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- 「消滅時効の完成」の要件
- 「債務の承認」とは
- 「時効完成後の債務の承認」に該当するケース
- 「時効完成後の債務の承認」の問題点
借金は一般的に弁済期日から5年を経過していれば、時効の援用により、時効完成として債務は消滅します。
時効完成後の債務の承認とは、借金が時効を迎え消滅した後に、債務者が消滅時効の完成を知らずに債務を承認してしまうことです。
時効完成後の債務の承認をしてしまうと、消滅時効が完成せず、借金の返済義務が残り続けてしまいます。
そこで、時効完成後の債務の承認について、該当するケースや問題点を4つの章に分けて詳しく説明していきます。
目次 ▼
1章 「消滅時効の完成」の要件
「消滅時効」は、権利が行使されない状態が一定期間続いたときにその権利が消えることを認める制度ですが、次の3つを満たさなければ「完成」しません。
- 消滅時効期間を経過している
- 時効の援用をしている
- 時効の更新理由がない
それぞれ説明します。
1-1 消滅時効期間を経過している
「消滅時効の完成」要件の1つ目は、債権の種類や性質により決められた「消滅時効期間」を経過していることです。
権利が行使されない状態が消滅時効期間を「過ぎる」まで続くことが必要ですが、「権利を行使することができるとき」から起算して計算することが必要とされています。
1-2 時効の援用をしている
「消滅時効の完成」要件の2つ目は、「時効の援用」をしていることです。
「時効の援用」とは、消滅時効期間が過ぎて支払い義務を放棄できる場合、消滅時効が完成していることを「主張」することとされています。
借金の消滅時効は、消滅時効期間を経過しただけで自動的に完成するわけではなく、債務者の「意思表示」が必要です。
そのため、債務者の「時効の援用」があるまで、債権者から請求され続けることもあるといえます。
1-3 時効の更新理由がない
「消滅時効の完成」要件の1つ目は、「時効の更新」理由がないことです。
「時効の更新」とは、経過した消滅時効期間が振り出しに戻ることですが、本来の時効成立までの期間を過ぎても借金の時効は成立しなくなります。
この「時効の更新」の代表事由の1つが「債務の承認」ですが、次の章で詳しく説明していきます。
なお、改正前民法では「時効の中断」と言われていました。改正の要点と時効の更新(中断)の一般的な解説は以下の記事をご覧ください。
2章 「債務の承認」とは
「債務の承認」とは、債務者が債権者に対し、借金の「存在」やその「返済義務」を認めることです。
債務者による「債務の承認」があった場合、借金の「時効」は新たに進行を開始することになるため(時効の更新)、本来の消滅時効期間を過ぎても成立しなくなってしまいます。
これは消滅時効期間を過ぎているものの、「時効の援用」はしていなかったという場合も同様です。
「債務の承認」に該当するのは以下のような行為です。
- 債務の一部を弁済する
- 債務の返済猶予を求める
- 債務を認める文書に記名・捺印する
なお、最終的には個別の法的判断となるため全てを網羅的に挙げることはできません。そこで、主な例として説明していきます。
2-1 債務の一部を弁済する
「債務の承認」に該当する例として、債務の一部を「弁済」することが挙げられます。
たとえ1円でも返済すると、借金の「存在」を認めたことになるからです。
債権者は貸したお金を少しでも回収するため、
「手元にある数千円だけでもいいので返済してほしい」
「利息のみの支払いでもよいので支払ってほしい」
などと請求することがあります。
少額なら返済できると応じた場合、「債務の承認」と見なされるため注意してください。
2-2 債務の返済猶予を求める
「債務の承認」に該当する例として、借金の「返済猶予」を求める言動が挙げられます。
返済する資金がないものの債権者からの度重なる請求に耐え切れず、
「来月にまとめて支払います」
「返済するまで少し待ってください」
などと伝えた場合、借金の返済義務を認めたとみなされる可能性があります。
2-3 債務を認める文書に記名・捺印する
「債務の承認」に該当する例として、債務を認める「文書」に記名・捺印することが挙げられます。
たとえば「債務承認書」などは借金の存在を認める簡易的な書面であり、「債務承認弁済契約書」は借金があることを認めるだけでなく返済方法なども記載された契約書です。
また、効力を強化させるため「公正証書」として作成されることもあるため、安易に署名したり押印したりしないようにしてください。
3章 「時効完成後の債務の承認」に該当するケース
借金の消滅時効期間が経過した後に、債務の存在を認めれば「時効完成後の債務の承認」として扱われます。
この「時効完成後の債務の承認」の際に、時効が完成していることを債務者が認識している必要はありません。
本来、消滅時効期間が過ぎている場合、債権者に「時効の援用」をすれば借金返済義務から免れることができます。
しかし「時効の援用」をしていなければ消滅時効は完成しないため、債権者からの請求に応じ一部返済や返済猶予を求める行為があれば、「時効完成後の債務の承認」となります。
仮に「時効完成後の債務の承認」があったとしても、本来であれば時効の完成で借金は消滅していたはずと考え、その後の「時効の援用」で借金を消滅させて消滅時効起算点以降の支払い分を取り戻したいと考えることもあるでしょう。
ただ、時効の完成後に「時効の援用」をせず「時効完成後の債務の承認」があった場合、その承認は取り消しできず、したがって「時効の援用」もできません。
いったん債務の存在を承認した以上は、債権者も債務者が消滅時効を主張することはないと考えることが通常であるため、債務者がこの「信頼」を裏切ることは許されないからです。
そのため「時効完成後の債務の承認」があれば後で取り消すことはできず、承認の時点から新たに5年間経過するまでは「時効の援用」もできなくなってしまうと十分に留意しておいてください。
4章 「時効完成後の債務の承認」の問題点
消滅時効期間を過ぎていても、「時効の援用」をしていなければ借金がなくなったわけではないため、債権者から「請求」される可能性はあります。
債権者からの請求で「時効完成後の債務の承認」があった場合、次の3つの問題が発生してしまいます。
- 消滅時効が成立しなくなる
- 「時効の援用」ができなくなる
- 保証人の保証債務も更新される
それぞれどのような問題が生じるのか説明していきます。
4-1 消滅時効が成立しなくなる
「時効完成後の債務の承認」の問題点として、消滅時効が成立しなくなることが挙げられます。
「債務の承認」は借金の消滅時効期間を「リセット」させるため、何年経過していたとしても「ゼロ」に戻り新しく進行することになってしまいます。
また、債権者側が「時効の更新」を狙って時効成立直前に訴訟を起こすケースもあるため、時効の援用は消滅時効期間を過ぎたら早めに行うことが必要です。
4-2 「時効の援用」ができなくなる
「時効完成後の債務の承認」の問題点として、「時効の援用」ができなくなることが挙げられます。
消滅時効期間が経過した後で「債務の承認」をした場合、承認そのものを取り消すこともできず、消滅時効を主張することもできなくなってしまいます。
どのような行為が「債務の承認」に該当するかは個別の判断にならざるを得ないため、何も反応せずにすぐ専門家へ依頼することがベストといえます。
4-3 保証人の保証債務も更新される
「時効完成後の債務の承認」の問題点として、保証人の「保証債務」の時効も更新されることが挙げられます。
保証人または連帯保証人として負った保証債務も、主債務者が「債務の承認」を行ったことによる「時効の更新」で、主たる債務(借金)と一緒に「リセット」されます。
ただし、保証人または連帯保証人に「時効の更新」事由があったとしても、原則、主債務者にその効力は及ぶことはないとされています。
保証人や連帯保証人に迷惑をかけないためにも、消滅時効期間を過ぎたときにはすみやかに「時効の援用」を手続するようにしましょう。
まとめ
「債務の承認」とは、債権者に借金の返済義務があることを認めることなどですが、一部弁済したり返済猶予を依頼したりなど、知らず知らずの言動が該当してしまうこともあります。
本来、消滅時効期間の5年を経過していれば時効の完成により消滅するはずだった借金でも、「時効完成後の債務の承認」で消滅時効が完成しなくなってしまいます。
借金返済義務は自動的になくなるわけではなく「時効の援用」手続が必要であり、先に「時効完成後の債務の承認」があれば、承認を取り消すことも「時効の援用」もできなくなることに注意が必要です。
「時効の更新」や「時効完成後の債務の承認」に関して不安があるときや、時効が完成しているか知りたい場合などは、一度グリーン司法書士法人グループへ相談することをおすすめします。
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