人が亡くなった後、相続人がいなければ全ての遺産は国のものになります。
全ての遺産が国のものになるなら、特別な関係であったあなたが相続したいと考えるのは当然です。
このように被相続人の内縁や家族同然に身の回りの世話をしたなど特別な関係があった場合「特別縁故者」として遺産を相続することができる手段が法律で定められています。
とはいえ、必要なタイミングで申立てや手続きをしなければ相続されない可能性があるため、事前に知識をつけておきましょう。
この記事では、特別縁故者の基本的な知識から、特別縁故者になれる人、申立ての方法まで徹底的に解説します。
目次
1章 特別縁故者とは?
「特別縁故者」とは、相続人がいない場合に被相続人と特別な関係にあった人が遺産の全額または一部を受け取ることができる制度です。ここで言う「特別な関係にあった人」とは、被相続人の生前身の回りの世話をしたり、生計をともにしたりした人を指します。
具体的には、内縁の妻・夫や、被相続人の義理の娘(息子)が被相続人の身の回りの世話をしたような場合がこれにあたります。この特別縁故者の制度により、法的に相続関係にない人でも、関係性に応じて遺産を相続することができ、被相続人の死後に経済的な支えがない人の生活資金として利用ができるなどのメリットがあります。
なお、相続人もおらず、特別縁故者の申し出もなかった場合、遺産は国のものになる(帰属する)こととなります。
2章 特別縁故者になれる人
相続人がいないからといって、誰でも特別縁故者になれるわけではありません。要件が決められており、当てはまった上で家庭裁判所が認めた場合のみ特別縁故者として遺産を受け取ることができます。ここでは、要件とそれぞれの具体的なケースについて解説します。
2-1 被相続人と生計を同じくしていた者
被相続人の生前、共に暮らし、生計を同じくしていた人です。
具体的には次のとおりです。
- 内縁の妻(夫)
- 内縁の妻との子供 ※認知していないケース
- 配偶者の連れ子 ※養子縁組していないケース
これらの人は、法律上相続権はありませんが、婚姻届を提出しておらずとも夫婦関係と同等な生活をしていたり、血の繋がりや法律上の親子関係がなくても実の親子のように生活をしていたりする場合は「被相続人と生計を同じくしていた者」として特別縁故者に認められることがあります。
なお、内縁の妻との子や、妻・夫の連れ子の場合、被相続人が養子縁組、認知をしていれば法律上の相続人として認められます。
具体的には以下のようなケースがあります。
【ケース①】
共に暮らして20年の内縁の夫が亡くなった。彼には親族はおらず、相続人がいない。婚姻関係にはないため自身に相続権はない。
【ケース②】
子供の頃から共に暮らした父が亡くなった。母は5年前に他界している。父と母は籍を入れておらず、いわゆる内縁関係だった。自身は父に認知されていなかったようで、法律上相続権がない。
【ケース③】
小さな頃に母が再婚し、新しい父ができた。実の子供のように可愛がってくれて、大学の学費も父が出してくれた。そんな父が他界。しかし自身は父に養子縁組されておらず相続権がない。
2-2 被相続人の療養看護に努めた者
被相続人の生前に身の回りの世話や看護をしていた者も特別縁故者に当てはまることがあります。ただし、家政婦や介護士など報酬を受け取った上で看病や身の回りの世話をしていた場合は認められません。
具体的には以下のケースがあります。
【ケース① 】
義父と3人で同居していたが、夫が亡くなり、高齢で一人暮らしが難しい義父を残しておけないため義父と同居をしていた。義父は認知症を患い介護が必要になったため介護を続けてきたが、義父も亡くなった。義父の兄弟は皆亡くなっており、自身と夫の間にも子供はいない。
【ケース②】
小さな頃から可愛がってくれた近所のおじいちゃんが体調を崩した。おじいちゃんは一人暮らしで身寄りもないそうなので、通院の付添や、入院時の身の回りのお世話、家事の手伝いなどをしていた。そのおじいちゃんが亡くなったが、親族という人は現れなかった。
2-3 被相続人と特別の縁故があった者
2-1、2-2で挙げた者の他に、これらと同等程度に親密な関係であった者と判断されれば特別縁故者として認められることがあります。これについては、多種多様でありそれぞれの状況を鑑みて家庭裁判所が判断することとなります。
【ケース① 】
若い頃からの親友で、お互い結婚もせず親族もいないので「どちらかが先に死んだら、お互いに遺産を渡そう。それで墓を立ててくれれば良い。」と約束をしていた。
【ケース②】
児童養護施設で育ち、16歳のときに今の大工の親方の元で働き始めた。仕事を教えてくれただけでなく、親のように育ててくれた。親方はことあるごとに「会社はお前に継いでもらう」と言っていた。親方が亡くなったので、親方の言う通り会社を継ぎたい。
3章 特別縁故者であることを証明する方法
特別縁故者であるかどうかは、家庭裁判所が判断します。そのため、自身が特別縁故者であると思っていても、前項で紹介した要件に当てはまることを証明する客観的な証拠が必要です。証拠は1つでは不十分だと判断されやすいため、いくつか用意しておきましょう。
また、証拠があったとしても判断は家庭裁判所次第であるため、必ず認定されるとは限りません。その点は留意しておきましょう。
3-1 被相続人と生計をともにしていたことの証明
被相続人と生計をともにしていたことを証明するには、同居年数が分かる住民票などがあれば問題ありません。内縁関係であれば、住民票内で「妻(未届)」「夫(未届)」と記載があるので証明しやすいでしょう。
3-2 被相続人の療養看護に努めた者であることの証明
療養看護に努めたことを証明するには以下のようなものが証拠となり得ます。
- 医療費や介護費用の領収証
- 療養看護のための交通費の領収証
- 被相続人宅へ訪問したときの写真
- 献身的に療養看護していたことがわかるやりとり(メール、LINE、SNS、手紙など)
3-3 被相続人と特別の縁故があった者であることの証明
被相続人と特別な縁故があったことを証明するには、以下のものが証拠となり得ます。
- 親密な関係であったことがわかるやり取り(メール、LINE、SNS、手紙など)や、写真、日記など
- 一緒に旅行に言ったことが分かる記録や領収書
- 被相続人が財産を譲る意思があったことが分かる記録(遺言書や手紙、メール、日記など)
4章 特別縁故者として財産分与を受けるまでの流れ
特別縁故者として財産分与を受けるまでは様々なステップがあり、多くの場合被相続人が亡くなった日から1年以上の年月を要します。具体的な流れとしては、以下の図のようになります。
上記の図の、オレンジ色で枠が囲ってある部分の申立て(①番と⑦番)は原則として特別縁故者として申し立てる人が行うこととなります。
すべて一人で行うのは大変なので、書類作成などについては司法書士や弁護士など法律の専門家にサポートしてもらいましょう。
4-1 相続財産管理人選任の申立て
相続人がいない場合や相続人が全員相続放棄をした場合は、家庭裁判所へ相続財産管理人選任を申し立てなければいけません。相続財産管理人が選任されないと遺産が放置されることとなるので、必ず申立てを行いましょう。
相続財産管理人についてはこちらの記事で詳しく解説しています
4-2 相続財産管理人の選任
相続財産管理人選任の申立てをすると、相続財産管理人が選任され、官報で公告されます。相続財産管理人は家庭裁判所で選任されるため、誰でもなれるわけではありません。ほとんどの場合、地域の弁護士が選任されることとなります。
なお、この公告は相続人の捜索の役割も担っています。
4-3 債権者・受遺者へ申出の公告
相続財産管理人選任の公告から2ヶ月が経過すると、相続財産管理人が債権者(被相続人が借金をしていた会社・人)や受遺者(遺言により財産を譲り受ける人)に対し、申し出るように官報に公告します。
なお、既に判明している債権者・受遺者がいる場合は個別に申し出るように伝えなければいけません。
4-4 相続財産の精算・債務の弁済
公告期間が終了し、債権者・受遺者からの申出があった場合は相続財産管理人が相続財産の精算を行い、受遺者へ相当額の財産を渡し、債権者への弁済をすることとなります。
この時点で財産が残らない場合は、ここで手続が終了します。
4-5 相続人の捜索
債権者・受遺者への公告から2ヶ月経過すると、相続財産管理人が家庭裁判所に相続人捜索を申し立て、家庭裁判所は6ヶ月以上の期限を設けて、法律上の相続人あたる人がいないのか捜索します。
「これまで被相続人の親族らしき人を一度も見たことがない」「葬式に家族は誰も来なかった」といった場合でも戸籍をもとに捜索されることとなります。
例えば、被相続人の葬式にも一度も顔を出さなかった疎遠の弟がいたとしたら、残念ながらその弟が相続人となってしまうのです。
4-6 相続人不存在が確定
相続人捜索の公告期間が満了し、相続人が見つからない場合は相続人の不存在が確定します。
4-7 特別縁故者への財産分与審判の申立て
ここまでのステップを踏み、相続人の不在が確定して初めて特別縁故者への財産分与審判の申立てが可能になります。
注意すべきは、相続人の不在が確定してから3ヶ月以内に申立てを行う必要があることです。この手続きについては、次章で詳しく解説します。
4-8 特別縁故者の認定
特別縁故者の相続財産分与請求が無事に認定されると、特別縁故者が遺産を相続する権利が発生し、財産を受け取ることが可能になります。認定されなかった場合は、相続人不在となり、被相続人の遺産は国へ帰属されます。
5章 特別縁故者として財産分与請求の手続き
相続人の不在が確定すると特別縁故者として財産分与審判の申立てができます。この申立ては、相続人の不存在が確定してから3ヶ月以内に行いましょう。それ以降は、申立てができなくなるので注意が必要です。
先述したとおり、特別縁故者として申し立てられるのは以下の人です。
【申立人】
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
申立てに必要な書類を持って、家庭裁判所に提出しましょう。申立て先や、必要な書類は以下のとおりです。
5-1 申立て先
申立て先は、被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所になります。裁判所の管轄については以下を参照してください。
申立ては、3ヶ月以内に行わなければいけないので注意しましょう。期限を過ぎてしまうと申立てができなくなってしまいます。
5-2 申立てに必要な書類
申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
- 財産分与審判申立書 1通
- 申立人の戸籍謄本 1通
- 被相続人の戸籍(除籍)謄本 1通
申立書は裁判所のHPからダウンロード可能です。
5-3 申立書の記入例
申立書の記入例も同じく裁判所のHPに記載されています。
5-4 申立てにかかる費用
申立てにかかる費用は以下のとおりです。
- 収入印紙800円
- 裁判所から書類を送付するときに必要な切手(※切手代は裁判所によって異なります)
6章 特別縁故者として財産分与を受けると相続税が発生する
特別縁故者が財産分与を受けた場合でも、相続税が発生し、さらに、相続税額の2割が加算されることとなります。取得した財産が、土地や建物などであっても現金で相続税を支払う必要があるため注意しましょう。
なお、遺産総額が3,000万円以下の場合はそもそも相続税は発生しないため、心配する必要はありません。
6-1 特別縁故者の場合受けられない控除がある
通常の相続人が相続した場合、様々な控除を受けることができますが、特別縁故者の場合受けられない控除があります。特別縁故者が適用されない控除は以下の通りです。
1.基礎控除での相続人1人あたりの控除
通常の基礎控除額は【3,000万円+(600万円×法定相続人の数)】で算出しますが、特別縁故者は法定相続人ではないため【600万円×法定相続人の人数】の分は控除されません。
2.配偶者の税額軽減
内縁の妻・夫であっても戸籍上は配偶者でないため、適用されません。
3.相次相続控除
0年間に2回以上相続が合った場合に適用される控除ですが、特別縁故者として財産を受け取った場合適用されません。
4.障害者控除
相続人に障害者がいた場合、相続税を控除することができますが、特別縁故者が障害者であってもこれは適用されません。
7章 特別縁故者として申し立てる際の注意点
特別縁故者として申し立てる際には、以下を注意しましょう。
7-1 行方不明の相続人がいると財産分与請求ができない
相続財産管理人選任の申立てがなされると、相続人の捜索がなされます。相続人が行方不明で見つからなかったとしても、その人が相続人として認められるため、相続人不在とはならず特別縁故者の財産分与請求は認められません。この場合、失踪宣告をするか、不在者の財産管理人の選任をする必要があります。
不在者の財産管理人選任については裁判所のHPに詳しく説明があります
7-2 特別縁故者の申立てには期間制限がある
ここまでも何度か申し上げましたが、特別縁故者の申立てには「相続人不在が確定してから3ヶ月以内」という厳しい期間制限があります。期限を切れてしまうと申立てができなくなるので、必ず期限内に申し立てをしましょう。
8章 特別縁故者の申立ては専門家への依頼がおすすめ
特別縁故者の申立ては手続きが多いだけでなく、自身が特別縁故者であることをしっかりと証明する必要があるため、自身で行うのは非常に大変です。
弁護士や司法書士といった専門家へ依頼することで自身の負担を軽減することができるでしょう。弁護士は代理人として裁判所での手続きを行うことができますし、司法書士は手続きに必要な書類を作成してくれます。全部任せたい人は弁護士へ、費用を抑えたい人は司法書士へ相談するのが良いでしょう。
9章 特別縁故者となる可能性がある人は事前対策しておこう
特別縁故者の申立ては、非常に大変です。また、相続人がいれば特別縁故者の申立てはできないですし、必ずしも認定されるものではないため、財産を受け取ることができない可能性もあります。
財産渡したい思う親密な関係な人がいるのであれば生前から準備をしておくことをおすすめします。
準備としては、以下のようなことが挙げられます。
9-1 遺言書を作成しておく
遺言書を書いておくことで、法定相続人でない人でも相続を受けることが可能です。なお、遺言書は自筆のものではなく、公証役場で作成する「公正証書遺言」として残しておくことを推奨します。
遺言書についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
9-2 生前贈与をする
生前であれば財産の持ち主の意思で贈与することができるため、相続人などの縛りはなく贈与が可能ですし、その財産はもともとの持ち主が亡くなった後でも継続して所有・利用することができます。
ただし、内縁の妻や認知していない子供の場合、適用されない贈与税控除があるため、多額の贈与税がかかる可能性があります。贈与税の基礎控除範囲内で毎年少しずつ贈与するなど工夫するのが良いでしょう。
生前贈与についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
また、贈与税の控除についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
9-3 法律上の相続関係を作っておく
特別縁故者となり得る関係であれば、事前に法律上の相続関係を作っておくのが良いでしょう。
■ 内縁関係の場合→正式な婚姻関係を結ぶ(婚姻届を提出する)
■ 内縁の妻との子供の場合→認知する
■ 再婚相手の連れ子の場合→養子縁組をする
まとめ
特別縁故者の制度とは、相続人が誰もいない場合に、被相続人と特別な関係にあった者が財産の全額または一部を受け取ることができる制度です。誰でもなれるわけではなく、家庭裁判所が特別縁故者として認めた人しかなれません。
特別縁故者の申立ては簡単なものではないため、弁護士や司法書士など専門家へ依頼するのが良いでしょう。また、特別縁故者となり得る関係にある人がいる場合は、事前に対策しておくことをおすすめします。