- 相続税の障害者控除とは何か
- 相続税の障害者控除を適用できる人
- 相続税の障害者控除の計算方法
相続税の障害者控除とは、名前の通り障害者が相続人になった場合に最大1,700万円を相続税から控除できる制度です。
相続税の障害者控除は節税効果が非常に大きいので、適用要件を確認し満たしている場合には漏れなく活用するのがおすすめです。
なお、知的障がいなどで判断能力を失った人が相続人に含まれる場合、相続人が遺産分割協議などの相続手続きを行えない可能性があります。
その場合は、成年後見人の選任が必要な場合もあるので、相続人に障害者が含まれる場合は手続きの進め方について司法書士や弁護士などに相談するのが良いでしょう。
本記事では、相続税の障害者控除とは何か、適用要件や計算方法をわかりやすく解説します。
目次
1章 相続税の障害者控除とは?
相続税の障害者控除とは、名前の通り障害者が相続人になった場合に最大1,700万円を相続税から控除できる制度です。
相続税には控除や特例がいくつか用意されていますが、相続税の障害者控除は遺産総額から控除できるのではなく税額控除できる点が最大の特徴です。
遺産総額からではなく税額控除できるため、相続税の障害者控除を適用できれば相続税額を大きく減額できます。
そのため、相続人の中に障害者がいる場合は、障害者控除を適用できるか確認してみることを強くおすすめします。
次の章では、相続税の障害者控除の適用要件を詳しく紹介していきます。
2章 相続税の障害者控除の適用要件
相続税の障害者控除を受けるには、相続人の中に障害者がいるなどの他にもいくつかの要件を満たさなければなりません。
相続税の障害者控除の適用要件は、下記の通りです。
- 相続開始日に障害者であること
- 障害者が法定相続人であること
- 障害のある相続人が相続もしくは遺贈で遺産を承継したこと
- 相続開始日に障害のある相続人が日本に居住していること
それでは、詳しく確認していきましょう。
2-1 相続開始日に障害者であること
当然ですが、相続税の障害者控除を適用するには相続開始日に障害者である必要があります。
また、障害者には「一般障害者」と「特別障害者」の2つの区分があります。
【一般障害者】
- 児童相談所、知的障害者更生相談所もしくは精神保健指定医の判定により知的障害者とされた者
- 精神障害者保健福祉手帳に障害者等級が二級または三級であると記載されている者
- 身体障害者手帳に身体上の障害の程度が三級から六級までであると記載されている者
- その他一定の者
※詳細はこちらでご確認ください。
《障害者控除》関係|国税庁 一般障害者の範囲【特別障害者】
- 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者または、児童相談所、知的障害者更生相談所もしくは、精神保健指定医の判定により重度の知的障害者とされた者
- 精神障害者保健福祉手帳に障害者等級が一級であると記載されている者
- 身体障害者手帳に身体上の障害の程度が一級または二級であると記載されている者
- その他一定の者
※詳細はこちらでご確認ください。
《障害者控除》関係|国税庁 特別障害者の範囲
区分によって控除額が大きく異なるので、自分や親族がどちらに当てはまるかを確認しておきましょう。
相続税の障害者控除の控除額や計算方法については、本記事の3章で詳しく解説します。
2-2 障害者が法定相続人であること
障害者控除を受けられるのは、法定相続人のみです。
法定相続人とは、法律上で決められている相続人のことで、配偶者や子ども、兄弟などが当てはまります。
法定相続人は、下記のように優先順位が決められています。
常に相続人になる | 配偶者 |
---|---|
第1順位 | 子供や孫 |
第2順位 | 親や祖父母 |
第3順位 | 兄弟姉妹や甥・姪 |
なお、遺言書に記すことで友人や義理の子供など、法定相続人以外を遺産を受け継いでもらうこともできますが、その場合は障害者控除を適用できません。
2-3 障害のある相続人が相続もしくは遺贈で遺産を承継したこと
法定相続人であっても、遺産を受け継いでいない場合は障害者控除を受けることはできません。
ただし、相続放棄をしたとしても、生命保険の受取人であれば障害者控除が適用されます。
後述しますが、障害者控除が相続額より上回った場合余った分を扶養義務者の相続額から控除することができます。
したがって、亡くなった人がプラスの遺産を遺している場合は、障害のある相続人は1円でも相続しておくのがおすすめです。
2-4 相続開始日に障害のある相続人が日本に居住していること
相続人が相続開始日に日本に居住(日本に住所がある)していなければ、適用されません。
ただし、その相続人が一時居住者かつ、亡くなった人が一時居住被相続人又は非居住被相続人である場合は適用されます。
なお、相続開始日とは被相続人が亡くなった日を指します。
3章 相続税の障害者控除を計算する方法
相続税の障害者控除を適用できる場合、相続開始日の障害者の年齢に応じて控除額が決定します。
相続税の障害者控除を計算する方法は、下記の通りです。
【一般障害者】
障害者控除額=(85歳-相続開始日の障害者の年齢)×10万円
【特別障害者】
障害者控除額=(85歳-相続開始日の障害者の年齢)×20万円
※(85歳-相続開始日の障害者の年齢)に端数があるときは切り上げ。
上記の計算式を見てわかるように、障害のある相続人が85歳以上の場合は控除額が0円となります。
続いて、相続税の障害者控除を適用した場合の計算例を見ていきましょう。
【具体例①】
- 相続開始日の年齢:65歳2ヶ月
- 障害者の区分:精神障害者二級(一般障害者)
【計算結果】
200万円=(85歳-65歳2ヶ月)×10万円
※85歳-65歳2ヶ月=19歳10ヶ月なので端数を切り上げて20歳として算出
【具体例②】
- 相続開始日の年齢:60歳8ヶ月
- 障害者の区分:身体障害者一級(特別障害者)
【計算結果】
500万円=(85歳-60歳8ヶ月)×20万円
※85歳-60歳8ヶ月=24歳4ヶ月なので端数を切り上げて25歳として算出
上記のように、相続税の障害者控除の計算自体はそれほど難しくありません。
ただし、相続税を計算する際には遺産の相続税評価額を算出する、基礎控除を計算するなどの作業もする必要があります。
相続税の計算が難しい、ミスなく確実に行いたい場合は、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
4章 相続税額より控除額が上回る場合は扶養義務者の相続税から控除できる
本記事で解説してきたように、相続税の障害者控除は控除額が大きいため、障害者本人の納税額から控除をしても控除額が余る場合も多いです。
障害者本人の納税額から控除をしても控除額が余った場合は、障害者の扶養義務者の相続税額から控除できます。
扶養義務者にあたる人物は、下記の通りです。
- 配偶者
- 祖父母
- 父母
- 子供や孫
- 兄弟姉妹
- 3親等内の親族で家庭裁判所が扶養義務を負わせた者
障害者本人の納税額から控除をしても控除額が余る場合の具体例を見てみましょう。
【具体例】
- 相続人:長男(扶養義務者)/次男(障害者)
- 長男の相続税額:200万円
- 控除前の次男の相続税額:150万円
【計算結果】
- 障害者控除額:300万円
- 次男の相続税額:150万円-300万円=△150万円→相続額は0円
- 長男の相続税額:200万円-150万円=50万円
上記の例では、次男の障害者控除額が相続税額より150万円上回ったため、扶養義務者である長男の相続税から150万円控除できます。
5章 相続税の障害者控除を申告する方法・必要書類
相続税の障害者控除を適用した結果、相続税額が0円になる場合は相続税の申告書を提出する必要はありません。
ただし、本記事の3章で解説したように相続税を計算するには遺産総額の計算や各種控除や特例を計算する必要があります。
そのため、相続税額が本当に0円になるか確認するためには、計算過程や必要書類などを残しておく、相続に詳しい税理士に相続税の計算を依頼しておくのがおすすめです。
相続税の障害者控除を適用しても相続税がかかる場合は、相続税申告書および添付書類を提出しなければなりません。
相続税の障害者控除を適用するときの手続き方法および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 |
|
---|---|
手続き先 | 亡くなった人の住所地を管轄する税務署 |
手続き期限 | 相続開始から10ヶ月以内 |
必要書類 |
など |
まとめ
相続人に障害者がいる場合、障害者控除を受けられる場合があります。
障害者控除は相続税から控除するため、相続税が大きく減額する可能性が高いので、忘れずに申請しましょう。
また、控除額が相続税よりも上回った場合は扶養義務者の相続税からも控除できます。
相続税の障害者控除を適用するには、障害のある相続人が遺産を1円でも受け取っておく必要があります。
そのため、障害のある相続人がいる場合は遺産分割方法に注意しておきましょう。
また、知的障がいなどで判断能力を失っている相続人がいる場合、そのままでは遺産分割協議や相続手続きを行えない可能性があります。
成年後見人や特別代理人の選任が必要な場合もあるので、自己判断せず相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することも検討しましょう。
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