「相続登記」ってなに?
聞きなれない言葉にわからないことだらけではないでしょうか。
相続登記とは「不動産の所有者が亡くなった際に行う名義変更の手続き」です。
法務省の統計では平成28年度に土地の相続登記の件数だけでも86万件もある手続きなのですが、一般の方は一生のうちに一度か二度関わるくらいでしょう。
そして自分で相続登記はできますが、一生のうちに一度か二度関わるくらいの手続きの為に勉強をするのも時間がもったいないと思いますし、報酬も一回あたりの相続登記なら平均で10万円位ですので、相続登記の専門家である司法書士に頼むのがおすすめです。
実際、司法書士である私が今まで数多くの相続登記の依頼を受けてきた中でも、多くの方が途中まで自分で手続きをしようとして、やっぱり面倒又はこれ以上どうすれば良いか分からないとなり、結局司法書士へ依頼いうケースが多く見受けられます。
本記事は司法書士として数多くの相続登記を担当してきた私が、相続登記の内容と司法書士に依頼する場合の費用やメリットデメリットをご紹介致します。
相続登記とは、どんな手続きなのかご理解頂ける内容です。是非参考にして下さい!
目次
1章 相続登記とは不動産を相続したとき必要な手続きです
1-1 相続登記とは、不動産をお持ちの方が亡くなったらその名義を変更するために必要な手続きです。
亡くなられた方が不動産を所有している場合に、「相続登記」はその不動産を相続した方の名義へ変更する為に、必ず必要になる手続きです。
1-2 相続登記が義務化されました
相続登記は法律上期限のない手続きだったので、放置されるケースも少なくなく、長期間放置されると、さらなる相続が発生して「誰が所有者なのかわからない土地」が年々増加していました。
このような状況を受けて、2021年4月に「相続登記を義務化する」改正法案が可決され、2024年に施行される見込みです。
改正法が施行されると、相続登記が義務化され、それを怠った人には罰則【10万円以下の過料】が科せられることになります。
現在すでに相続登記せず放置されている土地も無関係でなく、義務化の対象になりますので、今のうちから対処しておくことが必要です。
2章 相続登記を放置する事で起こる5つのリスク
相続登記が義務化されてなかったとしても、放置すると様々なデメリットがあります。場合によっては、かかる費用や手間との関係で相続登記をすることが困難になってしまうこともあります。
不動産を相続したら必ず相続登記をしましょう。
本章では、相続登記を放置した場合のデメリットをまとめていきます。
2-1 不動産の売却前に急いで相続登記をしなければならなくなり思わぬ出費がかかる場合があります
相続した不動産を売却する場合は、必ず相続登記をしなければ売却することができません。
良くあるケースとして、売却をしたいと思い不動産会社のところに行くと「相続登記がまだですが、とりあえず売却活動をしながら並行して相続登記を進めましょう」となるケースです。
この場合は不動産会社のアドバイスの元で遺産分割協議も進んでいくことが多いのですが、率直に言って「相続に詳しい営業担当」に当たらなければ、思わぬ落とし穴にはまることがあります。誰に相続登記の名義を入れるか等を十分に検討する時間が無い場合もあり、結果として思わぬ贈与税がかかってしまったりと余計な出費が増えてしまうこともあります。
時間に余裕があるうちに、司法書士等の専門家に相談又は依頼して手続きを済ましておきましょう。
2-2 相続人の数が増えてしまい、遺産分割協議が難航します
相続が発生して、何年も経過してしまうと相続人自体が亡くなってしまい、その子供たちが相続人になりどんどん相続人の人数が増えてしまいます。
そして次の世代になればなるほど相続人同士の関係性も薄くなりますので、連絡先や住所も分からずに相続登記をすることが困難になってきます。
上記イラストではどのように相続人が増えていくのかの例を記載しました。
最初は4人だった相続人がなんと16人になっています。あまり付き合いのない16人が遺産分割協議をするというだけでいかに大変かが想像できると思います。
実際に私も、これ以上に相続人の多い案件にも多数関わってきましたが、毎回本当に時間も費用も掛かります。
2-3 相続人が認知症等になってしまうと遺産分割が難しくなります
時間の経過とともに、相続人の方もお年を重ねていきます。そしてその方が認知症等になり判断能力が低下すると、遺産分割協議をするのが難しくなります。
遺産分割協議をする為に、成年後見の申し立てをしないといけないというケースもありますが、成年後見の申し立てをしてもその手続きが終わるまでに数か月かかりますし、とても負担が大きくなってしまいます。
2-4 相続した不動産を差し押さえられる事があります
相続人が複数いる場合に、そのうちの誰か一人に対して債権を持っている場合は、その不動産に強制的に相続登記を入れた上で差押えをされる事があります。
例えば、遺産分割協議でその不動産を取得するのがAさんと決まっていても、相続登記をしないで放置しておくと、他の相続人であるBさんの債権者がその不動産を差し押さえられると、結果としてAさんがその不動産を取得することができなくなる恐れがあります。
このように相続登記を放置するとリスクしかありませんので、できるだけ速やかに相続登記の手続きをするのをおすすめいたします。
詳しくはこちらをご覧ください
2-5 公的書類の保存期間が経過して相続登記のための書類が準備できなくなる事があります
相続登記を申請するときには、戸籍などの公的書類を提出する必要があります。
しかし、公的書類には保存期間が定められていますので、時間がたってから手続をしようと思っても、書類が既に廃棄されてしまっている可能性があります。
このようなケースでは、最悪の場合、自分の不動産なのに名義を得ることができなかったり、特殊な書類が必要になって手続きに余分な労力がかかったりということもあります。
3章 相続登記は自分で行う方法と司法書士に依頼する方法の2つがあります
相続登記を行う場合は手間と知識が必要ですが、一般の人でも自分で手続きをされる場合も有ります。
実際には多くの方は司法書士に相続登記を依頼されています。
本章では、相続登記を自分でする場合と、司法書士に依頼する場合の2つのパターンを解説していきます。
3-1 相続登記を自分で行う場合
相続登記を、一般の方が行う場合の一番のメリットは司法書士に払う報酬を節約できるという事でしょう。
ただ、相続登記を自分で手続きするには、定年退職していて時間に余裕がある方や、登記手続きの知識が有る方でなければ、ご自身で行うのは現実的に見て難しいでしょう。
集める書類も、戸籍を筆頭に多岐に渡りますし、相続人が複数いる場合は民法の知識が必要になってきます。
メリット
- 司法書士に払う報酬を節約できる
デメリット
- 書類集め等で、非常に時間がかかる
- 遺産分割協議書や相続関係説明図等を作成するのは知識が無いと難しい
- 遺産の分け方で失敗してしまう可能性がある
自分でやりたいという方はこちらの記事を参考にしてください。
3-2 相続登記を司法書士に依頼する場合
相続登記を専門家である司法書士に依頼する場合の、一番のメリットはご自身は殆ど何もしなくて良いという事でしょう。その他にも、経験豊富な司法書士なら、将来売却をする場合を想定して誰の名義にする方が得か等の有益なアドバイスも受けられます。
ただし、司法書士に依頼するには、手続き報酬を支払わなければなりません。
司法書士報酬額は内容により、金額は変わりますがオーソドックスな相続人が2名くらいで土地のみの価格2000万円位という様な内容なら、相続登記申請の報酬は7万円~10万円程度の事務所が多いと思います。
それ位の金額ですので、司法書士に依頼して相続登記を行うのがオススメです。
メリット
- ほとんどの必要書類を司法書士が取得するので楽
- 相続の経験豊富な司法書士なら、アドバイスが受けられて安心
- 手続きがスムーズに進み早く終われる
デメリット
- 司法書士への報酬がかかる(自宅のみなら約7万円~10万円位)
司法書士報酬に関してはこちらの記事を参考にしてください。
3-3 相続登記にかかる実費
相続登記は自分でしても司法書士に依頼しても、必ずかかる実費があります。その一覧を記載します。
”相続登記実費”
- 戸籍や住民票等の役所で取得する必要書類の取得費用 約1万円~3万円
- 登記申請する際にかかる登録免許税 固定資産評価証明書の中にある不動産の価格に0.4%をかけた金額がかかります。
例)価格1000万円の土地の相続登記でかかる実費2万円なら
1000万円×0.4%+2万円=6万円
登録免許税についての詳しい解説はこちら
4章 相続登記の流れ
本章では不動産をお持ちの方が亡くなってから相続登記の完了までの流れを解説していきます。下の図の流れで行いますので参考にして下さい。
4-1 不動産所有者の死亡
不動産をお持ちの方が亡くなれば、相続登記が必要になります。
大切な家族が亡くなって、葬儀等で大変だと思いますが、落ち着いたら速やかに手続きを進めていきましょう。
4-2 遺言書が有るか確認しましょう
故人が、遺言書をのこしていたかどうか必ず確認しましょう。
遺言書があればその内容にしたがった遺産の分け方になります。ただし相続人全員で同意すれば遺言書と違う遺産の分け方を選ぶことも可能です。
遺言には以下の主に以下の2つのパターンがあります、それぞれの概要を記載します。
①公正証書遺言・・公証役場で、公証人(元裁判官等が多いです)と証人2名立会いの下に作成する遺言です。公正証書で作成された遺言は、相続人であれば検索する事が可能ですので、存在を聞いていないがもしかしたらと思われたらお近くの公証役場で検索して調べましょう。
②自筆証書遺言・・文字通り本人の自筆で書かれた遺言書です、遺言を書いた方が亡くなられたら家庭裁判所に「検認」という手続きを申し立てなければその後の手続きができません。
4-3 相続人が誰か調べる為に戸籍を集めましょう
相続登記の申請のときの必要書類としても戸籍は必要ですし、戸籍の情報を読み解いていき今回の相続の相続人は誰なのかを知らべて行きます。
まれにご家族の知らない間に「認知」をされていてその方も相続人として登場してくるというケースもあります。
戸籍は法改正のたびに様式が変更されていたり、戦前の戸籍だと「戸主」という肩書の人がいたりと中々集めるのは難関です。
戦後生まれで、本籍地を変更したことが無いような方が亡くなった場合は、一般の方でも比較的容易に集められますがそうでなければ必要書類の中で一番皆様がつまずく部分でしょう。
司法書士に依頼していれば、こちらの作業もしてもらえますので安心してください。
4-4 相続した不動産を調査しましょう
相続した不動産について調査をしていきましょう。相続したと思っている不動産以外の不動産は無いか?その不動産の権利関係はどうだろう?の2点を主に調べます。
調査の為に必要なものを以下に記載します。
①名寄帳・・亡くなった方が所有する不動産の一覧が記載されています。市町村役場で取得しましょう。ただしその市町村の不動産しか記載されませんので、市町村が特定できないと調べるのが難しくなります。
②登記事項証明書・・対象不動産の面積や、所有者の情報が分かります。遺産分割協議書の作成等に使用します。お近くの法務局にて取得しましょう。
4-5 遺産分割協議書を作りましょう
相続人の全員で話し合い不動産を誰が相続するかを決めましょう。
もちろん全員で共有することもできますが、誰か一人に所有させるのがベストです。どうしても他に分けるものが無いという様な場合以外は不動産を共有するような遺産分割はやめましょう。
そして話し合いがまとまれば遺産分割協議書を作成します。全員が実印を押印して印鑑証明書を添付しましょう。下記にひな形を添付しますので参考にして下さい。
4-6 相続登記を法務局に申請しましょう
遺産分割も終わり、必要書類も集まれば手続きの最終の登記申請です。
申請する先は、不動産の所在地の管轄の法務局になります。管轄を調べるにはこちらのサイトを参照して下さい(法務局管轄一覧)。
申請には3つのパターンがあります、
- 窓口申請
- 郵送申請
- オンライン申請
オンライン申請は、一般の方が利用するのは今は現実的ではありませんので窓口申請又は郵送申請を自分で申請するなら選びましょう。
遠方の法務局の場合は、郵送で申請しましょう。
申請書のひな形を添付しますのでイメージをわかせてください。
4-7 【保存版】相続登記必要書類チェックリスト
相続登記に必要な書類をまとめたチェックリストを作成しました。
相続登記必要書類チェックリストです。 ←こちらをクリックして下さい。
書類作成のポイントについてはこちらの記事を参考にしてください。
5章 相続登記について良くあるQ&A集
まとめ
相続登記は放置していると様々なデメリットがあります。相続登記の義務化も近く施行されることが確実なので、今のうちからできるだけ速やかに手続きを進めていきましょう。
そして不動産という大切な財産の名義を変える手続きですので、必要書類等も多岐に渡りその内容も複雑です。
司法書士に依頼しても通常は報酬もそこまでかかりませんので、よほど時間に余裕がある方以外は依頼するのが得策でしょう。