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- 私的整理とはどういうものか
- 私的整理と法的整理の違い
- 私的整理のメリットやデメリット
- 私的整理or法的整理のおすすめな企業の特徴
- 私的整理の手続方法
企業が経営危機に直面した際、債務整理は再生のための重要な手段となります。その中でも、私的整理と法的整理は2つの主要な方法ですが、それぞれに異なる特徴とメリットがあります。
今回の記事では、私的整理とは何か、法的整理との違い、そしてそれぞれのメリットとデメリットについて詳しく解説します。また、どのような企業が私的整理や法的整理を選ぶべきか、その判断基準についても見ていきましょう。
目次 ▼
1章 私的整理とは
私的整理とは、企業が経営危機に陥った際に、裁判所を介さずに債権者との間で借金の返済条件を見直す手続を指します。主に金融機関との交渉を通じて行われ、企業の事業価値を維持しながら再生を図ることが可能です。
法的整理に比べて迅速かつ柔軟な手続が特徴で、企業の経営者や連帯保証人の個人資産を保護しやすい点も大きな特長です。私的整理を成功させるためには、企業の財務状況を正確に把握し、適切な再建計画の立案が求められます。
また、金融機関に対して納得のいく説明を行うことによる、信頼関係の構築が欠かせません。この手続には、金融機関の協力がキーポイントであり、専門家の助言を受けながら進めることが推奨されます。
私的整理は、企業が再生のチャンスを得るための有力な手段のひとつですが、その一方で、金融機関との交渉が難航する場合もあります。
1-1 私的整理と法的整理の違い
私的整理と法的整理は、どちらも企業が経営危機を乗り越えるための手段ですが、その手続や特徴には大きな違いがあります。
私的整理は、裁判所を介さずに債権者との自主的な交渉を通じて行われるため、手続が迅速で柔軟です。一方、法的整理は、裁判所の監督下で行われるため、手続が厳格であり、それだけ透明性が高いです。
また、私的整理では、企業の事業価値が下がりにくく、経営者の個人資産も保護されやすい反面、金融機関の協力が得られない場合は難航します。
法的整理は、すべての債権者に対して公平な処理が行われるため、債権者間の平等が保たれますが、手続に時間がかかり、事業価値が下がるリスクがあります。
以下の表に、私的整理と法的整理の違いをわかりやすくまとめてあるので、参考にしてください。
項目 | 私的整理 | 法的整理 |
手続 | 裁判所を介さない | 裁判所の監督下で行う |
柔軟性 | 高い | 低い |
透明性 | 低い | 高い |
事業価値 | 下がりにくい | 下がりやすい |
経営者の個人資産 | 保護されやすい | 保護されにくい |
債権者間の平等 | 保たれにくい | 保たれやすい |
手続の迅速さ | 高い | 低い |
金融機関の協力 | 必要 | 破産の場合は不要 |
なお、私的整理や法的整理を検討すべき状態ともいえる、赤字経営の立て直し方法については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ、参考にご覧ください。
2章 私的整理のメリット
私的整理の主なメリットを挙げると、次のとおりです。
- 法的整理よりも事業価値が下がりにくい
- 再生計画の自由度が高い
- 金融機関との関係を改善しやすい
- 連帯保証人である経営者の資産も残しやすい
それぞれの内容を見ていきましょう。
2-1 法的整理よりも事業価値が下がりにくい
私的整理は、裁判所を介さずに行われるため、法的整理と比べて事業価値が下がりにくいです。
法的整理では、手続が公に知られるため「倒産企業」として認識され、取引先や顧客からの信用を失うリスクが高まります。一方、私的整理は非公開で行われるため、企業の経営状態が外部に知られることが少なく、事業価値の維持がしやすいわけです。
また、債権者との直接交渉により、柔軟な対応が可能であり、企業の再生を円滑に進められます。事業価値が下がるのを最小限に抑えることで、再生後の経営も安定しやすくなります。
なお、私的整理ができず、法的整理のなかでも会社更生や民事再生はできず、倒産という法的整理になった場合の、経営者がどうなるのかや自己破産時に受ける影響について、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ、参考にご覧ください。
2-2 再生計画の自由度が高い
私的整理は、債権者との直接交渉にもとづいて行われるため、再生計画の自由度が高いです。法的整理では、裁判所の監督下で厳格な手続に従う必要がありますが、私的整理では債権者ごとの条件調整が柔軟に行えます。
それによって、各債権者の意見を取り入れた再生計画を策定しやすくなります。さらに、返済スケジュールの調整や債務の減額なども、個別の合意にもとづいて決定できるため、企業の実情に応じた最適な再生計画を立てることが可能です。
2-3 金融機関との関係を改善しやすい
私的整理は、金融機関との信頼関係を改善しやすいというメリットがあります。
法的整理では、裁判所を介するため、手続の透明性は確保されますが、すべての債権者に情報が公開されるため、金融機関との関係が悪化する可能性があります。
一方、私的整理では、主に金融機関と非公開で交渉を行うため、ほかの債権者や取引先に知られることなく手続を進められます。それによって、金融機関との協力関係を保ちつつ、柔軟な返済条件の見直しが可能です。
また、再生計画の策定においても、金融機関の意向を反映させることで、より現実的かつ実行可能な計画を立てられます。
2-4 連帯保証人である経営者の資産も残しやすい
私的整理では、連帯保証人である経営者の個人資産を保護しやすいという特徴があります。
法的整理の場合、経営者の個人資産も含めて債権者に対する弁済が求められることが多く、経営者自身の生活基盤が脅かされるリスクは否めません。しかし、私的整理では債権者との交渉により、経営者の個人資産を保護しながら返済条件を調整できます。
それによって、経営者は自身の生活を維持しつつ、企業再生に専念できます。また、金融機関も経営者の資産保護を前提に協力的な姿勢を示すことが多いため、再建計画の実現可能性が高まるでしょう。
なお、法的整理の法人破産において、経営者個人が連帯保証している場合の返済義務については、以下の記事で詳しく取り上げています。ぜひ、そちらも参考にご覧ください。
3章 私的整理のデメリット
私的整理にはメリットがたくさんある反面、次のようなデメリットの存在も否定できません。
債権者の同意が必要
私的整理は裁判所を介さないため、債権者の同意が必要です。債権者が同意しない場合、手続を進めることができません。このため、交渉が難航する可能性があります。
透明性・公平性の欠如
私的整理は非公開で行われるため、手続の透明性や公平性に欠ける場合があります。特定の債権者に対して有利な条件が設定されることがあり、ほかの債権者からの不満が生じる可能性があります。
債権者との交渉が成立するとは限らない
私的整理ははあくまでも裁判所を介さず、(任意の)債権者と個別の交渉を行うものです。交渉が成立するかは個々の案件によるので、必ずしも成立する保証はありません。
担保権を止められない
私的整理では、債権者の担保権の実行を法的に止めることができません。それによって、担保権を持つ債権者が担保物を差し押さえるリスクが残ります。
4章 私的整理・法的整理がおすすめな企業の特徴
私的整理と法的整理のどちらを選ぶほうがよいかは、その企業の特徴によっておおむね決まります。ここでは私的整理と法的整理の、それぞれに向いている(おすすめの)企業の特徴を見ていきましょう。
4-1 私的整理がおすすめな企業の特徴
私的整理がおすすめな企業の特徴は、次の3つが挙げられます。
- 主要な債権者との信頼関係がある企業
- 迅速な再建を目指す企業
- 事業価値を維持したい企業
主要な債権者との信頼関係がある企業
私的整理は、主要な債権者との信頼関係があって、非公開での交渉が可能な企業に適しています。信頼関係があることで、交渉がスムーズに進みやすくなるからです。
迅速な再建を目指す企業
私的整理は手続が迅速で裁判所を介さないため、短期間で再建を目指す企業に向いています。法的整理に比べて手続が簡素であるため、早期の再建が可能です。
事業価値を維持したい企業
私的整理は公に知られることなく手続を進められるので、事業価値を維持しながら再建を図りたい企業に適しています。外部への情報漏洩を防ぎ、企業の信頼性を保てます。
4-2 法的整理がおすすめな企業の特徴
法的整理がおすすめな企業の特徴としては、次の3つが挙げられます。
- 多くの債権者がいる企業
- 複雑な債務関係がある企業
- 法的強制力を必要とする企業
多くの債権者がいる企業
債権者の数が多く、個別の交渉が難しい場合、法的整理が適しています。法的整理はすべての債権者に対して公平に処理されるため、合意が得やすくなるからです。
複雑な債務関係がある企業
複雑な債務関係や多数の利害関係者が存在する場合、裁判所の監督下で行う法的整理が有効です。手続が明確であり、透明性が確保されるからです。
法的強制力を必要とする企業
再建計画に対する法的な強制力が必要な場合、法的整理が適しています。裁判所の介入により、債権者を法的に拘束できるため、計画の実行が確実になるからです。
5章 私的整理の手続方法
私的整理の手続は、次の2とおりがあります。
- 任意交渉による私的整理を行う方法
- 準則型私的整理を行う方法
個別に、手続の流れを見ていきましょう。
5-1 任意交渉による私的整理を行う方法
任意交渉による私的整理は、おおむね次のような流れになります。
1:財務状況の把握と分析
企業の財務状況を詳細に把握し、債務の全体像を分析します。それによって、再建計画の基礎となる情報を整理します。
2:再建計画の策定
具体的な再建計画を立案します。ここでは、返済スケジュールの見直しや債務の減額案を含め、債権者に提示する計画を策定します。
3:主要債権者との交渉
主要な債権者(主に金融機関)と非公開で交渉を開始します。この段階で、再建計画の詳細を説明し、同意を得るための協議を行います。
4:合意の形成
債権者から同意を得るために、個別に条件を調整し、合意形成を図ります。債権者が同意しなければ計画は実行できません。
5:合意内容の実行
合意が成立した再建計画にもとづき、債務の返済や事業再生を実行します。なお、実行の過程では定期的に進捗を確認し、必要に応じて計画を修正します。
5-2 準則型私的整理を行う方法
準則型私的整理は、おおむね次のような流れになります。
1:第三者機関への依頼
事業再生ADRや中小企業再生支援協議会など、第三者機関に支援を依頼します。それによって、公正かつ透明な手続を進める基盤が整います。
2:初期診断と評価
依頼した第三者機関が企業の財務状況や経営課題を評価し、初期診断を行います。この診断にもとづいて再建計画の方向性を定めます。
3:再建計画の策定
企業と第三者機関が協力して再建計画を策定します。計画には、債務の減額や返済スケジュールの見直しが含まれ、債権者への説明資料が準備されます。
4:債権者会議の開催
複数の債権者と一斉に協議を行う債権者会議を開催します。この場で、再建計画の詳細を説明し、同意を求めます。債権者全員の合意が必要です。
5:合意内容の実行
合意にもとづき、再建計画を実行に移します。定期的に第三者機関が監督し、計画の進捗を確認します。必要に応じて、計画の修正や追加協議を行います。
これらの手続を通じて、企業は債務負担を軽減しながら、持続可能な経営体制の再構築を目指すことになります。
まとめ
私的整理とは、裁判所を介さずに債権者と直接交渉を行い、借金の返済条件を見直す手続です。この方法は、法的整理と比べて柔軟で迅速に対応できるというメリットがありますが、債権者全員の同意が必要であるため、交渉が難航する場合もあります。
また、法的強制力がないため、反対する債権者を法的に拘束できないというデメリットも存在します。私的整理は、企業の事業価値を維持しながら再生を図るための有力な手段のひとつですが、手続の透明性や公平性に欠ける場合があるため、注意が必要です。
一方、法的整理は裁判所の監督下で行われるため透明性が高く、すべての債権者に対して公平に処理されます。ただし、手続が公開されるため、倒産企業と認識され、企業の信用が損なわれるリスクや、手続に時間と費用がかかるというデメリットもあります。
私的整理と法的整理のどちらを選ぶかは、企業の状況や債権者との関係、再生の目標に応じて慎重に判断する必要があります。それぞれの特徴を理解し、適切な手続の選択で、企業の再生を成功に導くことができるでしょう。
なお、私的整理ができず、法的整理のなかでも法人破産を検討しておられる経営者のみなさんは、ぜひグリーン司法書士法人にお気軽にご相談ください。債務整理のプロフェッショナルであるグリーン司法書士法人では、個々のケースに応じた解決方法をご提案し、その実行をサポートできます。
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