消滅時効の起算点はいつ?時効が中断・延長されるケース

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

時効の援用
消滅時効の起算点はいつ? 時効が 中断・延長されるケース

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借金は返済しないまま一定期間が経過すると「消滅時効」を迎え、時効の援用(時効が完成したことを主張すること)をすることで、借金の支払いを免れることができます。

消滅時効は「主観的起算点から5年間」か「客観的起算点から10年間」のどちらかを経過することで迎えます。

とはいえ、客観的起算点・主観的起算点と言われてもピンとこない方が多いのではないでしょうか。

この記事では、消滅時効の起算点について解説します。

1章 消滅時効の起算点

令和2年4月に、消滅時効に関する法律が改正され、「主観的起算点」という概念が取り入れられました。
債権の種類によって起算点からの年数は異なりますが、どの場合も「主観的起算点」「客観的主観点」を基準に消滅時効が決定されます。

主観的起算点とは権利を行使することができると知ったときであり、客観的起算点とは権利を行使することができるときです。
債権の種類ごとに、具体的な起算点について見ていきましょう

1−1 一般債権の場合

一般債権の場合、以下のいずれかを経過した時消滅時効を迎えます。

  • 権利を行使することができることを知ったときから5年間(主観的起算点)
  • 権利を行使することができるときから10年間(客観的起算点)
消滅時効の起算点
消滅時効の起算点

1−1−1 一般債権における主観的起算点

一般債権における主観的起算点は、債権者が債務者に対して債権を請求できることを知った日を指します。

債権の契約上、支払期日を設け、それに双方が合意しているのであれば、その支払期日が「請求できることを知った日」であり、その翌日が主観的起算点となります。

そのため、一般債権の消滅時効は主観的起算点から5年となるのが基本です。

1−2−1 一般債権における客観的起算点

一般債権における客観的主観点は、債権者の認識とは関係なく、債権の請求が可能な日を指します。

個人間の金銭の貸し借りなど、特に返済期日などを設けていないような場合には、主観的起算点がないため、契約をした日(お金を貸した日)の翌日を「客観的起算点」とします。

一方で、「ボーナスが入ったら返済する」のように、明確な返済日は設けていない場合、「ボーナスが実際に入金された日の翌日=客観的起算点」となります。

他方、「債権者が、債務者にボーナスが入ったことを知った日の翌日=主観的起算点」となり、客観的起算点と主観的起算点にズレが生じるため注意が必要です。

1−2 損害賠償請求権の場合

不法行為による損害賠償請求権の場合、以下のいずれかを経過した時消滅時効を迎えます(民法724条)。

  • 被害者が損害と加害者を知ったときから3年(主観的起算点)
  • 不法行為がなされたときから20年(客観的起算点)

1−2−1 不法行為による損害賠償請求権における主観的起算点

損害賠償請求権における主観的起算点は、被害者が損害と加害者を知った日の翌日とされています。

例えば、配偶者が不倫をしていて、それに対して損害賠償請求をする場合、不倫をしている事実と不倫相手を知った日の翌日が主観的起算点になります。

つまり、過去の不倫であっても、後日不倫の事実を知った場合にはその知った日の翌日から3年間は不倫慰謝料を請求することができるということです。

1−2−2 不法行為による損害賠償請求権における客観的起算点

損害賠償請求権における客観的起算点は、不法行為がなされた時とされています。

例えば、配偶者が不倫をしていて、それをずっと知らずにいた場合、不倫があった日の翌日が客観的起算点となります。

つまり、過去に不倫をした日の翌日から20年が経過すると、不倫の慰謝料を請求できなくなってしまうということです。

なお、継続した不倫をしていた場合、最後に不倫があった日の翌日が客観的起算点となります。

法改正で変わった消滅時効
令和2年4月から、消滅時効に関する法律が改正され、それ以降に成立した契約は、どのような債権であっても「主観的起算点から5年」または「客観的起算点から10年」で消滅時効を迎えることとなります。

しかし、令和2年3月31日以前に成立した契約の場合、旧民法が適用されます。

そのほか、細かい点でも改正された部分がありますので、旧民法の消滅時効については、以下の記事をご確認ください。

2章 消滅時効の起算点が変わるケース

消滅時効の起算点は1章で解説した通りですが、一定の行為が行われると、起算点が変わることがあります。

これを「時効の更新」「時効の完成猶予」と呼びます。

ここでは、消滅時効の起算点が変わるケースについて解説します。

2−1 時効の承認

債務者が借金を返済すると、時効が更新され、その時点から時効がスタートし、そこが新たな時効の起算点となります。この場合、新たな時効が成立するまではさらに5年かかります。

承認による時効の中断
承認による時効の中断

2−2 裁判上の請求

債権者が債務者に対して、債権の返還を求める訴訟を起こした場合、裁判中は時効の成立が猶予されます。さらに、裁判確定時に新たに時効がスタートし、そこが新たな時効の起算点となります。

この場合、新たな時効が成立するまでは10年が必要です。判決による時効の中断なので、5年ではなく10年となります(民法169条)。

裁判上の請求による時効の中断
裁判上の請求による時効の中断

2−3 催告

債務者が債権者に対して、返還を求める催告をした場合、催告後に時効を迎えたとしても、債権者が裁判を起こし裁判が確定するまで時効の成立が猶予されます。更に、裁判確定時に再度時効がスタートし、そこが新たな時効の起算点となります。

この場合、新たな時効が成立するまでは10年が必要です。

なお、時効が猶予されるのは6ヶ月が上限となります

催告による時効の中断
催告による時効の中断

2−4 裁判上の催告

債権者が債務者に対して、返還を求める裁判を起こし、それを取り下げた場合、再度裁判を起こすまでは「裁判上の催告」として扱われ、その間は最大6ヶ月間時効の完成が猶予されます。

再度裁判を起こした際には、裁判確定まで時効の完成が猶予され、裁判確定時に時効は更新し、その時点が新たな時効に起算点となり、再度時効がスタートします。

裁判上の請求による時効の中断
裁判上の催告による時効の中断

2−5 債権者と債務者の合意

債権者と債務者が協議をする旨の書面による合意がある場合、時効の完成を猶予することが可能です。

例えば、債権者と債務者で返済について協議をしている間に時効を迎えてしまっても、双方の合意があれば、裁判を起こすことなく時効の完成を猶予することができます。

ただし、この方法で時効の完成を猶予できるのは、合意の時点から最長で1年間です。

3章 法改正による消滅時効の変更点

令和2年4月1日に消滅時効に関する法律が改正されました。

最も大きな変更は、一般債権の時効が「主観的起算点」という概念が追され、原則として返済期日から5年で消滅時効が成立するようになった点、短期消滅時効がすべて廃止されたという点です。

また、時効の成立が原則5年になったことにより、特則を定める必要がなくなったため、商事債権の特則規定が廃止されました。

ここでは、法改正による変更点について、詳しく解説します。

3−1 消滅時効期間の改正

旧民法では、一般債権の時効が10年ですが、商事債権については時効が5年という特則がありました。また、特定の債権については、5年以下の短期消滅時効も定められていました。

新法では、債権の種類を問わず、商事債権も含めた一般債権の時効が5年に統一され、短期消滅時効が廃止されました。

3−1−1 旧法における消滅時効

旧法における、債権ごとの消滅時効は以下のとおりです。

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債権の種類条項時効
一般債権旧167条1項行使できる時から10年
債権・所有権以外の財産権旧167条2項行使できる時から20年
定期金債権旧168条初回の弁済期から20年or最後の弁済期から10年
定期給付債権旧169条5年
医師・助産師・薬剤師の報酬旧170条1号3年
工事設計・施工・監理旧170条2号3年
弁護士・公証人の報酬旧172条1項原因となった事件が終了してから2年
卸売商人等の商品の代価旧173条1号2年
技術者等の報酬旧173条2号2年
学芸技能の教育者等の報酬旧173条3号2年
使用人の給料旧174条1号1年
労務・演芸報酬旧174条2号1年
運送賃旧174条3号1年
旅館等の宿泊料等旧174条4号1年
動産の損料旧174条5号1年
判決で確定した債権旧174条の21年
商事債権旧商法522条5年
旧法における消滅時効

3−1−2 新法における消滅時効

新法における消滅時効は以下のとおりです。

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債権の種類条項時効
債権166条1項1号行使できると知った時から5年
債権166条1項2号行使できる時から10年
債権・所有権以外の財産権166条2項行使できる時から20年
生命・身体の損害による損害賠償請求権166条1項1号行使できると知った時から5年
生命・身体の損害による損害賠償請求権167条行使できる時から20年
定期金債権168条1項1号行使できると知った時から10年
定期金債権168条1項2号行使できる時から20年
判決で確定した債権169条10年
短期消滅時効削除
商事債権削除
新法における消滅時効

3−2 時効中断事由の改正

時効の期間だけでなく、時効の中断事由についても変更されました。

改正前は消滅時効の「中断」「停止」がありましたが、改正後は「更新」「完成猶予」に変更されました。

  • 「更新」・・・時効がリセットされ、新たに0からスタートする。時効の更新後、次の時効完成までの期間は原則10年
  • 「完成猶予」・・・一定期間、時効の完成が猶予される。裁判中や、裁判の取り下げから次回の裁判までは完成猶予として時効が完成しない。

具体的な時効中断事由の変更については、以下のとおりです。

改正前

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請求旧147条1号中断
差押え旧147条1号中断
仮差押え旧147条2号中断
仮処分旧147条2号中断
承認旧147条3号中断
裁判上の請求旧149条中断
支払督促旧150条中断
和解・朝廷の申立旧151条中断
破産手続参加等旧152条中断
催告旧153条中断
未成年者旧158条停止
成年被後見人旧158条停止
夫婦旧159条停止
相続財産旧160条停止
天災等旧160条停止
時効中断理由の変更前

改正後

裁判上の請求147条1項1号猶予
支払督促147条1項2号猶予
和解・調停147条1項3号猶予
破産手続参加等147条1項4号猶予
破産手続参加等判決等による権利の確定147条2項猶予
強制執行148条1項1号猶予
担保権の実行148条1項2号猶予
形式競売148条1項3号猶予
財産開示手続等148条1項4号猶予
強制執行の終了148条2項猶予
仮差押え149条1項猶予
仮処分149条2項猶予
催告150条1項猶予
協議を行う旨の合意151条1項猶予
承認152条1項猶予
未成年者158条猶予
成年被後見人158条猶予
夫婦159条猶予
相続財産160条猶予
天災等160条猶予
時効中断理由の変更後

4章 消滅時効を迎えていたら時効の援用をしよう

消滅時効を迎えたとしても、自動的に借金の返済が免れるわけではありません。債務者自らが、債権者に対して時効の援用をする必要があります。

時効の援用は、内容証明郵便で時効の援用通知を債権者に送付することで行います。

しかし、一般の方が正確な時効を把握せず時効の援用をしてしまうと、債権者が何かしらの手を打って、失敗してしまうリスクがあります。

そのため、「そろそろ時効を迎えているかも」と思ったら、まずは司法書士などの専門家に相談するようにしましょう。

時効の援用について詳しくはこちらを御覧ください。

5章 消滅時効に関するご相談はグリーン司法書士法人へ

消滅時効の起算点は、あらゆる行為によって変更されるため、実際に完成されているかどうかを把握するのは難しいでしょう。

時効をしっかりと把握していなければ、時効の援用をするのも困難です。

最後の返済から長い期間が経過していて、「時効を迎えているかも?」と感じたら、司法書士などの専門家に相談することを強くおすすめします。

グリーン司法書士法人では、これまで多くの借金問題を解決に導いてきた実績があります。

初回の相談は無料です。

  • 時効が完成しているか
  • 時効の援用は可能か

といったご相談も可能です。オンライン相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

時効の援用に関する記事を沢山公開していますので、合わせてご覧ください。

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主観的起算点とは?
主観的起算点は、債権者が債務者に対して債権を請求できることを知った日を指します。
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主観的起算点はいつ?
主観的起算点とは債権者が債務者に対して債権を請求できることを知った日です。
損害賠償請求権における主観的起算点は、被害者が損害と加害者を知った日の翌日です。
主観的起算点について詳しくはコチラ
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