自己破産しても市営住宅に住み続けることは可能?追い出されるケースとは

   司法書士山田 愼一

監修者:グリーン司法書士法人   山田 愼一
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第8849号 / 東京都行政書士会所属 会員番号第14026号 【保有資格】司法書士・行政書士・家族信託専門士・M&Aシニアエキスパート 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」著者・「はじめての相続」監修など多数

自己破産
自己破産しても市営住宅に住み続けることは可能?追い出されるケースとは

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自己破産を検討する方の中には、手続によって今住んでいる市営住宅を追い出されてしまわないか不安を抱えることもあるようです。

しかし、そもそも市営住宅は国や自治体が協力して建設した公営住宅であり、経済的に厳しい方でも低額家賃で安心して生活するための住宅です。

自己破産者は経済的に厳しい方の典型例と言えるため、自己破産を理由に追い出すことは市営住宅の根本的な理念を揺るがすことになります。

そこで、市営住宅に住む方が自己破産した場合について、次の5つの章に分けて詳しく解説していきます。

  1. 自己破産しても市営住宅に住める
  2. 市営住宅に入居できる収入基準
  3. 自己破産後に市営住宅を追い出されるケース
  4. 家賃滞納のまま自己破産した後の市営住宅退去の流れ
  5. 自己破産前に滞納家賃を返済するリスク

自己破産後の生活に不安を感じる方は、ぜひこの記事を参考にされてください。

1章 自己破産しても市営住宅に住める

市営住宅に住む方が自己破産を検討することもありますが、気になるのは自己破産後も引き続き市営住宅や県営住宅に住むことができるかでしょう。

結論からお伝えすると、自己破産しても市営住宅や県営住宅には住み続けられます。

市営住宅を含む公営住宅は国や自治体が公営住宅法に従い運営しており、「公営住宅法第1条第1項」には以下のように法律の目的が制定されています。

公営住宅法第1条第1項
この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

この「目的」を踏まえた上で、自己破産後に市営住宅に住むことができる理由を次の3つに分けて詳しく説明していきます。

  1. 原則追い出されることはない
  2. 自己破産後に市営住宅に申し込むことも可能
  3. 市営住宅の入居基準を満たすことが必要

1-1 原則追い出されることはない

自己破産を理由として、市営住宅など公営住宅から追い出されることはありません。

市営住宅など公営住宅は、経済的に困っている方に安い家賃で住む場所を提供し、社会福祉に貢献するという「理念」で運営しています。

自己破産しなければならないほど生活に困っているのに、自己破産手続を理由に市営住宅から追い出す行為は理念に反することを意味します。

もちろん、どんな事情があっても絶対に追い出されないというわけではありませんが、退去・契約解除となるのはどんなケースか、別途定められています。

具体的には、市営住宅を運営する自治体などが強制退去を必要とする規約を定めているものの、自己破産を理由とした決まりはないため、自己破産をしたとしても市営住宅に住み続けることができます。

1-2 自己破産後に市営住宅に申し込むことも可能

これまで持ち家に住んでいた方が、自己破産で家を処分された場合などでも、市営住宅に申し込むこともできます。

自己破産したことを理由に市営住宅の申込み資格を失うことはなく、申し込みのときに確認されることもありません。

参考までに、入居者資格を定める公営住宅法第23条を紹介しておきます。読みにくいですが、ここに自己破産に関することは出てこないことが分かるでしょう。

1-3 市営住宅の入居基準を満たすことが必要

自己破産後に市営住宅に住み続けるときや、新たに入居の申し込みをする場合には、「入居基準」を満たすことが必要です。

市営住宅は、経済的に困窮している方に向けた住宅のため、一定の「収入基準」が設けられています。

また、申込期間後には指定日時に抽選会が開催されるため、当選しなければ入居はできません。

自己破産を理由に市営住宅の入居が優先されることはないため、公平に所定の手続を経て申し込むことが必要になります。

参考までに、入居者資格を定める公営住宅法第23条を紹介しておきます。読みにくいですが、ここに自己破産に関することは出てこないことが分かるでしょう。

公営住宅法第23条
第23条(入居者資格)
公営住宅の入居者は、少なくとも次に掲げる条件を具備する者でなければならない。
一 その者の収入がイ又はロに掲げる場合に応じ、それぞれイ又はロに定める金額を超えないこと。
 イ 入居者の心身の状況又は世帯構成、区域内の住宅事情その他の事情を勘案し、特に居住の安定を図る必要がある場合として条例で定める場合 入居の際の収入の上限として政令で定める金額以下で事業主体が条例で定める金額
 ロ イに掲げる場合以外の場合 低額所得者の居住の安定を図るため必要なものとして政令で定める金額を参酌して、イの政令で定める金額以下で事業主体が条例で定める金額
二 現に住居に困窮していることが明らかであること。

2章 市営住宅に入居できる収入基準

市営住宅は、国と市が協力して建設し、市が所有する「公営住宅」です。

公営住宅には他にも、県営住宅や都営住宅など種類がありますが、いずれも先に紹介した「公営住宅法」に基づいて運営されています。

民間の賃貸住宅よりも「低額家賃」で住む場所を提供しているため、収入が一定水準以下など様々な基準や規定が設けられており、その「要件」を満たさなければ入居することはできません。

自治体により収入基準は若干異なる場合もありますが、基本的には公営住宅法に定める収入基準に適合していることが必要であり、世帯収入が月額158,000円以下(裁量階層世帯は214,000円以下)なら申し込むことができます。

他にも市県民税の滞納がないことや、該当の市町村に居住または通勤しているなどの条件を満たすことが必要です。

裁量階層世帯とは
裁量階層世帯とは次のいずれかに該当する世帯のことです。

  • 高齢者世帯
  • 障害者世帯
  • 戦傷病者世帯
  • 原子爆弾被爆者世帯
  • 引揚者の方
  • ハンセン病療養所入所者
  • 小学校未就学児童のある世帯

なお、「申込日時点」の家族全員の収入月額が収入基準の対象となります。

「収入月額」は入居資格の有無を判定する根拠であり、国や自治体の定める基準で算出するため、一般的な「手取り」などとは異なることに注意してください。

3章 自己破産後に市営住宅を追い出されるケース

自己破産しても市営住宅を追い出されることはなく、基本的には引き続き住むことができますが、次の場合には追い出されてしまう可能性があります。

  1. 家賃滞納が続いた場合
  2. 収入が一定基準を超えた場合

どのような場合に追い出されるのか、それぞれ解説します。

3-1 家賃滞納が続いた場合

市営住宅は自己破産を理由に追い出されることはありませんが、「家賃滞納」が一定期間続くと住み続けることはできなくなります。

自治体によって期間は異なるものの、一般的には家賃を3か月以上滞納すれば強制退去の対象になってしまいます。

事情があり家賃を払えないときには、放置せずにまずは担当窓口に相談することが必要です。

3-2 収入が一定基準を超えた場合

市営住宅は、収入が一定基準を超えると退去しなければならなくなります。

一般的には、3年以上居住し続けた後、月額所得が決められた基準を超えていると収入超過者と判断され、退去の「努力義務」が発生します。

それでも住み続け5年以上経過し、直近2年の収入が基準を超えていれば、高額所得者と判断されて期限内の明渡し請求書が届きます

4章 家賃滞納のまま自己破産した後の市営住宅退去の流れ

市営住宅の家賃を「滞納」した状態で自己破産を申立てた場合、滞納期間によっては退去を求められることになります。

しかし市営住宅の家賃を支払うことができないほど経済的に厳しいからこそ自己破産するのに、それでは手続に意味がないと感じてしまうことでしょう。

ただ、国や自治体が運営する公営住宅である以上、家賃を払わないままの状態で住み続けることは厳しいと考えられます。

市営住宅を退去した後で住む場所が思いつかない場合には、自治体の生活福祉課に相談するなど早めに退去後の住居確保に努めることも必要といえますが、すぐに追い出されるわけではありません。

自己破産申立てから退去するまでの一般的な流れは以下のとおりです。

  1. 裁判所から市役所に通知が届く
  2. 明け渡し予定日を決める
  3. 原状回復費用の支払う

それぞれの流れについて説明していきます。

4-1 裁判所から市役所に通知が届く

自己破産手続開始が決定すると、債権者に自己破産に対する異議を問う「通知」が送られます。

市営住宅の家賃滞納があれば、債権者である市役所など自治体にも通知が送られることになります。

4-2 明け渡し予定日を決める

市役所など自治体が裁判所から通知を受けたことで、賃貸借契約解除を申し入れてくるというよりも、3か月以上滞納していれば明け渡し予定日を決めるように求めてくる可能性はあります。

家賃の滞納分は「免責」の対象であるため、破産手続開始前の家賃支払いは免れることができても、破産手続開始から退去までの家賃は支払わなければなりません。

4-3 原状回復費用の支払う

市営住宅を「退去」するときには入居前の状態に戻すことが必要ですが、破産手続開始前の傷を原因した「原状回復費用」は「債務」として計上されるため、免責決定により支払い義務も消滅します。

しかし破産手続開始後に発生した原状回復費用は支払い義務を負うことになりますが、入居の際に家賃2~3か月分の「敷金」を支払っているときには「相殺」されます。

なお、自己破産のときには敷金を「財産」として計上するものの、原状回復費用と相殺するため、財産価値はゼロとすることがほとんどです。

5章 自己破産前に滞納家賃を返済するリスク

自己破産したという理由だけで市営住宅を追い出されることはなく、民間の賃貸住宅を借りている場合でも同様です。

そのため家賃を滞納するといったことがなければ、自己破産後も引き続き市営住宅に住むことができるといえます。

しかし市営住宅に住んでいる方が自己破産を検討する場合、たとえ低額とされている家賃の支払いでも厳しい状態に追い込まれており、滞納している場合もめずらしくありません。

追い出されてしまうと住む場所を失うため、滞納している家賃を先に支払っておこうと考える方もいますが、免責不許可事由に該当する行為とみなされ借金が免除されなくなる可能性があるため注意してください。

免責不許可事由とは
免責不許可事由とは、一定事情で裁判所に借金免除を認めてもらえないことであり、次のような行為が該当する例として挙げられます。

  • ギャンブル・過大な浪費などを原因とした借金の場合
  • 意図的に財産を隠す行為があった場合
  • 特定の債権者のみ優先して借金を返済する行為があった場合
  • 返済不能状態であるのに自己破産を前提とした借金があった場合
  • 裁判所に事実と異なる説明を行う行為があった場合
  • 2度目以降の自己破産で前回の免責から7年以内に再び自己破産を申し立てた場合

自己破産手続はすべて債権者に対する「公平性」が求められるため、一部の債権者に対してのみ優先した支払いは固く禁じられています

しかし家賃を滞納したまま放置してしまえば、自己破産する前に追い出される可能性があるため、早めに専門家に相談するなど借金問題解決に向けた検討が必要といえるでしょう。

まとめ

自己破産で今住んでいる市営住宅を追い出されてしまわないか不安を抱える方もいるようですが、市営住宅など公営住宅は経済的に厳しい方のための住宅であるため、自己破産を理由に追い出されることはありません。

しかし家賃滞納が3か月以上続けば、強制退去を求められることになってしまいます。

退去後に住む場所が思いつかない場合など、役所の生活福祉課に相談するなど早めの対応も必要になります。

そのような事態に陥らないためにも、借金で悩んでいるときには早めの対処が必要であり、状況次第では自己破産以外の別の債務整理で解決できることもあるかもしれません。

自己破産をするべきか迷っている場合には、一度グリーン司法書士法人グループへご相談ください。

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自己破産後は市営住宅を追い出される?
自己破産後に市営住宅を追い出されるケースは、下記の通りです。
・家賃滞納が続いた場合
・収入が一定基準を超えた場合
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