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何らかの理由で奨学金の返済が難しくなり、任意整理を考える人もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、奨学金の任意整理は可能ですが、あまりおすすめできません。
奨学金はもともと低金利なので、任意整理で将来発生する利息をカットしても返済負担がそれほど軽減されないからです。
本記事では、奨学金に任意整理が向かない理由や返済できないときの対処法を解説します。
奨学金の返済に悩んでいる人は、下記の記事もご参考にしてください。
目次 ▼
1章 奨学金自体は任意整理にはむかない理由
任意整理とは、裁判所を通さず借金の返済負担を軽くするための手続です。
一定の借金について、利息制限法の上限金利(15~20%)まで金利を引き下げて計算し直し、残った債務は利息カットや長期分割で返済していきます。
利息制限法とは利息の上限を定めた法律であり、違反した貸金業者は行政処分の対象です。 利息制限法による上限金利は、
- 借入金額10万円未満の場合…金利上限年20.0%
- 借入金額10~100万円未満…金利上限年18.0%
- 借入金額100万円以上…金利上限年15.0%
と定められているため、この利率による金額を超えた分の利息は無効とされます。
任意整理は貸金業者との交渉が必要となり、和解が成立すれば毎月の返済負担を軽減させた支払いが可能です。
ただ、奨学金の場合は任意整理を行ってもメリットがあるとはいえません。
その理由として挙げられるのは、
- 奨学金はもともと低金利で毎月の返済負担も重くない
- 保証人に迷惑がかかることがある
- 債権者である日本学生支援機構が交渉に応じてくれない
の3つです。
それぞれの理由について、詳しく説明していきます。
1-1 奨学金は低金利で毎月の返済負担も重くない
奨学金はもともと金利が低く設定されているため、一般の消費者金融からの借入れと比べて毎月の返済負担が重いとはいえず、任意整理による効果が低いのです。
奨学金は、
- 給付型(返済不要)
- 貸与型(返済が必要)
の2種類に分かれており、多く利用されているのは返済を必要とする貸与型です。
そして、この貸与型の奨学金は、有利息と無利息の2種類がに分かれます。
無利息はもちろんのこと、有利息でも利率は年3%を上限とするなど設定される金利が低く、消費者金融などからお金を借りたときほど利息は発生しません。
そのため任意整理をするとかえって利息が上がってしまい、不利になる可能性が高いです。
1-2 保証人に迷惑がかかることがある
奨学金を任意整理した場合、連帯保証人や保証人に迷惑がかかる可能性も踏まえて検討しなければなりません。
なぜなら、奨学金を借りた本人が返済を延滞すれば連帯保証人や保証人に支払い義務が移り、そちらへ請求がいくことになるからです。
保証人は誰になっているか確認が必要
奨学金を任意整理すれば連帯保証人や保証人に請求されるため、事前に誰が連帯保証人か確認が必要です。
奨学金を借りるときの保証制度は次の2つに分かれます。
人的保証制度…親などが連帯保証人となり保証する
機関保証制度…保証料を支払って保証会社が保証する
このうち人的保証制度の連帯保証人と保証人は、
連帯保証人…原則として父母またはこれに代わる人
保証人…原則として4親等以内の親族で本人および連帯保証人と別生計の人
となります。
そのため人的保証制度で奨学金を借りた本人が返済できなくなると、連帯保証人(父母など)や保証人(おじ・おばなど)へ請求が行くことになってしまいます。
誰にも知られず奨学金を任意整理したくても、このように連帯保証人や保証人になっている親などに請求が届くため、内緒では手続できません。
ただし、連帯保証人や保証人を立てることができないときに利用できる機関保証制度であれば、保証会社(日本国際教育支援協会)が本人に代わって返済し、その後、保証会社が本人に請求します。
機関保証制度を利用している場合であれば、親や親戚に知られず奨学金を任意整理することは一応可能です。(債権者が応じてくれる可能性が低い、金利面でのメリットが薄いという問題は残ります)
1-3 債権者である日本学生支援機構が交渉に応じてくれない
通常の貸金業者はある程度、任意整理の交渉に対応していますが、奨学金の債権者である日本学生支援機構は延滞金や利息のカットに応じないといわれています。
仮に交渉に応じてもらい、利息がカットできたとしても、そもそもの金利が低いため大きな減額は期待できません。
以上のような理由から「奨学金は任意整理に向いていない」と言われます。
2章 奨学金の返済に困ったとき利用できる日本学生支援機構の救済制度
奨学金が任意整理に向かないとはいえ、現実的に奨学金の返済に困ることは多いです。
日本学生支援機構の奨学金の返済が難しい事情が発生したときには、次の2つの救済制度を願い出ることができます。
- 減額返還制度
- 返還期限猶予制度
どちらも経済困難・失業・病気・災害などにより、毎月の返済が困難になったときでも、延滞せず計画的に支払いができるようにするための制度です。
それぞれ詳しく説明していきます。
2-1 減額返還制度
減額返還制度は、毎月の返済額を1/2または1/3に減額することができます。
利息を含む返済総額はどちらも同じですが、返還期間は、金額を1/2に減額した場合は2倍に、1/3に減額したときは3倍になります。
1回の申請で12か月まで適用されますが、適用期間が終了する前に改めて願い出れば、最長15年まで延長できます。
減額返還制度の適用要件
経済的な理由などで奨学金が返済できない方のうち、
- 給与所得の方…年間収入金額が325万円以下
- 給与所得以外の所得の方…年間所得金額225万円以下
であれば減額返還制度を願い出ることができます。
また、被扶養者がいるときや親への援助があるときは、一定額を控除し収入基準以下になれば、願い出ることが可能です。
詳しい要件については、日本学生支援機構のホームページにある「月々の返還額を少なくする(減額返還制度)」を参考にしてください。
2-2 返還期限猶予制度
返還期限猶予制度は、経済困難・災害・失業・傷病など返済が困難な事情が発生したときに、返還期限の猶予を願い出ることができる制度です。
すでに奨学金の返済を延滞している場合でも、傷病や生活保護受給中など、返済困難な状況にあるときには利用でき、猶予適用期間中は延滞が進まず延滞金も加算されません。
返済猶予される期間は通算10年間までですが、災害・傷病・生活保護受給中・産前休業・産後休業・育児休業・一部の大学校在学・海外派遣などの場合は10年の制限はないとされています。
返還期限猶予制度の適用要件
経済的な理由で奨学金を返済できない方のうち、
- 給与所得の方…年間収入金額が300万円以下
- 給与所得以外の所得の方…年間所得金額200万円以下
であれば減額返還制度の適用を受けることが可能です。被扶養者があるときには、一定額を控除できることもあります。
詳しい要件については、日本学生支援機構のホームページにある「返還を待ってもらう(返還期限猶予)」を参考にするとよいでしょう。
3章 救済制度を頼れないときの債務整理の方法
奨学金には、2章で説明したような2つの猶予制度があります。任意整理を利用するよりは効果的に返済を減らすことができるでしょう。
しかし、これらの猶予制度を利用してもなお、返済が厳しいということもあります。そのような場合にどうすべきかを説明していきます。
この場合に利用できる債務整理は、
- 任意整理
- 自己破産
- 個人再生
の3つです。
どれを選ぶかは状況によって違ってきますが、
- 親に知られたくないなら奨学金以外を「任意整理」
- 任意整理でも返済が厳しいときは「自己破産」
- 所有する資産を守りたいときは「個人再生」
という選び方になります。
それぞれ詳しく説明していきます。
3-1 親に知られたくないなら奨学金以外を「任意整理」
猶予制度を利用しても支払いが厳しいという場合、奨学金以外の、通常の借入れが多数あるというケースが良くあります。そのような場合は、通常の借入れのほうを任意整理して余裕を生み出すことが考えられます。
任意整理であれば、その対象から奨学金を除外できるため、親や親族が連帯保証人や保証人になっていても知られることなく手続できます。
そこで、奨学金以外にも多くの借金を抱えている場合には、奨学金自体は任意整理せずクレジットカードやキャッシングなどの債務を任意整理することで毎月全体の返済額を下げることが可能です。
奨学金以外を任意整理する問題点
借金を多く抱えている場合には、奨学金以外の債務を任意整理しても、毎月の返済を継続できないケースもあります。その場合、自己破産など別の債務整理の方法を検討することが必要となるでしょう。
奨学金以外の任意整理が向いているケース
奨学金以外の任意整理が向いているのは、奨学金以外にもカードローンやキャッシング利用などが多くあり、奨学金以外の毎月の返済額を抑えることができれば生活に余裕が出るときです。
また、親や親族が連帯保証人や保証人になっており、借金整理することを知られたくないときも、任意整理なら奨学金を対象から外して手続できます。
3-2 任意整理でも返済が厳しいときは「自己破産」
奨学金以外の債務を任意整理しても毎月の返済が厳しい状態のときには、裁判所を介して借金を免除してもらう自己破産を検討しましょう。
自己破産であれば、裁判所に認めてもらうことで奨学金を含めた借金の返済をゼロにできます。
奨学金を自己破産する問題点
本人が破産をしても、保証人が支払い義務を免れることにはなりません。これは、自己破産の効果は破産をした本人にのみ生じるためです。
奨学金を借りるときに親や親族が連帯保証人や保証人になっていれば、自己破産により返済できなかった奨学金を連帯保証人や保証人が全額返済しなければならず迷惑がかかります。
債権者との交渉によっては、本人がこれまで支払っていたとおりの返済を継続できることもあります。しかし、その返済方法が保証人にとって厳しい場合には、保証人自身が債務整理を検討する必要が出てくることになります。
奨学金の自己破産に向いているケース
奨学金の保証人を人的保証ではなく機関保証にしているケースであれば、奨学金も手続に加えて自己破産しても親や親族に迷惑をかけることがありません。
この場合は、破産手続に入った段階で機関保証の会社が代わりに支払い、その保証会社を債権者として破産することが多いです。
奨学金の自己破産について、詳しくはこちら
3-3 所有する資産を守りたいときは「個人再生」
任意整理では毎月の返済を継続できないけれど、自己破産で持ち家を失うことは避けたいという場合には個人再生を検討しましょう。
自己破産であれば借金の返済は免除されますが、所有する持ち家は手放すことになってしまいます。
しかし個人再生なら、住宅ローン返済中でも持ち家を手放さず、住み続けることができます。
個人再生は一定額の借金を5分の1程度まで減額し、原則3年間(特別な事情があるときは最大5年間)で借金返済することを可能とする手続きです。
任意整理と異なり裁判所を通すため、返済計画の自由度は低くなりますが借金を大きく減額できる効果が期待できます。
奨学金を個人再生する問題点
奨学金を個人再生した後、減額された借金分は連帯保証人や保証人に請求されます。
たとえば奨学金500万円を個人再生した場合、手続した本人が支払う奨学金は100万円に減額されたとしても、差額の400万円は保証人に請求されてしまいます。
奨学金の個人再生に向いているケース
任意整理では返済を継続できないけれど、住宅ローン返済中の自宅は残したいときに向いているのが個人再生です。
個人再生は自己破産と異なり、所有している資産を強制的に処分されることは基本的にはありません。ただし、担保となっている資産は債権者担保権を実行されれば失うことがあります。
個人再生なら住宅ローン返済中でも、特別条項を利用し持ち家を手放さず住み続けることが可能です。
なお特別条項の利用においては一定条件をクリアしなければならず、内容も複雑なので専門家に相談することをオススメします。
住宅ローン特例に関する記事リンク「個人再生をしても住宅ローンは残る?特例の仕組みについて解説」
また、奨学金を借りるとき、親や親戚が保証人となる人的保証ではなく機関保証を利用しているときも、奨学金も手続に加え個人再生しやすいといえます。
まとめ
奨学金の返済ができないという悩みは身近でありがちな問題ですが、奨学金自体を任意整理してもメリットはありません。
そのため、日本学生支援機構の減額返還や返還期限猶予といった救済制度を活用することを検討しましょう。それでも毎月の返済が厳しいという場合、自己破産や個人再生であれば奨学金を含めて手続ができますが、連帯保証人や保証人になっている親や親族に迷惑がかかってしまいます。
一方で、奨学金以外にも多数の借金を抱えている場合には、任意整理で奨学金以外を整理できるため、その他の借金の毎月返済額を抑え、結果的に奨学金を含めた全体の返済負担を軽減できます。
奨学金がいくら残っているのかや誰が保証人になっているかなどによって選択すべき手段は異なります。利用する制度や手続に迷っているのなら、まずはグリーン司法書士法人グループに相談することをオススメします。
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よくあるご質問
- 奨学金は任意整理できる?
- 以下の理由により、奨学金は任意整理できるもののおすすめできません。
・奨学金は低金利で毎月の返済負担も重くない
・保証人に迷惑がかかることがある
・債権者である日本学生支援機構が交渉に応じてくれない
奨学金の返済が難しい場合には、減額返還制度や還期限猶予制度の利用、もしくは任意整理以外の債務整理も検討しましょう。
奨学金の支払いに任意整理が難しい理由について詳しくはコチラ
- 奨学金を踏み倒すとどうなる?
- 奨学金を踏み倒すと2ヶ月で遅延損害金が発生し、3ヶ月で督促状が届き信用情報機関のブラックリストに登録されます。
半年以上延滞すると、裁判所による差押えや保証人への取り立てが行われます。
奨学金の踏み倒しについて詳しくはコチラ