- 相続財産管理人とは何か
- 相続財産管理人の選任が必要なケース
- 相続財産管理人になれる人
- 相続財産管理人を選任する流れ・必要書類
「内縁の夫がなくなって葬儀は終わったけど、このあとどうすれば・・・」
人が死亡したとき、天涯孤独で誰も相続する人がいなかったら「相続財産管理人」を選任しないといけないケースがあります。
もともと相続人がいた場合でも、全員が相続放棄したらやはり相続財産管理人が必要です。
相続財産管理人とは何をする人で、誰が就任するのか、何をしてくれるのか、また費用はどのくらいかかるのかなど、必要な知識を押さえておきましょう。
今回は、相続財産管理人が必要なケースや選任の手順、かかる費用などについて解説します。
目次
1章 相続財産管理人とは
相続財産管理人とは、名前の通り遺産を管理する人物であり、故人に身寄りがなく相続人がいないときに財産を管理します。
故人に相続人がいないと遺産を管理する人物がいないため、相続財産管理人が選任され特別縁故者への分与や国庫への帰属などの手続きを行います。
相続財産管理人は、以下のような行為を行います。
- 相続財産の調査、管理
- 相続財産の換価
- 債権者への支払い(被相続人にお金を貸していた人などです)
- 特別縁故者への分与(被相続人の内縁の妻など特別な関係にあった人です)
- 国庫への帰属(誰も相続人がいない場合、財産は最終的に国のものになります)
2章 相続財産管理人が必要な4つのケース
実際の相続の場面で相続財産管理人の選任が必要になるのは、大まかに4つのケースに分かれます。
①相続人がいないケース
②債権者がお金を返してもらいたいケース
③相続放棄の結果相続人がいなくなったケース
④特別縁故者が財産分与してもらいたいケース
では、それぞれのケースを見ていきましょう。
2-1 相続人がいないケース
相続財産管理人が必要になるのは「相続人がいない」場合ですが、物理的に行方不明という意味ではありません。
「相続人」になる配偶者、親兄弟などの血縁者がいない場合や、相続人が全員相続放棄した場合など「法律的な意味」で相続人がいない場合に相続財産管理人が必要です。
法律的な意味での相続人(法定相続人)の範囲についてはこちらの記事をご覧ください。
2-2 債権者がお金を返してもらいたいケース
相続人がいない場合、被相続人に債権を持っている人(債権者)は、相続財産管理人の選任を必要とします。
なぜなら、そのまま放置していると、誰も負債を支払ってくれないからです。
相続財産管理人が選任されたら、債権を持っていることを証明することにより、相続財産管理人が負債の支払いをしてくれます。
2-3 相続放棄の結果相続人がいなくなったケース
相続人が全員相続放棄したら、相続放棄をした人は相続財産管理人を選任すべきです。そのまま放っておくと、相続放棄した人がいつまでも相続財産を管理し続けないといけないからです。
相続財産管理人を選任せずに適切な管理を怠っていると、遺産の不動産が倒壊して通行人にけがをさせた場合や遺産が毀損されて価値が失われた場合(債権者に損害が発生します)など、相続放棄をした人が損害賠償義務を負う可能性もあります。
2-4 特別縁故者が財産分与してもらいたいケース
相続人がいない場合、被相続人の内縁の配偶者など被相続人と特別な関係にあった人は、遺産の一部をもらえる可能性があります。このように、被相続人と特別に近しかった人を「特別縁故者」と言います。次のような人は、特別縁故者に該当する可能性があります。
【特別縁故者に該当する可能性がある人の具体例】
・内縁の妻(夫)
・養子縁組をしていないが親子のような関係にあった者(配偶者の連れ子など)
・相続人ではない親戚
・献身的に介護していた人
ただし特別縁故者が遺産をもらうには、相続財産管理人の選任が必要です。何もしなければ遺産を受け取ることはできません。
相続財産管理人が選任され、遺産から債権者への支払いが終わった後にまだ余りがあれば、遺産の一部を分与してもらえる手続きが行われます。
特別縁故者について詳しく知りたい方はこちら
3章 相続財産管理人になれる人
相続財産管理人になれるのは、どのような人なのでしょうか?
一般的には地域の弁護士です。
相続財産管理人の選任申立は、被相続人の亡くなった時の住所を管轄する家庭裁判所宛に行います。すると家庭裁判所は、その地域の弁護士の中から相続財産管理人を選任して、相続財産の管理にあたらせます。
「相続財産管理人は地域の弁護士でなければならない」という法律があるわけではありませんが、実際の裁判所の運用としてそのようになっているので、従うしかないことが通例です。「私を相続財産管理人にしてください」と言っても認めてもらえるものではありません。
4章 相続財産管理人選任申立ができる人
相続財産管理人の選任申立をできるのは、「利害関係人」や「検察官」などです。
それぞれどのような人たちか見ていきましょう。
4-1 利害関係人
相続財産に対して利害関係を持つ人は相続財産管理人選任の申立ができます。
実際には、ほとんどのケースで利害関係人が相続財産管理人の選任申立をします。
たとえば、2-2で登場した債権者も特別縁故者も利害関係人です。これらの人は相続財産管理人の選任によって遺産を受けとることができるからです。
相続放棄したもとの相続人もやはり利害関係人です。2-3で解説したとおり、相続放棄者は遺産を毀損したり不注意で人に損害を与えたりした場合には損害賠償が必要になる可能性もあり、義務を免れるには相続財産管理人を選任するしかないからです。
4-2 検察官
検察官にも、相続財産管理人選任申立の権限があります。
このように聞くと、「自分が相続財産管理人の選任申立をしなくても、検察官がやってくれるのではないか?」と期待される方がいます。自分で申し立てると、高額な予納金がかかってしまうからです。
しかし、実際には検察官が申立をするケースはほとんどありません。検察官による申立を待っていてもいつまでも相続財産管理人の申立が行われないので、遺産が放置されてしまいます。
相続放棄して相続財産管理人が必要なケースなどでは、結局自分で申立をするしかありません。
5章 相続財産管理の対象財産
相続財産管理人が選任されると、相続財産管理人は財産管理を始めます。具体的にどのような財産が管理対象になるのか、みてみましょう。
- 現金
- 預貯金
- 保険
- 不動産
- 車両
- 株式、投資信託
- 積立金
- 貴金属、絵画などの動産類
- 貸付金、未払家賃などの債権
このように、被相続人名義や被相続人が所有していたあらゆる資産が相続財産管理人の管理下に置かれます。現金や預貯金以外の財産は、相続財産管理人によって現金化され、口座に貯められていきます。
被相続人が負っていた負債についても、相続財産管理人が確認し、換価した遺産から必要な支払いが行われます。
6章 相続財産管理人選任申立方法とその後の流れ
相続財産管理人を選任するときには、どのような手順で進めるのでしょうか?
申立とその後の流れを確認しましょう。概要は次の図の通りです。
申立から手続きの終了まで、1年程度かかることが多いです。
それでは、それぞれのステップの詳しい内容を見ていきましょう。
ステップ1 申立
まずは被相続人の亡くなった時の住所を管轄する家庭裁判所において、相続財産管理人の選任申立を行います。
このとき、以下のような書類が必要です。
- 相続財産管理人選任の申立書
- 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本類
- 被相続人の両親の出生時から死亡時までの戸籍謄本類
- 被相続人に死亡している子どもがいる場合、その出生時から死亡時までの戸籍謄本類
- 被相続人に死亡している兄弟姉妹がいる場合、その出生時から死亡時までの戸籍謄本類
- 被相続人の直系尊属で死亡している人の出生時から死亡時までの戸籍謄本類
- 代襲相続する甥や姪で死亡している人がいる場合、その出生時から死亡時までの戸籍謄本類
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 財産関係書類(不動産の全部事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金や有価証券の残高がわかる書類など)
申立をすると家庭裁判所で審査が行われ、審判によって相続財産管理人が選任されます。
ステップ2 公告
相続財産管理人が選任されると、相続財産管理人が遺産を管理し始めます。
また「官報」という政府の機関紙により、相続財産管理人が選任された情報が公開されます。
ステップ3 換価
官報公告後、相続財産管理人が相続財産の管理と換価(現金化)を進めます。
ステップ4 債権者や受遺者への公告
債権者や受遺者(遺言によって遺産を受けとる人)に対し、申出をするように公告(呼びかけ)が行われます。
ステップ5 債権者、受遺者への支払い
呼びかけに応じて現れた債権者や受遺者に対し、必要な支払いや遺産の分与が行われます。
ステップ6 特別縁故者への財産分与申立
それが済むと、特別縁故者による相続財産分与申立を受け付ける期間(3か月)がもうけられます。
遺産を受けとりたい特別縁故者は、この3か月以内に申立をする必要があります。
ステップ7 特別縁故者への財産分与
特別縁故者からの申立が行われたら、申立人を特別縁故者として認めるか、認めるとしたらどのくらい相続財産を分与すべきかが決定されます。その決定内容にもとづき、相続財産管理人が特別縁故者へ遺産を分与します。
ステップ8 国庫への帰属
特別縁故者への分与も済み、それでも余りがあれば残余財産は国庫に帰属させます。そして相続財産管理人の業務は終了します。
7章 相続財産管理人にかかる費用
相続財産管理人を選任したらどのくらいの費用がかかるのでしょうか?
7-1 申立にかかる費用
まず、申立の際に以下の費用が発生します。
- 印紙代800円
印紙代とは、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てるときの手数料です。申立書に収入印紙800円分を貼り付けて提出します。
- 郵便切手代
郵便切手は、文書による連絡用に使うものです。全国各地の家庭裁判所によって具体的な金額や内訳が異なります。千円~数千円程度であるのが通常ですが、詳細は管轄の家庭裁判所の書記官に確認しましょう。
- 官報公告費用3775円
相続財産管理人が選任されると、官報公告が行われます。そのために3775円が必要です。
7-2 予納金について
相続財産管理人の選任を申し立てると「予納金」が必要です。
予納金は、相続財産管理人が業務を進める際に必要となるお金で、相続財産管理人の報酬にあてられるケースもあります。具体的な金額は遺産の内容や評価額、事案の複雑さなどによって変わってきますが、通常、20~100万円程度になることが多いです。
予納金は、申し立てた当初に申立人が家庭裁判所に納める必要があります。
7-3 費用が明らかに遺産より多いときの注意点
予納金などがかかるので、費用が明らかに遺産より多いときがあります。たとえば、相続放棄をした遺産が自動車だけで価値が20万円程度の場合などです。
維持費がかかるのでなんとかしたい。でも、20万円のために予納金が100万円かかってしまう・・・
そのような場合でも、費用をかけて相続財産管理人の選任する必要があるのでしょうか?
法的には「必要」です。実際には、遺産内容に価値がなくて放置されていたり、現実に損害が発生していないのでトラブルになっていなかったりするケースも多々ありますが、きちんと手続を踏んで処分をするためには、相続財産管理人の選任以外に方法はありません。
8章 相続財産管理人選任を避ける方法は?
遺産相続が起こったときに相続財産管理人を選任すると、遺産の分与の手続きが非常に煩雑になり、時間もかかります。何より予納金を中心とする高額な費用がかかるので、無駄になるのがネックです。
また、内縁の妻などがいる場合、わざわざ相続財産管理人を選任して複雑な手続きを経ないと遺産を受けとれないというのは不合理です。また相続財産管理人を選任したからといって、全額の遺産を受けとれるわけでもありません。
そこで、将来相続人が不存在になることが予想されるのであれば、相続財産管理人の選任を避けるため、生前に遺言をしておくことをお勧めします。
たとえば内縁の妻がいる場合、内縁の妻に全部の遺産を分与することを遺言書に書いておけば、いちいち相続財産管理人選任の申立をして特別縁故者への財産分与を受けなくても、内妻が遺産を受けとることができます。
遺言書を書き残す際には、信用性が高く紛失のおそれもない「公正証書遺言」を利用しましょう。公正証書遺言の作成であれば、間違いがないように、司法書士や行政書士といった専門家への相談をなさることをおすすめします。
まとめ
人が死亡したとき、相続人がいなければ相続財産管理人の選任が必要です。しかし相続財産管理人を選任すると、時間も手間もかかりますし、多額の費用がかかるケースも多いです。
このような無駄を発生させないため、生前から対策をとっておきましょう。自分で公正証書遺言を作成する自信がなければ、一度専門家に相談してみるのも良いでしょう。
誰に相談しようかお悩みの方は、是非一度グリーン司法書士法人へお問い合わせください。
よくあるご質問
相続財産管理人とは何?
相続財産管理人とは、死亡した人に「相続人がいない」とき、その人の残した相続財産(遺産)を管理する人です。
▶相続財産管理人とは何か詳しくはコチラ相続財産管理人は誰がなれる?
相続財産管理人になるのは一般的には、その地域の弁護士です。
▶相続財産管理人になる人物について詳しくはコチラ