個人再生と離婚の関係と慰謝料・養育費に及ぶ影響を徹底解説

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

個人再生
個人再生と離婚の関係と慰謝料・養育費に及ぶ影響を徹底解説

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個人再生の手続途中にも離婚はでき、離婚した後で個人再生することもできます。

そして、個人再生の手続を進める上で、離婚そのものが問題になることはありませんが、個人再生または離婚のタイミングによっては慰謝料や養育費に影響が及ぶこともあります。

そこで、個人再生と離婚の関係と、慰謝料や養育費に及ぶ影響についてそれぞれ次の4つの章に分けて説明していきます。

  1. 個人再生に及ぶ離婚関連の2つの影響
  2. 個人再生することで離婚後の慰謝料請求に及ぶ影響
  3. 個人再生することで離婚後の養育費に及ぶ影響
  4. 個人再生で慰謝料が減額されるケースとされないケース

個人再生と離婚の関係

  1. 個人再生に及ぶ離婚関連の2つの影響
  2. 個人再生することで離婚後の慰謝料請求に及ぶ影響
  3. 個人再生することで離婚後の養育費に及ぶ影響
  4. 個人再生で慰謝料が減額されるケースとされないケース

個人再生と離婚のタイミングによってどのような影響が及ぶのか事前に把握し、判断を誤らないための参考にしてください。

1章 個人再生に及ぶ離婚関連の2つの影響

個人再生の手続において、離婚することが何か問題になるわけではありません。

ただ、離婚の内容によっては、次の2つの点で再生手続に影響が及ぶことがあります。

  • 財産分与による影響
  • 離婚後の転居による影響

それぞれどのような影響があるのか説明していきます。

1-1 財産分与による影響

離婚による財産分与に、過大または過少など「不相当」な分け方が見られる場合には、仮に離婚相手が財産の所有者であっても、「清算価値」に組み込まれる可能性があります。

そうなると、事案によっては返済額が高額になり、個人再生をして返済額を圧縮するメリットが薄くなる可能性があります。

清算価値とは
清算価値とは、個人再生の申し立て時点で所有している財産の総額であり、再生手続後の返済総額を決める基準の1つです

個人再生手続における返済金額総額は、清算価値より高くなるようにすることが必要であるため、清算価値が高ければ再生手続後に支払わなければならない金額が増えます。

1-2 離婚後の転居による影響

離婚後も個人再生の「住宅ローン特例(住宅資金貸付条項)」を利用して住宅ローンを支払い続ける場合には、その家に住んでいることと、将来住み続ける予定があることが必要です。

住宅ローン特例(住宅資金特別条項)とは
住宅ローン特例(住宅資金特別条項)とは、住宅ローンの支払いは従来どおり続け、住宅ローン以外の借金のみ減額・分割払いを可能とすることで、自宅を残したまま個人再生手続を可能とする制度です。

離婚に伴って住宅ローンを払い続けている家から転居することになった場合には、「その家に住んでいること」の要件を満たさなくなるため、住宅ローン特例が使えず、住宅を残すことができなくなる可能性があります。

また、転居するので住む必要はなくなるとしても、住宅ローンを普通に再生手続に組み込むか、別途処理するかは検討する必要が出て来ます。

2章 個人再生することで離婚後の慰謝料請求に及ぶ影響

個人再生が離婚後の慰謝料請求にどのような影響を与えるかは、個人再生の対象者が慰謝料を請求する立場なのか、それとも請求される立場なのかによって異なります。

そこで、次の2つの立場に分けて慰謝料に及ぶ影響について説明していきます。

  • 慰謝料を請求する側が個人再生する場合
  • 慰謝料を負担する側が個人再生する場合

2-1 慰謝料を請求する側が個人再生する場合

慰謝料を請求する側が個人再生する場合、慰謝料は財産権として清算価値に含まれることになります。

また、実際に慰謝料が銀行口座などに振り込まれた場合、それは「預金」として、やはり清算価値に含まれることになります。

具体的な計算方法や計上額は事案ごとに見る必要がありますが、清算価値に含まれるということは、その額次第では返済額が上がるリスクがあります。

2-2 慰謝料を負担する側が個人再生する場合

慰謝料を負担する側(支払う側)が個人再生する場合、慰謝料の返済も債務のひとつとなります。

ここで、慰謝料が非減免債権となれば、再生に基づく返済に影響が出て来ます。大まかに言えば「慰謝料を払い続ける上に、それと並行して再生による返済ができるのか」を考えないといけないのです。そして、これができなければ認可決定が出ないリスクがあります。

なお、「非減免債権」については後述します。

3章 個人再生することで離婚後の養育費に及ぶ影響

夫婦の間に未成熟の子がいる場合、離婚後は経済力に応じた「養育費」を分担します。

通常、「養育費」は子を引き取って育てる「監護親」に対し、引き取らない「非監護親」が、子の監護や教育に必要な費用として支払うものです。

個人再生が離婚後の養育費に与える影響は、個人再生の対象者が養育費を受け取る監護親の立場なのか、それとも支払う非監護親なのかによって異なります。

そこで、次の2つの立場に分けて、養育費に及ぶ影響について説明していきます。

  • 養育費を受け取る側が個人再生する場合
  • 養育費を負担する側が個人再生する場合

3-1 養育費を受け取る側が個人再生する場合

養育費を受け取る側が個人再生する場合、受け取った養育費分の「収入」が増えることになります。

収入がその分増えて返済に充てられる資金に余裕が出るため、再生手続後の返済を続けられる可能性が認められやすくなると考えられます。

つまり、その分認可決定が出やすくなるというわけです。

3-2 養育費を負担する側が個人再生する場合

養育費を負担する側が個人再生する場合、申立時点で滞納している養育費があるかどうかによって対応が異なります。

そのため次の2つに分けて、それぞれ説明していきます。

  • 申立時点で滞納している養育費がある場合
  • 申立時点で滞納している養育費がない場合

申立時点で滞納している養育費がある場合

すでに養育費の支払いを滞納しているときは、再生手続後の「返済」と養育費等の「支払い」を並行して行うことができるかが問題となります。

これから発生する養育費は通常どおり支払いを続けることとなりますが、滞納している養育費は通常の借金と同じ扱いとなるため、5分の1程度に圧縮した分を支払っていきます。

ただ、養育費は減免対象にはならない「非減免債権」のため、個人再生手続で圧縮された5分の4分も別途支払いが必要なのです。

どのような方法で支払うかは、当事者同士の話し合いやそれぞれの事情に応じて決めていきます。

例えば、再生の返済中に上乗せで支払うとか、再生の返済が終わった後で通常の養育費に上乗せするとか、そのあたりのことを事前に話し合っておく必要があります。

申立時点で滞納している養育費がない場合

滞納している養育費がない場合は、これから発生する養育費もこれまで通り支払いを続けていきます。滞納分の上乗せという問題が出ないので、個人再生手続に及ぼす影響は比較的小さいと言えます。

なお、離婚したときに養育費に関して取り決めがされていなかったとしても、再生申立てと離婚時期が近い場合には、その後、養育費を請求されるとも考えられるでしょう。

そのため養育費の支払いがない場合は、今後も請求されないことが見込まれていることや、請求されても再生手続後の返済と並行できることを裁判所に示すことが必要です。

そして、何よりも重要なのは今後も養育費は遅れずに支払い続けることです。滞納が一部でもできてしまうと、前述したような問題が生じかねません。

4章 個人再生で慰謝料が減額されるケースとされないケース

個人再生をすれば借金を大幅に圧縮できますが、悪質性の高い不法行為による「損害賠償請求権」などは、減額されない「非減免債権」として扱われます。

「慰謝料」も損害賠償請求権に含まれますが、離婚による慰謝料が減額対象となるかはケースバイケースであり、最終的には裁判で決定します。

では、具体的にどのような場合に慰謝料が減額されるのか、反対に減額されないケースについて次の2つに分けて説明していきます。

  • 慰謝料が減額されないケース
  • 慰謝料が減額される可能性があるケース

4-1 慰謝料が減額されないケース

離婚による慰謝料が、個人再生で減額対象とならない「非減免債権」であると判断された場合には、他の債権のように減額されることはありません。

非減免債権とは
個人再生手続において、減額の効果が及ばないとされる債権のことです。

個人再生手続において、減額の効果が及ばないとされる債権のことです。

非減免債権に当たるものは圧縮されない、というわけではありません。圧縮されて他の借金と同様に返済していきますが、圧縮された部分も再生手続外で支払う必要があり、結果として全額の返済義務が残る、ということです。

非減免債権に該当するのは、主に次の2つです。

  • 不法行為の損害賠償請求権
  • 養育費など家族に関する義務

それぞれ説明していきます。

不法行為の損害賠償請求権

「慰謝料」とは精神的な苦痛など無形の損害に対する金銭的な賠償であり、離婚に伴う慰謝料は暴力・不貞・遺棄などが原因となっているものが多いといえますが、「非減免債権」として扱われるのは主に次の2つのケースのものです。

  • 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 故意または重大な過失による生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権

以上のことから、相手を害する目的で行った不法行為の損害賠償請求権は、個人再生で減額されないということを理解しておきましょう。

養育費など家族に関する義務

養育費は子の生活・監護・教育などに必要なお金であり、「扶養義務」に基づき発生します。

そのため銀行や消費者金融など金融会社からの借金より厚く保護されるべきものと考えられ、個人再生でも減額されません。

再生手続を開始した後で発生する養育費は、非減免債権ではなく「共益債権」という扱いであり、個人再生とは関係なく支払うことが必要とされています。

共益債権とは
共益債権とは、関係者の共同の利益のために、他の債権よりも優先して弁済される債権のことです。

なお、再生手続を開始する前に、すでに滞納している養育費は非減免債権として扱われます。

4-2 慰謝料が減額される可能性があるケース

離婚に伴い発生する慰謝料が非減免債権に該当するかに明確な「基準」はなく、悪意で加えた不法行為に基づいたものかなど、それぞれの事情に応じて判断は異なります。

「悪意」とは単なる故意ではなく、積極的に相手を害する「意図」があったかであり、離婚までの経緯など踏まえて判断されます。

たとえばDVなど「暴力行為」を原因とした離婚なら積極的に相手を害する意図があったと判断されたとしても、浮気など不貞行為による離婚は認められない可能性があるといえます。

また、「裁判」で離婚のお金を取り決めた場合、財産分与・慰謝料・養育費などはそれぞれの「項目」に従い決定されるのに対し、夫婦間で話し合いで決めたときにはすべてを「慰謝料」として扱うケースも見られます。

このように実態は他の費用も含むものの「慰謝料」という名目で一定額の支払いが必要なケースでは、不法行為の損害賠償請求権に該当しないと判断され減額される可能性もあるとも考えられるでしょう。

まとめ

個人再生は、再生計画に基づいてその後の返済内容など決めていくため、離婚による財産分与や、慰謝料・養育費への関係は気になるところでしょう。

養育費は減免の対象になりませんが、慰謝料が減免されるかはケースバイケースです。

ただ、慰謝料が非減免債権に該当するのかどうかは個人再生手続で確定されず、慰謝料を請求する側が別途、訴訟などの法的手続を取ることで非減免債権か確定することが多いでしょう。

いずれにしても自己判断は難しいと考えられるため、個人再生で借金を圧縮したいけれど、離婚により発生する支払いやその影響が気になるときには、一度グリーン司法書士法人グループへ気軽にご相談ください。

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