産を管理することにより、破産者が不当に財産を使い込んだり価値を低下させたりすることを防ぎ、できるだけ多く債権者に配当できるようになります。
破産手続が開始後、破産管財人は破産者が所有していた財産のうち、「自由財産」以外を管理・処分します。
自由財産とは、破産者が自由に管理・処分できる最低限生活に必要な財産であり、主に次の3つが挙げられます。
・新得財産(破産手続開始決定後に取得した財産)
・金銭以外の差押禁止財産(生活に必要とされる法律上差押えが禁止されている財産)
・99万円までの現金
破産者の財産を管理し、換価できるものは換金して債権者の配当に充てます。
4-3 借金の経緯・原因の調査
破産者が借金を作った「経緯」や「原因」の調査も破産管財人の仕事です。
自己破産に至った経緯や原因が「免責不許可事由」に該当すると、借金返済を免除されない可能性があります。
免責不許可事由がなければ借金返済が免除される「免責」が認められます。
仮に免責不許可事由がある場合でも、裁判官の裁量で免責が認められることもあります。
免責を認めるか裁判官が判断するために、破産管財人は次の「調査」を行い、意見を「報告」します。
- 免責不許可事由が自己破産にどの程度影響を及ぼしたか
- 債権者が自己破産に反対していないか
- 破産者の今の生活状況
- 破産者の反省・態度
4-4 裁判所や債権者に対する報告
自己破産手続開始から約3か月後、破産管財人から債権者に対して、配当の見込みなどを報告する「債権者集会」が開催されます。
債権者集会では、破産管財人が財産・収支報告と免責に関する意見申述を行い、5分程度で終了することが多いといえます。
開催までに破産管財人の調査や財産の換価が完了していれば、2回目以降開催されることはありません。
しかし不動産の任意売却や過払金など、回収が終わっていないときや破産者の生活態度を観察することが必要と判断されたときは、2回目以降開催されることがあります。
個人の自己破産では、債権者集会に出席するのは破産管財人のみのことが多いものの、破産者も出席するように求められることもあります。
4-5 配当手続
「配当」とは、破産者の財産を換価し、債権者に平等に分配する手続のことです。
債権者への配当に至らない段階で破産手続が終了する場合は「異時廃止」、配当を完了した上で終了する場合は「終結」となり、いずれにしても破産手続は終了します。
破産手続の異時廃止とは、裁判所が破産手続開始決定後、破産財団が破産手続費用を賄うことに不足する場合、破産管財人の申し立てや職権で破産手続を廃止することです。
破産手続の終結とは、債権者に対する配当完了した上で破産手続きを終了させることです。
5章 破産管財人選任後の4つの制限
破産管財人が選任されるのは、自己破産が管財事件で手続されるときですが、選任後は次の4つの「義務」や「制約」など制限があります。
- 破産管財人の調査への協力義務
- 転居・旅行・出張などは裁判所の許可が必要
- 郵便物は転送され確認される
- 資格制限
それぞれ説明していきます。
5-1 破産管財人の調査への協力義務
破産管財人から借金や財産の調査に関する協力を求められた場合、嘘偽りなく回答し協力することが義務づけられています。
調査に嘘の回答をしたり協力しなかったりした場合、破産法上の義務違反となり免責が認められない可能性があります。
5-2 転居・旅行・出張などは裁判所の許可が必要
破産手続開始決定後、手続終了までの間に転居や旅行・出張など行うときは、原則、破産管財人や裁判所の許可を得ることが必要です。
破産者は破産管財人の調査に応じることが必要であることが理由ですが、2泊以上宿泊する場合には許可が必要となることが多いものの、裁判所によって判断は異なります。
5-3 郵便物は転送され確認される
破産手続開始決定後、手続終了までは破産者宛の「郵便物」すべてが破産管財人に「転送」されます。
破産管財人が内容を一旦確認し、破産者に届けられるため、受け取れないわけではありません。
5-4 資格制限
「資格制限」とは、自己破産手続を開始することで、手続中の3~4か月の期間中は一定の資格の登録ができなくなったり一定期間失ったりすることです。
生涯続くものではなく、免責許可が決定すれば復権により資格制限は当然に消滅します。
警備員・宅地建物取引士・生命保険外交員・募集人・貸金業・会社の取締役・不動産鑑定士・弁護士・司法書士・税理士・公認会計士・社会保険労務士・旅行業 など
自己破産手続が終了し、免責許可が決定すれば資格制限も消滅するため、元通り資格を使った仕事はできます。
6章 自己破産で破産管財人と接触するタイミング
自己破産が管財事件で手続去れる場合に破産管財人が選任されますが、実際にどのようなタイミングで「接触」することとなるのでしょう。
破産管財人選任後は破産手続が終了するまで関与することになりますが、接触する「タイミング」は主に次の2つです。
- 管財人面接
- 債権者集会
大まかにまとめると以下のとおりとなります。
管財人面接 | 債権者集会 | |
開催場所 | 破産管財人の事務所 | 裁判所 |
開催時間 | 30分程度 | 数分程度 |
出席者 | 破産管財人 破産者 代理人(弁護士) | 裁判官 破産管財人 破産者 代理人(弁護士) 債権者 |
開催される回数 | 通常は1回(複数回の場合あり) | 通常は1回(複数回の場合あり) |
それぞれ説明していきます。
6-1 管財人面接
自己破産を申し立てると「管財人面接」の日程が決められ、破産管財人の事務所に出向くことになります。
破産管財人との面接では、
- 申立書に記載された借金
- これからの生活
- 反省しているか
などを中心として質問されますが、30分程度で終了することが多いといえます。
通常、個人の自己破産の場合の管財人面接は1回ですが、調査する項目が多いときや質問に対する返答が終わっていない場合などは複数回行われることがあります。
6-2 債権者集会
先に説明したとおり、「債権者集会」は面談や調査結果について、債権者に報告・説明することを目的として破産を申し立てた「裁判所」で開催されます。
個人の自己破産の場合は数分程度で終了することが多く、騒ぎやトラブルになることはほとんどありません。
開催されるのは破産決定から3か月後が多く、貸金業者などの債権者が出席することはほとんどないといえます。
個人の債権者などが参加し意見したり質問したりというケースは稀にありますが、その回答は破産管財人が行います。
自己破産手続が複雑化しているときや配当が終わっていないときなどは2回目が開催されることはあるものの、通常は1回で終わります。
まとめ
破産管財人とは、自己破産手続が管財事件で進むときに選任され、破産者の借金額を確定することや破産者の資産管理・処分・回収などを行う人です。
基本的に中立的な立場ですが、面談では質問に正直にこたえ、調査に協力することが大切といえます。
破産管財人が手続に関わる管財事件で手続が進むと、借金免除までの道のりが同時廃止よりも厳しくなります。
自己破産を検討しているけれど、破産管財人が選任される可能性が高い場合や、他の借金問題解決方法が知りたいときなど、気軽にグリーン司法書士法人グループにご相談ください。
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よくあるご質問
- 破産管財人とは何ですか?
- 「破産管財人」とは、破産手続で破産財団に属する財産を管理・処分する権利を有する者であり、自己破産が「管財事件」に振り分けられた場合に裁判所が選任します。
破産管財人について詳しくはコチラ
- 破産関税人はどのように選ばれますか?
- 破産管財人は、自己破産が「管財事件」に振り分けられた場合に裁判所が選任します。
破産管財人の選任方法について詳しくはコチラ
- 自己破産ではどこまで調べられる?
- 自己破産の申立てをすると下記について調べられます。
①破産者が所有している財産の調査
②破産者の借金の内容の調査
③免責に関する内容の調査
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- 破産管財人がつくとどうなる?
- 破産管財人がつくと、下記の制限を受けてしまいます。
・破産管財人の調査への協力義務
・転居・旅行・出張などは裁判所の許可が必要
・郵便物は転送され確認される
・資格制限
- 破産管財人は誰がなるの?
- 破産管財人は破産者や主要な債権者と利害関係のない弁護士が選ばることが原則です。