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共益債権とは、個人再生の手続をしても全額支払わなければならない債権のことです。
本来、個人再生では借金が減額されることになるものの、共益債権についてはすべて支払わなければなりません。
そこで、個人再生手続で例外となる共益債権とはどのような債権なのか、減額されない理由やその扱いについて次の4つの章に分けて解説していきます。
- 共益債権とは
- 個人再生手続における共益債権の取り扱い
- 個人再生手続にかかわる債権の種類
- 個人再生手続で債権を複数に分けて扱う理由
借金問題を個人再生で解決させることを検討している方は、この記事でどのような借金が免除されないか確認しておいてください。
目次 ▼
1章 共益債権とは
「共益債権」とは、再生手続などによらず、他の債権者よりも優先して弁済しなければならない債権です。
たとえば破産や民事再生の手続にかかる費用や、個人再生手続開始後の水道光熱費などの支払いが該当します。
これらは個人再生手続の例外として減額対象とならない債権であるため全額支払うことが必要です。
また、個人再生手続では、一部の債権者のみの支払いを優先させると「偏頗弁済」となり、手続が不利になることがあります。
しかし共益債権は優先して支払うことが必要とされているため、先に支払っても偏頗弁済になりません。
2章 個人再生手続における共益債権の取り扱い
個人再生手続では原則、債権は減額されることになるものの、共益債権は減額されない次の3つの債権の1つとして扱われます。
- 共益債権
- 一般優先債権
- 非減免債権
本来、「個人再生」は借金を抱えて困っている方を救済する債務整理手続の1つであり、裁判所を通した厳密な手続をすることにより特別な減額をするため、原則としてすべての債務が減額対象となります。
さらに手続対象となった債務の支払いは一旦「禁止」されることになり、個人再生手続完了後に減額された分を支払っていきます。
しかし減額されると困る債権については「共益債権」として、減額対象となる債権と別に扱うこととしています。
そのため個人再生手続が開始された後も、共益債権については他の債権よりも先に弁済することが必要です。
3章 個人再生手続にかかわる債権の種類
個人再生手続にかかわることになる債権は、以下のとおり「区分」されます。
減額されない債権 | 1. 共益債権 2. 一般優先債権 3. 非減免債権 |
---|---|
減額される債権 | 1. 再生債権 |
それぞれの債権について以下のとおり詳しく説明していきます。
3-1 共益債権
個人再生手続に組み込まれ、支払いが禁止されると困る債務は、最初から手続に入れない「共益債権」として扱われます。
民事再生法では、以下のとおり規定されています。
第119条(共益債権となる請求権)(一部のみ抜粋)
次に掲げる請求権は、共益債権とする。
- 再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
- 再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権
- 再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く。)
- 規定により支払うべき費用、報酬及び報償金の請求権
- 再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権
- 事務管理又は不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
- 再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの
以上により、たとえば次のような費用が共益債権として扱われます。
- 個人再生手続で必要な費用(申立費用・個人再生委員の報酬など)
- 生活や財産維持に必要な費用(家賃・水道光熱費)
- 業務継続に必要な費用(賃借料・維持費)
- その他再生手続開始後に発生した費用でやむを得ず支払いが必要なもの
個人再生手続では、裁判所へ申立てを行うときの「収入印紙」や「官報公告費用」、再生手続をする個人再生委員に対する「報酬」の支払いが必要です。
「家賃」や「水道光熱費」などについても、支払いを禁止されてしまえば家を追い出されてしまったり生活インフラが停止してしまったりなど、生活に支障をきたします。
また、事業を継続する上で不可欠となる設備や機械のリース代金の支払いを禁止されれば、没収されて仕事ができなくなってしまうでしょう。
そのため以上のような債権については個人再生の減額対象とせず、支払いをしなければならない債権として扱われます。
3-2 一般優先債権
「一般優先債権」とは、民事再生法以外の民法などで、他の債権に「優先」して支払うべきとされている債権で、次の2種類に分かれます。
- 一般の先取特権
- 一般の優先権がある債権
それぞれ説明していきます。
一般の先取特権
「先取特権」は、法律による特別の債権を保有している相手に対し、他の債権者よりも優先して支払わなければならない債権です。
「一般の先取特権」は、先取特権のうち次のような費用が該当します。
- 共益の費用(債務者の財産の保存、清算、強制執行などに使った費用)
- 雇用関係に基づき発生した給料など
- 葬式の費用
- 公共料金の再生手続開始前6か月分の滞納分
一般の優先権がある債権
一般優先債権のうち、「一般の優先権がある債権」には次のような費用が該当します。
- 所得税・住民税などの税金
- 国民年金・国民健康保険・社会保険料
- 罰金
3-3 非減免債権
「非減免債権」とは、再生手続に組み込まれる債権ではあるものの、最終的に減額されない債権です。
たとえば次のような費用が非減免債権として扱われます。
- 悪意で相手に損害を与えたことによる損害賠償金
- 故意または重過失により相手に損害を与えたことによる損害賠償金
- 相手に精神的被害を与えたことによる慰謝料
- 扶養家族の生活費・子の養育費
非減免債権の場合、共益債権や一般優先債権と異なり、一旦は個人再生手続に組み込まれるため一時的に支払う必要はなくなります。
さらに、減額対象となる債権同様に、再生計画中は減額分のみ「分割」で支払います。
しかし、再生計画に基づく返済が終了した後は残りを一括で支払うことが基本となるため、最終的に全額支払うことが必要です。
なお、「養育費」については他の非減免政権と異なるため以下の2つについて説明します。
- 滞納している養育費の扱い
- 滞納していない養育費の扱い
滞納している養育費の扱い
再生開始時点ですでに滞納している養育費については、「非減免債権」として扱われるため再生手続に組み込まれます。
そのため再生計画中は減額後の5分の1を分割で支払い、計画満了後は残った5分の4を支払うことが必要です。
5分の4の支払いについては、養育費を受け取る側と交渉で決まるものの、基本は一括で支払うことになります。
滞納していない養育費の扱い
再生開始以後に発生する養育費については、「共益債権」として扱われるため、再生手続とは関係なく継続した支払いが必要です。
毎月発生する水道光熱費などと同じ扱いであり、毎月の固定費として支払うことになります。
養育費に限らず、他の非減免債権に関しても、再生開始時点における滞納分と再生開始以後に発生する分に「区別」して扱います。
3-4 再生債権
「再生債権」とは、個人再生手続に組み込まれ減額対象となる債権であり、カードローンやキャッシング利用による借入れなど、いわゆる「通常の借金」です。
個人再生手続開始「前」に生じた原因から発生した債権であり、再生手続開始決定により請求が禁止されます。
本来であれば債権者は自由に債権を回収することができますが、再生手続する債務者から無限定に回収できてしまうと、債務者が返済不能状態に陥るリスクが高くなります。
そのため「一旦」は支払いを禁止し、再生計画案に基づいた支払いの「見通し」を立てた上で支払うことになります。
4章 個人再生手続で債権を複数に分けて扱う理由
個人再生手続では、3章で説明したとおり、債権は複数の種類に分けて扱います。
その「理由」として、以下の2つが挙げられます。
- 「債権者平等の原則」に基づいた手続である
- 支払い継続で全利害関係人に利益になる債権がある
それぞれ簡単に説明します。
4-1 「債権者平等の原則」に基づいた手続である
個人再生手続で債権を複数に分けて扱う理由として、「債権者平等の原則」に基づいた手続であることが挙げられます。
「債権者平等の原則」とは、債務者に複数の債権者がいるとき、すべての債権者に対し「公平」に返済しなければならないという原則です。
個人再生で債権者は、「債権割合」に応じて減額された借金を、「分割返済」により受け取ることができる扱いになっています。
特定の債権者のみ「抜け駆け」で優先的に返済することや全額返済することは認められていませんが、再生手続に組み込まれ支払いが禁止されると困る借金は、減額されない債権として再生債権とは異なる扱いとなっています。
4-2 支払い継続で全利害関係人に利益になる債権がある
個人再生手続で債権を複数に分けて扱う理由として、支払いを続けたほうがすべての利害関係人に「利益」になる債権が存在することが挙げられます。
たとえば家賃や水道光熱費などの「共益債権」は、個人再生手続において利害関係人全体の利益になる債権として、減額対象とされていません。
これらの費用は滞納すれば生活基盤を失うこととなり、借金返済を継続することが難しくなるため、支払いを続けることで債務者・債権者など全体の利益につながると考えれています。
5章 共益債権など減額されない債権不払いのリスク
個人再生を手続しても、共益債権などは減額されず「全額」支払うことが必要です。
そのため共益債権などに対する督促状などを無視し続け、滞納し続ければ次の3つの「リスク」を抱えることになるでしょう。
- 自宅を追い出される
- 生活インフラが使えなくなる
- 財産を差し押さえられる
それぞれの不払いリスクについて説明していきます。
5-1 自宅を追い出される
個人再生手続において、共益債権など減額されない債権の不払い状態が続くと、自宅を追い出される可能性があります。
再生開始決定後の「家賃」や、事務所・店舗・工場などの「賃料」は共益債権であるため、個人再生手続したとしても「随時」支払いが必要です。
しかし支払わずに滞納を続ければ、賃貸借契約を強制解除され「退去」させられてしまう可能性があります。
5-2 生活インフラが使えなくなる
個人再生手続において、共益債権など減額されない債権が不払いになると、「生活インフラ」が使えなくなる可能性があります。
再生開始決定前の6か月より「前」に滞納していた水道光熱費は、「再生債権」として再生計画が認められた後に減額分を分割で支払います。
しかし再生開始決定前の「最近」6か月の滞納分については「一般優先債権」として扱われるため、随時支払わなければなりません。
再生開始決定後に発生した水道光熱費も共益債権であるため、いずれにしても支払わなければ供給が停止され、生活できなくなる可能性があります。
5-3 財産を差し押さえられる
個人再生手続において、共益債権など減額されない債権が不払いになると、財産を「差し押さえられる」可能性があります。
本来、個人再生では財産を手放す必要はないものの、税金を滞納したまま支払わなければ「強制執行」による差し押さえが実行されます。
税金や国民年金・国民健康保険料などの支払いが厳しいときには差し押さえられる前に、市役所や税務署などに猶予や分割支払いなど対応してもらえないか相談するようにしてください。
まとめ
個人再生の手続をしても、共益債権などは全額支払いが必要になる債権として扱われているため、減額されることはありません。
再生手続開始後も継続して支払うことになり、支払いが滞れば強制執行により財産を差し押さえられてしまうリスクがあります。
特に滞納している税金は最優先で支払わなければ、個人再生手続中でも給与や財産を差し押さえられる可能性があります。
もしも個人再生で借金問題を解決したいけれど、滞納している税金などがあり手続に不安という場合には、一度グリーン司法書士法人グループへご相談ください。
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