亡くなった人が遺言書を用意していない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
生死がわからず行方不明となっている相続人がいる場合は、失踪宣告を行い法律上死亡した扱いにした上で残りの相続人で遺産分割協議を行う必要があります。
失踪宣告は家庭裁判所への申立てを行い、申立て後は家庭裁判所が調査や公示催告、審判を行います。
失踪宣告の申立て自体は何とか自分でされる方もいますが、相続手続きが複雑になるので司法書士や弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。
本記事では、失踪宣告は自分でできるのか、必要書類や申立て方法を解説します。
長年にわたり行方不明となっている相続人がいる場合は、下記の記事もご参考にしてください。
目次
1章 失踪宣告とは
失踪宣告とは、生死が不明な人物や行方不明者などが要件を満たした際に法律上死亡したとする制度です。
相続が発生したとき、亡くなった人が遺言書を作成していないと相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
相続人の1人に行方不明者がいると、残りの相続人も遺産分割協議や相続手続きを進められなくて困ってしまいます。
このようなケースで失踪宣告を行い、行方不明者を死亡したとし残りの相続人で遺産分割協議を行うことが多いです。
なお、失踪宣告には下記の2種類があります。
普通失踪 | 7年以上生死不明となっている人に対して行う手続き |
特別失踪 | 戦争や遭難した船舶に乗っていた人などが1年にわたり生死不明となった人に対して行う手続き |
本記事では、普通失踪について詳しく解説をしていきます。
失踪宣告とよく似た制度に認定死亡があります。
どちらも生死不明者を法律上死亡していると扱う点は共通していますが、両者には下記の違いがあります。
- 死亡と認められるまでの期間
- 認定期間
- 法的効果
認定死亡は災害などが起きて死亡していることが確実だが、遺体を発見できないときに用いられる制度です。
長年、行方がわからず生きているかすらわからない相続人がいるケースでは認定志望ではなく、失踪宣告を用います。
2章 失踪宣告が認められる要件
失踪宣告には、①普通失踪と②特別失踪の2種類があり、それぞれ行方不明となっている期間について要件が定められています。
それぞれ見ていきましょう。
2-1 行方不明者が7年間生死不明
行方不明となった相続人が7年間にわたり生死不明の状態が続く場合、利害関係者が申立てれば普通失踪が認められます。
生死不明の要件を満たす場合、残りの相続人などの利害関係者が家庭裁判所に対し、普通失踪の申立てを行えます。
なお、普通失踪の申立てが認められた場合は、失踪から7年経過した日に失踪者が死亡したとして扱われます。
2-2 戦争や船舶の沈没その他危難に遭遇した人の生死が1年間不明
特別失踪は戦争や遭難した船舶に乗っていたなど、危難に遭った人の生死が不明なときに申立てできます。
特別失踪の申立て要件は、下記の通りです。
- 戦争など危難が去った後に1年間生死不明の状態が続く
- 残りの相続人など利害関係者が特別失踪を請求する
特別失踪の申立てが認められると、戦争など危難が去ったときに失踪者が死亡したとして扱われます。
3章 失踪宣告を自分で手続きする方法・必要書類
生死不明者の失踪宣告は自動で行われるわけではなく、残りの相続人などの利害関係者が家庭裁判所に申立て手続きをしなければなりません。
具体的には、下記の流れで手続きしましょう。
- 家庭裁判所に申立てを行う
- 家庭裁判所が調査を行う
- 公示催告を行う
- 審判が行われる
- 失踪届の提出をする
それぞれ解説していきます。
STEP① 家庭裁判所に申立てを行う
普通失踪の場合、行方不明者の生死が7年間にわたり不明だと家庭裁判所で失踪宣告の申立てを行えます。
申立ては誰でも行えるわけではなく、下記のような利害関係者のみが手続き可能です。
- 配偶者
- 父母
- 推定相続人
- 受遺者
- 保険金受取人
失踪宣告の申立て方法の概要および必要書類は、下記の通りです。
申立てできる人 | 利害関係者 |
申立て先 | 行方不明者の最終の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立て費用 |
|
必要書類 |
|
STEP② 家庭裁判所が調査を行う
失踪宣告の申立てを受けた家庭裁判所は、家族や親族に対し調査を行い、本当に失踪者が生死不明の状態が続いているか確認します。
STEP③ 公示催告を行う
家庭裁判所による調査完了後、裁判所が公示催告を行い失踪者や事情を知る人物へ届け出るように促します。
具体的には、下記の情報を国が発行する機関誌である官報に掲載します。
- 失踪者について失踪宣告の申立てがあったこと
- 失踪者が生存しているのであれば、一定期間内に生前を届け出ること
- 届出がない場合は失踪宣告がなされること
- 失踪者の生存について知っている人は、一定期間内に届け出ること
- 申立人の氏名や名称、住所
- 失踪者の氏名や住所、生年月日
なお、普通失踪の場合は官報に3ヶ月以上掲載し、情報の届出を促すことが多いです。
STEP④ 審判が行われる
公示広告後、失踪者に関する届出がなかった場合は家庭裁判所が失踪宣告の審判を行います。
審判が行われると、家庭裁判所から審判書謄本等が送られてきます。
STEP⑤ 失踪届の提出をする
失踪宣告に関する審判が確定した後は、申立人は10日以内に失踪者の本籍地もしくは申立人の住所地の市区町村役場で届出をしなければなりません。
失踪宣告に関する審判が確定しても、失踪者の戸籍謄本は変更されないからです。
失踪届の提出方法および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 | 失踪宣告の申立人 |
手続き先 | 失踪宣告を受けた人の本籍地もしくは申立人の所在地の市区町村役場 |
必要書類 |
|
なお、10日以内に失踪届を提出しないと、失踪宣告が無効になってしまうのでご注意ください。
4章 失踪宣告を申立てるときにかかる費用相場・内訳
失踪宣告の申立てを行う場合、下記の費用がかかります。
内訳 | 相場・金額 |
申立て費用(収入印紙) | 800円分 |
連絡用の郵便切手代 | 1,000円程度 |
官報公告料 | 4,816円 |
書類の収集費用 | 1,000~数千円程度 |
司法書士・弁護士への依頼費用 | 8~15万円程度 |
自分で失踪宣告の申立てを行った場合、司法書士や弁護士に支払う報酬は不要です。
5章 失踪宣告をする際の注意点
相続人の中に長年にわたり行方不明の人物がいて失踪宣告をしたい場合は、下記の3点に注意しなければなりません。
- 失踪宣告が認められると相続手続きが複雑になる
- 相続発生後に失踪宣告をすると相続税の申告期限に間に合わない恐れがある
- 失踪宣告を取消すには手続きが必要
それぞれ詳しく解説していきます。
5-1 失踪宣告が認められると相続手続きが複雑になる
行方不明の状態が続く相続人の失踪宣告が認められた場合、同時に複数の相続が発生するため手続きが複雑になります。
具体例と共に見ていきましょう。
【相続①】
- 父が死亡
- 相続人は長男A、次男B、三男C
- 長男Aは長年連絡が取れず生死不明の状態が続いている
父の死亡を機に次男Bが長男Aの失踪宣告を申立てられ長男の死亡が認められると、長男Aの相続も発生します。
【相続②】
- 失踪宣告を受け長男Aを被相続人とする相続が発生する
- 相続人は長男Aに子供がいたか、長男Aの法律上の死亡日によって変わってくる
失踪宣告が認められると、生死不明が7年続いた日が法律上の死亡日となります。
そのため、失踪宣告の申立て時期によっては「相続②」より「相続①」の方が先に発生している場合もあります。
また、長男Aに子供がいた場合、長男Aの子供が相続①の代襲相続人となり相続手続きが複雑となる恐れもあるでしょう。
失踪者が生死不明になった時期や相続人の状況によっては、遺された家族が自分で相続人調査を進めるのは現実的ではありません。
- どんな相続がどの順番で発生しているのか
- 各相続で誰が相続人となっているのか
- 各相続でどのような手続きが必要か
上記を特定し手続きをミスなく効率よく進めるためには、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
5-2 相続発生後に失踪宣告をすると相続税の申告期限に間に合わない恐れがある
失踪宣告は、申立てから審判確定まで半年以上かかることがほとんどです。
一方で相続税の申告期限は相続発生から10ヶ月以内なので、相続発生後に行方不明となっている相続人の失踪宣告申立てをしていると相続税の申告期限に間に合わない恐れがあります。
相続税の申告期限に間に合わない場合、無断で申告期限に遅れるのではなく下記の方法で期限内申告や申告の修正をしましょう。
- 不在者財産管理人を選任する
- 行方不明者含む相続人全員で法定相続分で遺産分割したとして相続税の申告を行う
- 失踪宣告が認められた後、残りの相続人全員で遺産分割協議を行う
- 最終的に決定した遺産分割割合で修正申告を行う
不在者財産管理人とは、行方不明になっている方の財産を管理する責任を負う人物です。
不在者財産管理を選任すれば、残りの相続人と不在者財産管理人によって遺産分割協議などの相続手続きを進められます。
5-3 失踪宣告を取消すには手続きが必要
失踪宣告が認められた後に、失踪者の生存や失踪宣告による死亡日と異なる日に死亡していたことがわかった場合は、本人もしくは利害関係者が失踪宣告の取消請求を行えます。
失踪宣告の取消請求が認められれば、失踪宣告がなかったものとして扱われます。
まとめ
相続人のひとりが長年にわたり行方不明となっている場合は、不在者財産管理人の選任や失踪宣告を行い遺産分割協議を進めることを検討しましょう。
生死不明の状態が7年以上継続している場合は失踪宣告の申立てを行い、失踪者が法律上死亡しているものとして扱うことが可能です。
失踪宣告の申立て自体は必要書類を家庭裁判所に提出するだけなので、家族や親族が自分で行えます。
しかし、失踪宣告が認められ失踪者の相続が発生した場合は、誰が相続人となっているかの調査が複雑であり、相続人が自分たちで手続きを進めることはおすすめできません。
行方不明者となっている相続人がいる場合、後々のトラブルを避けるためにも相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、相続手続きに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
失踪宣告のやり方とは?
失踪宣告の流れは、下記の通りです。
①家庭裁判所に申立てを行う
②家庭裁判所が調査を行う
③公示催告を行う
④審判が行われる
⑤失踪届の提出をする
▶失踪宣告について詳しくはコチラ失踪宣告の司法書士依頼費用はいくらくらいですか?
失踪宣告を司法書士や弁護士に依頼した場合の費用相場は8~15万円程度です。
▶失踪宣告の司法書士依頼費用について詳しくはコチラ