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時効の完成猶予とは、一定の完成猶予事由によって時効の完成が先延ばしにされる制度です。
その事由が終了するまでの間、時効は完成しませんが、消滅時効期間がリセットされるわけではありません。
消滅時効期間を過ぎた後に「時効の援用」をすれば、請求から免れると見込んでいたのに、知らない間に時効の完成が猶予されている場合もあると考えられます。
そこで、ある一定の事由が終了するまで完成しないことを意味する「時効の完成猶予」について、「時効の更新」との違いや該当する事由など次の3つの章に分けて詳しく説明していきます。
- 時効の完成猶予とは
- 時効の更新との違い
- 時効の完成が猶予されるケース
目次 ▼
1章 時効の完成猶予とは
時効の完成猶予とは、時効の完成が阻止され、一定期間「先延ばし」にされることです。
消滅時効期間が過ぎる前に一定の「完成猶予事由」が生じると、消滅時効は完成されず権利も消滅しません。
例えば、時効の完成が迫っていて裁判が間に合わない場合でも催告を行えば、時効の完成が阻止され引き延ばされてしまいます。
ただし「時効の完成猶予」は、一定の事由が終了するまで一時的に時効が完成しないことを意味するため、消滅時効期間がリセットされるわけではありません。
2章 時効の更新との違い
「時効の更新」とは、進行していた消滅時効期間が「リセット」され、新しくゼロからスタートすることです。
たとえばお金の支払いを求める債権の消滅時効期間の起算点は、次の2つのいずれか早いときとなります。
- 債権者が権利を行使できることを知ったとき(から5年)
- 債権者が権利を行使できるとき(から10年)
金融会社がお金を貸す場合、権利を行使できることは認識しているのが通常であるため、一般的には「5年」が消滅時効期間となります。
弁済期の到来後に債務者が借金の一部を支払えば、消滅時効期間の経過はゼロに戻り新しく進行します。
しかし何年も返済されず、5年経過後に債務者が「時効の援用」をすると、金融会社は請求する権利を失ってしまいます。
そこで金融会社が4年経過後に裁判を起こし、裁判所から確定判決をもらえば消滅時効期間は4年からゼロにリセットされ、再度スタートします。
「時効の完成猶予」は一定の事由が終了するまで時効が完成しないことに留まるのに対し、「時効の更新」は消滅時効期間がリセットされるため、より「強力」な時効回避措置であることが違いです。
3章 時効の完成が猶予されるケース
「時効の完成」が猶予されるケースとして、「民法」に次の記載があります。
- 裁判上の請求(民法第147条)
- 強制執行(民法第148条)
- 仮差押え・仮処分(民法第149条)
- 裁判を通さない催告(民法第150条)
- 協議を行う旨の合意(民法第151条)
- 未成年者または成年被後見人(民法第158条)
- 夫婦間の権利(民法159条)
- 相続財産(民法160条)
- 天災(民法第161条)
それぞれどのような場合に時効の完成が猶予されるのか説明していきます。
3-1 裁判上の請求
民法第147条に記載されているのが、「裁判上の請求」等による時効の完成猶予です。
「裁判上の請求」とは裁判所に対し訴訟を提起することですが、以下の事由が「終了」するまでは時効は完成しません。
- 裁判上の請求
- 支払督促
- 訴え提起前の和解(民事訴訟法)・調停(民事調停法・家事事件手続法)
- 破産・再生・更生手続
その後、取り下げや却下などがあった場合でも、「6か月」経過するまで時効の完成は猶予されます。
勝訴が確定する確定判決をもらえば、「確定日」に時効が更新されます。
3-2 強制執行
民法第148条に記載されているのが、「強制執行」等による時効の完成猶予です。
次の手続があった場合には「時効の更新」により消滅時効期間は「リセット」され、終了後に新しくスタートすることになります。
- 強制執行
- 担保権の実行
- 形式競売(民事執行法)
- 財産開示手続(民事執行法)
ただし申立ての「取り下げ」や「取り消し」により上記事由が「終了」した場合は、「6か月間」時効完成は猶予されるものの、「時効の更新」はありません。
強制執行しても残った「残債務」についても、消滅時効期間は「リセット」され新たにスタートすることになります。
3-3 仮差押え・仮処分
民法第149条に記載されているのが、「仮差押え・仮処分」による時効の完成猶予です。
「仮差押え」や「仮処分」があった場合、これらの事由が終了したときから「6か月」経過するまでは時効は完成しません。
「仮差押え」とは、金銭債権を強制執行できなくなる可能性がある場合、銀行口座や不動産などの財産を仮に差し押さえるための手続です。
「仮処分」とは、金銭債権以外の債権の権利を実現できなくなる可能性がある場合、現状を維持するために行います。
3-4 裁判を通さない催告
民法第150条に記載されているのが、「裁判を通さない催告」による時効の完成猶予です。
「催告」とは、たとえば債権者から債務者に対し、内容証明郵便により返済を求める「通知」を送ることですが、催告があったときから「6か月」経過するまでは時効の完成は猶予されます。
ただし、催告したことで時効の完成が猶予されている期間中、「再度」催告をしてもさらに6か月時効の完成を延長できるわけではありません。
3-5 協議を行う旨の合意
民法第151条に記載されているのが、書面での「協議を行う旨の合意」による時効の完成猶予です。
たとえば債権者と債務者の間で、「協議」を行うことを書面で「合意」した場合には、次のいずれかはやいタイミングまで時効は完成しません。
- 合意があったときから1年経過したとき
- 合意において当事者が協議する期間(1年に満たない期間のみ)を定めた場合において、その期間を経過したとき
- 当事者の一方から相手に協議を続行することを拒絶する通知を書面でした場合において、通知から6か月経過したとき
なお、「協議を行う旨の合意」で時効の完成が猶予されている期間中、再度「協議を行う旨の合意」をすると猶予期間は「延長」されますが、延長できるのは当初時効が完成するはずだったときから起算して「最長5年」までです。
催告で時効完成が猶予されている期間中に「協議を行う旨の合意」を行った場合には猶予期間は延長されず、その逆の場合も同様とされています。
3-6 未成年者または成年被後見人
民法第158条に記載されているのが、「未成年者または成年被後見人」の時効の完成猶予です。
時効期間満了前6か月以内の間に未成年者または成年被後見人に「法定代理人」がいない場合、消滅時効期間中に請求権を行使し、「時効の更新」をすることはが困難と考えられます。
そのため、次のいずれかから「6か月」経過するまでは、未成年者または成年被後見人に対し時効は完成しないとされています。
- 未成年者または成年被後見人が行為能力者となったとき
- 法定代理人が就職したとき
未成年者または成年被後見人がその財産を管理する「親」や「後見人」に対し、権利を有する場合も同様です。
3-7 夫婦間の権利
時効の完成猶予の事由として民法第159条に記載されているのが、「夫婦間の権利」です。
民法第159条には、夫婦の一方が他の一方に対し有する権利について、「婚姻解消」から「6か月」経過するまで時効は完成しないと記されています。
この趣旨は、夫婦間で「時効の更新」の措置は事実上困難と考えられるからです。
3-8 相続財産
民法第160条に記載されているのが、「相続財産」に関する事項の完成猶予です。
相続財産の管理権者が存在しない場合、「時効の更新」はできないため、次の3つのときから「6か月」経過するまでは時効は完成しないとされています。
- 相続人が確定したとき
- 管理人が選任されたとき
- 破産手続開始決定があったとき
いずれにせよ相続人が確定しなければ時効更新の具体的な手段が取れないので、その間に時効の完成を認めるのは相続人にとって酷だと言えるため、これを保護する趣旨の規定です。
3-9 天災
民法第161条に記載されているのが、「天災」等による時効の完成猶予です。
消滅時効期間が満了するとき、天災やその他避けることができない事変などで「時効の更新」ができない場合は、障害が消滅した日から「3か月」経過するまで時効は完成しないとされています。
たとえば「震災」などで「裁判上の請求等」や「強制執行」の手続ができない場合が該当すると考えられます。
なお、改正前民法では期間が2週間とされていましたが、流石に短すぎるとされて3か月と改正されました。
まとめ
「時効の完成猶予」とは、一定の完成猶予事由によって時効の完成が先延ばしにされる制度であり、消滅時効期間がリセットされるわけではありません。
そのため時効が完成後に「時効の援用」をする予定だったのに、時効の完成が猶予されている可能性もあります。
また、「時効の更新」では消滅時効期間がリセットされるため、経過した年数はゼロに戻り新たにスタートすることになります。
もしも時効の完成が猶予されているか心配な借金などがある場合には、一度グリーン司法書士法人グループへ相談してみてください。
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