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「個人再生をすると、退職金が没収される?」
そのようなご相談を多くいただきます。
しかし、個人再生をしても、退職金は没収されるのではなく、「個人再生をする人の財産」として計上されるのみです。ここが破産とは異なる点です。
個人再生では、所有している財産に応じて、再生後の返済総額が変動します。財産が多ければその分、返済額が多くなるのが原則です。
その「所有している財産のうち、一定額以上の価値のある財産」に退職金が計上されることとなるため、退職金が高額の場合、返済総額が増額する可能性はあります。
ただし、退職金を受け取るタイミングや、退職金の性質によっては、計上される割合が変わったり、計上されなかったりします。
この記事では
- 個人再生における退職金の取り扱いについて
- 退職金を裁判所に証明する方法
- その他、個人再生における退職金についてよくある質問
などについて解説します。
目次 ▼
1章 個人再生における退職金の取り扱い
冒頭でもお話したとおり、個人再生をしたからといって退職金が没収されることはありません。
では、個人再生で退職金はどのように扱われるのでしょうか。
ポイントとしては、以下4つです。
1)個人再生をしても退職金が没収されることはない
2)退職金額によって手続き後の返済額が変わる可能性がある
3)確定拠出年金などは退職金として取り扱われない
4)会社に借金がある場合は退職金と相殺することも可能
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1−1 個人再生をしても退職金が没収されることはない
繰り返しになりますが、個人再生をしても退職金が没収されることはありません。
自己破産では、退職金や家、車など一定額以上の価値がある財産は没収されます。それによって勘違いされている方が多いのでしょう。
個人再生では、「所有している一定額以上の価値がある財産の金額(清算価値)」に応じて手続き後に返済する金額が算出されます。
退職金はこの「所有している一定額以上の価値がある財産の金額(清算価値)」に計上されることとなり、手続き後の返済額に影響します。
退職金が多い場合には、手続き後の返済額が多くなる可能性が高まります。
現金・預貯金・保険の解約返戻金・自動車・不動産・退職金・家財道具・その他,差押えを禁止されている財産にそれぞれ具体的に計上する財産は、各地の裁判所によって細かい扱いが異なります。
例えば、東京地裁の場合は20万円以上の現金以外の財産が計上される一方、大阪地裁では20万円未満でも計上される運用となっています。
申立てをする地裁の運用についての詳細は、各地の司法書士や弁護士などの地元の専門家に相談することをおすすめします。
個人再生における返済額の決定方法全体については、こちらの記事で解説しています。
1−2 退職金額を受け取るタイミングによって手続き後の返済額が変わる
退職金額がどの程度計上されるかどうかは、退職金額を受け取るタイミングによって異なります。
タイミングごとに詳しく見ていきましょう。
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退職金を受け取るタイミング | 清算価値に計上する割合 |
①退職予定がなく、受取日が未定の場合 | 現時点での退職金見込額の8分の1 |
②退職金を受け取る日が決まっているがまだ受け取っていない場合 | 退職金の4分の1 |
③すでに退職金を受け取っている場合 | 全額(現金・預貯金として扱われる) |
※上記は、裁判所によって異なることがありますので、適宜各地の専門家に相談してください
①退職予定がなく、受取日が未定の場合
申立ての時点で退職予定がない場合、今後転職や退職などで将来退職金が受け取るかどうかが不確実でしょう。
そのため、このケースでは退職金に計上するのは「申立て時点での退職金見込額の8分の1」で良いとされることがほとんどです。なお、実際の割合は各地裁によって異なります。
退職金は勤続年数が長いほど増額していくことが多いですので、個人再生をした時点での退職金見込額で算出します。
また、東京地裁のように「20万円を超える退職金のみを計上する」と運用している裁判所では、退職金の8分の1が20万円を超えない、つまり160万円未満の退職金は計上しなくて良いとされます。
計上されるかどうかや、計上する割合については裁判所によって異なりますので、各地の専門家に問い合わせるようにしましょう。
②退職金を受け取る日が決まっているがまだ受け取っていない場合
・退職したが、まだ退職金を受け取っていない
・退職する日は決まっているが、まだ退職日を迎えていない
上記のように、退職金を受け取る日が決まっているがまだ受け取っていないケースでは、受け取り予定の退職金の4分の1を清算価値に計上するのが一般的です。
「4分の1」とされているのは、法律で4分の3を差し押さえることが禁止されているためです。
③すでに退職金を受け取っている場合
すでに退職金を受け取っている場合には、「退職金」ではなく「預貯金」もしくは「現金」として取り扱われます。
そのため、特別割合は設けられておらず、全額清算価値に計上されるのが一般的です。
※退職金として受け取った金額の全てが清算価値に計上されるのではなく、認可決定時点において預金口座など手元に残っている残高が「預金」として計上されるという意味です。
1−3 確定拠出年金などは退職金として取り扱われない
企業によっては、退職金の代わりに確定拠出年金を採用しているところもあるでしょう。
確定拠出年金の場合、法律で全額差押え禁止とされているため、清算価値に計上されることはありません。
その他、以下の資産も同じ理由で、清算価値に計上されることはありません。
- 確定給付企業年金
- 厚生年金基金
- 中小企業退職金共済法(中退共)に基づく退職金
- 社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づく退職金
- 小規模企業共済制度に基づく退職金
なお、個人再生時の生命保険の取り扱いに関しては以下の記事で解説しています。
1−4 会社に借金がある場合は退職金と相殺することも可能
会社から借金がある場合、会社側が一方的に給与や退職金などで相殺することは法律で禁止されています。
しかし、従業員と会社がお互いに合意がある場合には、借金を給与や退職金から相殺することはできます。
そして、退職金から借金を差し引けば、その借金は個人再生の対象とはなりません。
もし、退職金から借金を相殺した場合、残った退職金の4分の1または8分の1が清算価値に計上することとなります。
ただし、個人再生手続きを専門家に依頼した後や、個人再生手続きの直前に相殺した場合は「偏頗弁済」(特定の債務だけを偏って返済すること)にあたる可能性があります。
偏頗弁済は、個人再生手続きをする上で禁止されている行為であり、最悪の場合、個人再生自体ができなくなるリスクがあります。
「どうしても会社に個人再生のことを知られたくない」というケースでは仕方がありませんが、手続きをする本人にとってほとんどメリットのないことですので、決しておすすめはできません。
2章 退職金を裁判所に証明するには「退職金見込額証明書」が必要
退職金を裁判所に証明するためには「退職金見込額証明書」が必要です。
ここでは退職金見込額証明書の取得方法や、借金のことを会社に知られないための方法について解説します。
2−1 退職金見込額証明書の取得方法
退職金見込額証明書は、会社で発行してもらう必要があります。
通常は、会社に発行をお願いすれば発行してもらえるでしょう。
退職金が発生する勤続年数は各企業の就業規則によって異なりますが、最低勤続年数を3年とする企業が最も多いようです。
現時点で退職金が発生するかどうか、会社に問い合わせるのが良いでしょう。
もし、まだ退職金が発生していない場合には、それを証明する資料を用意する必要があります。
そもそも退職金制度がないという場合も同様に、それを証明する資料が必要です。
2−2 会社に個人再生手続きをすることを知られないための方法
退職金見込証明書の発行を会社にお願いすることで「個人再生をすることが会社にバレてしまうのでは?」と不安になる方もいらっしゃるでしょう。
会社に個人再生や借金のことをバレずに退職金見込証明書を発行してもらう方法は主に2つあります。
以下の方法で対処してみましょう。
①ローンの審査などを理由にする
退職金見込み証明書は、何も個人再生にのみ必要なわけではありません。
「住宅ローンの申請のために必要」などと言ってお願いすれば、不審に思われることはないでしょう。
②自身で退職金見込額を計算する
年齢が若かったり、逆に年を取りすぎていたり、独り身だったりと、住宅ローンなどを理由にするのは無理がある方もいるかもしれません。
その場合には、就業規則など、会社の規定をもとに、退職金見込額を計算し、算出結果と一緒に就業規則などのコピーとともに裁判所に提出すれば、会社に証明書を発行しなくても済むケースもあります。
退職金の計算方法は、企業にの規則によって異なりますが、【退職時の基本給×勤続年数×支給率】で計算するのが一般的です。
企業によっては、勤続年数・社内の資格等級などに応じたポイント制の退職金制度を採用しているところもあります。この場合、定期的に、その時点での退職金見込額が通知されることもあるので、受け取った通知書を確認し、それを提出するだけでOKなケースもあります。
退職金に関することを含む、就業規則の全般は、従業員全員が閲覧する権利があります。法律で就業規則を従業員に公開することが労働基準法で定められているからです。万が一、閲覧させてもらえない場合には労働基準監督署に相談しましょう。
2−3 退職金がない場合
退職金制度がない場合
退職金がそもそもない場合、何もしなくてよいという訳ではありません。
「退職金がない」という事実を証明する資料を裁判所に提出する必要があります。
就業規則等にその旨が記載がある場合には、就業規則等のコピーを提出すれば問題ありません。
もし、就業規則等で確認ができず、かつ退職金がない場合には、それを証明する証明書を会社に作成してもらう必要があります。
雇用形態から退職金がないことが明らかな場合
パート・アルバイトであったり派遣社員、自営業者など、雇用形態から明らかに退職金がないと分かる場合は、書面を出す必要はありません。
また、正社員でも勤続5年未満の場合は書面を出さなくてよいとされています。
3章 個人再生における退職金についてよくある質問
ここでは、個人再生における退職金についてよくある質問にお答えします。
ぜひ参考にしてください。
3−1 転職して退職金の額が変わったりなくなったりした場合はどうなる?
基本は現職の退職金を申告すれば問題ありません。ただし転職5年以内なら不要です。
もし、前職で退職金が出ている場合は、その使用用途を報告する必要があります。
退職金が残っている場合には預金等の扱いとなり、全額清算価値への計上の対象となります。
3−2 「退職金はない」と言い張ってごまかすことはできる?
できないと考えておきましょう。
もし、ごまかしていることが裁判所に発覚した場合、財産隠しとなり個人再生の手続きができなくなる可能性が高まります。
3−3 会社が退職見込み額証明書を発行してくれない時は?
2−2②で解説したとおり、就業規則などから自身で算出し、就業規則等とともに裁判所に提出しましょう。
計算方法が分からない場合は、手続きを依頼している専門家に相談してみましょう。
3−4 アルバイトや契約社員であっても「退職金はない」と証明する必要はある?
2-3で解説したとおり、雇用形態によって、退職金がないことが明らかである場合には、提出する必要はありません。
5章 個人再生の退職金の取り扱いに不安があるなら専門家に相談しよう!
個人再生における退職金の取り扱いは複雑であるため、不安もあるでしょう。
司法書士などの専門家に相談すれば、退職金のことはもちろん、個人再生の手続きをサポートしてくれます。
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個人再生に関する記事を沢山公開していますので、合わせてご覧ください。
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よくあるご質問
- 個人再生をすると退職金はどうなる?
- 個人再生をしても退職金を没収されることはありません。
ただし、個人再生時に退職金は清算価値に計上されるので、手続き後の借金返済額に影響を及ぼします。
個人再生時の退職金の取り扱いについて詳しくはコチラ
- 個人再生をすると預貯金はどうなる?
- 個人再生の手続きをしても預貯金を没収されるとは限りません。
個人再生手続き時には財産状況を調査され、資産状況に応じて借金がいくら減額されるかが決まります。
預金が多ければ個人再生後に残る借金の金額が大きくなる可能性はありますが、預貯金すべてが没収されるわけではないのでご安心ください。
個人再生で調査される預貯金や清算価値について詳しくはコチラ