家族や親族が亡くなったときには、様々な相続手続きが必要です。
相続手続きはやることも多いため何から始めて良いかわからず、面倒に感じて放置してしまう人もいるのではないでしょうか。
しかし、相続手続きをしないで放置すると様々なリスクがデメリットが発生します。
- 払う必要のない税金や費用がかかる
- 相続人が増加し、いざというときに手続きが難航する
- 口座が凍結して遺産を引き出せなくなる
相続手続きの中には期限が決まっているものもあるので、手続きを後回しにしないようにご注意ください。
本記事では、相続手続きをしないとどうなるのか、期限がある相続手続きを紹介します。
家族が亡くなったときの相続手続きの流れは、下記の記事でも解説しています。
1章 相続手続きをしないと生じるリスク
相続手続きをしなくても罰則はありませんが、放置してしまうと下記のように様々なリスクやデメリットが発生します。
- 新たな相続が発生し権利関係が複雑になる
- 相続人の気持ちが変化して手続きに協力してくれなくなる
- 一部の相続人が認知症になってしまい手続きを進められなくなる
- 2024年以降は相続登記が義務化されてしまう
- 亡くなった人の預金を引き出せなくなる恐れがある
- 亡くなった人の株式が勝手に売却されてしまう恐れがある
- 亡くなった人の借金の返済義務を負ってしまう
- 相続税に対して延滞税や加算税がかかる
- 遺留分侵害額請求権を失う
- 相続回復請求を失う
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 新たな相続が発生し権利関係が複雑になる
相続手続きをしないまま放置し次の相続が発生すると、上記のイラストのように相続人の数が増え権利関係が複雑になってしまいます。
相続手続きをしないまま次の相続が発生するデメリットは、下記の通りです。
- 相続人が増えてしまい、相続人調査や確定が大変になる
- 疎遠な親族同士で遺産分割協議や相続手続きを行う必要がある
1-2 相続人の気持ちが変化して手続きに協力してくれなくなる
相続発生時には遺産分割の方法に納得していた人でも、数年経つと気が変わっている場合もあるでしょう。
気が変わった相続人が手続きに協力してくれなくなり、残りの相続人も手続きを進められなくなる恐れがあります。
そのため、相続人全員で遺産分割方法に合意できたら気が変わらないうちに手続きを進めましょう。
1-3 一部の相続人が認知症になってしまい手続きを進められなくなる
相続手続きをしないで放置している間に、一部の相続人が認知症になり判断能力を失ってしまうと遺産分割協議に参加できなくなってしまいます。
遺産分割協議が完了しないと、残りの相続人も手続きを進められません。
認知症の人が相続人になった場合は、成年後見人を選任する必要がありますが、選任には費用も時間もあっかります。
そのため、必要なときに遺産を引き出せないなどのデメリットが生じる可能性もあります。
1-4 2024年以降は相続登記が義務化されてしまう
不動産を相続したときには「相続登記」という名義変更手続きが必要であり、2024年以降は相続登記が義務化されます。
2024年以降は相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科される恐れがあるので早めに手続きを行いましょう。
相続登記の義務化は過去に発生した相続に対しても適用されるので、まだ名義変更手続きがおすみでない不動産をお持ちの人は速やかに手続きしましょう。
相続登記は自分で手続きもできますが、司法書士に数万円程度で依頼可能です。
1-5 亡くなった人の預金を引き出せなくなる恐れがある
亡くなった人の預金口座は解約手続きもしくは名義変更手続きが必要です。
しかし、長期にわたり相続手続きをしないでいると、預金が時効を迎えてしまい引き出せなくなる恐れがあります。
預金の時効は、下記の通りです。
- 5年以上取引をせず、預金を放置すると引き出せなくなる
- 10年間放置すると休眠口座となり預金保険機構に振り替えられ公益活動に使用される
1-6 亡くなった人の株式が勝手に売却されてしまう恐れがある
不動産や預貯金だけでなく、亡くなった人の株式に関しても相続手続きが必要です。
株式の名義変更をしないでいると、下記のデメリットがあります。
- 株主総会招集通知などの案内が届かない
- 配当金を受け取ることができない
- 5年以上放置すると「株主所在不明」として扱われる
上記のように株式の名義変更手続きをしないでいると、株主が有する権利を行使できないだけでなく、最終的には株主所在不明となり株式が売却されてしまう恐れがあります。
株主所在不明となり株式が売却された後、5~10年経過すると売却益を受け取る権利が時効を迎えてしまうのでご注意ください。
亡くなった人が所有していた株式の名義変更手続きは、株式が上場株か非上場株かで異なります。
上場株式の名義変更手続きを行う際には、証券会社に連絡し必要書類を提出します。
それに対して、非上場株式の場合は証券会社で取扱いしていないので、非上場株式の発行会社に連絡をして名義変更手続きを行わなければなりません。
なお、亡くなった人が会社オーナー(株主)だった場合は、手続きが複雑になるので司法書士に依頼するのがおすすめです。
1-7 亡くなった人の借金の返済義務を負ってしまう
亡くなった人が借金を遺していた場合、自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内に相続放棄もしくは限定承認の手続きを行わないと、返済義務を受け継いでしまいます。
相続人は預貯金や不動産などのプラスの相続財産だけではなく、借金などのマイナスの相続財産も受け継ぐからです。
相続人調査や相続財産調査などを行わずに放置していると、誰が相続人かや亡くなった人が遺した財産の全容がわかりません。
その結果、遺族も存在を知らなかった借金を相続人が受け継いでしまう恐れがあります。
1-8 相続税に対して延滞税や加算税がかかる
亡くなった人の遺産が一定額以上で相続税がかかる場合、相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告および納税をしなければなりません。
期限内までに相続税の申告をしないと延滞税や無申告加算税などのペナルティが発生する恐れがあります。
延滞税および無申告加算税の税率は、下記の通りです。
ペナルティ | 税率 |
延滞税 |
|
無申告加算税 | 【自主的に申告した】 追加で納めた税金の5% 【税務調査後に申告した】 追加で納めた税金の15%(50万円以内) 追加で納めた税金の20%(50万円を超える部分) |
なお、延滞税の税率は原則であり令和5年の税率は2.4%と8.7%となっています。
1-9 遺留分侵害額請求権を失う
遺留分の時効は下記のように設定されており、時効を迎えると遺留分侵害額請求を行うことができません。
- 相続発生および遺留分が侵害されていると知ってから1年
- 相続開始を知らなかった場合、相続開始から10年
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供、両親に保障されている遺産を最低限度受け取れる権利です。
1-10 相続回復請求を失う
相続回復請求は下記のように時効が設定されており、時効を迎えると請求できなくなります。
- 相続権が侵害されてから5年
- 相続権が侵害されていることを知らない場合は20年
相続権を持たないにもかかわらず相続人であるかのように振る舞い他の人の相続分を侵害する人物がいた場合に、相続回復請求を行い侵害分を取り戻せます。
2章 期限がある相続手続き
本記事の1章で解説したように、相続手続きをしないでいると様々なリスクやデメリットがあります。
これらのリスクやデメリットとは別に、相続手続きの中には期限が設定されているものもあるので計画的に行いましょう。
各相続手続きの期限は、下記の通りです。
期限・時効 | 手続き内容 |
3ヶ月以内 | 相続放棄・限定承認 |
4ヶ月以内 | 準確定申告 |
10ヶ月以内 | 相続税の申告 |
1年以内(時効) | 遺留分侵害額請求 |
2年以内(時効) | 埋葬料・葬祭費の受給手続き |
3年以内(時効) | 死亡保険金(生命保険) |
5年以内(時効) | 相続回復請求権 |
3年以内 ※2024年から※ | 相続登記 |
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 【3ヶ月以内】相続放棄・限定承認の申立て
亡くなった人が多額の借金を遺していた場合や相続トラブルに巻き込まれたくない場合は、相続放棄や限定承認をするのが良いでしょう。
相続放棄と限定承認の特徴はそれぞれ下記の通りです。
相続放棄 | 亡くなった人のプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくする手続き |
限定承認 | 亡くなった人のプラスの相続財産の範囲内で借金などのマイナスの相続財産を受け継ぐ手続き |
相続放棄および限定承認は「自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内」に家庭裁判所に申立てを行う必要があります。
なお、申立て期限は延長もできますが、延長時にも家庭裁判所にて手続きをする必要があるのでご注意ください。
相続放棄 | |
申立てできる人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
申立て先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
|
必要書類 |
など |
限定承認 | |
申立てできる人 | 相続人全員が共同して行う |
申立て先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
|
必要書類 |
など |
2-2 【4ヶ月以内】準確定申告
自営業者や不動産所得がある人などが亡くなったときには、相続人は故人のかわりに所得税の申告を行わなければなりません。
これを準確定申告と呼び、相続開始から4ヶ月以内に行う必要があります。
準確定申告の方法および必要書類は、下記の通りです。
提出する人 |
|
提出先 | 故人の住所地の所轄税務署 |
必要書類 |
など |
2-3 【10ヶ月以内】相続税の申告
遺産が一定額を超える場合、相続発生から10ヶ月以内に相続税の申告と納税をしなければなりません。
相続税には「3,000万円+600万円×相続人の人数」の基礎控除額が用意されており、遺産が基礎控除額を上回ると相続税の申告と納税が必要です。
相続税の申告方法は、下記の通りです。
申告する人 | 相続人 受遺者 |
申告先 | 故人の住所地を管轄する税務署 |
必要書類 |
|
2-4 【1年以内】遺留分の侵害額請求
「全財産を長男に遺す」などといった偏った内容の遺言書を亡くなった人が作成していた場合、遺された配偶者や子供は遺留分侵害請求を行えます。
ただし、遺留分には下記の時効が設定されていて、時効を過ぎると遺留分侵害額請求を行えません。
- 相続開始を知った日から1年
- 相続開始から10年
2-5 【2年以内】埋葬料や葬祭費の受給手続き
相続手続きとは異なりますが、埋葬料や葬祭費の請求期限は「亡くなってから2年以内」です。
埋葬料や葬祭費は亡くなった人が加入していた健康保険に対して請求できます。
亡くなった人が加入していた健康保険によって、下記のように問い合わせ先が異なるので忘れずに請求しましょう。
加入していた健康保険 | 問い合わせ先 |
健康保険組合・協会けんぽ | 亡くなった人が勤務していた会社 |
国民健康保険 | 市区町村役場 |
2-6 【3年以内】死亡保険金(生命保険)の請求手続き
死亡保険金の受取期限は「被保険人が亡くなった日から3年以内」です。
死亡保険金は決して少額ではないので、受け取り忘れないように早めに手続きしましょう。
2-7 【5年以内】相続回復請求権
相続回復請求権とは、本来であれば相続人廃除や相続欠格などで相続権を失っている人があたかも相続権があるように装い遺産を取得した人に対して、相続財産を返還してもらう権利です。
相続回復請求権には以下の時効があります。
- 相続権を侵害されていることを知った日から5年
- 相続権が侵害されてから20年
相続権を侵害されていることを知っているのであれば、5年以内に返還を求めなければ権利が消失してしまうのでご注意ください。
相続人廃除・相続欠格について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
2-8 【3年以内】相続登記(※2024年以降)
2021年時点において義務ではない相続登記ですが、2024年以降は義務化されることが決定しています。
相続登記が義務化された背景としては、放置された不動産が増加し所有者不明の土地面積が九州全土の広さになってしまったことがあります。
2024年以降は、相続開始を知った日から3年以上相続登記せず放置した場合、10万円以下の過料(罰金のようなもの)が科されます。
相続登記の方法および必要書類は、下記の通りです。
手続きできる人 |
|
手続き先 | 不動産の所在地を管轄する法務局 |
費用 | 不動産固定資産評価額の0.4%(登録免許税)(目安:1,000万円の場合4万円、2,000万円の場合8万円) |
必要書類 |
など |
3章 相続手続きが面倒なら司法書士に依頼しよう
本記事で解説してきたように、相続手続きをしないと様々なリスクやデメリットがあり、中には期限のある相続手続きもあります。
しかし、相続手続きは非常にやることが多く手間がかかります。
また、手続きの多くは公的機関で行うものであり平日の日中に行わなければなりません。
平日日中に仕事をしている人や家事育児で忙しい人は、相続手続きを司法書士に依頼することもご検討ください。
司法書士に依頼すれば、相続手続きを一括して代行してくれます。
ただし、司法書士にも得意分野と不得意分野があるため、相続に詳しい司法書士に相談することが大切です。
グリーン司法書士法人には、相続専門の司法書士が在籍しています。
また、グループ内に不動産会社がある他、税理士や弁護士との連携を取っているためほとんどの手続きをワンストップでお任せいただけます。
ご相談者様のご予算に合わせて、お任せいただくプランを提案することも可能です。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
相続手続きをしないとどうなる?
相続手続きをしないリスクは、下記の通りです。
・新たな相続が発生し権利関係が複雑になる
・相続人の気持ちが変化して手続きに協力してくれなくなる
・一部の相続人が認知症になってしまい手続きを進められなくなる
・2024年以降は相続登記が義務化されてしまう
・亡くなった人の預金を引き出せなくなる恐れがある
・亡くなった人の株式が勝手に売却されてしまう恐れがある
・亡くなった人の借金の返済義務を負ってしまう
・相続税に対して延滞税や加算税がかかる
・遺留分侵害額請求権を失う
・相続回復請求を失う
▶相続手続きをしないリスクについて詳しくはコチラ相続はいつまでに行わなければならない?
相続手続きの期限は、それぞれ下記の通りです。
【3ヶ月以内】相続放棄・限定承認の申立て
【4ヶ月以内】準確定申告
【10ヶ月以内】相続税の申告
【1年以内】遺留分の侵害額請求
【2年以内】埋葬料や葬祭費の受給手続き
【3年以内】死亡保険金(生命保険)の請求手続き
【5年以内】相続回復請求権
【3年以内】相続登記(※2024年以降)
▶相続手続きの期限について詳しくはコチラ