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求償権とは、本人の借金を保証人などの第三者が返済した場合、その第三者が本人に対して、返済した分の返還を求めることができる権利です。
例えば、保証人が複数人いて、そのうちの1人が返済することによって他の保証人が返済を免れたようなケースでは、返済をした保証人が他の保証人に対して、各自の負担分の返還を求めることができます。
なお、求償権も債権である以上は消滅時効があり、代理で返済した時点から5年が経過すると権利が消滅してしまいます。
家族や友人、知人の保証人になり本人の代わりに借金を返済した場合、他の保証人に対して求償権を行使しにくいと感じることもあるでしょう。
しかし、求償権には時効があるため、放置し続けていると他の保証人に請求する権利すら失ってしまう恐れがあるのでご注意ください。
「求償権」はあまり耳馴染みのない言葉でしょう。そこでこの記事では、求償権について分かりやすく解説します。
ぜひ参考にしてください。
目次 ▼
1章 求償権とは
求償権とは、他人のために自分の財産(金銭等)を出した場合に、その他人へその財産分の補填を求めることができる権利です。
より法律的に言えば、ある人が法律上の理由で財産が減少した場合に、その原因を作りだした人に対して、減った分の財産の返還を求めることができる権利という説明になります。
民法上に求償権の一般的な根拠条文はありませんが、それぞれの箇所で個別に定められています。典型例は第三者の借金を返済した場合です。
1−1 求償権が発生するケース
求償権が発生するケースをすべて挙げることは現実的ではありません。そこで、典型的な2つのケースについて解説します。
- 保証人が債務者に代わって支払ったケース
- 不倫による慰謝料を一人が支払ったケース
1−1−1 保証人が債務者に代わって支払った
債務者が借金を支払わず、保証人が債務者の代わりに借金を返済した場合には、求償権を行使して他の保証人に返還を求めることが可能です。
例えば、Aさんが銀行から借金していて、Bさんが保証人になっているケースです。
ここで、Bさんが保証人として銀行に対してAさんに代わって返済した場合、BさんはAさんに対して、自分の支払った分の支払いを求めることができます。
この時のBさんの権利のことを求償権と呼ぶのです。
なお、Bさんが借金の一部を支払っただけの場合も、その支払った分についての返済をAさんに求めることができます。全額払わないと請求できないわけではありません。
保証人が、自身の不動産を担保に保証している場合、この保証人を特に「物上保証人」と言います。
典型例は他人のために自分の土地に抵当権を設定している場合です。
この場合も保証人であることに変わりはありませんので、物上保証人が代わって返済した場合、その返済分を主債務者に請求できます。
1−1−2 不倫慰謝料を当事者1人が支払った
損害賠償の支払いなどでも求償権が認められます。
例えば、XさんがYさんと不倫をして、Xさんの妻であるAさんがYさんに対して不倫に対する慰謝料を請求し、Yさんが支払ったケース。
不倫自体はXさんとYさん2人でAさんに損害を与えたことになりますので、YさんはXさんに支払った慰謝料を請求できる権利があります。
2章 求償権の消滅時効
求償権には、消滅時効(請求できる権利が消滅する期間)があり、債務者本人にかわって借金を返済した時点から5年間です。
ただし、以下のようなケースでは時効の完成が猶予されたり、更新されたりします。
時効を一度ゼロに戻して、再度時効をスタートすること
時効の完成が一定期間猶予されること(一定期間経過するまで、時効が完成されない)
消滅時効およびその中断(猶予・更新)について詳しくは、こちらの記事を御覧ください。
2−1 ①【時効の更新】時効の承認
債務者が、求償権に基づく請求に対して支払いをした場合、その時点で時効が更新され、再度時効がスタートします。
支払い期日:2015年4月1日
時効期間満了日:2020年4月1日
↓ 2018年4月1日に時効期間満了日以前に、債務者が求償権を持つ人へ支払い
債務者の最終支払い日:2018年4月1日
更新後の時効満了日:2023年4月1日
2018年4月1日に、債権者から求償権を持つ人へ返還を要求したところ、債務者から一部が返還された場合、時効は返還された2018年4月1日に時効の更新がなされ、2018年4月1日を起算点として、5年経過後の2023年4月1日が新たな消滅時効の完成時点となる。
2−2 ②【時効の完成猶予・更新】裁判上の請求
債権者から求償権を持つ人に対して返還を求める訴えを起こした場合、裁判中に時効期間が満了しても裁判が確定されるまでは時効の完成が猶予され、さらに、裁判確定時に時効が更新され、再度時効がスタートします。
返済期日:2015年4月1日
時効期間満了日:2020年4月1日
↓ 2020年3月1日に求償権を持つ人が債務者に対して返還を求める訴えを提起し、2020年10月1日に裁判が確定
訴えを提起した日:2020年3月1日
時効の完成猶予:2020年4月1日(時効期間満了日)〜2020年10月1日(裁判確定日)
時効の更新:2020年10月1日(裁判確定日)
2020年3月1日に、求償権を持つ人が、返還に応じない債務者に対し、返還を求める訴えを提起。2020年4月1日に時効期間が満了日を迎えるが、裁判が確定する日(2020年10月1日)まで時効の完成は猶予される。さらに、裁判確定日に時効は更新され、ゼロから時効がスタートする。
2−3 ③【時効の完成・更新】催告
求償権を持つ人から債務者に対して催告をした場合、催告後に時効期間が満了しても、債権者が提訴すると裁判が確定されるまで時効の完成が猶予され、さらに、裁判確定時に時効が更新され、再度時効がスタートします。
なお、催告から訴えの提訴まで、時効完成が猶予されるのは最大で6ヶ月です。6ヶ月以内に提訴されない場合には、時効は再度猶予される前の年月から再スタートします。
時効期間満了日:2020年4月1日
↓ 2020年3月1日に求償権を持つ人が債務者に対して返還を求める催告をし、その後2020年7月1日に返還を求める訴えを提起。2020年10月1日に裁判が確定
催告をした日:2020年3月1日
訴えを提訴した日:2020年7月1日
裁判が確定した日:2020年10月1日
時効の完成猶予①:2020年4月1日(時効期間満了日)〜2020年7月1日(訴えを提訴した日)
時効の完成猶予②:2020年7月1日(訴えを提訴した日)〜2020年10月1日(裁判確定日)
時効の更新:2020年10月1日(裁判確定日)
2020年3月1日に、求償権を持つ人が債務者に対して債権を求める催告をしたにもかかわらず返還がなされなかったため、2020年7月1日に返還を求める訴えを提訴。その場合、「時効期間満了日〜訴えを提訴した日」「訴えを提訴した日〜裁判確定日」まで時効の完成が猶予されるため、最終的には「時効期間満了日〜裁判確定日」まで時効が猶予されることとなります。
2−4 ④【時効の完成猶予・更新】裁判上の催告
求償権を持つ人から債務者に対して、債権の返還を求める訴えを起こした後訴えを取り下げた場合、「最初に訴えを起こした時〜訴えを取り下げた時」と「訴えを取り下げた後6ヶ月」は「裁判上の催告」として扱われ、時効の完成が猶予されます。
その後、再度提訴した場合には、裁判確定まで時効の完成が猶予され、さらに裁判確定時点に時効が更新されます。
時効期間満了日:2020年4月1日
↓2020年3月1日に求償権を持つ人が債務者に対して返還を求める訴えを提起し、2020年6月1日に訴えを取り下げ
訴えを提起した日:2020年3月1日
訴えを取り下げた日:2020年6月1日
時効の完成猶予:2020年4月1日(時効期間満了日)〜2020年6月1日(訴えを取り下げた日)
↓2020年8月1日に再度訴えを提起し、2020年12月1日に裁判が確定
再度訴えを提起した日:2020年8月1日
裁判確定日:2020年12月1日
時効の完成猶予:2020年6月1日(訴えを取り下げた日)〜2020年8月1日(再度訴えを提起した日)〜2020年12月1日(裁判確定日)
時効の更新:2020年12月1日(裁判確定日)
2020年3月1日に、求償権を持つ人が債権を返済しない債務者に対し、返還を求める訴えを提起したが、2020年6月1日に訴えを取り下げた。その後、2020年8月1日再度訴えを提起し、2020年12月31日裁判が確定。
2020年4月1日に時効期間が満了日を迎えるが、訴えを取り下げてから6ヶ月は「裁判上の催告」として扱われるため、裁判が確定する日(2020年12月1日)まで時効の完成は猶予される。さらに、裁判確定日に時効は更新され、ゼロから時効がスタートする。
2−5 ⑤【時効の完成猶予】債権者と債務者の合意
双方の話し合いによって合意がなされれば、1年間時効の完成を猶予できます。
また、1年毎に合意を重ね続ければ、最長で5年間猶予することが可能です。
3章 求償権で返還を求めることができる金額
求償権に基づいてどこまでの額を請求できるかは債務の性質や、保証人になった経緯などで異なります。
ここでは、ケースごとに求償権で返還を求められる範囲について解説します。
ポイントは、「誰と誰との関係か」に着目して考えることです。
3−1 連帯債務の場合
連帯債務とは複数人が共同でひとつの債務について返済義務を負っている状態のことです。
たとえば、600万円の債務についてABCの3人が連帯債務者となっているケースです。
この場合、対外的には、債権者(銀行)はAに対して600万円全額の支払いを求めることができ、Aはそれに応じる義務があります。
一方で、連帯債務者内部では、別段の定めがなければ負担部分は平等なので、ABCはそれぞれ200万円ずつを負担すればよいことになります。
よって、仮にAが600万円を銀行に払った場合、AはBとCそれぞれに対して200万円ずつの支払いを求めることができます。これがAの求償権の範囲です。
3−2 債務者から頼まれて保証人になった場合
債務者から直接頼まれて保証人になった場合、代理で支払った人は支払った全額の返還を求めることが可能です。
また、支払うためにかかった交通費などの諸経費や、法定利息、損害賠償金も請求できます。
3−3 債務者から頼まれず勝手に保証人になった場合
保証契約は債権者と保証人との契約なので、なろうと思えば債務者に伝えることなく勝手に保証人になれます。
債務者から頼まれることなく勝手に保証人となり借金を代理で返済した場合には、「返済時」において債務者が利益を受けた範囲のみ返還を求めることができます。
具体的にどの範囲、何円になるかは個別の事案に応じて検討していくしかありません。
3−4 債務者の意思に反して保証人になった場合
保証契約が債権者と保証人だけで結べる契約だということは、債務者が反対していても保証人に無理矢理なることも可能です。
この場合、保証人が債権者に返済した後で債務者に請求する(求償する)ことになりますが、債務者本人の意思に反しているので、「請求時」において債務者が利益を得ている範囲しか請求できません。
この場合も、具体的には個別に検討するしかありませんが、一般的には返済時点から時間が経過しているため、請求できる範囲は狭くなります。
【ポイント】 保証人になった経緯によって返還を求める範囲が異なると解説しましたが、少しむずかしいと感じたかと思います。 大まかに言って、「債務者から頼まれて保証人になった」→「債務者から頼まれず勝手に保証人になった」→「債務者の意思に反して保証人になった」この順番で返還を求められる範囲が狭くなっていくと覚えておけば十分でしょう。 |
3−5 保証人が事前に支払うことを伝えなかった場合
保証人が債務者の借金を代理で返済する場合には、事前に「◯◯円代わりに払う」と伝えるべきです。債務者には債務者にも事情があることも考えるからです。
例えば「債務者本人も債権者に対して債権を持っていた場合、お互いの債権を相殺して支払えば良い」といった事情が考えられます。このようなケースで保証人が勝手に全額支払ってしまったら「差額だけで良かったのに…」と、ありがた迷惑になってしまうでしょう。
そのため、保証人が借金の返済をすることを事前に伝えなかった場合に、保証人は債務者に対して全額の返金を求めることができません。
3−6 保証人がすでに支払ったことを伝えなかった場合
保証人が債務者の借金を代理で返済した場合にも、「◯◯円代わりに払っておいた」と伝えるべきです。
債務者は保証人から「支払っておくね」と聞いていたにもかかわらず、いざ債権者に聞いてみたら「まだ払われてない」と言われたり、取り立てが来たりして、慌ててお金を工面しなければいけなくなる可能性があるからです。
また、本当であれば保証人が支払っていたにもかかわらず、債権者が悪意を持って「まだ支払われてない」と伝えて、それを信じた債務者も支払い、二重取りされるというケースも考えられます。
このように、事後報告をしないことはリスクとなるため、保証人は代理で支払った分の全額の返還を求めるすることはできません。
また、保証人が事後報告を怠ったことで二重払いが生じたような場合、保証人は債務者に対して一切返済を求めるとはできません。
4章 求償権に基づく請求を無視されるときの対処法
求償権に基づいて請求をしたにもかかわらず無視されるような場合、以下ような対処をしましょう。
対処方法は通常の請求の場合と大きく変わりません。
4−1 内容証明郵便を送る
求償権に基づいて請求しても相手が無視するような場合、まずは内容証明郵便を用いて請求する旨の書面を送付しましょう。
内容証明郵便とは「いつ、誰が、どのような内容を、誰に差し出したか」ということを郵便局が証明してくれる制度です。
内容証明郵便に法的な効果はありませんが、相手に自身の真剣度を伝えることができるため、返還に応じてもらえるケースも少なくありません。
4−2 裁判を起こす
内容証明郵便を送っても、まだ無視をされるような場合には裁判を提起して、裁判上で請求することとなります。
求償権が正当であれば、求償権に基づいた請求が認められることがほとんどです。
万が一、債務者が裁判で決定した内容に逆らって支払いをしないような場合には、強制執行として財産や給与の差押えが可能になります。
5章 消滅時効の事例紹介
①破産でいくつもりが調べてみると全て消滅時効で処理できたケース
ご主人の事業が失敗し、生活費のために借入を開始したが、生活を立て直すことができず借金が膨れ上がってしまった方のケースです。
確認したところ、消滅時効期間が経過している借金が多いことが発覚しました。詳しくは、下記リンクの事例紹介ページをご参照ください。
②相続債務の消滅時効を援用したケース
ご主人が亡くなり、約100万円の借金を抱えていたことが判明した方のケースです。
幸い、借金は1件だけで、時効援用が可能な状況だったため、相続放棄ではなく、時応援用で対応しました。詳しくは、下記リンクの事例紹介ページをご参照ください。
③かなり昔の借金につき、時効援用と過払い金返還で解決したケース
若いころから借入をしており、30年以上返済を続けていた方のケースです。
借入が30年以上続いているのであれば、過払い金が出ている可能性が高いと考えて、過払い調査を行いました。詳しくは、下記リンクの事例紹介ページをご参照ください。
まとめ
保証人などで代理で借金を返済した場合や、連帯債務となる賠償金を1人で支払ったような場合には、求償権として支払った分の返還を求めることができます。
求償権で請求できる範囲は、債務の性質や保証人になった経緯によって異なります。
求償権の消滅時効は、代理で支払ったときから5年ですが、裁判上の手続きなどをすることで時効が中断したり更新したりします。
もし、求償権に基づく請求を無視されるような場合には、まず内容証明郵便を送付しましょう。それでもなお無視されるような場合には裁判を提起しする必要があります。
借金の保証人となり、借金を肩代わりせざるを得ない状況になってしまったら、求償権に基づいて返還を求める権利があるということは覚えておきましょう。
ただ、この記事を読んでお分かりになったかと思いますが、求償権という権利自体が非常に難解なものです。自分で対処しようとせず、弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。
時効の援用に関する記事を沢山公開していますので、合わせてご覧ください。
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よくあるご質問
- 求償権とは?
- 求償権とは、本人の借金を保証人などの第三者が返済した場合、その第三者が本人に対して、返済した分の返還を求めることができる権利です。
求償権について詳しくはコチラ
- 求償権の例とは?
- 求償権が発生する主なケースは、下記の2つです。
①保証人が債務者に代わって支払ったケース
②不倫による慰謝料を一人が支払ったケース
求償権について詳しくはコチラ