求償権の時効は5年!請求を無視されるときの対処法

司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

時効の援用
求償権の時効は5年!請求を無視されるときの対処法

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 この記事を読んでわかること
  • 求償権とは何か
  • 求償権の消滅時効
  • 求償権で返還を求めることができる金額

求償権とは、本人の借金を保証人などが返済した場合、返済した者が本人に対して、返済した分の返還を求めることができる権利です。
他にも、保証人が複数人いて、そのうちの1人が返済することによって他の保証人が返済を免れたようなケースでは、返済をした保証人が他の保証人に対して、各自の負担分の返還を求めることができます。

なお、求償権も債権である以上は消滅時効があり、返済した時点から5年が経過すると権利が消滅してしまいます。
家族や友人、知人の保証人になり本人の代わりに借金を返済した場合、求償権を行使しにくいと感じることもあるでしょう。
しかし、求償権には時効があるため、放置し続けていると請求する権利すら失ってしまう恐れがあるのでご注意ください。

「求償権」はあまり耳馴染みのない言葉のはずです。
本記事では、求償権とは何か、消滅時効について専門家の立場からわかりやすく解説していきます。

目次

1章 求償権とは?わかりやすく解説!

求償権とは、他人の債務を返済した者が、支払ったお金をその他人から返還してもらう権利です。
より一般的に言えば、ある人が法律上の理由で財産が減少した場合に、その原因を作りだした人に対して、減った分の財産の返還を求めることができる権利という説明になります。

民法上には求償権の一般的な定義条文はなく、それぞれの箇所で上記のような意味で用いられています。
典型例は他人の借金を返済した場合です。

2章 求償権が発生するケース

求償権が発生するケースをすべて挙げることは現実的ではないため、本記事では、典型的な2つのケースについて解説します。

  • 保証人が債務者に代わって支払ったケース
  • 不倫による慰謝料を1人が支払ったケース

2-1 保証人が債務者に代わって支払った

求償権の発生

債務者が借金を支払わず、保証人が債務者の代わりに借金を返済した場合には、求償権を行使して債務者に返還を求めることが可能です。

【具体例】

  • Aさんが銀行から借金をしている
  • Bさんが保証人となっている
  • Bさんが保証人としてAさんに代わって銀行に返済した

上記の場合、BさんはAさんに対して、自分の支払った分の返還を求めることができ、この権利を「求償権」と呼びます。

なお、Bさんが借金の一部を支払っただけの場合も、支払った分についての返還をAさんに求めることができます。
全額払わないと請求できないわけではありません。

物上保証人であっても求償権がある

他人の債務のために、自信の財産を担保に提供している場合、、財産を提供している人のことを「物上保証人」と言います。
典型例は他人のために自分の土地に抵当権を設定している場合です。

親が子の住宅建築のために土地を提供して、土地建物まとめて住宅ローンの抵当権を設定しているようなケースを考えると分かりやすいでしょう。
この場合に、子が住宅ローンが払えず競売に掛けられた場合、物上保証人である親は、土地の代金から返済された分を、子に請求できます。

2-2 不倫慰謝料を当事者1人が支払った

不倫慰謝料を当事者1人が支払ったケース

不倫慰謝料を当事者1人が支払った場合

損害賠償の支払いなどでも求償権が認められます

【具体例】

  • XさんとYさんが不倫をした
  • Xさんの妻であるAさんがYさんに対して不倫に対する慰謝料を請求した
  • YさんがAさんに対して、慰謝料を支払った

不倫行為はXさんとYさんの2人で行ったものであるため、2人がAさんに損害を与えたと考えられ、Yさんだけが責任を負うのは不平等です。
したがって、この場合はYさんはXさんに対して支払った慰謝料の一部を請求する権利があります。

3章 求償権の消滅時効

求償権の消滅時効

求償権は、債務者本人にかわって借金を返済した時点から5年間経過すると、消滅時効(請求できる権利が消滅する期間)にかかります。
ただし、以下のようなケースでは時効の完成が猶予されたり更新されたりし、時効が成立しない場合があります。

  • 時効の更新:時効期間を一度ゼロに戻して、再度時効のカウントをスタートすること
  • 時効の完成猶予:時効の完成が一定期間猶予されること(一定期間経過するまで、時効が完成しない)

3-1 【時効の更新】時効の承認が行われたケース

承認による時効の中断

債務者が求償権に基づく請求に対して支払いをした場合、その時点で時効が更新され、再度時効がスタートします。

【例】

  • 保証人による支払日:2015年4月1日
  • 時効期間満了日:2020年4月1日

上記のケースで、時効期間満了日以前である2018年4月1日に債務者が求償権を持つ人へ支払いをした場合、時効が下記のように更新されます。

【更新後の時効】

  • 債務者の最終支払い日:2018年4月1日
  • 更新後の時効満了日:2023年4月1日

3-2 【時効の完成猶予・更新】裁判上の請求が行われたケース

裁判所の請求による時効の中断

債権者から求償権を持つ人に対して返還を求める訴えを起こした場合、裁判中に時効期間が満了しても裁判が確定するまでは時効の完成が猶予されます。
そして、債権者の勝訴判決が確定すると時効が更新され、再度時効がスタートし、この場合には、時効期間が10年に延長されます。

【例】

  • 返済期日:2015年4月1日
  • 時効期間満了日:2020年4月1日

上記のケースで、2020年3月1日に求償権を持つ人が債務者に対して返還を求める訴えを提起し、2020年10月1日に裁判が確定した場合、下記のように時効が更新されます。

【更新後の時効】

  • 訴えを提起した日:2020年3月1日
  • 時効の完成猶予:2020年4月1日(時効期間満了日)〜2020年10月1日(裁判確定日)
  • 時効の更新:2020年10月1日(裁判確定日)

2020年3月1日に、求償権を持つ人が、返還に応じない債務者に対し、返還を求める訴えを提起。2020年4月1日に時効期間が満了日を迎えるが、裁判が確定する日(2020年10月1日)まで時効の完成は猶予される。さらに、勝訴判決が確定すれば、時効は更新され、ゼロから時効がスタートします。

3-3 【時効の完成・更新】求償権を持つ人による催告が行われたケース

催告による時効の中断

求償権を持つ人から債務者に対して催告をした場合、催告6か月以内に後に時効期間が満了しても、債権者が提訴すると、当初の時効期間がその間に満了するとしても裁判が確定されるまで時効の完成が猶予されます。
加えて、裁判確定時に時効が更新され、再度時効がスタートします。

なお、催告から訴えの提訴まで、時効完成が猶予されるのは最大で6か月です。6か月以内に提訴されない場合には、6か月を経過した時点で消滅時効が完成します。

【例】

  • 返済期日:2015年4月1日
  • 時効期間満了日:2020年4月1日

上記のケースで、2020年3月1日に求償権を持つ人が債務者に対して返還を求める催告をしたとします。
その後、2020年7月1日に返還を求める訴えを提起し、2020年10月1日に裁判が確定した場合、時効は下記のように更新されます。

【更新後の時効】

  • 訴えを提起した日:2020年3月1日
  • 訴えを提訴した日:2020年7月1日
  • 裁判が確定した日:2020年10月1日
  • 時効の完成猶予①:2020年4月1日(時効期間満了日)〜2020年7月1日(訴えを提訴した日)
  • 時効の完成猶予②:2020年7月1日(訴えを提訴した日)〜2020年10月1日(裁判確定日)
  • 時効の更新:2020年10月1日(裁判確定日)

3-4 【時効の完成猶予・更新】裁判上の催告が行われたケース

裁判上の催告による時効の中断

求償権を持つ人が債権の返還を求める訴えを起こした後、訴えを取り下げた場合は、最初に訴えを起こした時から訴えを取り下げた後6か月間は裁判上の催告として扱われ、時効の完成が猶予されます。

3-5 【時効の完成猶予】債権者と債務者の合意があったケース

双方の話し合いによって合意がなされれば、1年間時効の完成を猶予できます。
その後も、1年毎に合意を重ね続ければ、最長で5年間猶予することが可能です。

4章 求償権で返還を求めることができる金額

求償権に基づいてどこまでの額を請求できるかは債務の性質や、保証人になった経緯などで異なります。
本章では、ケースごとに求償権で返還を求められる範囲について、解説します。

4-1 連帯債務の場合

連帯債務とは、複数人が共同でひとつの債務について返済義務を負っている状態です。
例えば、600万円の債務についてABCの3人が共同して返済義務を負っているケースなどです。

この場合、対外的には、債権者(銀行)は、連帯債務者の一人であるAに対して、600万円全額の支払いを求めることができ、Aはそれに応じる義務があります。
一方で、連帯債務者内部の関係では、別段の定めがなければ負担部分は平等なので、ABCはそれぞれ200万円ずつを負担すればよいことになります。

したがって、仮にAが600万円を銀行に払った場合の求償権の範囲は、「AはBとCそれぞれに対して200万円ずつの支払いを求めることができる」です。

4-2 債務者から頼まれて保証人になった場合

債務者から頼まれて保証人になった場合、保証人は代わりに支払った額に加え、全額の返還を求めることが可能です。
また、支払うためにかかった交通費などの諸経費や、法定利息、損害賠償金も請求できます。

4-3 債務者から頼まれず勝手に保証人になった場合

保証契約は債権者と保証人との契約なので、なろうと思えば債務者に伝えることなく勝手に保証人になれます。
債務者から頼まれることなく勝手に保証人となり借金を返済した場合には「返済時」において債務者が利益を受けた範囲のみ返還を求めることができます。

具体的にどの範囲、何円になるかは個別の事案に応じて検討していくしかありません。

4-4 債務者の意思に反して保証人になった場合

保証契約が債権者と保証人だけで結べる契約だということは、債務者が反対していても保証人に無理矢理なることも可能です。
この場合、保証人が債権者に返済した後で債務者に請求する(求償する)ことになりますが、債務者本人の意思に反しているので請求時」において債務者が利益を得ている範囲しか請求できません。

この場合も、具体的には個別に検討するしかありませんが、一般的には返済時点から時間が経過しているため、請求できる範囲は狭くなります。

【ポイント】

保証人になった経緯によって返還を求める範囲が異なると解説しましたが、少しむずかしいと感じたかと思います。
大まかに言って、下記の順番で返還を求められる範囲が狭くなると覚えておきましょう。
債務者から頼まれて保証人になった債務者から頼まれず勝手に保証人になった債務者の意思に反して保証人になった

4-5 保証人が事前に支払うことを伝えなかった場合

保証人が債務者の借金を返済する場合には、事前に「◯◯円代わりに払う」と伝えるべきです。

例えば「債務者本人も債権者に対して債権を持っていた場合、お互いの債権を相殺して支払えば良い」といった事情が考えられます。
このようなケースで、保証人が勝手に全額支払ってしまったら「差額決済で良かったのに……」と、ありがた迷惑になってしまうこともあるでしょう。

そのため、保証人が借金の返済をすることを事前に伝えなかった場合に、保証人は債務者に対して全額の返金を求めることができません。

4-6 保証人がすでに支払ったことを伝えなかった場合

保証人が債務者の借金を返済した場合にも「◯◯円代わりに払っておいた」と伝えるべきです。

債務者は保証人から「支払っておくね」と聞いていたにもかかわらず、いざ債権者に聞いてみたら「まだ払われてない」と言われる可能性もあります。
そのようなケースでは、取り立てが来たりして、慌ててお金を工面しなければならない恐れもあるからです。

また、本当であれば保証人が支払っていたにもかかわらず、債権者が悪意を持って「まだ支払われてない」と伝えて、それを信じた債務者も支払い二重取りされるというリスクもあるでしょう。

このように、事後報告をしないことはリスクとなるため、保証人は支払った分の全額の返還が認められない可能性があります。
保証人が事後報告を怠ったことで二重払いが生じたような場合、保証人は債務者に対して一切返済を求めるとはできません。

5章 求償権に基づく請求を無視されるときの対処法

求償権に基づいて請求をしたにもかかわらず無視されるような場合は、内容証明郵便を送るか裁判を起こすことも検討しましょう。
それぞれ詳しく解説していきます。

5-1 内容証明郵便を送る

求償権に基づいて請求しても相手が無視するような場合、まずは内容証明郵便を用いて請求する旨の書面を送付しましょう。
内容証明郵便とは「いつ、誰が、どのような内容を、誰に差し出したか」ということを郵便局が証明してくれる制度です。

内容証明郵便に強制力はありませんが、相手に自分の真剣度を伝えることができるため、返還に応じてもらえるケースも少なくありません。
なお、内容証明郵便での請求は「催告」に当たり、以降6か月は時効が完成しないので、期限が近づいている場合は内容証明だけでも送っておきましょう。

5-2 裁判を起こす

内容証明郵便を送っても、まだ無視をされるような場合には裁判を提起して、裁判上で請求することとなります。
求償権が正当であれば、求償権に基づいた請求が認められることがほとんどです。

万が一、債務者が裁判で決定した内容に逆らって支払いをしないような場合には、強制執行として財産や給与の差押えが可能になります。
なお、求償金請求訴訟に勝訴した場合、もともと5年だった時効期間も10年に延長された上でリセットされます。

6章 消滅時効の事例紹介

①債務者だけに請求して、他の保証人への求償権が時効になったケース

債務者へ求償金請求の裁判を起こしても、他の保証人に対する求償権の時効は更新ないのでご注意ください。
求償権を消滅時効にかからせたくない場合は、他の保証人に対しても同時に請求すると良いでしょう。

②事前求償権が発生していたケース

委託を受けた保証人は一定の要件の下、実際に債権者に返済する前であっても債務者に対して求償権を行使できます。

時効の起算点は、権利を行使できる、つまり請求できるときから進行するのが原則なので、事前求償ができる場合には、事前求償の要件を満たした時と考えることもできます。
しかさい、判例では、事前求償ができるときでも、求償権の時効の起算点は、実際に保証人が代わりに返済をした時と判断しています。

③相続債務の消滅時効を援用したケース

夫が亡くなり、約100万円の借金を抱えていたことが判明した方のケースです。

幸い、借金は1件だけで、時効援用が可能な状況だったため、相続放棄ではなく、時効援用で対応しました。詳しくは、下記リンクの事例紹介ページをご参照ください。

③かなり昔の借金につき、時効援用と過払い金返還で解決したケース

若いころから借入をしており、30年以上返済を続けていた方のケースです。

借入が30年以上続いているのであれば、過払い金が出ている可能性が高いと考えて、過払い調査を行いました。詳しくは、下記リンクの事例紹介ページをご参照ください。

まとめ

保証人が代わりに借金を返済した場合には、求償権が発生し、支払った分の返還を求めることができます。
求償権で請求できる範囲は、債務の性質や保証人になった経緯によって異なります。

求償権の消滅時効は、代わりに支払ったときから5年ですが、裁判上の手続きなどをすることで時効を更新できます
もし、求償権に基づく請求を無視されるような場合には、まず内容証明郵便を送付しましょう。
それでもなお無視されるような場合には裁判を提起する必要があります。

借金の保証人となり、借金を肩代わりせざるを得ない状況になってしまったら、求償権に基づいて返還を求める権利があるということは覚えておきましょう。

ただ、この記事を読んでお分かりになったかと思いますが、求償権という権利自体が非常に難解なものです。
ケースバイケースで判断される部分も大きいので、自分で対処しようとせず、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。

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よくあるご質問

求償権を使えない場合はありますか?
求償権を使えない状況としては、下記のものが考えられます。

・時効が成立している
・債務者に全く財産がない
・債務者が破産している
求償権の請求を拒否されたらどうすればいいですか?
求償権に基づく請求を拒否、無視された場合は、①内容証明郵便の送付や②裁判を検討しましょう。
自分で対応することが難しい場合は、司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
損害賠償請求権と求償権の違いとは何ですか?
損害賠償請求権とは、違法に損害を与えられた人物が加害者に対して賠償を求める権利です。
それに対し、他人のために自分の財産(金銭等)を出した場合に、その他人へ補填を求めることができる権利です。
求償権は放棄できますか?
求償権は放棄も可能です。
例えば、不倫相手に慰謝料請求をする際に、自分の夫に対しての求償権を放棄するように約束してもらうことも認められています。

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