- 遺産分割協議書とは何か
- 遺産分割協議書を作成する流れ、作成時のポイント
- 遺産分割協議書の作成を依頼できる専門家
相続人全員で「誰がどの遺産をどれくらい相続するか」を話し合う遺産分割協議を終えたら、協議内容を遺産分割協議書でまとめる必要があります。
遺産分割協議書は、遺産分割協議の内容を証明する書類になりますし、不動産の名義変更に必要な書類です。
なお、遺産分割協議書は相続人が自分で作成もできますが、司法書士や行政書士などの専門家に作成を依頼することも可能です。
本記事では、遺産分割協議書とは何か、作成方法や作成時の注意点をわかりやすく解説していきます。
目次
1章 遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、相続人同士で合意した遺産の分け方が記載されている書類です。
亡くなった人が遺言書を作成していない場合には、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの遺産をどれくらい相続するかを決めます。
そして、遺産分割協議で決定した内容を誰が見てもわかるようにまとめた文書が遺産分割協議書です。
一般的な遺産分割協議書の例は、下記の通りです。
1-1 遺産分割協議書が持つ2つの効力
遺産分割協議書は、遺産分割協議書の内容を法的に証明する書類です。
そのため、相続登記などを始めとした相続手続きに使う証明書としても活用します。
遺産分割協議書が持つ2つの効力を確認していきましょう。
相続人同士の契約書としての効力
遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印します。
そのため、相続人全員は遺産分割協議書に記載された内容に拘束されるともいえるでしょう。
遺産分割協議書を見れば、どの様に遺産を分けたのかが一目で分かるので、言った言わないの相続トラブルを防げます。
もし、遺産分割協議がまとまった後に内容に異議をとなえる人が出てきても、遺産分割協議書は裁判の証拠としても活用可能です。
相続手続きに使う証明書としての効力
相続が発生すると、不動産や預貯金などを相続人名義に変更する様々な相続手続きが必要です。
相続手続きを行う際には、誰がその遺産を受け継ぐのかを証明する証明書として遺産分割協議書を法務局や税務署、金融機関に提出します。
1-2 遺産分割協議書の作成が不要なケース
全ての相続で遺産分割協議書の作成が必要なわけではなく、以下のケースでは遺産分割協議書を作成する必要がありません。
- 相続人が1しかいないケース
- 遺言で全ての遺産について誰がどの遺産を取得するのか記載されているケース
ただし、遺言があっても一部の遺産が漏れている場合は、遺産分割協議書が必要です。
逆に言えば、上記以外の相続では遺産分割協議書の作成をしなければなりません。
次の章では、遺産分割協議書を作成しないデメリットを解説していきます。
2章 遺産分割協議書を作成しないリスク
遺産分割協議書の作成は期限が決められているわけでもなく、作成しなくても罰則等はありません。
しかし、遺産分割協議書を作成しないと以下の3つのデメリットがあります。
- 不動産の名義変更等の相続手続きができなくなる
- 他の相続人等の第三者に自分の遺産を処分される可能性がある
- 相続税の控除が受けられない可能性がある
それぞれ詳しく確認していきましょう。
2-1 不動産の名義変更等の相続手続きができなくなる
故人が遺言書を遺していなかった場合、遺産分割協議書を作成しないと多くの相続手続きができません。
例えば、遺産分割協議をしたけど、遺産分割協議書を作成せずに数年が経過したような場合、いざ相続手続きをしようとしても、遺産分割協議書がないと相続手続きを受け付けてもらえません。
さらに、相続手続きを放置していた数年の間に、相続人の中に亡くなった人や認知症になってしまった人がいたり、意見が変わる相続人がいて協力してくれなかったり、遺産分割協議書の作成自体が困難になる恐れもあります。
遺産分割協議が完了したら、すぐに遺産分割協議書を作成し内容をまとめておきましょう。
2-2 他の相続人等の第三者に自分の遺産を処分される可能性がある
遺産分割協議書を作成してきちんと相続手続きをしておかないと、他の相続人に勝手に賃貸に出されたり預貯金を勝手に引き出されたりしたときに、自分が正当な権利者だと主張できません。
裁判をおこしても、遺産分割協議書が無いことで証拠を提出するのが難しくなり、場合によっては権利を失う恐れもあります。
2-3 相続税の控除が受けられない可能性がある
相続税には、控除や特例制度が用意されています。
例えば、配偶者が財産を相続した場合には、1億6,000万円までは相続税がかかりません。
これらの控除や特例を利用するために、相続税申告をする際には添付書類として遺産分割協議書の提出が必要です。
最悪の場合、相続税申告時に遺産分割協議書を提出できないと、控除や特例を受けられない場合もあります。
また、相続税は受け取る遺産の割合に応じて納税する義務が発生します。
しかし、遺産分割協議書を提出できなければ、自分が受け取った割合より多くの相続税を負担しなければならない恐れもあるのでご注意ください。
このように、遺産分割協議書を作成しないと様々なデメリットがあるので、必ず作成するようにしましょう。
次の章では、遺産分割協議書を作成する流れを紹介していきます。
3章 遺産分割協議書を自分で作成するメリット・デメリット
遺産分割協議書の作成は相続人が自分たちで行えます。
自分たちで遺産分割協議書を作成した場合、作成費用がかからないなどのメリットがある一方で、作成に手間がかかる、トラブル発生時に対応が難しいなどのデメリットがあります。
遺産分割協議書を自分で作成するメリット、デメリットについて詳しく見ていきましょう。
3-1 遺産分割協議書を自分で作成するメリット
遺産分割協議書を自分で作成した場合、専門家に報酬を支払わないので費用を抑えられるなどのメリットがあります。
具体的なメリットは、主に下記の通りです。
- 遺産分割協議書の作成費用を抑えられる
- 専門家に相談する手間が省ける
遺産分割協議書を自分たちで作成した場合、専門家に支払う報酬を抑えられます。
遺産分割方法がシンプル、相続人同士でトラブルが起きない場合は自分たちで遺産分割協議書を作成してしまうのも良いでしょう。
3-2 遺産分割協議書を自分で作成するデメリット
遺産分割協議書を自分で作成すると、作成に手間がかかる、相続人同士でトラブルに発展する恐れがあるなどのデメリットがあります。
具体的なデメリットは、下記の通りです。
- 要件を満たさず無効になる恐れがある
- 作成に手間と時間がかかる
- 相続人同士でトラブルに発展する恐れがある
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため、後から隠し子の存在が明らかになったケースなど遺産分割協議書が無効になってしまいます。
司法書士などの専門家に遺産分割協議書の作成を依頼すれば、相続人調査や相続財産調査から行ってもらえるので無効になるリスクを減らせます。
4章 遺産分割協議書を作成する流れ
遺産分割協議を行い、決定した内容をもとに遺産分割協議書を作成する流れは、主に上記の通りです。
それぞれの流れ別に詳しく解説していきます。
Step1 相続人調査・財産調査
まずは、相続人調査と財産調査を行いましょう。
遺産分割協議は、必ず相続人全員で行わなければなりませんので相続人調査は重要です。
相続人調査は、亡くなった人の戸籍をたどって、相続人は本当に自分たちが把握している人だけなのか?ということを調べていく作業です。
亡くなった人の戸籍を死亡時からさかのぼって取得していく、取得した戸籍の内容を読み取る作業が必要になるので、慣れていない人には難しいかもしれません。
相続人調査と並行して相続財産の調査を行っていきましょう。
亡くなった人が遺した不動産や預貯金、有価証券などの有無や金額を調べていきます。
また、相続財産には不動産や預貯金などのプラスの資産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
こちらの調査も合わせて行っておきましょう。
Step2 相続人全員で遺産の分け方について合意
次に、相続人全員で誰がどの遺産をどれくらいの金額で取得するのかを話し合いましょう。
相続人のうちの誰か1人でも反対する人がいれば、遺産分割協議は成立しませんので必ず全員で話し合いましょう。
Step3 合意した内容を基に遺産分割協議書を作成しましょう。
相続人全員が遺産分割協議で決めた内容に合意すれば、次はいよいよ遺産分割協議書の作成です。
下記に作成のポイントをまとめた図を掲載します。
なお、遺産分割協議書には決まった形式はありませんが、いくつか作成時に注意しなければならない点があります。
次の章では、遺産分割協議書を作成する際のポイントを詳しく解説します。
当メディアでもダウンロード可能な遺産分割協議書の雛型を用意いたしました。ぜひご活用ください。
【ケース別】遺産分割協議書の雛型一覧
5章 遺産分割協議書作成時のポイント5つ
遺産分割協議書の形式は決められていないので、誰がどのように遺産を相続するかを記載していれば、問題ありません。
しかし、内容に不備があった場合、遺産分割協議書が無効と判断される恐れもあるので注意が必要です。
遺産分割協議書を作成する際のポイントは、下記の5つです。
- パソコンでの作成も認められている
- 相続人は続柄だけでなく氏名まで記載する
- 遺産分割協議後に発見された相続財産の取り扱いも記載しておく
- 複数ページにおよぶ場合には契印をしておく
- 遺産分割協議書は人数分用意しておく
パソコンでの作成も認められている
遺産分割協議書は、手書きで作成する必要はなくパソコンでの作成も認められています。
ただし、相続人全員の署名に関してはパソコンによる記名でなく、自筆で署名した方が効力を高められます。
相続人は続柄だけでなく氏名まで記載する
相続人は「妻」や「長男」など故人との続柄を記載するのではなく、「山田花子」や「山田一郎」などのように氏名を記載しておきましょう。
「妻 山田花子」「長男 山田一郎」などのように、続柄を合わせて書いておく分には問題ありません。
遺産分割協議後に発見された相続財産の取り扱いも記載しておく
遺産分割協議書作成後に新たに故人が遺した財産を発見すると、再度遺産分割協議のやり直しが必要になる場合があります。
遺産分割協議のやり直しを避けたい場合には、後から見つかった遺産の取り扱いについても記載しておくのがおすすめです。
「後から見つかった遺産に関しては、山田花子がすべて相続する」などと記載しておけば、遺産分割協議のやり直しは必要なくなります。
複数ページにおよぶ場合には契印をしておく
故人が遺した財産の種類が多く、遺産分割協議書が複数ページに及ぶ場合には、ページの間に契印をしておきましょう。
契印も相続人全員が実印で行う必要があります。
遺産分割協議書は人数分用意しておく
遺産分割協議書は相続人の人数分用意し、各相続人が1部ずつ保管できるようにしておきましょう。
各相続人のもとに遺産分割協議書があれば、相続人ごとに自分が相続した財産の手続きを進められるからです。
6章 遺産分割協議書作成は専門家に依頼できる
3章や4章で解説してきたように、遺産分割協議書の作成は相続人が自分で行えます。
しかし、相続財産の種類や遺産分割の内容によっては作成難易度が高いので、遺産分割協議書の作成を専門家に依頼するのがおすすめです。
6-1 遺産分割協議書の作成を専門家に依頼するメリット
遺産分割協議書を自分で作成せず、専門家に依頼するメリットは下記の通りです。
- 遺産分割協議書を自分で作成する必要がなくなる
- 相続トラブルを避けられる
- 相続手続きが円滑に行える
- 遺産分割に関するアドバイスをもらえる
- 相続人調査や相続財産の調査も一括で依頼できる
相続人が自分たちで遺産分割協議をして手続きをしてしまうと、本来利用できたはずの相続税の控除や特例を使えなくなる恐れがあります。
また、専門家に遺産分割協議の内容を見てもらえば、次の相続である二次相続まで見据えた提案をもらえます。
遺産分割協議書の作成はシンプルで自分たちで作成できると思われがちですが、実は複雑ですべての合意内容を文章化しなければなりません。
細かい認識の相違により相続トラブルが発生することを避けるためにも、専門家への依頼をご検討ください。
また、相続手続きは遺産分割協議書を作成して終了ではなく、預金や不動産の相続手続きなどが必要です。相続手続き時に遺産分割協議書に間違いや漏れがあるとわかると、遺産分割協議自体もやり直しになってしまう恐れがあります。
専門家であれば、ミスなく遺産分割協議書を作成してもらえますし、その後の相続手続きも行ってもらえます。
不動産の相続登記はこれまで義務化されていなく、長年相続登記されずに放置されている土地もありました。
しかし、2024年より相続登記を行うことが義務になります。
もし相続した不動産の変更登記がお済みでないのであれば、まずは相続登記を行いましょう。
相続登記は司法書士に代行してもらうことも可能です。
相続登記の義務化に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
6-2 遺産分割協議書作成を依頼できる専門家
遺産分割協議書の作成を依頼できる専門家は、司法書士や弁護士、行政書士です。
各専門家ごとに強みが異なるので、以下のように相続の状況に応じて、依頼先を使い分けるのがおすすめです。
- 相続人の間で遺産の分け方に争いがある場合:弁護士
- 不動産の相続登記がある場合:司法書士
- 預貯金の解約等の相続手続きがある場合:司法書士または行政書士
上記すべてのケースに言えることですが、必ず相続に関する案件に強い事務所に依頼しましょう。
相続専門のホームページがあるかどうかや電話して実績の確認をとるなどして選ぶと失敗しにくいです。
6-3 専門家に遺産分割協議を依頼したときの費用相場
司法書士や弁護士などの専門家に遺産分割協議書の作成を依頼した場合にかかる費用相場は、下記の通りです。
- 弁護士:依頼人が受け取る経済的利益によって費用が決まる
- 司法書士:数万円程度
- 税理士:相続財産の0.5~1%程度
- 行政書士:3~10万円程度
実際には、遺産分割協議書の作成だけでなく専門家に相続財産調査や相続人調査も任せるケースが多いでしょう。
そのため、依頼内容によって費用が上記と異なる場合があります。
グリーン司法書士法人では、遺産分割協議書作成を税込み2万3,100円からお受けしています。
7章 遺産分割協議書に関するよくあるQ&A
重度の認知症の人が相続人の中に含まれている場合はどうすれば良いのでしょうか?
重度の認知症の方が相続人の中に含まれている場合は、そのままでは遺産分割協議ができません。
認知症になって判断能力を失った人は、遺産分割協議を始めとした法律行為を行えないからです。
成年後見人を家庭裁判所に選任してもらって、その人が重度の認知症の方の代わりに遺産分割協議を行わなければなりません。
ただし、成年後見人を一旦選ぶとその制度を途中で止める事は困難ですし、選任してもらうまでも4ヶ月~6ヶ月と長期間かかります。
認知症の症状によっては、遺産分割協議ができる場合もあるので安易に成年後見を選択せずに、まずは司法書士等に相談してから決定しましょう。
遺産分割協議書は公正証書ですべきでしょうか?
実務上は、遺産分割協議書を公正証書にすることは少ないです。
公正証書とは、公証人役場というところにいる公証人という公務員が関与して作成する書類です。
公正証書を作成するメリットは、以下の通りです。
- 紛失や偽造のリスクが減る
- 金銭の支払い義務は裁判をしなくても差押さえができる
相続人同士の信頼関係がなく、今後もトラブルが発生しそうなケースでは、公正証書にすることもご検討ください。
公正証書の費用は遺産額により変わりますが、3万円~10万円位が一般的です。
遺言書があっても遺産分割協議書は作るのでしょうか?
遺言書があっても、遺産分割協議書を作成しなければならないケースは、主に以下の通りです。
- 遺言があるが、一部の遺産については指定がない場合
- 遺言があるが、相続人全員の合意で遺言とは違う内容の遺産の分け方を決めたい場合
遺産分割協議書を作った後に新たな相続財産が出てきました。再度遺産分割協議書を作るのでしょうか?
最初に作った遺産分割協議書で新たな相続財産についての記載がない場合は、新たな相続財産についての遺産分割協議書を作成しましょう。
遺産分割協議書を新たに作成しなくてすむように、遺産分割協議書内で後から遺産が発見されたときの取り扱いも明記しておくのがおすすめです。
遺産分割協議に期限はありますか?
法律上では、遺産分割協議に期限はありません。
ただし、相続手続き時に遺産分割協議書の提出が必要になるので、相続税申告期限までの相続開始から10ヶ月以内に遺産分割協議書を作成するのが良いでしょう。
遺産分割協議書と遺産分割証明書は何が違いますか?
遺産分割協議書は法定相続人全員の署名と押印が必要なのに対し、遺産分割証明書は相続人個人の署名と押印のみで作成可能です。
相続人が遠方に住んでいる場合や相続人の数が多い場合には、遺産分割協議書ではなく遺産分割証明書の作成を検討しても良いでしょう。
遺産分割協議書は誰が作成するべき?
遺産分割協議は相続人も作成できますが、相続人同士でトラブルになるのを防ぎたい、確実に相続手続きを完了させたい場合は専門家に遺産分割協議書の作成を依頼するのがおすすめです。
まとめ
遺産分割協議が完了したら、決定した内容を遺産分割協議書にまとめましょう。
遺産分割協議書には、相続人間の契約書としての効力や相続手続きに使用するための証明書としての効力を持っています。
遺産分割協議書には決まった形式がなく、ひな形などを参考に相続人が自分で作成することも可能です。
しかし「ミスのない遺産分割協議書を作成したい」「相続登記などの手続きも一括で任せたい」と考えている場合には、司法書士や弁護士、行政書士などの専門家に相談するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、遺産分割協議書の作成を始めとした相続に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
遺産分割協議書は自著で作成する必要がありますか?
遺産分割協議書は、手書きで作成する必要はなくパソコンでの作成も認められています。
ただし、相続人全員の署名に関してはパソコンによる記名でなく、自筆で署名した方が効力を高められます。
▶遺産分割協議書の作成について詳しくはコチラ遺産分割協議書を作成する流れは?
遺産分割協議書を作成する流れは、下記の通りです。
Step1 相続人調査・財産調査
Step2 相続人全員で遺産の分け方について合意
Step3 合意した内容を基に遺産分割協議書を作成しましょう
▶遺産分割協議書を作成する流れについて詳しくはコチラ