不動産執行は強制執行の対象!強制執行までの流れと手放さない方法

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

借金返済の知識
不動産執行は強制執行の対象!強制執行までの流れと手放さない方法

この記事は約 14 分で読めます。

「借金を滞納しすぎて差し押さえになってしまった…」

この記事を読んでいる方の中には、いよいよ強制執行まで辿り着いてしまい困っている方も少なくないでしょう。

強制執行の中には不動産執行も含まれます。不動産執行が行われると家を手放す必要があるため、何としても避けたいものです。

この記事では、不動産が強制執行されるまでの流れと、家を手放さないで済む方法を解説いたします。

給料の差押えの回避方法については、以下の記事を参考にしてみてください。

1章 不動産は強制執行の対象!

不動産執行は、債務者が持っている不動産を強制的に売り、その代金で債権を回収する手続きです。

強制執行の対象となるため、もし財産になる不動産を持っていて高額な借金をしていた場合は、強制執行として不動産が売られてしまう可能性が高いです。

不動産を強制執行するメリットとしては、高額な借金でも回収できる点が挙げられます。

少額な借金であれば給料や預貯金など他の財産を差押えで十分に回収できますが、高額な借金となると不動産のようなまとまったお金が手に入りやすい財産でなければ回収することができません。

ですので、借金が高額になればなるほど不動産が強制執行されやすい​と言えます​。

特に、住宅ローンが支払えないケースは抵当権がついているために不動産を強制執行される可能性が高いです。

1-1 強制執行とは?

そもそも、強制執行という言葉を聞きなれないという方も多いのではないでしょうか。

強制執行とは、裁判所の命令に基づき、債務者の財産を差し押さえて強制的に債権を回収する手続きのことです。

いくら督促をしても債務者が自主的に借金を支払ってくれなければ、債権者は強制的に回収するしかないので強制執行する方法を取ります。

具体的には、債権者の不動産や預金、給与債権など財産になるものを差し押さえ、競売にかけたり、その他の方法で現金化して債権を回収していきます。

強制執行は、債権者が裁判所に申立てを行う必要があります。申立てが認められると、裁判所は強制執行官を任命し、債務者の財産を差し押さえる手続きが開始されます。

こちらの流れについては2章で詳しく解説いたします。

1-2 強制執行で差し押さえられるもの

強制執行で差し押さえられる財産は、以下のものが挙げられます。

  • 不動産
  • 預貯金
  • 給料
  • 自動車やバイク
  • 株式や証券
  • 宝飾品

もっとも、財産になるものは何もかも差し押さえられるわけではありません。例えば、家電や衣類などの生活必需品などは差押えの対象外となっています。

また、年金や生活保護といった、債権者が生きていく上で必要なお金の差押えも法律で禁止されています。

差し押さえられる対象となる財産の範囲は、借金の種類や債務額によっても異なります。また、債権者がどの財産を把握しているかによっても異なります。差し押さえられたくない財産がある方は、できるだけ早い段階で専門家に相談しましょう。

年金が差し押さえられるケースと対処法については、以下の記事で詳しく解説しています。

2章 不動産執行の流れ

強制執行で、不動産執行が決まった場合どのように進むのでしょうか。

不動産執行は以下のような流れで進みます。

  1. 申立てに必要な書類を集める
  2. 地方裁判所に競売の申し立てを行う
  3. 差し押さえ開始
  4. 不動産の調査
  5. 不動産の売却を実施
  6. 競売にかけられる
  7. 落札者に不動産を引き渡す
  8. 債権者が配当金を受け取る

この流れの中で、債務者が不動産の差し押さえを回避できる最後のチャンスは「1の段階」までとなります。

申し立てを行い、差し押さえが決まると不動産の処分権限がなくなるので、債務者は基本的にどうすることもできなくなります。債務を一括返済することができれば別ですが、そうでもない限り差押えを回避することはできないでしょう。

とはいえ、いきなり強制執行が行われるわけではありません。不動産執行を行うには、その申立ての前に裁判を起こして勝訴判決をもらわなければいけません。

そのため、不動産執行の手続きの前にも対応できる時間は残されています。

家を手放したくないのであれば、遅くとも最初の裁判を起こされた時点で、一刻も早く対応する必要があります。

最初に裁判を起こされてから勝訴判決を取られるまでの流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。

①申立てに必要な書類を集める

不動産執行の流れは、まず債権者が裁判所に申立てを行い、執行の許可を得る必要があります。

そのためには、申立てに必要な書類を裁判所に提出する必要があります。

必要な書類は以下になります。

  • 不動産執行申立書(A4判横書き)
  • 申立手数料
  • 不動産全部事項証明書(原本 1通,写し 2通)
  • 資格証明書及び住所証明書(各原本 1通)
  • 委任状等(代理人による申立ての場合 1通)
  • 評価証明書・公課証明書(各原本 1通,写し 2通)
  • 意見書(1通)
  • 続行決定申請書(正本 1通,副本 1通)
  • 目的不動産の各図面(各写し 2通)
  • 申立書添付の請求債権等目録の写し(1通)
  • 返信用封筒(A4判の用紙を三つ折にしたサイズのもの 1通)


出典:不動産執行申立てに必要な書類等/裁判所

また、書類とは別に収入印紙や登録免許税、民事執行予納金を支払う必要があります。

民事執行予納金とは、裁判所が差し押さえをするための執行官手数料や執行業者費用、交通費、郵便代などが含まれるお金のことです。

民事執行予納金は原則90万円ですが、差し押さえの対象財産や手間によっても異なります。

申し立てにはこれだけの書類を準備する必要があるため、かなりの労力になります。

②地方裁判所に競売の申し立てを行う

書類などの準備ができたら、債権者の不動産を管轄している地方裁判所に競売の申し立てを行います。

この段階に進むと、債務者の意思で不動産を売ることができなくなるため所有している不動産が売られていくのを見届けるしかありません。

③差し押さえ開始

申し立てをして、許可が降りたらいよいよ差し押さえの手続きが行われます。

差し押さえが決まったら債務者は退去の日付を指定されます。債務者は、指定された日までに別の住む場所を決める必要があるので注意しましょう。

④不動産の調査

裁判所が不動産を調査していきます。

このとき、差し押さえ対象の不動産の登記簿の閲覧や物件の立会調査が行われます。

裁判所の調査や不動産の評価人の評価から、不動産の適正な価値を出して売却基準価額を決めます。この売却基準価額の8割以上の金額で落札されます。

ですので、売却基準価額よりも下がることはありません。

この売却基準価額を決める期間は、2~3ヶ月ほどかかります。

⑤不動産の売却を実施

売却基準価額が決まったら、不動産の売却を実施します。

売却される不動産は、入札期間が始まる日の15日前に民事執行センター内の「物件明細書等閲覧室」に公告書が掲示されます。

公告書には、不動産の情報や入札期間、開札期日が開かれる日時・場所、売却基準価額など重要な事項が記載されているので、競売に参加したい方は必ずチェックをする必要があります。

また、裁判所が運営する不動産競売物件情報サイト「BIT」にも不動産競売の情報を掲載しています。

⑥競売にかけられる

入札期間が始まったら競売が実施されます。

不動産の競売は、簡単に言えばオークションのようなものです。

入札期間は原則8日間で、その期間内に買受希望者から入札を受け付け、競売にかけていきます。買受希望者で一番高額だった落札者に不動産が譲渡されます。

⑦落札者に不動産を引き渡す

落札者は裁判所が通知する期限までに、入札金額から保証金額を引いた代金を納付します。

代金を確認したら、裁判所が所有権移転などの登記の手続きを行なっていきます。手続きに要する登録免許税など落札者の負担となるため注意が必要です。

⑧債権者が配当金を受け取る

譲渡手続きが完了した後、債務の回収が行われます。

債権者は売られた不動産のお金を受け取り、強制執行での回収が完了となります。

3章 判決から強制執行までの期間はどれくらい?

判決から強制執行にまでの期間は、一般的には1ヶ月から2ヶ月程度であることが多いです。

しかし、裁判所によっては判決から強制執行までの期間が長引くこともあり、3ヶ月から6ヶ月程度かかるケースもあります。

また、申し立てをして強制執行が開始されても、競売開始決定から売却基準価格の決定までに1〜2週間、期間入札通知までに3〜5ヶ月と最終的に1年以上かかる場合も珍しくありません。

書類を揃えたり期間が長かったりと時間も手前も費用もかかる手続きのため、債権者も不動産の強制執行は本意ではありません。

債権者にとっても不動産の強制執行は本当の最終手段です。強制執行前に何度もチャンスを貰っているはずなので、お互いのためにもなるべく早めに状況回復に努めましょう。

4章 不動産が強制執行されたら債務者は引越ししなければならない!

不動産の差し押さえが決まり強制執行されたら、債務者は不動産の所有権がなくなるため引越しをしなければいけません。

当然、強制執行まで進んでしまったため、借金やローンの滞納履歴が残りブラックリスト入りしています。そのため、賃貸契約をしようと思っても審査落ちする可能性が高くなります。

特に、信販系の賃貸保証会社は信用情報機関同士で情報共有しているため、審査を通過することができません。

引越し先を、公営住宅に絞るか保証人を必要としない物件を選ぶようにしましょう。

ただし、公営住宅は入居するためには一定の条件がある上に抽選式を取っている自治体がほとんどです。

退去の日でも次の家が決まっていないということがないように、できるだけ早めに物件を決めておくのをおすすめします。

今の家に住み続けたいならリースバックを利用する手も

リースバックとは、所有する家を不動産会社に売却し、その家を賃貸契約して住むことです。

賃貸契約として今の家に住み続けられるので、ローンの支払いが難しく本来であれば売却しなければいけない状況でも、賃貸契約として家賃を払うことで住むことができます。

リースバックを利用して住むことで、引越しをしなくて住むので手放す必要がなくなります。

ただし、高い手数料を取る不動産会社があったり、住宅の維持や修繕費用を負担する必要があったりと契約内容によっては支払いが難しいケースもあるため契約内容をしっかり確認するようにしましょう。

また、リースバックの方法が取れるのは、債権者が裁判所に訴訟する前の段階になります。

不動産執行になると売れず、リースバックも利用できないので注意が必要です。

5章 不動産の強制執行を回避する方法

不動産の強制執行を回避するには、不動産を任意売却する方法があります。

任意売却とは、債権者の了承のもと、債務者の希望条件で一般市場にて不動産を売却することです。

本来であれば、不動産を売却する場合は住宅ローンを完済し、住宅ローンの担保として設定された抵当権を解除する必要があります。

しかし、任意売却では住宅ローンを完済できなくても抵当権を解除してもらえるため、借金の返済に充てることができます。

この際に、少しでも高い額で売るためにも複数社に査定依頼をするのをおすすめします。

また、リースバックの利用と同じく、任意売却も債権者が裁判所に訴訟する前の段階に行動しなくてはいけません。

差し押さえされてしまうと、不動産の処分権限がなくなるので勝手に売ることができなくなります。

とにかく、できるだけ多くの選択肢を残すためにも、早め早めに対応するようにしましょう。

任意売却の流れと売却できる期間は、以下の記事で詳しく解説しています。

6章 今の家に住み続けるなら債務整理を検討しよう

今の家を手放さずに、借金の負担を軽減させるのであれば債務整理を視野に入れるのがおすすめです。

司法書士や弁護士といった専門家に相談して、債務整理の手続きを行い借金を減額してもらうことで、返済計画に基づいて完済を目指していきます。

強制執行が行われる前に、債権者との和解や交渉をすることで差し押さえを回避できる可能性があります。

債務整理を視野に入れる理想のタイミングとしては、返済が苦しくなってきたなと感じ始めた頃が良いでしょう。

どんなに先伸ばしにしたとしても、最初の裁判を起こされる前の段階が最後のチャンスとなります。

差押え通知が来た時点で、慌てて専門家に相談したとしても一括で払うなどできることは限られてくるからです。

なお、払えないからといって全ての借金が免除になる自己破産の手続きを取ると、家を没収されてしまうため注意が必要です。

家を残したまま借金を減額できる債務整理は、任意整理か個人再生の2択になります。

ここからは、どういった手続きなのかを詳しく解説していきます。

6-1 任意整理

任意整理とは、債権者と専門家が話し合って借金を減額してもらう方法です。

任意整理では、利息のカットや遅延損害金をカットして、元のお金のみを分割払いで完済していきます。

ほかにも、利息制限法に基づく利息制限や、支払い猶予の申請なども可能なので支払いが難しくなった時点で相談をするのがおすすめです。

支払いが長期化している借金や、他の借金の支払いに追われて住宅ローンが支払えない場合に有効的な手段です。

逆に、借金額が大きい場合は任意整理ではなく個人再生のほうが有効的なケースもあります。

任意整理が有効的なケースとそうでないケースの違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。

6-2 個人再生

個人再生とは、財産を処分することなく借金を大幅に減額してもらう方法です。

家を手放すことなく借金を減額できるので、現状の借金の支払いは難しいけれど差し押さえにはなりたくないという方におすすめです。

個人再生は、返済計画の期間が最長で10年間まであり、計画期間中は収入から一定額を返済して残りの借金の完済を目指します。

そのため、支払い能力があることが条件となりますが、アルバイトやパートであっても安定した収入があれば個人再生が可能です。

ただし、個人再生も不動産の強制執行が決まってからだと許可が降りず、家を手放す必要があります。強制執行の手続き前の、訴訟通知の段階であれば個人再生できる可能性が高いです。

ここまで読んでみて、任意整理と個人再生どちらにするか悩んだ方は、以下の記事を参考にしてみてください。

7章 強制執行になる前に債務の見直しを

この記事では、不動産の強制執行の流れと家を手放さない方法について解説していきました。

結論、家を手放さないためには早め早めの対処が大切ということが分かったと思います。

裁判所に申し立てをされた段階で、強制執行を回避できるケースはほとんどありません。せっかくのマイホームが強制執行にならないためにもまずは債務の見直しを行うことが大切です。

早い段階であれば、債務整理だけでなくリースバックや任意売却といった方法も考えられます。

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よくあるご質問

不動産の強制執行の流れとは?
不動産の強制執行は以下の流れで行われます。
①申立てに必要な書類を集める
②地方裁判所に競売の申し立てを行う
③差し押さえ開始
④不動産の調査
⑤不動産の売却を実施
⑥競売にかけられる
⑦落札者に不動産を引き渡す
⑧債権者が配当金を受け取る
不動産の強制執行について詳しくはコチラ
強制執行とは?
強制執行とは、裁判所の命令に基づき、債務者の財産を差し押さえて強制的に債権を回収する手続きのことです。
いくら督促をしても債務者が自主的に借金を支払ってくれなければ、債権者は強制的に回収するしかないので強制執行する方法を取ります。
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