債権者平等の原則とは?違反行為と例外事例を徹底解説

   司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

借金返済の知識
債権者平等の原則とは?違反行為と例外事例を徹底解説

この記事は約 14 分で読めます。

「債権者平等の原則」とは、同じ債務者に対し複数の債権者がいる場合において、すべての債権者が公平に債務を返済してもらわなければならないという原則です。

借金整理をしたいけれど、貸金業者だけでなく親や友人からもお金を借りている場合、迷惑をかけたくないため個人の借金のみ先に返そうと考える方もいることでしょう。

しかしこの行為こそが「債権者平等の原則」に違反することとなり、借金問題の解決を難しくしてしまう可能性があります。

借金問題を解決の妨げになる行動をしてしまわないためにも、「債権者平等の原則」について理解を深めておくことは大切であるため、次の4つを章ごとに解説していきます。

  1. 債権者平等の原則とは
  2. 債権者平等の原則の違反となる3つの行為
  3. 債権者平等の原則の4つの例外
  4. 債権者平等の原則に違反した場合のデメリット

債権者平等原則の適用が具体的に問題になるのは「自己破産」と「個人再生」で手続するときです。

特に自己破産するときには重要ですが、任意整理では問題になりません。

自己破産などを検討しているけれど、親や友人から借りたお金を先に返済したいと考えている方などは、まずこの記事を読んでどのようなケースが「債権者平等の原則」に違反する行為となるのか参考にしてください。

1章 債権者平等の原則とは

「債権者平等の原則」とは、1人の債務者に対して複数の債権者がいるとき、どの債権者にも債権額に応じた平等・公平な返済をすることが必要とされる原則です。

お金を借りた相手が銀行や貸金業者、カード会社以外に、たとえば親や友人などが含まれる場合でも特定の債権者のみ特別扱いすることはできません。個人でも会社でも「債権者」という地位は同じだからです。

手元にお金がなく、苦しい状態のときにお金を貸してくれた友人などが債権者に含まれる場合、自身が債務整理することで迷惑をかけたくないと考えてしまうものでしょう。

しかし、返済しないのならすべての債権者に対し返すことを停止し、返済するのならすべての債権者に返すことが必要とされる原則が「債権者平等の原則」です。

より詳しく「債権者平等の原則」を理解するため、次の3つを確認しておきましょう。

  1. 債権者平等の原則の内容
  2. 債権者平等の原則が定められている理由
  3. 債権者平等の原則が適用される時期

それぞれ詳しく説明していきます。

1-1 債権者平等の原則の内容

「債権者平等の原則」とは、債務者に債権を有するそれぞれの債権者は、債権が発生した時期や原因に関係なく、債権額に応じた平等な取り扱いと弁済を受けるべきという原則です。

たとえば借金を抱えている方が「支払不能状態」に陥り、自己破産手続を進めるときには原則、すべての債権者を手続の対象とします。

借金返済を求めることができない債権者もいれば、返済してもらうことができる債権者がいることは「不公平」だからです。

よって、自己破産をすると決めたなら、全ての債権者に対する返済を一律にストップしなければなりません。

この場面で、特定の債権者にのみ優先して返済することを専門用語で「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と言いますが、これは「債権者平等の原則」に反する行動の代表といえ、自己破産を認めるには不適切とされる「免責不許可事由」に該当するとされています。

1-2 債権者平等の原則が定められている理由

「債権者平等の原則」が定められている理由は、債権者にも債務者が自己破産することに対し納得してもらうためです。

本来であればすべて返済されたはずの借金でも、債務者が自己破産することで「減額」されたり「免除」されたり、返済時期が延びたりなど債権者にとっては不都合になることばかりです。

そのため、すべての債権者が「平等に扱われる」べきことであり、特定の債権者のみが優先して返済を受けることは許されません。

「平等に扱われる」とは、厳格な手続のもとで債権額に応じた按分弁済を受けることです。

すべての債権者が同条件で譲歩を求められるからこそ、どの債権者も納得して債務整理に応じることができるともいえため、「債権者平等の原則」が守られなければならないといえます。

1-3 債権者平等の原則が適用される時期

債権者が複数いる状況の場合、「債権者平等の原則」が適用されると知らず、特定の債権者にだけ多く返済してしまうことや反対に延滞してしまうこともあるかもしれません。

ただ、「債権者平等の原則」が適用されるのは「支払い不能状態」になった後であり、具体的には「専門家に依頼した後」です。

単に複数社からの借入があって、返せるところだけを細々と返しながら生活しているだけという時点では、その返済は債権者平等の原則に反することにはなりません。

すでに返済期限が到来している借金を返済できなくなった状態であり、債権者に返済できない状態になった後で一部の債権者にのみ返済すると、「債権者平等の原則」に違反する可能性があるのです。

2章 債権者平等の原則の違反となる3つの行為

頭では「債権者平等の原則」について理解し、どのような行為が違反することになるのかわかっていたつもりでも、知らない間に違反する行動をとってしまうこともあります。

たとえば債務整理手続のうち、任意整理から自己破産に切り替えたのにもかかわらず、任意整理の和解内容に基づいた返済を続けてしまうケースなどです。

そこで、前もってどのような行為が「債権者平等の原則」に違反することになるのか知っておくことが大切ですが、該当するのは主に次の3つの行為です。

  1. 親族や友人の借金を優先して返す行為
  2. 催促の厳しい業者を先に返済する行為
  3. 銀行口座から自動引き落としで返済する行為

それぞれ詳しく説明していきます。

2-1 親族や友人の借金を優先して返す行為

債務整理の手続開始後に、たとえば親族や友人から借りたお金のみ優先して返済しようとするケースもありますが、このような行為は「債権者平等の原則」に違反する可能性が高いといえます。

「債権者」に含まれるのは貸金業者など金融会社だけでなく、親族や友人など「個人」も対象です。

そのため、債務整理することで親族や友人に迷惑をかけたくないという思いがあっても、優先して支払えば他の債権者を「不公平」に扱うこととなり、「債権者平等の原則」に違反する行為とみなされます。

2-2 催促の厳しい業者を先に返済する行為

逆に催促が厳しい業者からお金を借りてしまうと、取り立ての厳しさから逃れたいという思いで先に返済してしまいたくなるものでしょう。

しかし特定の債権者にだけ先に返済すれば、「債権者平等の原則」に違反する可能性が高くなります。

支払不能状態に陥った後は、仮に厳しい催促を受けた場合でも、一部の債権者のみ返済することは避けてください。

2-3 銀行口座から自動引き落としで返済する行為

借金の返済を口座引き落としに指定している場合、本人の気がつかないうちに返済金額が引き落としされて、「債権者平等の原則」に違反してしまう可能性があります。

毎月の返済額が月収を超えて支払不能状態に陥っているのに、たとえば給料が口座に入金された直後に一部の債権者の返済金額が引き落とされてしまったケースなどです。

特にクレジットカードを使って買い物やキャッシングなど利用している場合は注意が必要ですが、税金や公共料金などは支払い義務が免除されない「非免責債権」のため、引き落とされても「債権者平等の原則」違反になりません。

なお、非免責債権については後述します。

3章 債権者平等の原則の4つの例外

「債権者平等の原則」は支払義務を負うすべてのケースに適用されるわけではなく、特定の債権者のみの借金を優先して返済した場合でも違反行為に該当しない「例外」があります。

例外が認められるのは、借金回収のために努力した債権者の借金といえ、他の債権者より優先して回収できる権利を与えたほうが公平といえるケースであり、主に次の4つです。

  1. 任意整理による返済
  2. 自己破産で免責が認められない支払い
  3. 担保権が設定されている債権
  4. 個人再生で特則を適用させた住宅ローン返済

それぞれ詳しく説明していきます。

3-1 任意整理による返済

「任意整理」とは、取引開始時点にさかのぼって利息制限法の上限金利に引き下げ、引き直し計算して減額された元本だけを分割返済する交渉を債権者と直接行う手続です。

債権者と債務者の合意で返済金額が決められるため、任意整理による返済は「債権者平等の原則」は適用されません。

3-2 自己破産で免責が認められない支払い

「自己破産」した場合、破産法で「債権者平等の原則」が適用されず「免責」の対象にはならない「非免責債権」が定められているため、該当する債権は支払うことが必要となります。

「免責対象」にならない債権については、「個人再生」したときも同様に減額対象にならないため、通常通り支払わなければなりません。

「債権者平等の原則」が適用されない免責対象外の「債権」は主に次の3つです。

  1. 税金など公租公課
  2. 養育費
  3. 損害賠償金

それぞれ説明していきます。

①税金など公租公課

所得税や住民税、年金保険料など公租公課は「債権者平等の原則」の適用対象外となる「税金」とは、国税徴収法または国税徴収の例により徴収できるものです。

具体的に、以下が該当します。

  • 所得税
  • 市県民税
  • 固定資産税
  • 贈与税
  • 相続税
  • 国民健康保険料
  • 国民年金保険料

などが該当します。

②養育費

離婚した後で子どもに支払う「養育費」も「債権者平等の原則」の対象外です。

自己破産や個人再生しても、子どもの養育費は引き続き支払うことが必要となります。

③損害賠償金

「債権者平等の原則」の対象外となるのは、次の2つによる損害賠償責任による損害賠償金です。

  • 悪意による不法行為に基づいた損害賠償責任
  • 故意または重大な過失で人の生命または身体を侵害した不法行為に基づいた損害賠償責任

たとえば不注意などで起こした交通事故による慰謝料は「債権者平等の原則」が適用されることが多いですが、飲酒運転や無免許運転などで起こした交通事故であれば故意または重大な過失があるとされ「債権者平等の原則」の対象外となると考えられます。

3-3 担保権が設定されている債権

「担保権」が設定されている債権は、担保権のない債権よりも優先して弁済を受ける権利があるため、「債権者平等の原則」は適用されません。

債務者が弁済しない事態に備え、債権を確実に回収するために設定する権利が「担保権」であり、抵当権や譲渡担保権、連帯保証などが担保権として挙げられます。

抵当権とは
抵当権とは、債務の担保とした物について、他の債権者よりも優先して弁済してもらう権利です。たとえばお金を貸す銀行などの融機関が、土地や建物などの不動産を担保にするときに設定します。

たとえば、抵当権を設定して家を購入する資金を借りている状態で自己破産した場合、抵当権を設定していた債権者は抵当権実行により家を売却し、債権を回収することができます。

債権者がお金を貸すときに担保権を設定していた場合、担保権を設定せずにお金を貸した債権者と同等の立場で返済してもらうことはむしろ「不平等」です。

そのため担保権が設定されている借金については、「債権者平等の原則」の対象にはならず、担保権を実行して債権を回収することができます。

3-4 個人再生で特則を適用させた住宅ローン返済

「住宅ローン特則」を適用させた「個人再生」において、住宅ローンを返済する場合も「債権者平等の原則」違反にはなりません。

民事再生法では、住宅ローン債権のみ特別扱いできる「住宅ローン特則」が定められており、個人再生では住宅ローンのみは他の債権と異なる条件で返済することが認められていま

個人再生で住宅ローン特則を適用させることにより、住宅ローンは返済を続けながら、他の債権は減縮することができます。

4章 債権者平等の原則に違反した場合のデメリット

「債権者平等の原則」は債権者を公平に扱うことを必要とする原則ですが、違反すれば債務者は大きな不利益を受けることになります。

不利益を受けるのは債務整理のうち、自己破産と個人再生で手続したときですが、次の2つのケースに分けてデメリットを説明していきます。

  1. 自己破産で違反した場合
  2. 個人再生で違反した場合

違反によりどちらの手続も失敗してしまう可能性があるため、どのようなデメリットがあるのか理解を深めておきましょう。

4-1 自己破産で違反した場合

自己破産で「債権者平等の原則」に違反するケースとは、すでに支払不能状態に陥っているのにもかかわらず、特定の債権者にのみ返済する「偏頗弁済」を行うことです。

違反すれば「免責」が許可されず、借金の返済義務が免除されません

自己破産で借金返済を免除されるはずが、「債権者平等の原則」に違反したばかりに免責が認められなくなれば、それまでの手続にかかった時間や費用はすべて無駄になります。

仮に親族や友人のみ優先して借金を返済しても、破産管財人が「偏頗弁済」と判断すれば、先に支払われた返済金額は回収されます。

結果的に親族や友人などに迷惑をかけることになるため、その点を十分理解しておくことが必要です。

4-2 個人再生で違反した場合

個人再生でも偏頗弁済があった場合は、「債権者平等の原則」に違反することになります。

本来であれば個人再生することで、借金総額は5分の1まで減額されますが、「債権者平等の原則」に違反すれば通常よりも返済額が増えてしまいます。

個人再生では債務者が保有する財産相当分は最低限返済することが必要とされていますが、偏頗弁済があると弁済分は債務者の保有していた資産として扱われます

そのため債務者の資産総額に上乗せされ、個人再生後に返済しなければならない金額が増えてしまいます。

まとめ

「債権者平等の原則」は、債権者が不平等に扱われることがないよう、自己破産や個人再生において公正さを維持するため重要視されるルールです。

ルールに違反する行為があったときには、自己破産であれば免責を認められなくなり、個人再生では返済額が増えるといったことになってしまうでしょう。

借金問題を解決するために手続をしたのに、失敗に終わればそれまでに費やした時間や費用、努力もすべて無駄になってしまいます。

そのため「債権者平等の原則」をしっかりと理解しておくことが必要ですが、親や友人から借りたお金があるときなど、自己破産や個人再生で手続することをためらうこともあるかもしれません。

どの債務整理を選ぶべきか迷ったときや、借金問題解決の方法で悩んでいるときには、一度気軽にグリーン司法書士法人グループへご相談ください。

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債権者平等の原則とは?
「債権者平等の原則」とは、1人の債務者に対して複数の債権者がいるとき、どの債権者にも債権額に応じた平等・公平な返済をすることが必要とされる原則です。
債権者平等の原則について詳しくはコチラ
債権者平等の原則に違反するデメリット?
「債権者平等の原則」は債権者を公平に扱うことを必要とする原則ですが、違反すれば債務者は大きな不利益を受けることになります。
例えば、自己破産であれば免責不許可になる恐れもあります。
債権者平等の原則について詳しくはコチラ
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