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民法では債権に対し消滅時効を規定しているため、原則5年を経過した後に消滅時効を援用すれば債権は消滅し、債務を支払う必要はなくなります。
消滅時効 | 一定期間が経過することで、借金や代金の支払い義務がなくなること |
取得時効 | 一定期間が経過することで、不動産を占有していた者に所有権が移ること |
公訴時効 | 一定期間が経過することで、刑事上の処罰を受ける義務がなくなること |
刑の時効 | 一定期間が経過することで、刑の執行ができなくなること |
本記事では、消滅時効の期間に関する法律改正の詳細から、消滅時効の期間経過の計算方法や必要な対処法まで解説していきます。
目次 ▼
1章 借金の消滅時効期間
消滅時効とは一定期間内に行使されない権利を消滅させる制度であり、たとえば借金であれば弁済期または最後の返済から一定期間が経過することで成立します。
令和2年4月1日からは新民法が施行されていますが、改正前の民法では「権利を行使できるときから10年間行使しないとき」が消滅時効期間の原則とされていました。
その他、商事債権は5年、その他一部債権は種類に応じて1~3年の短期消滅時効などが定められており、非常に複雑な内容でした。
しかし民法の改正により、消滅時効期間が原則5年と揃えられました。章を改めて、この改正の内容について詳しく説明していきます。
2章 旧民法の消滅時効期間と制度の概要
令和2年3月31日以前に成立した契約に基づく借金には、旧民法が適用されます。
商行為による債権ではない一般的な債権である場合は、権利を行使することができるときから10年で時効により消滅してしまいます。
- 返済期日がある借金は返済期日の翌日
- 返済期日がない借金は契約日の翌日
お金を貸した債権者または借りた債務者のどちらかが商法上の商人で、商行為により生じた債権である場合には、商事債権として権利を行使することができるときから5年で消滅時効となります。
大まかに言えば、一般的な消費者金融・銀行からの借金の消滅時効期間は5年、個人間の借金の消滅時効期間は10年です。
2-1 旧民法の消滅時効期間
一般的な債権でも権利の内容によっては10年より短い期間で消滅時効となる短期消滅時効に該当しますので、一律10年ではないことに注意してください。
民法による短期消滅時効の期間
民法による短期消滅時効で1年・2年・3年・5年と時効期間は短縮されますが、債権ごとにどの短期消滅時効が適用されるか次のように異なります。
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1年の短期消滅時効が適用される債権 | ・運送賃に関する債権(タクシー運賃など) ・宿泊料・飲食料・席料・入場料・消費物の代価または立替金に関する債権(飲食店でのツケ」など) ・動産の損料(貸寝具・貸衣装・貸本など短期間の動産を賃貸借するときの賃料) |
2年の短期消滅時効が適用される債権 | ・生産者・卸売商人・小売商人が売却した産物・商品の売買代金に関する請求権 ・自己技能により注文を受け、物を製作したときや自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とすることに関する債権(理美容・クリーニング・洋裁・和裁などの業種) ・学芸・技能の教育者が教育・衣食・寄宿の代価として有する債権(学校・塾・家庭教師が受け取る授業料や教材費など) |
3年の短期消滅時効が適用される債権 | ・工事の設計・施工・監理など工事に関する債権(工事の請負代金債権など) ・不法行為に基づく損害賠償請求権(交通事故による損害賠償など) |
5年の短期消滅時効が適用される債権 | ・取消権(詐欺・脅迫などを受けた意思表示をした場合に認められる法律行為を取り消すことを求める権利) ・年単位や月単位で定めた金銭・モノの給付を目的とする債権(地代・家賃など) |
その他法律による短期消滅時効の期間
民法だけでなく、商法・手形法・労働基準法などの法律でも、次のように短期消滅時効の期間が異なります。
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1年の短期消滅時効が適用される債権 | ・運送取扱人などの責任(商法) ・為替手形を所持する人の振出人・裏書人に対する請求権(手形法) ・約束手形を所持する人の裏書人に対する請求権(手形法) |
2年の短期消滅時効が適用される債権 | ・使用者に対する労働者の賃金請求権(労働基準法) |
3年の短期消滅時効が適用される債権 | ・為替手形を所持する人の引受人に対する請求権(手形法) ・約束手形を所持する人の振出人に対する請求権(手形法) |
5年の短期消滅時効が適用される債権 | ・商事債権(商法) ・使用者に対する労働者の退職金請求権(労働基準法) |
3章 新民法の消滅時効期間と制度の概要
改正民法で消滅時効を迎える期間は、下記のうちいずれか早い方のタイミングです。
- 権利を行使することができることを知ったときから5年間行使しないとき
- 権利を行使することができるときから10年間行使しないとき
そのため商事債権であるかは関係なく、原則、消滅時効期間は5年と認識しておくとよいでしょう。
3-1 新民法の消滅時効期間
実際の取引では契約書に支払期日を記載し、双方が合意していればその期日到来を知っているとされるため、支払期日が到来した時が権利行使できると知った時となり、ここから5年で消滅時効を迎えると考えられます。
職業別の短期消滅時効と商事消滅時効は廃止されたため、短期消滅時効により消滅時効期間が5年より短かった債権については、新民法により5年に延びます。
ただし改正前に発生した債権は、職業別の短期消滅時効が適用されるため注意してください。
4章 時効を援用しなければ借金は消滅しない
時効の援用とは債権者に対し消滅時効の制度で利益を受けることを告げることです。消滅時効期間を過ぎていたとしても時効の援用を行わなければ借金は消滅しません。
そして単に告げるだけでなく、次のような方法で援用を行うことが必要です。
4-1 時効援用通知書の送付が必要
債権者に対し行う時効の援用は、時効援用通知書を配達証明付の内容証明郵便で郵送して行います。
時効の制度を利用する意思を相手に伝えるため、債務を特定できる情報(契約番号や契約年月日など)を記載し、消滅時効を援用する内容を記載する文書です。
いつ・どのような内容の郵便が郵送されたか、郵便局が証明してくれる郵便サービスのことです。
仮に普通郵便で送ってしまうと、本当に文書が債権者のもとに届いたのか確認できません。届いていたとしても、受け取っていないと伝えられてしまう可能性もあります。
単なる配達証明付郵便で送った場合も、文書を届けられたことは証明できますが、その内容まで証明できないため援用の証拠としては不十分です。
しかし配達証明付の内容証明郵便なら、文書が債権者のもとに到着していることと、送った内容が時効援用通知であることを証明できます。
債務の消滅という強力な効果を発生させるものですから、後で無用の争いを起こさないため、「いつ、誰が、誰に対して時効の援用をしたか」を書面で明確に残しておく必要があるのです。
4-2 時効完成後に返済すると時効援用権は喪失する
消滅時効期間が経過した後に、たとえ少額だとしても返済すれば、時効を援用する権利はなくなります。
実際に返済する行為だけでなく、返済する意思があると認められる行為をすると時効の更新(中断)が起こり、時効援用ができなくなってしまいます。具体的には次のような行為です。
- 1円でも返済する
- 「払います」と言う
- 返済についての相談・交渉をする
また、時効が成立する期間に達していないのに先に援用の通知を送ってしまうと、その内容次第では借金を承認したこととなり、時効が更新されてしまう可能性がありますので注意してください。
まとめ
令和2年4月1日からは新民法が施行されていますが、改正前の民法とは消滅時効の期間に関するルールは大きく変更されています。
令和2年3月31日以前に成立した借金は旧民法が適用されますが、令和2年4月1日以降に成立した債権は新民法がされます。
いずれの時効期間が適用されるかの判断は、正確な知識に基づいてしなければなりません。判断を誤ると、援用できたはずの時効が援用できなくなるリスクもあります。
ご自身の借金を5年以上返済していないという方は、一度グリーン司法書士法人グループへご相談してみることをおすすめします。
時効の援用に関する記事を沢山公開していますので、合わせてご覧ください。
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よくあるご質問
- 個人間の借金の時効は何年?
- 個人間の借金の時効は5年もしくは10年です。
ただし、借金が時効を迎えただけでは返済義務はなくならず、債権者に対して時効援用通知書を送付する必要があります。
借金の時効について詳しくはコチラ
- 時効の援用のデメリットは?
- 時効の援用は、成立に失敗すると遅延損害金が全て請求されるなどのデメリットがあります。
時効を成立させるためには難しい条件をクリアする必要があるので、ハードルがかなり高いと言えます。
時効の援用のデメリットについて詳しくみる
- 奨学金の時効は何年?
- 奨学金の時効は、最後の返済から5年が経過したときです。
しかし現実的には、時効が成立する可能性は低いでしょう。
奨学金の時効について詳しくはコチラ
- 借金の時効は5年もしくは10年のどっち?
- 借金の時効は、下記のように5年もしくは10年です。
請求権を行使できることを知っている場合:知ったときから5年
請求権を行使できることを知らない場合:行使できるときから10年
借金の時効について詳しくはコチラ