国民年金保険の滞納分が一括で払えないときの対処法

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

借金返済の知識
国民年金保険の滞納分が一括で払えないときの対処法

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悩む女性
悩む女性
会社を退職して国民年金を支払っていたのですが、貯蓄も底を尽きて年金も支払えない状態です。滞納した分「特別催告状」が届き、そこには滞納分を一括で支払うよう記されていました。しかし、1ヶ月分も払えない状態で一括で払うなんてできません…。
司法書士
司法書士
国民年金の支払いは国民の義務ですので、滞納すると最終的には財産を差し押さえられてしまいます。しかし、救済措置も用意されていますので、まずはそれを利用してみましょう。
悩む女性
悩む女性
どのような救済措置があるのでしょうか?
司法書士
司法書士
支払いを分割で支払う「分納」、支払いの一部または全部を免除してもらえる「免除」、支払期間を延期してもらえる「猶予」の3つがあります。ただし、救済措置を受けるためには条件があるため、自身が該当するか確認してみましょう。

会社にお勤めではない方は、国民年金を支払う義務があります。

「年金は将来の自分のためのお金だから、払わなくてもいいのでは?」と思われるかもしれませんが、支払いは義務ですので、滞納すると財産を差し押さえられる可能性があるのです。

差し押さえの前に催告や督促を受けることになりますが、その際には原則滞納分を一括で支払わなければいけません。

しかし、毎月の支払いも難しい状態では一括支払いは難しいでしょう。

どうしても難しい場合には年金事務所に相談することで、支払いを分割にしてもらったり、免除してもらったりと救済措置を受けられる可能性があります。

この記事では、国民年金の一括払いが難しい場合の対処法や滞納するリスクなどについて解説します。

1章    滞納した国民年金を一括で払えないときの対処法

国民年金を滞納すると催告や督促を受け、その際には滞納分を一括で請求されることになります。

毎月の支払いも難しい状態では一括払いは難しいですよね。

その場合にはまず、年金事務所に相談してみましょう。以下のような救済措置を受けられる可能性があります。

  • 分納・・・分割払いが認められる
  • 免除・・・年金の一部または全部の支払いが免除される
  • 猶予・・・支払期間に猶予が認められる

上記の救済措置を受けるには条件があります。もし、救済措置を受けられない、救済措置を受けても解決が難しいといる場合には生活保護も検討しましょう。

それぞれ詳しく解説します。

1−1    分納

滞納した分の支払いは原則一括ですが、難しい場合には分割払いが認められる可能性があります。

ただし、分割払いの最小単位は1ヶ月分の額までです。それ以下の金額にすることはできませんので、「そもそも毎月の年金が払えない」という場合には免除や猶予を受けるための申請をしましょう。

1−2    免除

経済的な事情により、国民年金の支払が難しい場合には支払いの免除が認められる可能性があります。収入が減ってしまった、病気などで働けないといった場合には免除の申請をしてみましょう。

免除の割合は収入の状況に応じて以下の4段階に分けられます。

(※令和5年度の国民年金保険料は1ヶ月あたり16,520円)

  • 全額免除・・・納付額0円
  • 4分の3免除・・・納付額4,130円
  • 半額免除・・・納付額8,260円
  • 4分の1免除・・・納付額12,390円

ただし、免除を受けると将来受け取れる年金額も減ってしまいます。

免除の割合将来受け取れる年金の額
全額免除全額納付した場合の2分の1
4分の3免除全額納付した場合の8分の5
半額免除全額納付した場合の4分の3
4分の1免除全額納付した場合の8分の7

日本年金機構は、1年で受け取れる年金の目安は以下の通りと公表しています。

  • 40年納付した場合・・・795,000円
  • 40年全額免除となった場合・・・397,500円

なお、免除となった分は10年以内であれば追納することで受給額を満額に近づけることが可能です。

収入が安定したら、早いうちに追納することをおすすめします。

1−2−1    免除を受けられる収入の基準

国民年金の免除には収入の基準があり、それを超える場合には免除を受けることができません。

免除の割合収入の基準額
全額免除前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円(※)(※)令和2年度以前は22万円
4分の3免除前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること88万円(※)+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等(※)令和2年度以前は78万円
半額免除前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること128万円(※)+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等(※)令和2年度以前は118万円
4分の1免除前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること168万円(※)+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等(※)令和2年度以前は158万円

上記「扶養親族等控除額」「社会保険料控除額等」は、年末調整・確定申告で申告された金額です。源泉徴収票・確定申告控等で確認しましょう。

なお、地方税法に定める障害者および寡婦またはひとり親の場合、基準額が変わります。詳しくは、お手続きの際に年金事務所にお問合せましょう。

1−2−2    特例における免除制度

以下のようなケースでは特例で年金保険の免除を受けられる可能性があります。自身に当てはまるものがないか確認してみてください。

制度概要
退職・失業による特例免除制度退職・失業した場合、納付の猶予または免除を受けられる。
家庭内暴力による特例免除制度配偶者からの暴力により、加害者である配偶者と別居している場合、配偶者の所得に関わらず本人の前年所得が一定以下であれば免除が受けられる。
産前産後期間の免除制度出産予定日・出産日の前月から4ヶ月間は納付の免除が受けられる。

1−3    猶予

国民年金の支払いを一定期間猶予してもらえる制度です。

ただし、猶予を受けている間はその期間分の年金を受け取ることができませんし、追納しないと年金の受給額は増えません。

1−3−1    猶予を受けられる基準

国民年金の免除には収入の基準があり、それを超える場合には猶予を受けることができません。

納付猶予制度前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円(※)
(※)令和2年度以前は22万円
【参照】日本年金機構|国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度

1−3−2    特例における猶予制度

以下のようなケースでは特例で年金保険の猶予を受けられる可能性があります。自身に当てはまるものがないか確認してみてください。

制度概要
学生納付特例制度20歳以上であっても学生の期間は、納付の猶予を受けられる。
若年者納付猶予制度20~30歳であれば、本人及び配偶者の所得が一定以下の場合、猶予を受けられる。
退職・失業による特例免除制度退職・失業した場合、納付の猶予や免除を受けられる。

1−4    生活保護を受ける

生活保護を受けている方は、生活保護を受け始めた日を含む月の前月の国民年金の支払いが免除となります。

また、滞納分についても生活保護受給中は請求されることはありません。

ただし、免除を受けた分、将来受給する年金額は減額されますので、その点は理解しておく必要があります。

2章    国民年金を滞納するリスク

国民年金を滞納すると、以下流れで最終的には差押えを受けることになります。


①電話や封筒で催告を受ける
②特別催告状が届く
③最終催告状が届く
④督促状が届く
⑤差押予告通知書が届く
⑥財産が差し押さえられる

詳しい流れについては以下の記事で解説しています。

また、財産が差し押さえられる以外にも以下のようなリスクがあります。

  • 延滞金が発生する
  • 将来受け取る年金が減額する
  • 障害基礎年金や遺族基礎年金がもらえなくなる

それぞれ詳しく解説します。

2−1    延滞金が発生する

督促状が届いても滞納を続ける場合には延滞金が課されます。督促状が届いたら期限内に支払うようにしましょう。

もし支払えない事情がある場合には、早い段階で年金事務所に相談し、救済措置を受けることをおすすめします。

2−1−1    延滞金の計算方法

延滞金は以下のように計算します。


●納付期限の翌日から3ヶ月経過する日まで
【各月の国民年金保険料額】×【延滞金の割合A】×【納付期限の翌日から3ヶ月経過する日までの日数】÷365日

●納付期限の翌日から3ヶ月経過する日の翌日以降
【各月の国民年金保険料額】×【延滞金の割合B】×【納付期限の翌日から3ヶ月経過する日の翌日以降の日数】÷365日

※延滞金の割合A・Bは以下のとおりです。

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期間延滞税特例基準割合延滞金の割合A
(納付期限の翌日から3カ月を経過する日まで)
延滞金の割合B
(納付期限の翌日から3カ月を経過する日の翌日以降)
平成21年12月31日まで14.6%14.6%
平成22年1月1日から平成26年12月31日4.3%4.3%14.6%
平成27年1月1日から平成27年12月31日1.8%2.8%9.1%
平成28年1月1日から平成28年12月31日1.8%2.8%9.1%
平成29年1月1日から平成29年12月31日1.7%2.7%9.0%
平成30年1月1日から平成30年12月31日1.6%2.6%8.9%
平成31年1月1日から令和元年12月31日1.6%2.6%8.9%
令和2年1月1日から令和2年12月31日1.6%2.6%8.9%
令和3年1月1日から令和3年12月31日1.5%2.5%8.8%
令和4年1月1日から令和4年12月31日1.4%2.4%8.7%
令和5年1月1日から令和5年12月31日1.4%2.4%8.7%
令和6年1月1日から令和6年12月31日1.4%2.4%8.7%

具体的には以下のとおりです。


●令和5年6月1日〜令和5年9月30日まで滞納した場合
・納付期限の翌日から3カ月を経過する日までの日数→92日間
・納付期限の翌日から3カ月を経過する日の翌日以降、納付の日の前日までの日数→30日

①納付期限の翌日から3カ月を経過する日までの延滞金
16,500円×2.4%×92日÷365日=約100円円

②納付期限の翌日から3カ月を経過する日の翌日以降、納付の日の前日までの延滞金
16,500円×8.7%×30日÷365日=約117円

①+②=217円(50円未満の端数は切り捨てるので、実際には200円)

2−2    差押えを受ける可能性がある

督促状が届いてもなお滞納をし続けると、差押え予告通知書が届きます。これは「このまま放置するようなら、財産を差押えますよ」という最終通告です。

差押えを止めるのはこれが最後のチャンスです。年金事務所は裁判所を通さずに差押えを行うことができますので、放置するとあっという間に差押えが実行されます。

差押えを受けないためには、早急に支払うか、年金事務所に相談して救済措置を受けるようにしましょう。

2−3    将来受け取る年金が減額する

年金を支払っていない期間があると、その分将来受け取れる金額が減ります。

これは、免除や猶予を受けた場合も同様です。

国民年金保険を1年間納めずにいると、将来の受給額が年間2万円ほど減額するとされています。もし10年間納めなければ20万円減額するということです。

令和5年時点で40年間満額納付した場合で年間795,000円ですから、20万円減額されると約4分の1も少なくなります。かなり大きいですよね。

滞納した分や免除・猶予を受けた分をさかのぼって納付できるのは2年間だけです。満額に近い金額を受給したいのであれば、早い段階で追納するようにしましょう。

2−4    障害基礎年金や遺族基礎年金がもらえなくなる

国民年金の支払いによって、受け取れる年金は老後のお金だけではありません。障害によって働けなくなったときの「障害基礎年金」や、扶養の家族が亡くなった時に補償してくれる「遺族基礎年金」があります。

どちらも、万が一のときの生活を支える大切なお金です。これらは、国民年金に未納分があると受け取れない可能性があります。

それぞれ受け取るための条件は以下のとおりです。(未納分に係る部分)

①障害基礎年金

初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。(厚生年金の被保険者期間・共済組合の組合期間も含む)

ただし、初診日が令和8年4月1日前にあるときは、初診日において65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよい。

②遺族基礎年金

死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あること。

ただし、死亡日が令和8年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよい。

3章     年金以外に借金があるなら債務整理を検討しよう

国民年金は法律上支払いが義務付けられているものですので、債務整理で解決できません。

しかし、年金の滞納以外に借金があるのであれば、それを債務整理で解決することで支払いに充てられる可能性があります。

国民年金は一般的な消費者金融と違い、裁判所を通すことなく差押えの手続きができるため、国民年金を優先して支払うほうがよいでしょう。

債務整理には以下の3つがあります。

  • 自己破産
  • 個人再生
  • 任意整理

それぞれ詳しく解説します。

3−1    自己破産

自己破産とは、裁判所に申し立てることで借金の返済義務を免除してもらう手続きです。

自己破産が認められれば公租公課や社会保険料以外の借金の返済義務が免除されます。そのため、これまで借金の返済に充てていた分を国民年金などに充てることができるでしょう。

ただし、一定以上の所有財産が処分され、債権者への返済に充てられます。持ち家や給料、預貯金等は処分の対象になるため、その点は理解しておかなければいけません。

3−2    個人再生

個人再生とは、裁判所に申し立てることで借金の5分の1〜10分の1程度に圧縮し、それを原則3年で完済する再生計画を立てる手続きです。

自己破産と違い、個人再生では財産が処分されることはありません。また、住宅ローン特則を利用すれば住宅ローンを手続きの対象から外せるため、家を残したまま手続きが可能です。

ただし、個人再生は手続き後も返済が必要なため、安定した収入が必要です。また、返済額は所収する財産に応じて決定するため、高額な財産(生命保険の解約返戻金なども含む)を所有している場合には効果がない可能性があります。

3−3    任意整理

任意整理とは、債権者と交渉すること、今後発生する利息や遅延損害金をカットしてもらう手続きです。

自己破産や個人再生とは異なり、当事者間で解決を目指す手続きですので、裁判所によって財産が処分されることはありません。

また、手続きをする借金を選択することができるため、住宅ローンや自動車ローンなどを避けることで財産を手放さずに済みます。

ただし、カットできるのは利息や遅延損害金のみですので、ほかの債務整理に比べて減額効果は劣ります。

クレジットカードの分割払いやリボ払い、カードローンなどの借り入れに高額な利息が課されている場合には任意整理が適しています。

4章    まとめ

国民年金の支払いは国民の義務ですので、滞納することは原則として許されません。滞納した分は一括請求を求められます。

しかし、毎月の国民年金も支払えない状態で一括払いは難しいでしょう。

その場合には年金事務所に、分納や支払いの免除・猶予してもらえるよう相談してみましょう。

もし、国民年金以外に借金があるのであれば、それを債務整理で解決し、年金の支払いに充てるのも一つの手段です。

グリーン司法書士法人では債務整理に関するご相談を歓迎しています。

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国民年金はいつまで支払いを待ってくれる?
国民年金の未納期間が7ヶ月を超えると、財産が差し押さえられる恐れがあります。
国民年金の滞納について詳しくはコチラ
国民年金を支払えない場合はどうすればいい?
国民年金を支払えない場合は、下記の対処法を検討しましょう。

・分納
・免除
・猶予
・生活保護を受ける
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