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- 賃貸契約の連帯保証人に妻・夫がなることはできない背景
- 住宅ローンの連帯保証人に妻を立てるケース
- 住宅ローンで妻を連帯保証人にするメリット・デメリット
賃貸契約や住宅ローンを組む際、連帯保証人の選定は重要な決定事項のひとつといえるでしょう。賃貸契約や住宅ローンの連帯保証人を、「妻」に任せるのは可能でしょうか。
連帯保証人を妻に任せるのは難しいですが、条件が揃えば可能です。配偶者である妻を連帯保証人とするのには、さまざまなメリットがあると同時に、避けがたいデメリットの存在も否めません。
今回の記事では、賃貸契約における連帯保証人の基本的なルールや、住宅ローンで妻を連帯保証人にできるケースについて解説します。自身の状況に応じた判断ができるよう、具体的な情報を知っておきましょう。
目次 ▼
1章 賃貸契約の連帯保証人に妻・夫がなることは原則できない
賃貸契約において、連帯保証人には一般的に同居していない親族が求められます。特に、同居人である妻や夫は連帯保証人になるのが難しいです。これは、連帯保証人が入居者の家賃を支払えなくなった際に、肩代わりする役割を担うからです。
同居人である妻や夫が保証人になると、家計が同じなので、結局払ってもらえない可能性が高くなります。そのため、不動産会社や大家は同居している配偶者は連帯保証人として認めない場合が多く見られます。
実際に賃貸契約では、貸主は同居していない親族や安定した収入を持つ第三者を保証人として求めるのが一般的です。
このような制約があるのも、連帯保証人としての信頼性を確保するためです。収入の安定性や連絡の取りやすさが、連帯保証人選定の本質的な基準となります。
一般論でも、同一生計内の誰かが経済的危機に瀕している場合、ほかの者もなんらかの影響を受けると考えられるでしょう。収入を支える生活基盤に支障が出たり、催促の電話に出ずにいようとしたり、貸主にとっては悪い状況になりがちです。
また、連帯保証人が専業主婦の妻なら、低収入や無職の場合も多く、賃貸契約の審査を通過するのは難しくなります。専業主婦であれば、連帯保証人として家賃全額の支払いを肩代わりする能力に関しては、一般的に困難でしょう。
なお、賃貸借契約における連帯保証人の解除方法や、特例および更新拒否については、以下の記事でくわしく取り上げています。そちらも、ぜひ参考にお読みください。
2章 住宅ローンの連帯保証人に妻がなるケース
住宅の賃貸契約とは異なり、住宅ローンを組む際には、原則的には保証人や連帯保証人を立てる必要はありません。購入する不動産が担保として機能するのと、保証会社をつけるケースがほとんどのため、金融機関は貸し倒れリスクを回避できるからです。
しかし、住宅ローンの申請において収入合算をする際には、連帯保証人に妻がなる場合があります。収入合算とは、夫婦や親子など近親者の収入を合算して融資額を増やす方法です。
収入合算をするのであれば、妻の信用情報や収入が審査の対象となり、住宅ローンの承認に影響を与えます。住宅ローンの連帯保証人に妻がなる主なケースは、次のとおりです。
- 夫・妻が主たる債務者になり配偶者が連帯保証人になるケース
- 夫・妻の一方が主たる債務者になり他方が連帯保証人になるケース
- 夫・妻がそれぞれ単独でペアローンを組むケース
個々のケースの、具体的な内容を見ていきましょう。
なお、住宅ローンと信用情報の関係性については、以下の記事で取り上げています。信用情報の調べ方(開示請求手続の方法)もわかりやすく解説しているので、併せて参考にご覧ください。
2-1 夫・妻の一方が主債務者になり他方が連帯保証人になるケース
住宅ローンにおいて、夫婦の一方の収入だけでは希望する融資額に達しない場合、他方の収入を加えることで融資額を増やせます。そのため、夫が主たる債務者となり、妻が連帯保証人になるケース(またはその逆のパターン)があります。
この場合、妻は連帯保証人として、夫が返済できなくなった場合に代わりに全額の返済を負担する義務を負います。このような設定は、夫婦で住宅を共有し、家計全体の収入を活用して住宅購入を実現するための有効な手段のひとつです。
このケースでは、妻も信用審査の対象となり、妻個人のクレジットヒストリーや収入状況が評価されます。妻が延滞を繰り返していたり、多額の借金を抱えていたりする場合、住宅ローンの審査が通らない可能性は高まるでしょう。
したがって、妻の信用情報が健全である必要があります。また、団体信用生命保険(団信)は通常、主債務者のみが加入するため、連帯保証人である妻が万が一の場合の、保障は受けられません。
加えて、住宅ローンの税務上の優遇措置は主債務者には適用されますが、連帯保証人である妻には適用されません。
なお、住宅ローンの審査と配偶者の信用情報について、それが原因で住宅ローンの審査落ちはないことや、審査に通らない理由については、以下の記事で解説しています。そちらもぜひ、参考にご覧ください。
2-2 夫・妻がそれぞれ連帯債務者となるケース
夫と妻がそれぞれ連帯債務者となるケースでは、両者が共同で住宅ローンを借り入れ、それぞれが返済義務を負う形となります。連帯債務者は、それぞれが全額の返済責任を負うため、双方の収入を合算して融資額を増やせます。
この設定は、特に高額な物件を購入する場合に有効であり、夫婦で協力して住宅ローンを返済していけます。また、連帯債務であれば、夫婦ともに団体信用生命保険に加入する方法もあります。
加えて、各自の返済負担分に応じて住宅ローン控除を受けられるため、税制上のメリットを夫婦ともに享受できます。ただし、連帯債務者の一方が返済を滞ると、他方に全額の負担が生じるため、双方の経済状況と責任感が重要です。
この形式は、両者の収入を有効に活用し、より高額な住宅を購入するための有力な手段です。ただし、リスク管理も必要な点に注意しましょう。
なお、住宅ローンは借金があると組めないのかどうかや、審査を申し込む際の注意点とポイントなどについて、以下の記事でもくわしく取り上げています。併せてお読みください。
2-3 夫・妻がそれぞれ単独でペアローンを組むケース
夫と妻がそれぞれ単独でペアローンを組むとは、各自が個別に住宅ローンを借り入れ、双方が互いの連帯保証人となるケースです。この場合、夫婦それぞれが自分の名前でローンを契約し、2本の住宅ローンを並行して返済する借入方法になります。
ペアローンを利用すれば、夫婦の総収入を最大限に活用でき、より高額の融資を受けられます。
ペアローンの大きなメリットは、両者がそれぞれのローンに対して住宅ローン控除を受けられる点です。また、団体信用生命保険にもそれぞれ加入でき、万が一の場合の保障を確保できます。
ただし、ペアローンは通常のローンに比べて手続が複雑で、管理が難しい点もあります。また、夫婦の一方が返済不能になった場合、もう一方がその責任を全額負う必要があるため、経済的なリスクも否めません。
なお、住宅ローンが払えなくなった場合に、危機を回避する方法について、以下の記事で解説しています。そちらもぜひ、参考にご覧ください。
3章 住宅ローンで妻を連帯保証人にするメリット
住宅ローンで妻を連帯保証人にすることには、主に次に挙げるようなメリットがあります。
- 収入合算により借入限度額を増やせる
- 連帯保証人が仕事を辞めやすい
- 住宅を単独所有できる
ここでは、それぞれのメリットについて掘り下げてみましょう。
なお、住宅ローンを組む際に心がけるべき「住宅ローン破綻」の回避について、以下の記事で解説しています。そちらもぜひ、参考にご覧ください。
3-1 収入合算により借入限度額を増やせる
収入合算により、夫婦の合算収入をもとにして住宅ローンを組めます。この方法を用いると、夫婦の収入を最大限に活用してローンを組めるので借入限度額が大幅に増加し、より高額な住宅の購入が可能となります。
たとえば、夫の年収が400万円で妻の年収が200万円の場合、合算年収600万円と見なされ、借入限度額が大幅に増えるケースがあります。その結果として、住宅購入の選択肢が広がり、より家族の希望に沿った住まいの購入が実現しやすくなるでしょう。
なお、連帯保証人が簡単にやめられない件や、やめられるケース、請求されたときの対処法などについては、以下の記事でくわしく取り上げています。そちらも、ぜひ参考にご覧ください。
3-2 連帯保証人が仕事を辞めやすい
債務の返済は主債務者が行うのが原則です。収入合算をしていない場合であれば、妻が連帯保証人として住宅ローンを組み、将来的に妻が仕事を辞める選択をしても、住宅ローンの返済計画に大きな影響を与えにくくなります。
たとえば、妻が出産や育児のために一時的に仕事を辞める場合でも、夫の収入で住宅ローンの返済を継続可能です。このように、連帯保証人としての役割を果たせば、家族のライフイベントに柔軟に対応できます。
加えて、妻が再び働き始めた際に、家計の収入が増えると、ローンの繰り上げ返済を行いやすくなるので、ローンの返済期間の短縮や総支払額を減少させるのも可能です。
したがって、妻を連帯保証人として設定するのは、家計全体の収入を効率的に活用し、長期的な家計管理を容易にする役割を果たします。
なお、連帯保証人になることのリスクや、回避する方法などについては、以下の記事でくわしく取り上げています。そちらも、併せて参考にお読みください。
3-3 住宅を単独所有できる
妻が連帯保証人として住宅ローンを組めば、住宅を共同所有ではなく単独所有できます。これは、あくまで夫が主たる債務者となり、妻が連帯保証人として支える形をとるためです。
単独所有には、財産分与や相続時の管理が容易になるというメリットがあります。特に、夫婦間での財産管理や、将来的な相続計画を立てやすくなるでしょう。
また、夫の身に万が一のことがあっても、妻が住宅を引き継ぐ際の手続が簡素化されます。それにより、家族の生活基盤を確保し、安定した生活を続けられます。
さらに、住宅の名義が一人に集中するので、売却や賃貸などの資産運用の際にも柔軟に対応できる点も大きな魅力といえるでしょう。
なお、住宅ローンが一時的に払えない場合の対処法について、以下の記事で解説しています。そちらもぜひ、参考にご覧ください。
4章 住宅ローンで妻を連帯保証人にするデメリット
住宅ローンで妻を連帯保証人にするケースでは、前述のメリットとともに、主に次に挙げるようなデメリットが存在します。
- 離婚をしても連帯保証人の地位から外れることができない
- 主債務者しか住宅ローン控除を適用できない
- 夫の収入が減って返済できなくなったら妻は仕事を辞め難くなる
個別に内容を、くわしく確認していきましょう。
なお、およそ3%といわれる住宅ローン破綻率ですが、破綻する人の傾向について、以下の記事で解説しています。そちらもぜひ、参考にご覧ください。
4-1 離婚をしても連帯保証人の地位から外れることができない
離婚後も連帯保証人の地位から外れられないのは、住宅ローンにおける大きなデメリットのひとつです。連帯保証人は、たとえ戸籍上は家族でなくなろうと、主債務者がローンを返済できなくなった場合に、その債務を全額返済する責任を負います。
つまり、この連帯保証の義務は離婚後も続くため、元夫がローン返済を滞ると、連帯保証人である元妻がその返済を行わなければなりません。それにより、離婚後の生活設計に、大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、連帯保証人の地位を外れるためには、主債務者が新たな連帯保証人を立てるか、住宅ローンの借り換えを行う必要があります。しかし、これらの手続は金融機関の審査を通過する必要があり、必ずしも簡単ではありません。
そのため、離婚後に連帯保証人の地位を解除できないケースも多いです。妻が連帯保証になっている場合、離婚がありえるのなら、事前に慎重な検討が欠かせません。
なお、連帯保証人になることのリスクや、回避する方法などについては、以下の記事でくわしく取り上げています。そちらも、併せて参考にお読みください。
4-2 主債務者しか住宅ローン控除を適用できない
住宅ローン控除は、主債務者のみが適用を受けられる制度です。このため、連帯保証人である妻は、住宅ローン控除の恩恵を受けられません。
住宅ローン控除は、所得税や住民税の軽減を図るものであり、住宅ローン返済次の家計負担を軽減する制度です。しかし、連帯保証人の所得税や住民税に関しては、この優遇制度を適用できません。
なお、住宅ローン控除を受けるためには、毎年の確定申告が必要です。この手続も主債務者が行う必要があり、連帯保証人は関与できません。
連帯保証人としての役割を持つ妻は、夫と同様の税制上のメリットを享受できないため、夫婦で収入を合算して住宅ローンを組む場合には、税金に対して注意を払う必要があります。
4-3 夫の収入が減って返済できなくなったら妻は仕事を辞め難くなる
収入合算による借入は、主債務者である夫が返済できなくなった場合に、連帯保証人である妻が支払いを継続する全責任を負うものです。夫の仕事が順調なうちは問題なく、安定して返済ができているかぎり、妻は仕事を辞めて専業主婦になれます。
しかし、もし夫の勤め先の業績悪化や不況の直撃を受けるなどで夫の収入が低下した場合、それだけでは住宅ローンの返済が滞るおそれがあります。その場合は、妻は仕事を辞めるのが難しくなるので、出産や育児などのライフプランに影響がないとはいえません。
なお、住宅ローンを組もうとしている際に、異動情報が信用情報機関に登録されている、いわゆるブラックリストに載っているケースについて、以下の記事で掘り下げて解説しています。そちらも併せて、参考にしてください。
まとめ
賃貸契約において同居している配偶者が、連帯保証人になるのは原則としては困難でしょう。貸主は家賃滞納時のリスク管理の一環として、同一生計外かつ信頼性の高い第三者を連帯保証人とするのが一般的です。
住宅ローンにおける連帯保証人に妻を立てると、収入合算による借入限度額の増加、連帯保証人が仕事を辞めやすくなる、物件を単独所有できるなどのメリットがあります。
一方で、連帯保証人を妻にする住宅ローンでは、離婚後も連帯保証人の地位から外れ難い、主債務者しか住宅ローン控除を適用できない、夫の収入が減って返済できなくなったら妻は仕事を辞め難くなるなどのデメリットが挙げられます。
これらのリスクは、夫婦のライフプランに大きな影響を与える可能性があります。したがって、妻を連帯保証人に立てて住宅ローンを組む際には、メリットとデメリットをよく理解し、総合的に考慮したうえで慎重に判断しましょう。