交通事故の慰謝料は自己破産で免責される?賠償金の扱いについて解説

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

自己破産
交通事故の慰謝料は自己破産で免責される?賠償金の扱いについて解説

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交通事故の慰謝料など損害賠償金は、自己破産手続で支払いが免除される借金とは別で扱われます。
自己破産するなら交通事故の慰謝料の支払いからも解放されたいと考えるものですが、支払義務はその性質や請求・発生のタイミングなどにより異なるなど大変複雑です。

交通事故の慰謝料は自己破産により免責されますが、加害者の過失が大きい場合には免責の対象にならない恐れもあるのでご注意ください。

自己破産するなら交通事故の慰謝料の支払いからも解放されたいと考えるものですが、支払義務はその性質や請求・発生のタイミングなどにより異なるなど大変複雑です。

そこで、交通事故の慰謝料の自己破産における免責の扱について、次の2つに分けて解説していきます。

  1. 交通事故加害者の自己破産における慰謝料の扱い
  2. 交通事故被害者の自己破産における慰謝料の扱い

本来、自己破産では借金だけではなく交通事故などの不法行為に基づいた慰謝料債務も免除の対象ですが、例外的に扱いの異なる(免除されない)ケースもあることを確認しておきましょう。

本記事では、交通事故の慰謝料は自己破産により免責されるかを解説します。

1章 交通事故加害者の自己破産における慰謝料の扱い

交通事故の「加害者」という立場になると、次のような費用の「賠償責任」が発生します。

交通事故加害者に発生する賠償責任

  • 自動車の修理費用・代車費用
  • 被害者に負わせてしまったケガの治療費・入院費用
  • 後遺症・死亡したことへの慰謝料

「被害者」は上記の損害賠償金を「請求」する権利を持つ(すなわち被害者が債権者になる)ことになりますが、「加害者」が自己破産した場合に慰謝料を含む賠償金の支払いが免除されるかは、これらの賠償債務が「非免責債権」に該当するかによって異なります。

非免責債権とは
非免責債権とは、自己破産したときに免責の対象とならず、支払い義務が残る特定の債権です。

免責とは
免責とは、自己破産手続により裁判所から許可を受け、債務を支払う義務を免除されることです。

そこで、交通事故加害者の慰謝料の支払い義務について、次の2つに分けて説明していきます。

  1. 免責されない慰謝料
  2. 免責される慰謝料

1-1 免責されない慰謝料

自己破産ですべての借金が免責の対象になるわけではなく、免責許可決定後も返済義務を負う「非免責債権」は支払い続けることが必要になります。

「慰謝料」も破産法で定められている非免責債権の1つといえますが、免責されないのは次に該当する交通事故で発生した慰謝料です。

  1. 悪意で害を加えた交通事故
  2. 故意または重大な過失による交通事故

それぞれ説明していきます。

悪意で害を加えた交通事故

「悪意」で害を加えた交通事故による慰謝料は、「非免責債権」として扱われることになり、自己破産しても支払いから免れることはできません。

積極的に相手に対し害を加える意思のある「悪意」による交通事故が対象であり、たとえば​「わざと」衝突し運転者にケガを負わせたり殺害しようとしたりする「悪質」なケース​が想定されます。

故意または重大な過失による交通事故

「故意または重大な過失」により人の生命や身体を害する不法行為に基づく交通事故の慰謝料も非免責債権として扱われることになり、自己破産しても支払いから免れることはできません。

「故意」とは、行為が「意図的」なものであり、損害が発生することを認識しつつこれを「容認」して行為を行う心理状態です。

「重大な過失」とは、故意に匹敵するほど著しい「注意義務違反」を意味しています。

人の「生命」や「身体」を害する不法行為であるため物損事故は含まれず、明確な基準があるわけではないものの、たとえば次のケースが「故意または重大な過失による交通事故」に該当すると考えられます。

故意または重大な過失による交通事故に該当するケース

  • 飲酒運転
  • 無免許運転
  • 危険運転致死傷罪に該当する危険運転

1-2 免責される慰謝料

軽度なスピード違反や脇見運転など、悪意があるとまでは言えない「通常の過失」や「不注意」による交通事故の慰謝料であれば、免責される可能性があるといえます。

また、交通事故により自動車が壊れたり積み荷が破損したりなど、「物損」に対する慰謝料も免責対象となる可能性があると考えられます。

2章 交通事故被害者の自己破産における慰謝料の扱い

交通事故の被害者が自己破産した場合、加害者から受け取る慰謝料を「自己破産開始決定前」に受け取っていれば、破産者の財産として扱われるため自由財産以外は手元に残せません。

自由財産とは
自由財産とは、自己破産後も手元に残すことが認められている財産です。

しかし「自己破産開始決定前後」における慰謝料に関しては、大きく次の4つのパターンに分かれるなど大変複雑です。

自己破産開始決定前後における慰謝料請求のパターン

  1. 慰謝料請求権はあるものの請求金額が確定してない
  2. 慰謝料請求権はあるもののまだ請求していない
  3. 慰謝料請求権があり現在請求中
  4. 慰謝料を巡る紛争中で請求権の有無が確定していない

たとえば交通事故による「慰謝料請求完了後」に自己破産開始決定を受け、請求金額が確定した場合には、その後の処理を破産管財人にゆだねればよいでしょう。

「自己破産開始決定後」に慰謝料請求を行い、慰謝料金額が確定した場合も、破産管財人に慰謝料を受け取りたい旨を伝えて行うようにしてください。

いずれにしても「自己破産手続開始後」の慰謝料請求は、独自の判断で行わず最終的な判断を「破産管財人」にゆだねることが必要であるということです。

以上を踏まえた上で、どのような損害賠償金なら手元に残すことができるのか、次の2つに分けて説明します。

  1. 手元に残せる損害賠償金
  2. 手元に残せない損害賠償金

2-1 手元に残せる損害賠償金

「破産手続開始決定後」に発生した交通事故に基づいて行う損害賠償請求権は、「自由財産」として扱われるため受け取った賠償金を手元に残すことができます。

また、以下の4つの請求権についても、「自由財産」として手元に残すことができる場合があると考えられます。

  1. 治療費
  2. 休業補償
  3. 逸失利益
  4. 慰謝料

それぞれ説明していきます。

治療費

交通事故被害者として受け取る「治療費」は、自由財産として受け取ることができると考えられます。

破産者の生活状況や財産の種類・金額などを考慮し、破産財団に組み入れない処理をすることも認められているため、ケガを治すための費用は自由財産として扱われる可能性が高いといえるでしょう。

休業補償

交通事故被害者として受け取る「休業補償」は、業務上のケガや病気で働くことができず賃金が発生しないとき、休業1日につき給付基礎日額の80%が支給される「災害補償」です。

本来受け取る給与の「代替物」ともいえますが、そもそも自己破産開始決定後に受け取る「給与」は破産財団には組み入れられることはないため、「休業補償」に関しても受け取ることができると考えられます。

逸失利益

交通事故被害者として受け取る「逸失利益」も、自由財産として受け取ることができると考えられます。

「逸失利益」とは、事故がなければ本来得ることができたはずの「将来」の利益です。

たとえば交通事故で後遺障害が残った場合などの将来的な労働能力の「喪失分」を金銭にあらわしたものといえるため、自己破産で処分される財産に含まれません。

慰謝料

交通事故被害者として受け取る「慰謝料」も、自由財産として受け取ることができると考えられます。

交通事故による「慰謝料」とは、事故によるトラウマなど「精神的苦痛」を金銭に換算したものであり、「財産以外」に生じた損害です。

精神的苦痛を補填する性質の債権であるため、請求するか決めるのは被害者本人であり、第三者は請求できません

慰謝料請求のタイミングによるものの、たとえば自己破産開始までに請求していなければ、破産財団に組み入れられることはないといえます。

ただし独自の判断で請求せず、最終的な判断は破産管財人にゆだねるようにしてください。

2-2 手元に残せない損害賠償金

「破産手続開始決定前」に発生した交通事故に基づいて行う損害賠償請求権は、債権者に「分配」する必要のある財産として扱われる可能性があります。

主な例として、挙げられるのが交通事故により壊れてしまった自動車の「修理費」です。

自動車の修理費

自動車の「修理費」や「時価相当額」は、原則、すべて破産財団に組み入れられます。

自己破産したときに自動車も処分の対象となるため、修理費用や時価相当額は自動車「本体」と同じ扱いをされると考えられます。

まとめ

交通事故の慰謝料の自己破産における扱いは、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務は免責されないとされています。

また、故意または重大な過失で加えた人の生命・身体を害する不法行為に基づいた損害賠償債務も免責されないとされているため、飲酒運転や暴走事故による場合は支払い義務が残ります。

脇見運転など不注意により起こした交通事故の慰謝料などであれば、免責される可能性は高いと考えられますが、慰謝料金額の確定や請求の有無などのタイミングなどにより判断もケースバイケースです。

もしも自己破産した後の交通事故の慰謝料の支払いについて不安や心配なことがあるのなら、一度グリーン司法書士法人グループへご相談ください。

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よくあるご質問

交通事故の示談金は破産するとどうなる?
交通事故の示談金は下記の事故以外は自己破産によって免責される可能性があります。
・悪意で害を加えた交通事故
・故意または重大な過失による交通事故
自己破産と示談金の関係について詳しくはコチラ
自己破産をしても慰謝料を受け取れる?
交通事故の被害者が自己破産した場合、加害者から受け取る慰謝料を「自己破産開始決定前」に受け取っていれば、破産者の財産として扱われるため自由財産以外は手元に残せません。
自己破産と慰謝料の関係について詳しくはコチラ
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