消滅時効の中断とは?改正の要点と中断させない注意点を詳しく解説

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

時効の援用
消滅時効の中断とは?改正の要点と中断させない注意点を詳しく解説

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 この記事を読んでわかること
  • 消滅時効とは何か
  • 消滅時効の民法改正内容
  • 消滅時効が中断するケース

消滅時効の中断とは、わかりやすく言うと、消滅時効が成立する前に、一定の行為をすることによって、期間経過のカウントをリセットすることです。

これを認めないと、お金を請求できる側(債権者)は、時効期間内に返済をしてもらえないと、その後は何をしても請求できなくなってしまいます。一方、お金を請求される側(債務者)は、最初の時効期間内さえしのげばお終いとなり、請求する側にとって非常に酷なことになってしまいます。こういった理由で消滅時効の中断が認められているのです。

では、具体的にどのような行為をすれば消滅時効が中断するのでしょうか。

この点については、民法改正により制度内容が大きく変わっていますので、注意が必要です。

1章 消滅時効と民法改正

消滅時効の中断とは、これまで続いていた消滅時効の時効がリセットされ再びスタートすることでした。
しかし新民法では、通常の債権の時効が5年に統一され、短期消滅時効がすべて廃止されました。(労働債権の一部について、労働基準法には短期消滅時効が残っていますが、近いうちに見直される予定です。)

また、原則の期間が5年となったことに伴い、特則を定めておく必要がなくなったため、商事債権に関する特則規定が廃止されました。

1-1 消滅時効期間の改正

大雑把にまとめると、旧民法では、一般の債権の時効は10年とされ、商事債権については商法で5年という特則が定められていました。また、一定の債権については5年以下の時効(短期消滅時効)が定められていました。

新民法では、一般の債権の時効が5年に統一され、短期消滅時効がすべて廃止されました。また、原則5年となったことに伴い、特則を定めておく必要がなくなったため、商事債権に関する特則規定が廃止されました。

旧法における消滅時効

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債権 旧167条1項 行使できる時から10年
債権・所有権以外の財産権 旧167条2項 行使できる時から20年
定期金債権 旧168条 初回の弁済期から20年or最後の弁済期から10年
定期給付債権 旧169条 5年
医師・助産師・薬剤師の報酬 旧170条1号 3年
工事設計・施工・監理 旧170条2号 3年
弁護士・公証人の報酬 旧172条1項 原因となった事件が終了してから2年
卸売商人等の商品の代価 旧173条1号 2年
技術者等の報酬 旧173条2号 2年
学芸技能の教育者等の報酬 旧173条3号 2年
使用人の給料 旧174条1号 1年
労務・演芸報酬 旧174条2号 1年
運送賃 旧174条3号 1年
旅館等の宿泊料等 旧174条4号 1年
動産の損料 旧174条5号 1年
判決で確定した債権 旧174条の2 1年
商事債権 旧商法522条 5年

動産の損料とはレンタルDVDの延滞料などです。旧法では、債権の種類に応じて5年以下の短期消滅時効が多く定められており、非常にややこしい規定になっていました。

新法における消滅時効

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債権 166条1項1号 行使できると知った時から5年
166条1項2号 行使できる時から10年
債権・所有権以外の財産権 166条2項 行使できる時から20年
生命・身体の損害による損害賠償請求権 166条1項1号 行使できると知った時から5年
167条 行使できる時から20年
定期金債権 168条1項1号 行使できると知った時から10年
168条1項2号 行使できる時から20年
判決で確定した債権 169条 10年
短期消滅時効 削除
商事債権 削除

新法では5年以下の短期消滅時効をすべて廃止し、時効期間を原則5年に一本化しました。

原則的な消滅時効期間も従来の「行使できる時から10年」という規定に加えて「行使できると知った時から5年」という規定を新設しました。これに伴い、原則が5年となって商事債権との時効期間の差がなくなったことから、商事消滅時効を定めていた旧商法522条が削除されています。

なお、「行使できると知った時」とは、債権者が①債務者が誰であるか、②権利が発生したこと、③権利の行使が実際に可能であること、の3点をいずれも認識した時と考えられています。

また、原則は5年となりましたが、確定判決を取られている場合には一律10年となってしまいます。勘違いしないように注意しましょう。

1-2 時効中断事由の改正

では、どのような行為をすれば時効の中断が生じるのかを見ていきましょう。民法改正により、この点についても大きく変更されています。

改正前は消滅時効の「中断」と「停止」の2つがありましたが、これが「更新」と「完成猶予」に変わっています。まずは改正のポイントを挙げてから、個別の中断事由(更新事由)について説明していきます。

なお、今回は時効の停止(完成猶予)については必要な限りで触れるにとどめます。

1-2-1 行為の効果に着目した改正

従来は、消滅時効の中断と停止の2種類が定められていました。

ただ、よく考えてみると「中断」とされていた行為の中には停止の効果を持つものが含まれているのではないか、あるいはその逆もあるのではないか、という疑問が出てきました。

そこで、それぞれの効果に着目して整理しなおし、名称も更新と完成猶予にあらためて規定したのが今回の民法改正です。

1-2-2 時効中断事由改正の内容

具体的な改正の内容は次のとおりです。この後でひとつずつ詳しく説明していくので、今は言葉の意味が分からなくても構いません。

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改正前 改正後
請求 旧147条1号 中断 裁判上の請求 147条1項1号 猶予
差押え 旧147条2号 中断 支払督促 147条1項2号 猶予
仮差押え 旧147条2号 中断 和解・調停 147条1項3号 猶予
仮処分 旧147条2号 中断 破産手続参加等 147条1項4号 猶予
承認 旧147条3号 中断 破産手続参加等判決等による権利の確定 147条2項 更新
裁判上の請求 旧149条 中断 強制執行 148条1項1号 猶予
支払督促 旧150条 中断 担保権の実行 148条1項2号 猶予
和解・調停の申立 旧151条 中断 形式競売 148条1項3号 猶予
破産手続参加等 旧152条 中断 財産開示手続等 148条1項4号 猶予
催告 旧153条 中断 強制執行等の終了 148条2項 猶予
未成年者 旧158条 停止 仮差押え 149条1号 猶予
成年被後見人 旧158条 停止 仮処分 149条2号 猶予
夫婦 旧159条 停止 催告 150条1項 猶予
相続財産 旧160条 停止 協議を行う旨の合意 151条1項 猶予
天災等 旧161条 停止 承認 152条1項 更新
未成年者 158条 猶予
成年被後見人 158条 猶予
夫婦 159条 猶予
相続財産 160条 猶予
天災等 161条 猶予

2章 時効中断事由

2-1 請求

では改めて、時効中断事由(更新事由)と停止事由(完成猶予事由)について一つずつ見ていきましょう。基本的には、債権者から債務者に対して何らかのアクションがあります。

どんなものがあるかを理解しておくことで、債権者の行動の意味が理解できるようになります。行動の意味が理解できれば、不用意な言動で時効を主張できなくなってしまったというリスクを減らすことができます。

この中で特に重要なのは裁判上の請求(訴訟)と支払督促、そして承認です。

裁判上の請求(中断)

裁判上の請求(完成猶予)
支払督促(完成猶予)
和解・調停(完成猶予)
破産手続参加等(完成猶予)
判決等による権利の確定(更新)

旧法では請求が中断事由とされていました。ここでいう「請求」は裁判上の請求に限定され、単に「払ってくれ」と求めるだけの事実上の請求は含まれていませんでした。

これを効果の点で整理しなおし、裁判上の請求を行うこと(訴訟を提起すること)が時効の完成猶予、請求が認められて判決等により確定することが更新事由だとされました。

裁判上の請求の方法は、訴訟を提起するだけでなく、支払督促もあります。また、裁判上の和解や調停など、確定すれば判決と同じ効力を持つものもあります。これらについても、各手続の申立をすること・最終的な決着がつくことに分けて前者を完成猶予、後者を更新事由だと整理されました。

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2-1-1 裁判上の請求

訴えを提起することです(民事訴訟法133条1項)。裁判上の請求の中で最も典型的なもので、終結時に作成される書面は「判決」です。

判決が確定すると、消滅時効の期間経過がリセットされ、あらためてゼロからのスタートになります。そこからもう一度消滅時効の主張ができるようになるまでには10年もかかってしまいます。

【注意】知らないうちに判決を取られている場合がある
基本的には、裁判を起こされると裁判所から通知が届きます。しかし、住所不明などにより届かない場合がたまにあります。裁判の怖いところは、このような場合でも公示送達の方法(裁判を起こしたことを裁判所の掲示板に2週間貼り出す方法)により、届いたものとみなして裁判が進んでしまうことです。この場合には、現実的には債務者のもとに通知が届かないまま判決が出ることになります。

2-1-2 支払督促

金銭債権等について、簡易裁判所から出される簡略化された請求方法です(民事訴訟法383条1項)。支払督促に仮執行宣言が付与されたもの(これを「仮執行宣言付支払督促」といいます)が確定すると、判決とおなじ効力を持ちます(民事訴訟法396条)。

支払督促は債務者が2週間以内に異議を申し立てない限り、自動的に債権者の言い分が認められてしまいます。支払督促が届いたら、大至急対応しなければなりません。

2-1-3 和解・調停

和解とは、当事者の話し合いによって解決を図る方法です。裁判所を通さずに和解をすることも可能ですが、時効中断の点で問題になるのは裁判所で行う和解です。これを裁判上の和解といいます。裁判上の和解をすると裁判所で「和解調書」が作成され、これが判決と同じ効力を持ちます(民事訴訟法267条)。

調停とは、当事者のほか、調停委員が加わって行う話し合いによって解決を図る方法です。調停委員は裁判官ではありませんが、弁護士などの専門家が多いです。ここで話し合いがまとまれば「調停調書」が作成され、これが判決と同じ効力を持ちます(民事調停法16条)。

2-1-4 破産手続参加等

個人・法人の再建手段として破産、民事再生、会社更生の3つの制度があります。それぞれの手続において、債権者が裁判所に対して債権の届出を行うことを手続参加といい、手続の種類に応じて「破産手続参加」「再生手続参加」「更生手続参加」と呼び分けられます。

いずれの場合でも、債権の届出をした債権者は、各手続の中で配当(弁済)を受けられるので、破産手続参加等は裁判上の請求の一種であるとされています。

2-2 差押え

差押え(中断)

強制執行(完成猶予)
担保権の実行(完成猶予)
形式競売(完成猶予)
財産開示手続等(完成猶予)
強制執行等の終了(更新)

旧法では、差押えは時効中断事由に当たるとのみ定められていました。しかし、一言に差押えと言ってもいくつかの種類があります。それらを明文で規定するとともに、財産開示手続などの「差押えを伴わない強制執行手続」もここに含まれることを明確にしました。

そのうえで、強制執行等の申立をすることが完成猶予、手続が終了することが更新事由に当たると整理されました。

2-2-1 強制執行

金銭の支払いを実現させるための手続を指します。具体的には、債務者の財産を差し押さえて、必要があれば競売などで換価し、債権者へ交付する手続です。

2-2-2 担保権の実行

担保権の目的となっている財産を換価して被担保債権の満足を図る手続です。典型的には、不動産に設定されている抵当権を実行し、不動産を競売により金銭に換えて債権者(抵当権者)に交付する手続がこれに当たります。

2-2-3 形式競売

競売の形をとり、目的物を換価はするが、金銭的な満足を得ることを本来的な目的とはしていない手続のことです。

たとえば、共有物の金銭分割や遺産分割審判における換価処分などがこれに当たります。

2-2-4 財産開示手続等

債権者が、債務者の財産に関する情報について開示を求める手続です。

単なる情報開示手続なので、これ自体では債権の差押えは伴いません。別途、強制執行などの手続をする必要があります。しかし、差押えが空振りに終わらないように債務者の財産状況を事前に調べるという趣旨のものであることから、完成猶予事由のひとつとされました。

2-3 仮差押え・仮処分

仮差押え(中断)

仮差押え(完成猶予)
仮処分(中断)
仮処分(完成猶予)

旧法では、仮差押え・仮処分はいずれも時効中断事由と定められていました。新法では、これらはいずれも完成猶予に当たるとされ、中断(更新)の効果はないものとされました。

2-3-1 仮差押え

仮差押えとは、正式な判決が出る前に、債務者の財産処分を禁止する手続です。時間と費用をかけて判決を勝ち取っても、債務者の元に財産がなければ金銭の回収はできません。そうなる前に、債務者による勝手な処分を強制的に禁止し、債務者の財産を確保しておくための手続が仮差押えです。

仮差押えには財産処分を禁止する効果しかなく、実際にその財産をお金に換えて債権の返済に強制的に充てるためには、改めて判決等を取得しなければなりません。実効的な債権回収のための事前準備手続であるという点に着目し、債権の消滅時効に関しては完成猶予の効力を有すると改められました。

2-3-2 仮処分

仮処分も仮差押えと同じ手続です。違いは対象となる債権の種類だけです。金銭債権に対して行うものが仮差押えであり、金銭債権以外の債権に対して行うものが仮処分です。

2-4 承認

承認(中断)→承認(更新)

承認とは、債務者自身が債権の存在を認めることです。これは改正の前後で変わらず中断(更新)事由とされています。

承認の方法は問いません。債権者に対して「債務がある」と明言すれば当然承認に当たります。そんな明言なんてすることないと思っているかもしれません。しかし、たとえば債権者が自宅に取り立てに来て、「払ってくれ」と主張しているのに対し、その場しのぎにでも「わかったから帰ってくれ」と言った場合がこれに当たります。 「わかった」と発言した瞬間に時効が中断します。

そのほか、次のような行為が承認に当たります。

  • 返済(金額は問わない)
  • 支払猶予の交渉
  • 減額交渉

要するに、債務の存在を前提として行う行為(前提としなければ成しえない行為)全てが承認に当たると考えて良いでしょう。消滅時効を主張したい場合は1円たりとも支払ってはいけません。

承認は、このように債務者のちょっとした行為で認められてしまうものであり、かつ、債務者が承認に当たることを必ずしも把握していないことも多いので、特に注意が必要です。

3章 まとめ

  • 時効中断事由は、その効果の点から整理され、更新と完成猶予に改正された
  • 債務者が特に注意すべきなのは訴訟、支払督促、承認の3つ
  • 気づかないうちに時効が中断されていることもあり得る

これまで説明してきたとおり、何が時効の中断事由に当たるのかは様々なものがあり、特定の行為が中断事由に該当するかは専門的な判断が必要となります。

単に5年経ったから時効だと軽率に考えるのは危険です。知らない間に判決を取られているかもしれません。軽率な言動により時効が使えなくなると、どうにかして払う手段を考えなければなりません。もし払えなければ破産を検討することになります。

また、中断事由がないとしても、消滅時効は期間の経過だけではなく、援用をしなければ効果が生じません。この消滅時効の援用(内容証明の送付)の方法も専門知識が必要なので、素人判断でやってしまうと思わぬトラブルが起こりかねません。

長い間返していない借金がある人は、自分で動く前に弁護士や司法書士に相談しましょう。

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時効の中断の効力とは?
時効の中断を行うと、それまで進行していた時効がリセットされ、ふたたび最初から更新されるようになります。
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消滅時効とは?
民法改正により、借金に関する時効は一律5年となりました。
なお、「行使できると知った時から5年」が時効である点と確定判決を取られている場合の時効は一律10年である点には注意が必要です。
消滅時効について詳しくはコチラ
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