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一度自己破産をした人が起業を考える場合、まず不安に思うことは融資は受けられるのだろうか?ということではないでしょうか。自己破産後でも融資は可能かどうか?そして、再起するために受けられる融資制度はあるのか?について解説します。
- 自己破産手続き後に融資を受けることは難しいこととその理由
- 自己破産がその後の起業に及ぼす影響
- 自己破産後に申し込みできる融資制度について
目次 ▼
1章 自己破産手続き後に融資を受けることはできる?
自己破産の手続きをすると、その後起業するにあたり制約があることは確かです。理由は、自己破産を行ったことにより、信用情報に事故情報が登録されるからです。この事故情報はいずれ削除されます。しかし、手続き後一定の期間が過ぎて事故情報が削除されるまでは、融資を受けることは難しいでしょう。
1ー1 ブラックリストの状態にある7年は難しい
ブラックリストの状態とは、信用情報に事故情報が登録されている状態を指します。ブラックリストと呼ばれるリストが存在するわけではありません。融資の申し込みを受けた金融機関は、審査の際本人の支払い能力を確認するために信用情報を参照します。そこで、事故情報が登録されていることがわかると、融資の審査に通りにくくなってしまうのです。
ブラックリストの状態になる期間は、自己破産手続きの場合は約7年とされています。つまり、自己破産手続き後7年間は、融資を受けることが難しくなります。
1ー2 事故情報が削除された後でも難しいケース
また、事故情報が削除された後でも、融資を受けることが難しいケースがあります。自己破産手続きの際に取引をしていた銀行などは、事故情報が消えても自社でその情報を記録していることがあります。これは社内ブラックと呼ばれ、自社内だけでなくグループ会社内でも社内ブラックの情報は共有されています。そのため、自己破産手続き時に関係のあった金融機関およびその関連会社からは、7年が過ぎても融資を受けるのは難しいと心得ましょう。
2章 自己破産が起業に及ぼす影響
自己破産手続きはその後の起業を考える人にどんな影響を与えるのか、いくつか挙げてみました。一つずつ解説します。
2ー1 新たな借り入れは難しい
前章でも述べとおり、信用情報に事故情報が登録されてしまうことから、自己破産手続き後の7年間は新たな借り入れが難しくなります。
また、手続き後の借り入れが難しいのであれば、手続き中にこっそり借金をしようと考える人もいらっしゃるかも知れません。手続き中に借金をすることは、もちろん禁止されています。また、管財事件の場合、破産者の郵便物はすべて管財人に転送される期間があります。これは、資産隠しを防いだり、破産手続きの透明性を保持したりするのが目的です。借金申し込みに関する郵便物が管財人に転送され、手続き中に借り入れをしようとしたことがバレてしまうでしょう。
2ー2 起業資金に自身の資産を充てることは難しい
自己破産手続き後は、資産価値の高い財産などは処分されてしまい手元に残っていない状態です。生活するための必要最低限の財産で再出発することになるため、手元に残った財産からまとまった額の起業資金を捻出することは難しいでしょう。
破産手続き後に手元に残すことができる「自由財産」と呼ばれる財産は、大まかには下記に示す財産です。
- 99万円以下の現金等
- 破産手続開始後に取得した財産(新得財産)
- 法律で差押えが禁止されている財産
- 裁判所が自由財産拡張を認めた財産
- 破産管財人が破産財団から放棄した財産
破産手続開始後に取得した財産(新得財産)には、例えば破産手続開始決定後にご自身が得る給与収入などがあります。
法律で差押えが禁止されている財産とは、主なものとしては生活に必要な財産があります。例えば、生活必需品であるベッドやタンスといった家具類、洗濯機や冷蔵庫といった家電製品、事業のために必要な財産(農家であれば農機具など)などです。
自由財産の拡張とは、上記の自由財産以外に裁判所が認めた生活必需品のことです。
自由財産拡張を認めた財産については、「借金返済ノウハウ」の下記の記事で詳しく解説していますので、詳しく知りたい方は参考になさってください。
2ー3 破産手続き中は職業や資格、居住地の制限がある
自己破産手続き中は、例えば警備員や生命保険募集人、建築業を営むなど一部の職業に就けなかったり、会社の取締役や執行役員になれなかったりという制限があります。また破産法では、裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができないと定められています。起業準備のためにと、勝手に引越しをすることはできません。
しかし、これらの制限は破産手続き中の期間だけであり、手続きが終了すれば制限はなくなります。そのため、手続き中に制限にかかる行動をとらなければ、何の問題もありません。
2ー4 新たに事務所の賃貸借契約をすることが難しい
起業のため、新たに事務所の賃貸借契約を考える人もいらっしゃるでしょう。しかし、自己破産によって、信販系の賃貸保証会社を利用している賃貸物件と賃貸借契約をすることは難しくなります。限られた物件の中で事務所を探すことになる可能性があることは、頭に入れておきましょう。
2ー5 取引先との信頼関係が損なわれる可能性も
自己破産する前に行っていた事業を再び別の形態で行う場合(手続き前の事業をそのまま引き続き行うことはできません)、かつての取引先と必ず取引きを再開できるとは限りません。取引先へ未払い金を残した状態で自己破産をしていたり、従業員を抱えたまま倒産したりしていた場合には、取引先との信頼関係が損なわれ再び取引ができない可能性もあります。
2ー6 自己破産の経験が自身の考えに影響することも
自己破産という経験は、人生の中で誰の身にも起こる出来事ではありません。手続き後再度起業を目指すご自身に、この経験がよくも悪くも様々な影響をもたらす可能性があります。例えば、一度事業の失敗を経験していることから、経営に関する判断がより慎重になる人は少なくありません。それが良い結果をもたらす場合もあれば、その逆の可能性もあるでしょう。また、事業が不調な時には、過去の経験から「ダメでもまた一からやり直せばいい」と動揺することなく事業を遂行していける強い精神力を発揮できる可能性もあります。自己破産という経験が、思いもしなかった考え方や心の持ち様をご自身に持たらすかも知れません。
3章 自己破産後でも申し込みできる融資制度
自己破産手続きをしたら融資を受けられないと、諦める人も少なくないようです。しかし、自己破産後でも申し込みできる融資制度はあります。ただし、利用できる要件は厳しくなっています。
3ー1 日本政策金融公庫の再チャレンジ支援融資
日本政策金融公庫が行っている融資の一つ「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」です。廃業された方を対象とした融資制度で、一度事業に失敗し廃業や自己破産をしている人でも融資を申し込みすることができます。
3ー1ー1 利用できる要件
新たに開業する方または開業後おおむね7年以内の方で、次のすべてに該当する方という要件があります。
- 廃業歴等を有する個人または廃業歴などを有する経営者が営む法人であること
- 廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込みなどであること
- 廃業の理由・事情がやむを得ないものなどであること
3ー1ー2 融資限度額と返済期間
再挑戦支援資金の融資限度額と返済期間は、それぞれ下記の通りです。
対象者 | 個人事業主向け | 中小企業向け |
融資限度額 | 7,200万円 (運転資金は4,800万円) | 7億2,000万円 |
返済期間 | 設備資金20年以内運転資金15年以内 | 設備資金20年以内運転資金15年以内 |
3ー1ー3 利用するときの注意点
- 自己破産の免責確定後に制度を利用する
過去の廃業による債務が整理できていなければならないため、自己破産の免責許可決定を受けていることが必要です。
- 過去7年以内に廃業歴がある場合に制度を利用できる
再挑戦支援資金は、廃業から7年以内に制度を利用する必要があります。
- 廃業の理由や事情がやむを得ないものである
利用要件に、「廃業の理由や事情がやむを得ないものである」とあります。そのため、「普通に事業を行っていたが、経営がうまくいかず廃業した」などの場合は対象外になります。実際には、震災などの事情で事業が傾いたが、その後の起業で再挑戦支援資金が利用できたケースがあるようです。
- 開業の分野が未経験ではない
事業を開業する分野は、できれば未経験のものではなく、これまで行っていた事業やその分野に関連する事業の方が、利用できる確率は高まりやすいと考えられます。
3ー2 信用保証協会の再挑戦支援保証
経営状況の悪化で過去に営んでいた事業を廃止または会社を解散した経験がある方の再挑戦を、信用保証協会が支援する保証制度です。ただし、信用保証協会の場合は、日本政策金融公庫のように直接資金の融資をするのではなく、融資についての保証をするという形になります。
再挑戦支援保証は、信用保証協会ごとの制度となるため、すべての信用保証協会でこの制度が用意されているわけではありません。例として、横浜市信用保証協会の「創業おうえん資金」について下記に記しますが、ご自身の自治体で再挑戦支援保証を取り扱っているかどうか確認していただく必要があります。
横浜市信用保証協会の「創業おうえん資金」
対象者 | ①これから創業する方で1ヶ月以内に市内で個人事業を開始する方又は2ヶ月以内に市内で会社を設立し事業を開始する方 ②すでに創業していて次のいずれかに該当する方 ⑴個人事業を開始又は会社を設立し5年未満の方⑵個人事業を開始した後新たに会社を設立した方が事業の譲渡により事業の全部又は一部を当該会社に承継させる場合であって個人事業を開始して5年未満の方⑶事業を継続している会社により新たに設立された会社で設立の日から5年未満の方 |
融資限度額 | 3,500万円以内 |
融資期間 | 10年以内 |
3ー3 借入先がなくてもヤミ金には手を出さない
起業で再起するための融資制度ですが、条件や審査が厳しく申し込みをすれば必ず融資を受けられるわけではないのが厳しいところです。しかし、融資が受けられず自暴自棄になって借金できるならどこでもいいと、ヤミ金に手を出すことは絶対にやめましょう。一時的に資金調達ができても、後になって違法な金利や厳しい取り立てで苦しくなるのは目に見えています。
4章 自己破産後に融資を受けないで起業を目指す
自己破産後に起業するには、開業資金を用意できるかがポイントです。しかし、融資を受けるのが難しい場合には、融資を受けないで起業を目指すことも視野に入れてみましょう。
4ー1 起業をすること自体に制限はない
自己破産をすると、所有していた高額の財産などは手元に残っておらず、起業するために融資を受けようとしても非常に難しいことをお伝えしました。このように、起業についての制限は大きいものですが、自己破産手続きが終了すれば、少なくとも手続きにおける制限や手続中であることの重圧からは解放されます。自己破産後は一切の法律上の制限がなくなり、起業すること自体も自由です。
4ー2 自己資金を貯める
自己破産後の新たな生活の中で自己資金をコツコツと貯め、近い将来の起業を目指します。自分の資金ですから返済の必要はありませんし、少ないリスクで起業できることになります。起業に必要な最低限の資金を計算し、現在の収入から必要な生活費などを差し引いて起業するための貯蓄額を決めましょう。最初は無理のない環境で起業して、軌道に乗ったら少しずつ環境を整備していくこともできます。
4ー3 初期費用を抑える
初期費用をできるだけ低く抑え、必要最低限の環境で起業します。店舗や専門の機械が必要な業種では、多額の初期費用がかかってしまいます。実店舗や機械を必要としないなど、初期費用を抑えることが可能な業種への変更を検討するのも良いかも知れません。
4ー4 共同経営者を探す
経営者であるご自身が自己破産すると、融資を受けたり事務所を契約したりすることが難しくなります。その点共同経営者が見つかれば、ご自身の代わりに借入や融資の申し込みを行ってもらえる可能性があります。また、同意が得られれば、家族に代表になってもらうという方法もあります。いずれの場合も、共同経営者や家族が、ブラックリストの状態でないことが前提になります。
5章 まとめ
自己破産をした後でも起業することは可能です。しかし、自己破産後に融資を受けるのは難しい、賃貸物件の契約をすることが厳しい等、いくつかの制約を受けることになります。それでも、もう一度起業しようと考える方は、自己破産後でも申し込みできる融資制度の利用や、自己資金を貯めてから起業する、初期費用を抑えて起業するなどの方法を検討してみましょう。
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