離婚慰謝料の踏み倒しはどうなる?裁判後の差し押さえリスクと対処法

司法書士市川有美

監修者:グリーン司法書士法人   市川有美
【所属】東京司法書士会 登録番号東京第9784号 【保有資格】司法書士

借金返済の知識
離婚慰謝料の踏み倒しはどうなる?裁判後の差し押さえリスクと対処法

この記事は約 13 分で読めます。

離婚の際に取り決めた慰謝料が支払われず、踏み倒されてしまうケースは少なくありません。
慰謝料請求を行った側にとっては生活に関わる深刻な問題であり、支払う側にとっては今後のペナルティが懸念されます。

慰謝料の踏み倒しは法的に認められておらず、支払いを無視し続けると、最終的に財産の差し押さえといった強制的な手段が取られる可能性があります。

この記事では、慰謝料を踏み倒した場合のリスクと、支払いがない場合の回収手順、そして支払いが困難な場合の対処法について解説します。

目次 ▼

1章 慰謝料の踏み倒しは可能?支払いを無視し続けた場合のリスク

結論から言うと、慰謝料の踏み倒しは不可能です。

口約束であっても支払い義務は発生し、合意書や公正証書があれば法的な強制力を持ちます。
支払いを無視し続けると、まずは内容証明郵便などによる催促があり、それでも応じない場合は訴訟に発展します。

最終的には裁判所の命令に基づき、給与や預貯金といった財産が強制的に差し押さえられるため、支払いを逃れ続けることはできません。

1-1 訴訟を起こされ、裁判に発展する可能性

慰謝料の支払いを無視し、催促にも応じない場合、慰謝料を請求する側は支払い(債務)を確定させるために民事訴訟を起こす可能性があります。

裁判になると、慰謝料の支払い義務の有無や金額が法的に判断され、判決という形で公的な効力を持つ決定が下されます。
この判決は「債務名義」となり、後の強制執行(差し押さえ)の根拠となるため、支払いを拒否し続けることは極めて困難な状況になります。

1-2 給与や預貯金など、財産が差し押さえられる

裁判の判決や、強制執行認諾文言付きの公正証書があるにもかかわらず慰謝料を支払わない場合、最終手段として強制執行の手続きが取られます。

これは、国の権力によって強制的に財産を差し押さえ、慰謝料の支払いに充てる制度です。
対象となる財産は給与や預貯金、不動産など多岐にわたります。

特に給与の差し押さえは、裁判所から勤務先に直接通知がいくため、経済的な打撃だけでなく社会的な信用を失うリスクも伴います。

1-3 遅延損害金を請求される

慰謝料の支払いが定められた期日を過ぎると、本来支払うべき元金に加えて「遅延損害金」が発生します。
これは、支払いが遅れたことに対する損害賠償金です。

例えば、浮気によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料の支払いが遅れることで、被害者はさらなる経済的・精神的な負担を強いられます。

遅延損害金の利率は、当事者間の合意がなければ法定利率(年3%)が適用され、支払い総額は時間とともに増え続けていきます。

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2章 差し押さえの対象となる財産一覧

強制執行の対象となる財産は、債務者の所有する金銭的な価値のある物や権利全般に及びます。

これを「責任財産」と呼び、代表的なものには給与や預貯金、不動産などがあります。
ただし、生活に最低限必要な家財道具など、法律で差し押さえが禁止されている財産も一部存在します。

ここでは、具体的にどのような財産が強制執行の対象となるかを解説します。

2-1 毎月の給与やボーナスの一部

給与やボーナスは、差し押さえの対象として代表的なものです。

法律上、生活を保障するために全額を差し押さえることはできず、原則として手取り額の4分の1が上限とされています。
ただし、養育費などを含む場合は2分の1まで差し押さえが可能です。

差し押さえが決定すると、裁判所から勤務先に「債権差押命令」が送付され、会社は差し押さえ分を差し引いた給与を本人に支払うことになります。

2-2 銀行口座の預貯金

銀行などの金融機関に預けている預貯金も、差し押さえの対象となります。

裁判所から金融機関に対して差押命令が出されると、その時点で口座にある残高から、請求されている慰謝料の額が強制的に引き落とされます。複数の銀行に口座を持っている場合でも、債権者が口座を特定できれば差し押さえが可能です。

給与の振込口座が対象になると、生活に大きな影響が及ぶ可能性があります。

2-3 自宅や土地などの不動産

債務者が所有する自宅や土地、マンションといった不動産も差し押さえの対象です。
不動産は価値が大きいため、他の財産で回収が難しい場合の最終的な手段となることが多いです。

差し押さえられた不動産は、裁判所によって競売にかけられ、売却代金が慰謝料の支払いに充当されます。共有名義の不動産であっても、債務者の持分のみを差し押さえることが可能です。

2-4 自動車や貴金属などの動産

自動車やバイク、宝飾品、美術品、有価証券といった動産も差し押さえの対象となります。

執行官が債務者の自宅などを訪れ、換価価値のある物を差し押さえます。
差し押さえられた動産は競売などで売却され、その代金が支払いに充てられます。

ただし、生活に不可欠な衣服や寝具、台所用品など、法律で差し押さえが禁止されている動産は対象外です。

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3章 慰謝料が支払えない場合の現実的な対処法

リストラや病気など、予期せぬ事情で慰謝料の支払いが困難になることもあり得ます。
しかし、支払えないからといって連絡を絶ったり無視したりするのは最悪の選択です。
強制執行などの法的措置に発展し、事態をさらに悪化させる可能性があります。

支払いが困難な場合は、踏み倒しを考えるのではなく、誠実な姿勢で相手と交渉することが重要です。
必要であれば、法律の専門家である弁護士に相談し、適切な対処法を検討するべきです。

3-1 分割払いに変更できないか交渉する

慰謝料が一括で支払えない場合、まずは相手に対して分割払いに変更してもらえないか交渉することが現実的な対処法です。

その際は、なぜ支払いが困難なのかという具体的な理由と、分割であれば毎月いくらなら確実に支払えるのかという現実的な計画を誠実に伝えることが重要です。
相手側も、全く支払われないよりは分割でも支払ってもらえる方が良いため、交渉に応じてもらえる可能性は十分にあります。

3-2 慰謝料の減額を求めて相手と再交渉する

離婚時に慰謝料を取り決めた後、失業や病気、自己破産など、予測できなかった事情によって支払い能力が著しく低下した場合、慰謝料の減額を求めて再交渉することも選択肢の一つです。

ただし、単に「支払いたくない」という理由では認められません。
収入が大幅に減少したことを示す源泉徴収票や、病気の診断書など、客観的な証拠を提示して誠実に交渉する必要があります。

当事者間での合意が難しい場合は、裁判所に調停を申し立てる方法もあります。

3-3 自己破産を検討する

多額の借金を抱え、慰謝料の支払いも困難な場合、自己破産という選択肢が考えられます。

自己破産が裁判所に認められ、免責許可が下りれば、原則として借金の支払い義務は免除されます。

慰謝料も基本的には免責の対象となりますが、例外も存在します。
DVや悪質な不貞行為など、「悪意で加えた不法行為」に基づく慰謝料は「非免責債権」とされ、自己破産をしても支払い義務が残るため注意が必要です。

自己破産で免責される賠償金については以下の記事で解説しています。

4章 相手が慰謝料を支払わない場合の回収手順

一方、慰謝料を受け取る側の立場としては、慰謝料の支払いが約束通りに行われない場合でも、泣き寝入りする必要はありません。
法的な手続きを踏むことで、強制的に回収することが可能です。

まずは書面での催促から始め、それでも支払いがない場合は裁判所の制度を利用して段階的に対応を進めていくのが一般的です。

ここでは、具体的な回収手順をステップごとに解説します。

4-1 内容証明郵便で支払いを催促する

相手からの支払いが滞った場合、最初のステップとして有効なのが内容証明郵便の送付です。
これは、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰宛に差し出したかを郵便局が証明する制度です。

電話やメールでの催促と異なり、請求の意思を明確に伝えることで相手に心理的なプレッシャーを与え、支払いを促す効果が期待できます。また、時効の完成を一時的に阻止する「催告」としての効力も持ち、後の裁判で重要な証拠となります。

4-2 家庭裁判所に履行勧告を申し立てる

離婚調停や審判で慰謝料の支払いが決定したにもかかわらず、相手が支払わない場合には、家庭裁判所に「履行勧告」を申し立てることができます。

これは、裁判所が支払い義務者に対し、取り決め通りに支払うよう説得や勧告を行う手続きです。手数料はかからず、簡易的な方法で利用できるメリットがあります。

ただし、履行勧告には法的な強制力はないため、相手がこれに応じない場合は、次の強制執行の手続きを検討する必要があります。

4-3 債務名義をもとに強制執行を申し立てる

催促や履行勧告をしても支払いがない場合、最終的な手段として強制執行(差し押さえ)を申し立てます。

この手続きには、支払い義務を公的に証明する債務名義が必要です。
債務名義には、確定判決、和解調書、調停調書、そして強制執行認諾文言付きの公正証書などがあります。

債務名義があれば、地方裁判所に申し立てを行うことで、相手の給与や預貯金といった財産を特定し、強制的に差し押さえて慰謝料を回収することが可能です。

5章 慰謝料の踏み倒しを未然に防ぐための対策

慰謝料は、離婚後の生活を再建するための重要な資金です。
しかし、口約束だけで済ませてしまうと、後から「言った言わない」のトラブルになりやすく、支払いが滞った際の回収も困難になります。

慰謝料の踏み倒しリスクを減らすためには、離婚時に法的に有効な形で支払い合意を記録しておくことが極めて重要です。

ここでは、未払いを未然に防ぐための具体的な対策を3つ紹介します。

5-1 公正証書を作成しておく

慰謝料の支払いを確実にするために最も有効な方法の一つが、公正証書の作成です。

これは、公証人が法律の専門家として作成する公的な文書であり、高い証明力を持ちます。
特に、「強制執行認諾文言」を盛り込んだ公正証書を作成しておけば、万が一支払いが滞った場合に、裁判を起こすことなく直ちに相手の給与や財産を差し押さえる強制執行の手続きが可能となります。

5-2 離婚調停や裁判で法的に支払い義務を確定させる

当事者間の話し合いで慰謝料の合意が難しい場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てる方法があります。

調停では、調停委員を介して中立的な立場で話し合いが進められ、合意した内容は「調停調書」に記載されます。
この調停調書は、裁判の判決と同じ法的効力(債務名義)を持つため、支払いが滞った際には強制執行の根拠となります。

裁判を経て支払い義務を確定させることで、確実な回収が可能になります。

5-3 連帯保証人を立ててもらう

相手の支払い能力に不安がある場合、連帯保証人を立ててもらうことも有効な対策です。

連帯保証人は、主たる債務者(慰謝料を支払う側)と同等の支払い義務を負います。
そのため、万が一支払いが滞った際には、連帯保証人に対して直接慰謝料全額の支払いを請求することが可能です。

資力のある親族などに連帯保証人になってもらうことで、慰謝料回収の確実性が大幅に高まります。

6章 慰謝料の踏み倒しトラブルは弁護士への相談が解決の近道

慰謝料の踏み倒しは、当事者だけで解決しようとすると感情的な対立が深まり、問題が複雑化しがちです。被害者側は回収手続きの煩雑さに悩み、加害者側は差し押さえのリスクに怯えることになります。

このようなトラブルは、法律の専門家である弁護士に相談することで、法的な観点から最適な解決策を見出すことができます。
専門家のサポートを得ることで、精神的な負担を軽減し、スムーズな問題解決につながります。

【被害者側】 差し押さえ手続きをスムーズに進められる

相手が慰謝料を支払わない場合、最終的には強制執行による財産の差し押さえを検討します。
しかし、この手続きには相手の財産(勤務先や預金口座など)を特定する必要があり、個人で行うのは困難な場合があります。

弁護士に依頼すれば、職務上の権限を用いて財産調査を行ったり、複雑な裁判所への申し立て手続きをすべて代行してもらえるため、スムーズかつ確実に慰謝料を回収できる可能性が高まります。

【加害者側】 相手との減額交渉を代理してもらえる

やむを得ない事情で慰謝料の支払いが困難になった場合、弁護士に依頼することで、相手との減額や支払い条件の変更交渉を代理してもらうことができます。

当事者同士では感情的になりがちな話し合いも、弁護士が間に入ることで、法的な根拠に基づいた冷静な交渉が可能になります。

支払い能力の現状を客観的に説明し、現実的な解決策を提示することで、相手の理解を得やすくなり、円満な解決を目指せます。

慰謝料の踏み倒しに関するよくある質問

慰謝料の踏み倒しに関して、多くの方が疑問に思う点について解説します。

Q.慰謝料の支払い約束に時効はありますか?

はい、慰謝料の支払い約束には時効があります。
当事者間の話し合い(協議離婚)で決めた場合の時効期間は、離婚が成立した時から3年です。一方、調停や裁判で慰謝料の支払いが確定した場合は、確定した日の翌日から10年となります。

ただし、相手が支払い義務を認めたり、内容証明郵便で催告したりすることで時効の進行を中断・更新させることが可能です。

Q.相手に財産がない場合、慰謝料は回収できないのでしょうか?

現時点で相手に差し押さえる財産がない場合でも、慰謝料請求の権利がなくなるわけではありません。

将来的に相手が就職して給与を得たり、財産を相続したりした時点で、差し押さえが可能になります。
すぐに回収できなくても諦めず、定期的に相手の財産状況を調査することが重要です。

弁護士に依頼して財産開示手続などを行う方法もあります。

強制執行で差し押さえるものがない場合の対処法については以下の記事で解説しています。

Q.慰謝料を踏み倒そうとすると、職場に連絡がいくことはありますか?

はい、連絡がいく可能性があります。

慰謝料請求を無視し続け、最終的に給与の差し押さえが行われる場合、裁判所から勤務先へ「債権差押命令」という通知が送付されます。
これにより、会社は慰謝料の未払いという事実を知ることになり、給与から天引きして支払う手続きを行うため、職場に知られることは避けられません。

まとめ

離婚における慰謝料の踏み倒しは、法的に認められていません。
支払いを怠れば、最終的には給与や預貯金などの財産が差し押さえられるという重大なリスクを負います。
被害者側には、内容証明郵便による催告から強制執行まで、段階的な回収手段が用意されています。

慰謝料の支払いは民事上の契約であり、双方に誠実な対応が求められます。
トラブルが深刻化する前に、加害者側も被害者側も、早期に弁護士へ相談することが賢明な判断です。

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