不動産の相続手続きをしたいけど、
- 何からはじめたらいい?
- 手続きはどうするの?
- どれくらい費用がかかるの?
「不動産の相続手続き」は、人生において何度も行うものでないため、このような不安を感じてこの記事を読まれていることでしょう。
本記事では、不動産の相続手続きのプロである司法書士が、あなたの不安を解消するため、わかりやすく丁寧に「不動産の相続手続き」について解説したいと思います。
なお、不動産の相続手続きを長期間放置しておくと次のようなリスクがあるので注意が必要です。
- さらなる相続が発生し、相続関係が複雑になる
- 相続人の一部が認知症等になり、手続きが困難になる
- 本来支払う必要のない税金を支払うことになる
このようなリスクが生じる前に、本記事を参考に速やかに不動産の相続手続きを行ってほしいと思います。
目次
1章 不動産の相続手続きとは
不動産の所有者が死亡すると、法務局で登記されている所有者名義を相続人へ変更する必要があります。
このような手続きを一般的に「相続登記」と言います。
この名義変更の手続きは法務局という役所で、相続人自らが行うか、司法書士に依頼して行うことになります。
1-1 相続登記は放置するとリスクしかない
相続登記は、現在のところ特に期限は定められていません。
しかし、だからといって放置しておくと様々なリスクが生じます。これらのリスクについてここで説明します。
また、これらのリスクが大きくなりすぎてきたため、令和3年(2021年)に相続登記義務化の法案が可決され、令和6年(2024年)までに施行予定となっています。このため、次の相続が発生した時には義務化されている可能性が高いでしょう。今のうちから、なるべく早く手続きをされるのがオススメです。
リスク① 新たな相続が発生し、相続人が増えてしまう
相続登記の前に行う遺産分割協議には、相続人全員の参加が必要です。
遺産分割協議を放置している間に、あらたな相続が発生すると、手続きに協力してもらう人がどんどん増えることになり、話し合いがまとまりにくくなります。
リスク② 相続人が認知症などになってしまい、遺産分割協議が困難になるケース
手続きを放置している間に、相続人の一部が認知症などになって判断能力が低下すると、有効な遺産分割協議を行うことができなくなります。
このような場合、判断能力の低下した人に代わって遺産分割協議に参加する「成年後見人」を選任する手続きを裁判所で行う必要があります。
リスク③ 相続登記手続きに協力してくれなくなるケース
不動産を誰が相続するか相続人間で合意していたのに、時間の経過により合意していたはずの相続人の気持ちが変わり、相続手続きに協力してくれなくなる。
他にも、相続登記を放置していると以下のようなリスクがあるので、速やかに行う必要があります。
- 相続登記していないと不動産を売却したり、担保に入れたくても、すぐに実行に移せない
- 相続登記に必要な、公的書類(戸籍謄本など)の保存期間が経過してしまい、書類の準備が大変になる
2章 不動産の相続手続きのパターンを確認しよう
不動産の相続手続きで行う「相続登記」には、大きくわけて3つのパターンがあり、パターンごとに手続きの流れや必要な書類が異なるため、まずはご自身の置かれている状況が、どのパターンに当てはまるのかを確認する必要があります。
次のフローチャートで、ご自身の状況に合うパターンを確認してみましょう。
遺贈の登記について詳しく知りたい方はこちら
次に相続登記のパターンごとに詳しく見ていきましょう。
2-1 遺産分割パターン
不動産の相続手続きにおいて、もっともポピュラーな方法になるのが、この遺産分割協議による相続登記です。
相続人全員で話し合い「誰が、どの不動産を、どれだけの割合」で承継するのか決めて、不動産の相続手続きを行います。
遺言書がない場合で、法律で決まっている相続割合と異なる内容に不動産の名義変更をしたいときは、この方法によることになります。
2-2 遺言パターン
亡くなった人が遺言書を残していた場合には、この遺言による相続登記を行います。
この場合は遺言で決められている内容どおりに、不動産の名義変更を行う必要があります。
公証人役場で作成された「公正証書遺言」以外の遺言書である場合は、不動産の相続手続きの前に家庭裁判所で検認手続を行わなければならないので注意が必要です。
遺言の検認手続について詳しく知りたい方はこちら
2-3 法定相続パターン
法律で決まっている相続割合に応じて、相続人全員の共有に不動産の名義変更を行う方法です。
このような方法を法定相続分による相続登記といいます。
ex)長男1/3、長女1/3、次男1/3(法律で決まっている相続割合)
他のパターンに比べ、準備する書類も少なく手続きとして一番シンプルな方法になります。ただし、不動産を共有にするときは事前に十分検討しておく必要があります。
なぜなら、一度、共有名義にしてしまうと、その後単有に変更するときは高額な税金や費用がかかったり、売却や修繕などの意思決定に共有者の意見が分かれる場合があるからです。
ご覧いただいたとおり、状況によって具体的な不動産の相続手続き方法は異なります。
次章では3つのパターンのうち、最もポピュラーな「遺産分割による相続登記」について手続きの流れを説明したいと思います。
3章 不動産の相続手続きの流れ
ここでは不動産の相続手続きの中でも、最もポピュラーな「遺産分割による相続登記」について、全体の流れを説明させていただきます。
ステップごとの補足は以下のとおりです。
STEP① 不動産について必要な情報を集める
まずは、以下の資料を参考に相続の対象となる不動産の地番や家屋番号など必要な情報を集めます。
- 固定資産納税通知書
- 登記済権利証
- 登記簿謄本
STEP② 戸籍謄本等の必要書類を集める
法務局での名義変更手続きの際に、相続の発生事実や相続関係の証明が必要になるため、戸籍謄本等の書類を集めます。
STEP③ 相続人全員で遺産分割協議を行う
「誰が、どの不動産を、どういう割合」で相続するのか、相続人全員で話し合います。
STEP④ 申請手続きに必要な書類を作成する
遺産分割協議による相続登記申請においては、以下の書類を作成する必要があります。
- 相続関係説明図
- 登記申請書
- 遺産分割協議書
STEP⑤ 法務局へ登記申請する
集めた資料や作成した書類を、一定の方法でまとめて、申請書類一式を法務局へ提出します。
それぞれの手順ごとの詳しい方法を知りたい方はこちら
4章 不動産の相続手続きにかかる期間
相続手続きの流れがわかったところで、次に手続きにかかる期間を確認しましょう。
不動産の相続手続きにかかる期間は、ケースによって大きく前後することになりますが、順調にすすめば1ヶ月~3ヶ月程度で完了します。
先程の手続きの流れをもとに、手順ごとにかかる期間を確認してください。
かかる期間が大きく前後する最大のポイントはSTEP②、STEP③です。
STEP②の戸籍謄本は本籍地の市区町村役場で取得する必要があるため、本籍地が遠方にある場合は郵送での請求を複数回行うことになるので時間がかかります。
また、STEP③は、相続人全員がすみやかに合意できるかどうかで、かかる期間が大きく変わることになります。
5章 不動産の相続手続きにかかる費用
不動産の相続手続きにかかる費用は主に以下の3種類です。
- 登録免許税
- 必要書類の収集費用
- 司法書士への依頼費用
かかる費用総額は、不動産の価額や司法書士への依頼の有無により増減することになりますが、おおよその目安は以下のとおりです。
【不動産の相続手続きにかかる費用総額の目安】
※相続した不動産の価格3000万円の場合
パターン①(司法書士へ依頼なし) 12~14万円
パターン②(司法書士へ依頼あり) 22~27万円
それでは、各費用について詳しく見ていきましょう。
5-1 【登録免許税】
法務局で不動産の名義変更を行うときにかかる税金を「登録免許税」といいます。
登録免許税は、相続した不動産の「固定資産税評価額」をもとに算出します。
固定資産税評価額とは、市区町村が不動産の価値に応じて固定資産税を課すために、独自のルールで評価した不動産評価額です。固定資産税評価額は、年に一度所有者に送付される「課税明細書」か、役所で取得できる「固定資産評価証明書」で知ることができます。
登録免許税の計算方法は以下のとおりです。
仮に、相続した不動産の固定資産税評価額の価格に応じた目安は以下のとおりです。
1000万円・・・登録免許税額 4万円
3000万円・・・登録免許税額 12万円
5000万円・・・登録免許税額 20万円
5-2 【必要書類の取得にかかる実費】
不動産の相続手続きには、戸籍謄本、住民票、印鑑証明書などの資料が必要になります。
それぞれの状況によって添付資料は変わりますが、一般的な目安として数千円~1万円程度はかかると考えておきましょう。
5-3 【司法書士の手数料】
不動産の相続手続き(相続登記)を司法書士に依頼する場合にかかる費用です。
手数料は相続した不動産の価値や数によって変わりますが、目安としては8~15万円前後と考えておきましょう。
相続にかかる費用として「相続税」がありますが、相続税は不動産を含む相続財産全体の総額に応じて課税されることになります。
相続税について詳しく知りたい方はこちら
6章 不動産の相続手続きに必要な書類
手続きに必要な書類はパターンによって異なります。それぞれに応じた必要書類は次のとおりです。
※該当するパターンをクリックすると必要書類がご覧いただけます。
7章 不動産の相続手続きは「自分で行う」or「司法書士へ依頼」
不動産の相続手続きは一般的に「自分」で行うか、「司法書士へ依頼」して行うことになります。
それぞれのメリット・デメリットを一覧にしていますので、参考にしてください。
※司法書士への手数料は不動産の価額、登記申請の件数などによって増減します。
自分でやるか、司法書士へ依頼するかを判断する目安として、相続登記の難易度をチェックシートしていますので、ご自身の状況と照らし合わせて参考にしてください。
判断に迷うときは、無料相談してくれる司法書士事務所に費用も含め相談してみてもいいでしょう。
戸籍収集など、自分で出来ることを自分で行い、難しい部分のみ依頼すれば、司法書士費用を抑えることも可能です。
当メディアを運営している「グリーン司法書士法人」は、積極的に「不動産の相続手続き」のサポートを行っております。
8章 不動産の相続手続きに関してよくある質問Q&A
本章では不動産の相続手続きのご相談時によく受けるご相談をまとめました。
8-1 10年以上不動産の相続手続き(相続登記)を放置していました。何か問題はありますか?
A)ペナルティはありませんが、早急に相続登記をしましょう。
今後、近いうちに相続登記が義務化されます。次の相続を待ってからと考えていると、さらに相続人が増えて面倒になる可能性があります。今のうちから司法書士に依頼して相続登記をしておきましょう。
実際に義務化されてから放置すると、様々なペナルティ(不利益)が出てきます。
8-2 不動産を相続人の共有名義に相続登記することはできますか?
A)可能です。相続人間の合意があれば、自由な割合で共有名義とすることができます。
ただし、不動産を共有名義にすると、売却、賃貸、活用等の際に共有者の合意が必要になるため、今後予定している利用方法をふまえしっかりと検討しましょう。
8-3 私は関西在住です。相続した不動産は九州にあるのですが、相続登記はどこの司法書士へ依頼したらいいですか?
A)ご自身が依頼しやすい司法書士へ依頼することがベストです。
相続登記は不動産を管轄する法務局で行う必要がありますが、司法書士であれば法務局へ電子申請できるシステムに登録しているので、日本全国の法務局で手続きを行うことができます。
相続に関する相談をしやすい、お近くの司法書士事務所へ依頼しましょう。
8-4 不動産を相続する人と実際に居住している人が違っても問題ないのでしょうか?
A)問題ございません。母が住んでいる実家を子供の名義に変更することも可能です。
同様に亡くなった親名義のまま、実家に住み続けることも可能です。
まとめ
不動産の相続手続きについてご理解いただけましたでしょうか。
不動産の相続手続きに法的な期限はありませんが、放置しておくことで様々なリスクがあるので、死後10ヶ月以内を目安に完了させるようにしましょう。
よくあるご質問
土地や家屋の相続方法は?
不動産の相続手続きの中でも、遺産分割による相続登記の流れをご紹介します。
①不動産について必要な情報を集める
②戸籍謄本等の必要書類を集める
③相続人全員で遺産の分割協議を行う
④申請手続きに必要な書類を作成する
⑤法務局へ登記申請する
の5ステップがあります。
詳しくは下記リンク先をご参考にしてください。
▶不動産の相続手続きの流れ土地や家屋の名義変更はいつまでにしないといけない?
不動産を所有していた人が亡くなった際には、不動産の名義変更手続きが必要です。
いつまでに手続きをしなければいけないという期限は特にありませんが、放置していると相続トラブルに発展する可能性があるので、早めに行いましょう。
また、2024年から相続登記は義務化されることとなっているので、義務化される前に済ませてしまいましょう。
詳しくは下記リンク先をご参考にしてください。
▶不動産の名義変更について