遺産分割証明書とは、遺産分割協議で話し合い決定した内容をまとめた文書です。
遺産分割協議で作成する書類には「遺産分割協議書」もありますが、遺産分割協議書は相続人全員が連名で作成し、署名や押印を行う必要があります。
その一方で遺産分割証明書は、遺産分割協議の内容をまとめた文書なので、相続人それぞれが署名や押印をすれば問題ありません。
各相続人が遠方に住んでいる場合や相続人の人数が多く、遺産分割協議書の作成に手間がかかりそうな場合には遺産分割証明書の作成を検討しても良いでしょう。
本記事では遺産分割証明書の作成方法や遺産分割協議書との違いを紹介していきます。
遺産分割協議書の書き方を知りたい人や雛形をダウンロードしたい人は、下記記事もご参考にしてください。
目次
1章 遺産分割証明書とは
遺産分割証明書とは、遺産分割協議で決定した内容をまとめた文書です。
遺産分割協議書と同様に、遺産分割協議の内容を証明する書類として、金融機関や法務局、税務署などに提出できます。
遺産分割協議書は相続人全員で署名、押印するのに対し、遺産分割証明書は相続人が個々に署名、押印して作成します。
遺産分割証明書は、遺産分割協議書作成などの依頼を受けた司法書士や弁護士などの専門家が実務で使用するケースが多いです。
遺産分割証明書と遺産分割協議書の違いを詳しく確認していきましょう。
1-1 遺産分割協議書との違い
遺産分割証明書と遺産分割協議書の違いは、以下の通りです。
- 遺産分割証明書:相続人個人の署名と押印が必要
- 遺産分割協議書:相続人全員の署名と押印が必要
遺産分割証明書は、相続人個人の署名と押印ですむので、作成にそれほど手間がかかりません。
その一方、遺産分割協議書は、相続人全員の署名と押印が必要なので、相続人の数が多い、遠方に住んでいる相続人がいる場合には非常に手間がかかります。
遺産分割証明書も遺産分割協議書と同様に、銀行口座の名義変更手続きなどの相続手続きで活用できます。
相続人の状況に応じて、遺産分割証明書と遺産分割協議書のどちらを作成するのか検討するのが良いでしょう。
2章 遺産分割証明書を作成するメリット
遺産分割証明書を作成するメリットは「相続人全員で作成する必要はなく、各相続人ごとに作成できる点」です。
そのため、相続人が遠方に住んでいる場合や中々連絡を取れないときにも、作成がしやすいです。
遺産分割協議書を作成しようとすると、相続人全員の合意が必要であり、作成した遺産分割協議書を郵送などの方法により持ち回り、署名や押印をする必要があります。
また、書類に不備があるたびに署名や押印を全員でやり直す必要があるので、作成に非常に手間がかかってしまいます。
なお、遺産分割証明書は遺産分割協議書と同様の効力を持つので、作成するにあたり特にデメリットはありません。
次章で解説する遺産分割証明書の作成がおすすめなケースに該当する方は、ぜひ遺産分割証明書の作成をご検討ください。
3章 遺産分割証明書の作成がおすすめなケース
相続人同士が近くに住んでいて、連絡を小まめに取れる状況であれば、相続人全員で署名や押印をする遺産分割協議書を作成するのも良いでしょう。
しかしこれから解説するケースに該当する場合は、遺産分割協議書を作成しようとすると非常に手間と時間がかかり、非効率です。
以下のケースに当てはまる方は、遺産分割証明書の作成をご検討ください。
- 各相続人が遠方に住んでいるケース
- 相続人の人数が多いケース
- 連絡を取りにくい相続人がいるケース
- 住所などを教えたくない相続人がいるケース
それぞれのケースを詳しく解説していきます。
3-1 各相続人が遠方に住んでいるケース
各相続人が遠方に住んでいて、書類の受け渡しを簡単にできない場合には、遺産分割協議書ではなく遺産分割証明書を作成するのが良いでしょう。
本記事でもすでに解説しましたが、遺産分割協議書は相続人全員の署名や押印が必要です。
そのため、相続人同士が遠方に住んでいる場合、下記の手順で遺産分割協議書を作成することになります。
- 相続人全員で遺産分割に関する話し合いを行う
- 話し合いの内容をまとめた遺産分割協議書を作成する
- 作成した遺産分割協議書を各相続人に持ち回り又は郵送して、署名・押印してもらう
遺産分割協議書の郵送(持ち回り)の手間や時間がかかりますし、途中で紛失してしまう恐れもあります。
万が一、遺産分割協議書を作成している途中で書類に不備が見つかれば、作成はいちからやり直さなければなりません。
各相続人が遠方に住んでいる場合には、各相続人が個別に作成できる遺産分割証明書を作成するのがおすすめです。
3-2 相続人の人数が多いケース
相続人の人数が多い場合も、遺産分割協議書ではなく遺産分割証明書を作成するのがおすすめです。
遺産分割協議書は、相続人全員の署名や押印が必要であり、相続人の人数が多ければ多いほど作成に手間がかかってしまいます。
3-3 連絡を取りにくい相続人がいるケース
相続人の中になかなか連絡が取れず、書類の署名や押印、返送に時間がかかる方がいる場合も遺産分割証明書を作成するのが良いでしょう。
遺産分割証明書は、各相続人ごとに作成できるので連絡が取りにくい相続人の返事を他の相続人が待つ必要なく書類を作成できるからです。
3-4 住所などを教えたくない相続人がいるケース
相続人間の仲が悪いなど、できるだけ他の相続人に情報を公開をしたくない場合、遺産分割証明書が有効です。
なぜなら、遺産分割証明書は個人の署名や押印しか必要ないため、一見して他の相続人の住所や署名、印影を確認することができないからです。
厳密に言うと相続人間であれば、戸籍や住民票を調査できるので、他の相続人の個人情報を知ることはできますが、「積極的には開示したくないとお考えのケース」では、遺産分割証明書も有効といえるでしょう。
このようなケースでは、司法書士などの専門家に間に立ってもらって、相続手続きを進めていく方法もあるのでご検討ください。
4章 遺産分割証明書の作成方法・ひな形
続いて、遺産分割証明書の作成方法やひな形を確認していきましょう。
遺産分割証明書は「相続人全員の財産を記載する方法」と「各相続人が自分の取得する財産のみを記載する方法」の2種類に分けられます。
相続財産の中に不動産が含まれる場合には、相続人全員の財産を記載する方法で作成しなければならないので、ご注意ください。
それぞれの作成方法やひな形を詳しく紹介していきます。
4-1 相続人全員の財産を記載する場合の作成方法
相続人全員の財産を記載する場合の遺産分割証明書のひな形は、以下の通りです。
”作成時には以下のポイントに注意”
- タイトル部分には「遺産分割協議証明書」と記載する
- 書き出し部分で「遺産分割の協議が成立したことを証明する」と記載する
- 各相続人が個別に署名と実印で押印をする
- 訂正があったときのために捨印も押しておく
- 亡くなった方の情報、相続財産の詳細、財産を引き継ぐ方法を記載する
- 作成した年月日を記載する
- 署名部分以外は、パソコンでの作成でも問題なし
例えば、相続人の一人が代表して遺産分割証明書をパソコンで作成し、データ共有したものを各相続人が印刷し、署名や押印をして提出することも可能です。
相続人全員の財産を記載する場合は、記載内容は遺産分割協議書とほぼ同じになります。
4-2 各相続人が自分の取得する財産のみを記載する場合の作成方法
各相続人が自分の取得する財産のみを記載する場合の遺産分割証明書のひな形は、以下の通りです。
”作成時には以下のポイントに注意”
- タイトル部分には「遺産分割協議証明書」と記載する
- 書き出し部分で「遺産分割の協議が成立したことを証明する」と記載する
- 各相続人が個別に署名と実印で押印をする
- 訂正があったときのために捨印も押しておく
- 亡くなった方の情報、相続財産の詳細、財産を引き継ぐ方法を記載する
- 作成した年月日を記載する
- 署名部分以外は、パソコンでの作成でも問題なし
例えば亡くなった方の自動車のみを相続し名義変更するケースなどは、遺産分割協議書を用意するのではなく、自分が相続する自動車に関する記載のみをした遺産分割証明書の作成と提出で問題ありません。
5章 遺産分割証明書を作成するときの注意点
最後に遺産分割証明書を作成するときの注意点を4つ紹介していきます。
- 遺産分割証明書の中で日付が遅い日が協議成立日になる
- 遺産分割証明書には捨印を押しておく
- 遺産分割証明書の押印には実印を使う
- 内容に不備なく作成する必要がある
それぞれ詳しく解説していきます。
5-1 遺産分割証明書の中で日付が遅い日が協議成立日になる
各相続人が作成する遺産分割証明書の日付は、ばらばらでも問題ありません。
ただし遺産分割協議の成立日は、遺産分割証明書の中で最も日付が遅い日となります。
5-2 遺産分割証明書には捨印を押しておく
遺産分割証明書を作成するときには、些細なミスがあったときに作成し直す手間を省くためにも、できれば捨印を押しておきましょう。
捨印とは、誤字・間違いがあったときに「訂正印」として使う押印です。訂正印と異なるのは、ハンコを押した本人ではなく、本人に代わって別の人が訂正をするという点です。
代表相続人が書類をまとめるようなケースで、誤字・間違いがあった場合、捨印があれば手元に集まった遺産分割証明書を訂正することができます。
しかし、実印での押印が必要なため捨印を押すことを嫌がる方もいます。
些細なミスの訂正でしか捨印を使用しないことを説明したり、大幅な修正が必要な場合には再度、遺産分割協議や書類の作成をすると理解してもらいましょう。また、信頼関係の浅い相続人間の場合、捨印を求めないという選択肢も検討しましょう。
5-3 遺産分割証明書の押印には実印を使う
遺産分割証明書の押印には、実印を使用しましょう。
署名は自筆で行う必要があります。
更に遺産分割証明書の押印が本人のものであると証明するために、印鑑証明書もセットで用意する必要があります。
相続手続きを行う際には、印鑑証明書は「相続が発生した日以降に取得したものであり、取得から6ヶ月以内のもの」を求められる場合が多いです。
遺産分割証明書と合わせて提出する印鑑証明書を用意する場合には、取得日もよく確認しておきましょう。
5-4 不備なく書類を作成する必要がある
当たり前ですが、遺産分割証明書は内容の不備なく作成しなければなりません。
内容にミスがあると、遺産分割証明書の効力に影響を及ぼす可能性もあります。
特に財産の記載漏れや記載間違いなどは致命的です。
遺産分割証明書の作成をやり直すことになれば、相続手続きや相続税申告も遅れてしまう可能性も高くなるため、必要に応じて相続に詳しい司法書士や弁護士への作成依頼もご検討ください。
6章 遺産分割証明書に関するよくある質問
遺産分割証明書では印鑑証明書は不要ですか?
遺産分割証明書では、押印に実印を使用します。
そのため、金融機関などに遺産分割証明書を提出する際にはあわせて印鑑証明書の提出も必要です。
印鑑証明書の有効期限は発行後6ヶ月以内など決められている場合が多いです。
提出前に必ず確認をしておきましょう。
遺産分割証明書の有効期限はいつまで?
遺産分割証明書は、遺産分割協議書同様に有効期限はありません。
極端な話ですが、銀行の名義変更手続き時に5年前に作成した遺産分割証明書を提出しても問題ありません。
ただし、相続手続きには相続税申告など期限が決まっているものもあります。
手続きの期限に遅れる、漏れてしまうことがないように遺産分割証明書作成後は速やかに各種手続きをすませるのが良いでしょう。
まとめ
遺産分割証明書は、遺産分割協議書と同様に相続手続きで使用します。
相続人全員で署名と押印をする必要がある遺産分割協議書とは異なり、遺産分割証明書は各相続人が個別に作成可能です。
そのため相続人同士が遠方に住んでいて、書類を郵送して署名や押印をすると手間がかかってしまうケースでは、遺産分割証明書の作成がおすすめです。
遺産分割証明書の作成をミスなく行いたいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士への相談もご検討ください。
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