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債務のお悩みの解決方法として、債務整理は有効です。よく知られている手続きとして、任意整理や自己破産、個人再生手続きがありますが、もう一つ特定調停という方法があります。特定調停とは、簡易裁判所で行われる債務整理の手続きです。
特定調停とは、任意整理と何が違うのか?という疑問や、特定調停のメリット・デメリット、そして手続きの流れについてわかりやすく解説します。
- 特定調停の基本知識について
- 特定調停を行うメリット・デメリットについて
- 特定調停の手続きの流れについて
目次 ▼
1章 特定調停とは?
特定調停とは、裁判所の仲介のもとに債権者(お金を貸した側)と話し合いをして、返済方法などを調整する債務整理の一種です。簡易裁判所に出向き、借金問題の和解に向けて話し合いをします。
1−1 特定調停は債務整理のひとつ
債務整理の主な種類として、任意整理、個人再生、自己破産の3つがよく紹介されますが、特定調停も債務整理のひとつです。
手続きの内容自体は、任意整理とよく似ています。具体的には、これまでの取引履歴を債権者に開示してもらい、借金をした時点にさかのぼって利息制限法に基づいた引き直し計算をします。引き直し計算によって算出された金額をもとに、分割して返済する約束をします。手続きの中で行うことは、任意整理手続きと同様です。
1−2 特定調停と任意整理はなにが違う?
任意整理は、基本的には司法書士や弁護士などが債務者(お金を借りた側)の代理人となって、債権者(お金を貸した側)との和解に向けた交渉を行う方法です。裁判所の関わりはなく、私的な手続きといえます。
一方、特定調停は、裁判所が選出した調停委員が仲介役となり、債務者と各債権者との和解の成立を支援する方法です。裁判所が関わる中で解決に向けて話し合う、公的な手続きといえるでしょう。
他にも、過払い金が発生していた場合の取り扱いも異なります。
任意整理では、手続きの中で過払い金返還請求を行い、過払い金を含めた返済計画をたてることが可能です。しかし、特定調停では、過払い金を考慮した話し合いはされません。
また、特定調停が不成立に終わってしまった場合、任意整理で解決を図る可能性が高くなるでしょう。時間をかけて準備したことが無駄になってしまう上に、依頼する専門家を一から探す手間がかかります。
その点、最初から任意整理を専門家に依頼した場合は、もし任意整理が整わなかった場合でも別の手続きに変更しやすいという違いがあります。
1−3 特定調停にかかる費用は?
特定調停の申立にかかる費用は、申立手数料(収入印紙)と手続き費用(郵便切手)です。
ご自身で申立をされる場合は、収入印紙・郵便切手の合計が1社当たり1,000円程度です。
特定調停はご自身で申立できる手続きですが、専門家に依頼する場合は、別途依頼費用がかかります。
1−4 特定調停するとブラックリストに載るの?
特定調停の手続きを行うと、ブラックリストに載ります。
「ブラックリストに載る」とは、個人の信用情報に事故記録が登録されることを指して、このようないい方がされています。
ブラックリストに載ると、事故登録が解除されるまでは、新たな借り入れができない、クレジットカードが作れないなどの影響を受けます。
ただし、他の債務整理(任意整理、個人再生、自己破産)を行った場合も同様で、ブラックリストに載ることは避けられません。
2章 特定調停のメリット
裁判官と調停委員が間に入って債権者との調整や交渉を行う特定調停には、下記のようなメリットがあります。
2−1 自分でできるので費用が安い
特定調停は、ご自身でも手続きが可能です。そのため、本当は専門家に債務整理を依頼したいけど、依頼するお金がないという場合に利用されることもあります。
申立書類をご自身で準備することになりますが、不明なことは裁判所に質問すると教えてくれます。
費用も1社につき1,000円程度で手続きができます。
2−2 調停委員が間に入るので直接交渉しなくてよい
借金の減額を債権者と交渉するのは、心理的に負担になる場合が多いでしょう。しかし、特定調停では、裁判所が選出した調停委員が仲介役として間に入ってくれます。
調停委員は、生活状況や今後の返済方法などについて債務者の話を聞いた上で、債権者の考えも聞いて、双方の意見を公平に調整していきます。債権者と直接話しをする必要がないため、ご自身の希望や主張を述べやすいといえるでしょう。
2−3 取り立てがいったん止まる
特定調停の申立が裁判所に受理された後は、債権者からの取り立てが止まります。
2−4 財産を処分する必要がない
特定調停は、整理したい債権者を選ぶことができる手続きです。保証人がいる借金や住宅ローンを除いて手続きしたい場合にも有効ですし、財産を処分する必要がありません。
そのため、どうしても自宅を手放したくないという方には有益な手続きです。
2−5 借金の理由を問われない
特定調停の申立をするにあたって、借金の理由は問われません。債務整理手続きの中には、借り入れした理由を厳しく問われるものもありますが、特定調停についてその心配は無用です。
3章 特定調停のデメリット
特定調停にはメリットがある反面、デメリットも存在します。主なデメリットとして、下記の事柄があげられます。
3−1 申立書類を自身で用意しなければならない
特定調停は、ご自身で申立できる手続きです。
ただし、その場合はご自身で申立書類を用意しなければなりません。
特定調停の申立に必要な書式は、裁判所の窓口で入手できます。また、ホームページからひな形をダウンロードできる裁判所もあります。申立書の書式は、申立を行う管轄の裁判所によって異なることがあるので、入手する際には気をつけましょう。
記載内容はそれほど難しくなく、わからないことがあっても、簡易裁判所の窓口で尋ねればおしえてくれます。
ただ、ご自身で管轄の裁判所へ出向いたり、必要書類をそろえたりする時間がとれない場合や、事情があってむつかしい人は、専門家に依頼することもできます。
3−2 督促が止まるのは調停の申立後になる
債務整理手続きを専門家に依頼した場合、専門家が債権者に受任通知を発送すると、到着後すぐに債権者からの取り立てはストップします。
しかし、ご自身で申立をした場合に督促が止まるのは、実際に申立が裁判所に受理されて、簡易裁判所から送られてくる申立受理通知を債権者が受け取った日からになります。
つまり、督促が止まるのは、調停の申立手続きを行って数日してからということです。
専門家に依頼した場合と比べると、取立が止まるまでに相当の時間がかかると感じるかも知れません。
3−3 平日行われる調停に出廷しなければならない
特定調停は、およそ月1回のペースで期日が行われます。大体、2~3回の期日を経て調停が成立します。つまり、2回程度は調停に出席するために、簡易裁判所に出向くことになります。債権者数が多い場合は、調停の回数がさらに増える可能性があります。
また、調停は平日の昼間の時間帯に行われます。平日に裁判所に出頭する必要があるため、仕事や予定がある場合は、可能な範囲で調整ができるよう心づもりをしておきましょう。
3−4 合意後に延滞した場合の強制執行が容易になる
特定調停で合意が成立すると、裁判所が調停調書という書面を作成します。この調停調書は、「債務名義」といって裁判の判決と同じ効力があります。
調停で合意した後、合意書どおりに支払うことができなかった場合、債権者はこの調停調書を基に、差し押さえなどの強制執行をすることができます。
強制執行は、未払いが生じたらできるというわけではありません。強制執行を行うためには、債務名義(民事執行法第22条)と呼ばれる文書が必要です。特定調停で作成される調停調書は、債務名義となります。
つまり、特定調停で合意したため作成される調停調書によって、債権者はその後の強制執行が容易になるのです。
3−5 調停が成立しない可能性もある
特定調停は、一般的に成功率が低いと言われています。裁判所が発表している司法統計情報(令和2年度年報)によると、申立件数2,423件に対して成功件数は349件と、たしかに低い印象です。
成功率が低い理由の1つに、債権者が調停期日に出廷せず、調停が成立しないことがあげられます。そのような場合、調停はどうなるのでしょうか。
司法統計情報を見ると、調停に代わる決定(17条決定)の件数が、1,284件あることがわかります。
調停に代わる決定とは、話し合いで解決できない場合に、裁判所が双方にとって公平かつ妥当な解決内容を決定することです。この裁判所による決定(17条決定)は、調停と同じ効力を持ちます。
最初から債権者が17条決定を望み、出廷しないケースも増えています。
話し合いによる調停成立を望む場合、成立しない可能性が高いことは上記のとおりです。
ただし、17条決定を含めて調停の決着がみられた割合は、6割以上になります。
それでも、任意整理手続きと比べると、はるかに低い印象です。
調停が不成立に終わった場合、別の方法で解決を図らなければならず、一から専門家に依頼するという負担が増えてしまいます。
4章 特定調停の手続きの流れ
通常は(専門家に依頼しない場合)、申立書類の作成や裁判所との連絡、調停への出席など、すべての手続きをご自身で行うことになります。
4−1 申立書類を用意する
主に下記の必要書類を用意します。ただし、申立をする裁判所によって多少異なる場合があります。
- 特定調停申立書 2部(正本・副本)
- 財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料
- 関係権利者一覧表
- 申立手数料(収入印紙)
- 予納郵便切手
- 資格証明書(債権者となる金融機関の現在事項全部証明書など)
4−1−1 申立書を入手する
原則として相手方となる債権者(金融機関)の所在地を管轄する簡易裁判所に申立をします。申立書類は申立てする簡易裁判所から入手するのが確実でしょう。
4−1−2 申立書への記入、必要書類の作成をする
書類に記入します。難しい内容ではありませんが、不明箇所は申立てする裁判所の窓口で質問すると教えてくれます。
4−1−3 申立手数料と予納郵券を用意する
申立手数料は収入印紙で納めます。
予納郵券(郵便切手)は、必要な種類が決められています。
申立手数料と予納郵券を合わせて、債権者1社分約1,000円ほどの金額です。これらを、申立する債権者分用意します。
4−2 簡易裁判所へ申立を行う
申立に必要な書類を、管轄の簡易裁判所の窓口へ提出します。郵送でも申立ては可能ですが、窓口へ出向くとわからないことを直接質問できたり、担当者がその場で確認できたりといったメリットがあります。その後、裁判所から事件受付票が交付され、調査期日が指定されます。
4−3 事情聴取期日に出席する
調停は、調停を担当する裁判官と、裁判所から選任される調停委員(非常勤の民間人)2名によって進められていきます。
申立をして約1か月後に、ご自身と調停委員による事情聴取期日が設定されます。債権者は出席しません。
事情聴取期日では、申立書の内容や債務状況、返済や今後の生活の見込み等について、調停委員から質問や確認をされます。その上で、今後の返済計画案を相談しながら作成します。
調停委員が効率よく状況を把握し、返済計画を検討できるよう、期日までにご自身で資料の整理や作成をしておきましょう。
4−4 調整期日に出席する
事情聴取期日を終えると、調停委員と債権者による調整期日が設定されます。事情聴取期日で作成した返済計画案をもとに、調停委員が債権者と話し合って返済計画を調整します。債権者が複数ある場合は、各々の債権者について個別に行います。
債権者によっては調整期日に出席せず、17条決定を希望する上申書を提出している場合があります。その場合、調停委員が電話で債権者と協議・交渉し、調整期日に出頭しているご自身にも内容を確認した上で、裁判官が17条決定を作成します。
債権者が裁判所に出頭している場合には、調停委員がその意見を聞き、協議を行います。協議が整えば、調停成立ということになります。
4−5 調停成立(または不成立)が決定する
調停委員との協議後に、債権者が返済計画に同意した場合には、合意内容をまとめた調停調書を裁判所が作成します。調停調書が作成されて、調停は成立で終了します。
前章で述べたように、債権者から17条決定を希望する上申書の提出があった場合は、裁判官から17条決定が出されます。
しかし、ケースによっては、債権者から異議がでることがあります。異議が出ることが明らかに予測される場合には、17条決定をせずに調停不成立で終了することもあります。
5章 まとめ
特定調停は、債務整理の中でも、ご自身で手続きを進めやすいというメリットがあります。
ただし、特定調停も法律的な知識が必要とされるため、専門家に相談することが望ましいともいえます。
しかし、専門家に支払う費用を考えて、ご自身で手続きができて費用の安い特定調停を選ぶ人も少なくありません。ご自身で特定調停を行う場合には、ただ申立をするだけでなく、その後の裁判所とのやりとりや手続きも、すべてご自身で行わなければならないことを理解しておきましょう。
手続きの費用面が重要なことはもちろんですが、特定調停がご自身の借金問題に最適な解決方法であるかどうかということが最も重要です。
司法書士や弁護士などの専門家に相談すると、ご自身の状況に合ったアドバイスを受けることができます。任意整理と比較して、どちらがご自身の問題を解決する近道となるか、無料相談で聞いてみるのもよいでしょう。
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