成年後見制度とは、認知症や知的障がいなどにより、判断能力が不十分と判断された人が、不利益を被らないよう支援する制度です。
成年後見制度では、後見人は被後見人の日常生活や医療、介護、福祉面でのニーズに対応しつつ、その保護と支援を行います。
後見人は被後見人の不動産や貯金といった財産管理を行うだけでなく、被後見人の健康状態や生活環境、希望を考慮に入れながら、適切な福祉サービスや医療を受けられるようにサポートします。
成年後見制度の利用が必要なパターン | |
必要な契約や手続きが行えないケース | 財産管理が心配なケース |
銀行・証券会社での手続きを行いたい | 詐欺被害に遭わないか心配 |
不動産などの資産を売却したい | 家族などが本人の財産を使い込んでいないか心配 |
遺産分割協議を行いたい | 障がいを持つ子の将来が心配 |
介護施設・サービスの契約がしたい |
成年後見制度を活用すれば、このような問題に対処できる可能性があるので、いつか祖父母や両親が「認知症になったとき」この成年後見制度を検討することになるかも知れません。
本記事では将来の備えとして、成年後見制度の概要から、成年後見制度のメリット・デメリットについてわかりやすく解説しております。
目次
1章 成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や知的障がいによって判断能力が不十分な人が、生活をする上で不利益を被らないよう、「成年後見人」が本人の代わりに適切な財管理や契約行為の支援を行うための制度です。
成年後見人は契約行為や財産管理、法的手続きを本人のかわりに行います。
成年後見制度において支援をしてもらう人を「被後見人」、支援をする人を「成年後見人」と呼びます。
ここでは、成年後見人制度について詳しく解説します。
1-1 成年後見制度ができた経緯
成年後見制度ができる以前は、判断能力が不十分な人を「禁治産者」として財産の管理や契約などの法律行為を制限する「禁治産・準禁治産者宣告制度」というものがありました。
禁治産者になると、その事実が公示されるだけでなく、本人の戸籍に記載されます。そのため、社会的な偏見や差別の要因となってしまうという問題を抱えていたのです。
そこで、平成12年に、障がいのある方や高齢の方でも特別な扱いはせず、従来の生活を送れるようにしようというノーマライゼーションや、本人の残存能力の活用、自己決定の尊重の考えを下に開始された制度が「成年後見制度」です。
障がいのある方、高齢者の方の権利と財産を守るために施行されました。
1-2 成年後見制度は2つの分類がある
成年後見制度には大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2つの分類があります。
簡単に言えば
- 法定後見・・・家庭裁判所に後見人を選任してもらう
- 任意後見・・・本人が成年後見人を指名し契約する
というものです。
本人が元気なときであれば、任意後見を選択することになります。
法定後見の場合は、本人の判断能力が低下したときに、成年後見人が必要と感じた方が申し立てを行うため、本人の意思を介在させることは難しいでしょう。
どちらも、行う業務にほとんど違いはありませんが、本人があらかじめ信頼できる人に頼みたいという希望があるのであれば、元気なうちに任意後見の手続きをしておきましょう。
では、「法定後見」「任意後見」それぞれについて詳しく見ていきます。
1-2-1 法定後見
法定後見は、家庭裁判所によって成年後見人が選任されるもので、配偶者や子供、孫などが後見人の選任を申し立てることで手続きが開始されます。
法定後見では、支援を受ける人の判断能力の程度ごとに「後見」「保佐」「補助」と細かく3つに分類されます。
それぞれの概要は以下のとおりです。
後見 | 保佐 | 補助 | |
対象となる人 | 常に判断能力が欠けている人。日常の買い物をを含め常に援助が必要な状況。病気により寝たきりな人や、脳死判定された人、重度の認知症の人、重度の知的障害者など。 | 判断能力が著しく不十分な人。日常的な買い物はできるが、不動産や車などの大きな財産の購入や、契約締結などが困難な状況。中度の認知症の人や中度の知的障害者など。 | 判断能力が不十分な人。日常的な買い物だけでなく、家や車などの大きな財産の購入、契約締結も一人で可能だが、援助があったほうが良いと思われる状況。軽度の認知症の人や、軽度の知的障害者など。 |
支援をする人(法定代理人)の呼び方 | 成年後見人 | 保佐人 | 補助人 |
法定代理人に与えられる権利 | 代理権 | 同意見・代理権 | 同意見・代理権※代理権のみが付与される場合もある |
代理権付与に対する本人の同意 | 不要 | 必要 | 必要 |
法定代理人の同意が必要な行為 | なし | 重要な財産行為 | 重要な財産行為の一部 |
遺言に関する規定 | 意思能力が一時的に遺言ができる程度に回復した際には、医師2人以上の立ち会いのもと可能 | なし(規定なしに遺言が可能) | なし(規定なしに遺言が可能) |
成年後見人についてより詳しく知りたい方はこちらを御覧ください。
1-2-2 任意後見
任意後見は、今後判断能力が低下する恐れのあり、将来が不安の人が 、健康なうちに自ら後見人をあらかじめ指名し、契約を結んでおくものです。実際に判断能力が低下したときには後見人として契約を結んだ人が家庭裁判所へ申し立てることで手続きが開始されます。
任意後見人についてより詳しく知りたい方はこちらを御覧ください。
2章 成年後見人の役割
成年後見制度によって成年後見人として選ばれた場合、下記の2つの役割を持ちます。
- 財産管理:本人の財産を適切に管理する
- 身上監護:本人の生活や健康、療養に関する支援をする
なお、成年後見人は上記の行為を行える一方で、介護行為などの事実行為や日常生活で行う法律行為(日用品の購入など)のサポートを行うことはできません。
また、任意後見人は一律に役割が決められているわけではなく、被後見人と任意後見人が定めた契約によって役割が決まります。
3章 成年後見制度を検討した方がよいケース
冒頭でも触れましたが、成年後見制度の利用を検討した方がよいケースは、大きく分けて2つのケースがあります。
- 本人だけでは必要な契約や手続きが行えないケース
- 詐欺被害や親族による財産の使い込みなど財産管理が心配なケース
それぞれの詳細は以下のとおりです。
成年後見制度の利用が必要なパターン | |
必要な契約や手続きが行えないケース | 財産管理が心配なケース |
銀行・証券会社での手続きを行いたい | 詐欺被害に遭わないか心配 |
不動産などの資産を売却したい | 家族などが本人の財産を使い込んでない |
遺産分割協議を行いたい | 障がいを持つ子の将来が心配 |
介護施設・サービスの契約がしたい |
では、具体的なケースごとに詳しく解説しましょう。
3-1 銀行手続きをしたいケース
預貯金からお金をおろしたり、定期預金の解約したりするのは原則として、本人以外の手続きは認められていません。
介護施設への入居や医療費などで大きなお金が必要なときに、本人のお金を下ろせないとなると非常に困りますよね。
成年後見人であれば、代理人として銀行や証券会社での手続きを行うことができます。
3-2 不動産を売却したいケース
本人が長らく入院をしていたり、施設へ入所しているため、暮らしていた家が空き家となってしまっている場合、不動産の売却を考える方もいるでしょう。
不動産の売却も、本人以外が手続きする場合、家族などは代理人になれず、成年後見人などの法定代理人しか行うことができません。
なお、自宅の売却については家庭裁判所の許可を得る必要があります。本人が必要としていない売却などは認められないこともあるので注意が必要です。「不動産を売却して介護資金にあてる」「固定資産税などの税金の費用削減」などの正当な理由をもって行うようにしましょう。
3-3 遺産分割したいケース
お父様が亡くなり、お母様が存命の場合、お母様は相続人となるため相続手続きをする必要があります。もし、お母様が認知症などで判断能力が不十分な場合は遺産分割協議に参加できません。
しかし、遺産分割協議は相続人全員参加しなければ進められないため、お母様の代わりに参加する代理人が必要です。この代理人は、成年後見人などの法定代理人しか担うことはできません。
3-4 介護保険契約をしたいケース
介護施設への入所手続きやそれに伴う介護保険の契約も、本人以外の手続きは成年後見人などの法定代理人でなければ代理で行えません。
介護施設への入所を検討しているのであれば、あらかじめ成年後見人の選任手続きをしておきましょう。
3-5 身上監護が必要なケース
身上監護とは、本人が生活する上で必要な法的手続きを行うことです。
例えば、住居の確保や、病院への入院手続き、要介護認定の申請手続きなどがこれに当たります。
このような法的手続きは、本人以外は成年後見人などの法定代理人しか行うことができません。
4章 成年後見制度を利用するメリット・デメリット
成年後見制度の利用は、決して強制されるものではありません。ご家族など、身の回りの人が必要と感じた際に申し立てをすることで、手続きが開始されます。
一方で、成年後見制度は、一度申し立てると取り下げることができません。そのため、成年後見制度のメリット・デメリットについて理解し、利用するかどうか慎重に判断しましょう。
4-1 成年後見制度を利用するメリット
- 被後見人の不利益になる契約を結ぶことを防ぐことができる
- 被後見人が契約を結んでしまっても、不利益であることがわかれば後から解消できる
- 被後見人の判断能力が不十分でも必要な手続きや契約を進めることができる
- 被後見人の財産を詐欺や家族の使い込みから守ることができる
- 相続発生時に財産の把握ができる
認知症などを患っている方が詐欺や悪徳業者などから不当な契約を勧められることは珍しくありません。家族が財産を使い込んでしまうというケースもあります。
また、介護施設や介護サービスの契約も法的手続きであり、判断能力が不十分な被後見人では単独で行うことは難しいでしょう。必要な契約が自由にできないことで困る場面も多く出てくるはずです。
成年後見制度を利用すれば、被後見人の財産を守ることができますし、被後見人単独では難しい必要な手続きを代理で行うことができます。
4-2 成年後見制度を利用するデメリット
成年後見制度を利用するデメリットとして挙げられるのは以下の3点です。
- 後見人としての義務を全うしなければいけないため手間がかかる
- 後見人として行動しなければいけないため、柔軟な対応が難しくなる
- 後見人に報酬が発生するため、費用がかかる
- 被後見人の意思を尊重しながら、心身と生活に配慮し、財産管理を行うこと(身上配慮義務)
- 家庭裁判所または、後見監督人の注意に従うこと(善管注意義務)
- 後見人として行った業務を定期的に家庭裁判所に報告すること(報告義務)
また、デメリットとは少し異なりますが、成年後見人でもできないことはあります。具体的には以下のような行為です。
- 婚姻や離婚、養子縁組など戸籍に関する契約の変更
- 遺言書の作成
- 被後見人の法定相続分を割り込むような遺産分割
- 被後見人にとって必要のない不動産売却
- 株や不動産への投資行為
- 相続税対策のための生前贈与・不動産活用
5章 成年後見の事例紹介
①認知症を患っている相続人に成年後見人を任命した事例
相続人の中に認知症を発症している方がおり、認知症の進行度を詳しくお聞きした結果、遺産分割や不動産売却などの手続きは難しい状態だったケースです。
認知症の具合的に、遺産相続手続きを進めるためには成年後見人を任命する必要があったので、その対応を進めました。詳しくは、下記リンクの事例紹介ページをご参照ください。
②成年後見人と被後見人が共に相続人のケース
父親が亡くなり遺産を相続人間で分割したいが、母親が認知症で施設に入所しているケースです。
遺産を相続人間で分割するためには、認知症の母親に成年後見人を付ける必要があったのでご提案しました。詳しくは、下記リンクの事例紹介ページをご参照ください。
6章 成年後見人になれる人、なれない人
成年後見人になるために資格は必要ありません。欠格事由(成年後見人になれない要件)に該当していなければ、誰でも成年後見人になることは可能です。
成年後見人の欠格事由は以下の通りです。
- 未成年
- 過去に後見人を含む法定代理人を解任されたことがある人
- 破産者
- 被後見人に訴訟を起こした人とその配偶者
- 行方不明者
- その他不正な行為を行うなど後見人に適さない経歴がある人
ただし、法定後見人の場合、後見人を選任するのは家庭裁判所です。希望した人が選任されるとは限りません。
また、希望した人が選任されなかったからと言って申立を取り下げることはできないので注意しましょう。
後見人の資格について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
7章 成年後見制度を利用するときにかかる費用
成年後見制度を利用する際にはどのような費用がかかるのでしょうか。
費用として挙げられるのは、「手続きにかかる費用」と「後見人への報酬」の2つです。
それぞれどの程度かかるのか、見ていきましょう。
7-1 法定後見制度の利用にかかる費用
【申立にかかる費用】
- 申立費用(貼用収入印紙):800円
- 登記費用(予納収入印紙):2,600円
- 郵便切手(予納郵便切手):約3,200〜3,500円程度 ※各家庭裁判所によって異なります。
【司法書士へ申立手続き依頼する費用】
- 報酬相場:10〜20万円
【成年後見人の報酬相場】
- 親族などが成年後見人の場合
基本報酬:月額0〜6万円
- 司法書士などの専門家が成年後見人の場合
基本報酬:月額2〜6万円
基本報酬は、被後見人の財産額や地域の物価などによって変動し、最終的に家庭裁判所が決定します。
基本報酬に加え、「特別に困難な業務が発生した場合」や、日常業務以外に「特別な業務を行う場合」には「付加報酬」が発生します。
付加報酬の報酬の目安は以下のとおりです。
7-2 任意後見制度の利用にかかる費用
【手続きにかかる費用】
- 任意後見契約書作成の手続き費用:11,000円
- 登記嘱託手数料:1,400円
- 登記に納付する印紙代:2,600円
【司法書士に案文作成や公証役場とのやりとりのサポート依頼した場合の費用】
- 報酬相場:10〜15万円
【任意後見人の報酬相場】
親族などが後見人の場合
基本報酬:月額0〜5万円
司法書士などの専門家が後見人の場合
基本報酬:月額3〜6万円
【任意後見監督人の報酬相場】
月額1〜3万円
任意後見制度では、任意後見監督人の選任が必須となり、任意後見監督人へも報酬が発生します。なお、任意後見監督人は家庭裁判所の判断で弁護士や司法書士などの専門家が選任され、報酬金額も家庭裁判所が決定します。
任意後見制度の場合、報酬の金額は当事者同士で決定することができます。そのため無報酬という選択も可能ですし、本人が合意していれば相場よりも多額な報酬を設定できます。当事者間で相談した上、決定しましょう。
成年後見人の報酬についてより詳しく知りたい方はこちらを御覧ください。
8章 成年後見制度を利用するための手続き
成年後見人制度を利用するための手続きについて解説します。
法定後見制度と任意後見制度でそれぞれ手続き方法は異なります。
8-1 法定後見制度の申立手続き
法定後見制度の申立手続きは、以下のような流れで進みます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
STEP① 申立人、申立先の確認
成年後見人が必要になったら、まず家庭裁判所に成年後見人選任の申立を行います。
申立をする家庭裁判所は、本人が居住する場所から最も近い家庭裁判所であることがほとんどです。念の為、裁判所のHPで管轄の家庭裁判所を確認しておきましょう。
裁判所HP 裁判所の管轄区域
なお、申立ができる人は以下のように決められておりますので、留意しておきましょう。
STEP② 診断書の取得
申立には、医師による診断書が必要です。その診断書の内容をもとに「後見・保佐・補助」のどれにあたるかを判断するからです。
診断書は、必ずしも精神科医や心療内科医に作成してもらう必要はありません。かかりつけ医や最寄りの内科でも問題ありませんので、ご都合の良い病院で作成してもらいましょう。
診断書についてより詳しく知りたい方はこちらを御覧ください。
STEP③ 必要書類の収集
次に、診断書以外の必要書類を収集しましょう。
必要書類は以下のとおりです。
それぞれの書類について詳しく解説します。
【戸籍謄本】
戸籍謄本とは、身分事項を証明するもので、本籍地や家族関係について記載されています。本人と後見人候補者が同じ戸籍の場合は、両者が記載されているものを1通取得すれば構いません。
【住民票】
住民票は、住所や世帯を証明するもので、住所地や同一世帯の家族について記載されています。
本人と後見人候補者が同一世帯の場合は、両者が記載されているものを1通取得すれば構いません。
【後見登記されてないことの証明書】
後見登記されていないことの証明書とは、現在成年後見制度を利用していないことを証明するものです。
取得方法については、東京法務局のHPでご確認ください。
東京法務局HP 登記されていないことの証明申請について
STEP④申立書類の作成
申立書類の作成手順は以下のとおりです。
- 申立書類の入手
- 本人に関する資料の準備
- 申立書類に必要な事項の記入
- 収入印紙や郵便切手の準備
申立書類の一覧と、それぞれの記入例を以下に記載しておりますので、ぜひ参考にしてください。
※書類の名称や様式は各家庭裁判所によって若干異なります。
なお、申立書類は、家庭裁判所で入手できます。取得方法は以下の3つです。
- 家庭裁判所HPからダウンロード
- 家庭裁判所の窓口で入手
- 家庭裁判所から郵送してもらう
インターネット環境があれば、簡単にダウンロードができますので、お近くの家庭裁判所を検索してみてください。
本人に関する書類とは、本人の健康状態や財産、収支を証明するための書類です。具体的には、以下のような書類です。
【すべての人が必要な書類】
【状況に応じて必要な書類】
申立書類を取得したら、必要な項目を記入しましょう。手書きでも構いませんがパソコンで入力することも可能です。
書類内に指示がありますので、それに従って記入してください。
書類が揃い、記入も済んだら、収入印紙や郵便切手の準備をしてください。
- 申立費用(貼用収入印紙) 800円
- 郵便切手(予納郵便切手) 約3,200~3,500円程度(内訳の指定あり)
※各家庭裁判所によって異なります。 - 登記費用(予納収入印紙) 2,600円
どれも郵便局や家庭裁判所内の売店で購入できます。
①の申立費用の収入印紙は、申立書に貼付け、②③は封筒などにまとめて、申立書類と一緒に家庭裁判所へ提出しましょう。
STEP⑤面接日の予約
申立人や成年後見人候補者の事情を詳しく聞くために、家庭裁判所で面接が行われます。
面接の予約は、時期によっては2週間〜2ヶ月程度先しか予約を取れないことがあります。書類準備の目処が立ったら、あらかじめ予約を取っておくようにしましょう。
ただし、予約した面接日の1週間前までに申立書類一式を家庭裁判所へ提出しておかなければいけないので、準備の状況をみて予約するようにしましょう。
STEP⑥家庭裁判所への申立
申立書類一式を提出します。家庭裁判所へ提出するか、郵送するかどちらかの方法で提出してください。申立書類の一式は、事前にコピーを残しておき、面接日に持参すると受け答えがスムーズになります。
なお、申立書類一式を提出した時点で「申立がなされた」こととなります。成年後見制度の申立は、申請をした時点で取り下げることはできないので注意しましょう。
例えば、申立人が指定していた後見人候補者が後見人に選任されなかった場合でも、取り下げはできません。裁判所が選任した司法書士や弁護士などが後見人となる可能性があるということは、理解しておきましょう。
STEP⑦審理開始
申立の受付がされると、家庭裁判所で審理が始まります。
審理とは、裁判官が申立書類に不備がないかを確認した上で、本人の状況や事情を鑑みて「成年後見制度が必要か」「成年後見人にに適しているのは誰か」などを判断することです。
審理は、時期にもよりますが、申立から審判まで1〜3ヶ月程度かかります。
審理中は、本人や親族との面接や医師による鑑定が行われます。
STEP⑧審判
審判とは、裁判官が調査結果や提出資料に基づいて判断し、決定する手続きです。
成年後見では「後見開始の審判」と同時に、最も適した人を「成年後見人として選任」します。
審判の内容が記載された審判書は、成年後見人に選任された人に送付されます。
内容に不服がある場合は、審判書が届いてから2週間以内に不服申立をしましょう。不服申立てがなければ、後見開始が確定します。
STEP⑨後見の登記
審判が確定したら、裁判所から東京法務局に登記の依頼がなされます。この登記は「後見登記」と呼ばれ、後見人の氏名や権限などが記載されます。
後見登記は、裁判所の依頼から2週間程度で完了し、完了後に後見人へ登記番号が通知されます。登録番号をもとに、法務局で、登記事項証明書を取得しましょう。
この登記事項証明書は、本人の財産の調査や預貯金口座の解約など、後見人の業務を行う上で必要になります。
登記事項証明書の取得については以下の通りです。
【請求できる人】
本人、本人の配偶者、本人の4親等内の親族、本人の後見人など
【窓口での取得】
最寄りの法務局の本局(支局や出張所では取得できません。)
【郵送での取得】
東京法務局の後見登録課
【発行手数料】
1通550円
【登記事項証明書の取得方法】
こちらよりご確認ください→法務局HP
【登記事項証明書の見本】
こちらより御覧ください→法務局HP
STEP⑩成年後見人の仕事開始
成年後見人に選任されたら、本人の財産を調べ、財産の一覧表を作成しましょう。この一覧表を「財産目録」と言います。
財産目録は、成年後見人に選任されてから1ヶ月以内に裁判所へ提出しなければいけません。
その他にも、金融機関や役所への届出など、成年後見人として様々な業務があるので、1つひとつこなしましょう。
法定後見人の手続きについてより詳しく知りたい方はこちらを御覧ください。
8-2 任意後見制度の手続き
任意後見制度の手続きの流れは以下の通りです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
STEP① 将来自分を支援してくれる人を決定
まずは、将来自分を支援してくれる人「任意後見受任者」を決めましょう。
将来、自身の財産や手続きを安心して任せることができる、信頼できる人に依頼することが大切です。
任意後見受任者は自由に選ぶことができます。家族や親戚など周囲の人でも良いですし、司法書士や弁護士といった専門家へ依頼することも可能です。
STEP② 契約内容を決定
任意後見受任者が決まったら、支援してもらう内容を決めましょう。
自身が判断能力を低下したときに、「何を、どのように支援してもらいたいか」を自身のライフプランに沿って決めます。
具体的には以下のような内容です。
- 任意後見開始後の介護や生活について
- 金銭の使い方や不動産の活用方法など、財産の使用および利用方法について
- 任意後見人の報酬や経費について
- 任意後見人に委任する事務(代理権)の範囲について
なお、法的に実現可能な範囲の判断や法的な文章に落とし込むことは、法的知識を持っていないと難しいため、適切な契約内容にするためには司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
STEP③ 任意後見契約の締結および公正証書の作成
本人の希望のもと契約内容を決めたら、公正証書を作成し、契約を締結します。任意後見契約は、公正証書で作成することが法律で決められているので、必ず作成しましょう。
公正証書は、契約内容をまとめたものを公証人役場に持ち込むことで作成できます。
全国の公証人役場からお近くの役場を探してください。以下で公証人役場一覧を確認できます。
公正証書の作成手順や、必要書類、費用などは以下のとおりです。
【公正証書の作成手順】
- 公証人役場にまとめた原案と必要な資料を提出し、チェックしてもらう。
- 公正証書の作成場所と作成日時の予約をする。
※体力的な問題などで、公証人役場に行くことができない場合は病院や自宅まで来てもらうこともできます。 - 委任者である本人と任意後見受任者が公証人の面前で契約内容を確認し、契約書に署名押印する。
【必要書類】
- 任意後見契約と代理権の範囲の原案
- 本人の戸籍謄本、住民票、実印、印鑑証明書
- 任意後見受任者の実印、印鑑証明書
※各書類は発行から3ヶ月以内のもの
【公証人へ支払う費用】
- 基本手数料 11,000円
- 登記嘱託手数料 1,400円
- 収入印紙代 2,600円 合計15,000円
※契約の内容によって費用は増減します。
※公証人の出張が必要な場合は別途日当が加算されます。
STEP④公証人から法務局へ登記依頼
公正証書が作成され任意後見契約が締結されると、公証人が法務局に登記依頼をします。依頼から2〜3週間程度で登記が完了することがほとんどです。
法務局に登記されれば、「登記事項証明書」を取得することができます。「登記事項証明書」は、後見人業務をする際に必要となりますので、必要なときに最寄りの法務局へ取りに行きましょう。
STEP⑤任意後見監督人選任の申立
任意後見監督人とは、任意後見人となった人が契約通り適切に後見業務を行っているかを監督する人です。
任意後見契約は、任意後見監督人が選任されたときから効力が発生します。本人の判断能力が不十分になり、任意後見人としての業務を開始したいときには、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てましょう。
申立ができる人は以下の人です。
管轄の家庭裁判所は、裁判所HPから確認できます。
裁判所HPはこちら
任意後見監督人の選任までの流れは以下のとおりです。
【任意後見監督人選任の申立ての流れ】
- 申立て権限のある人と申立て先を確認しよう。
- 必要書類の収集
- 申立書類の作成と印紙や切手の準備
- 家庭裁判所へ申立書類一式を提出
任意後見監督人には、司法書士や弁護士が選任されることがほとんどで、報酬も発生します。なお、報酬は家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われます。
具体的な報酬の相場については5章を御覧ください。
申し立てに必要な書類は以下のとおりです。
上記の内、「本人に関する資料」は以下のような書類です。
【すべての人に必要な資料】
【状況に応じて必要な書類】
必要な書類が準備できたら、申立書類の作成をしましょう。
以下に、申立書類の一覧と記入例を記載しましたので参考にしてください。
【申立書類一覧】
申立書類の作成が済んだら、準備した書類と、印紙・郵券を一緒に家庭裁判所へ提出しましょう。
提出方法は、家庭裁判所へ持参するか郵送するかどちらかになります。
STEP⑥ 任意後見人の選任
任意後見監督人選任の申立をすると、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任され、任意後見人に結果が郵送されます。
また、任意後見監督人の情報や任意後見が開始されたことについて登記するよう、家庭裁判所から法務局に依頼がなされます。
STEP⑦ 任意後見人の業務開始
任意後見監督人が選任されると、いよいよ任意後見人の仕事が始まります。
まずは、本人の財産を調べ、財産の一覧表を作成しましょう。この一覧表を「財産目録」と言います。
その他にも、金融機関や役所への届出など様々な業務があります。
9章 成年後見制度の問題点・課題
成年後見制度は、認知症や知的障害など判断能力を失った人の生活を支援する制度ではあるものの問題点や課題もいくつかあります。
成年後見制度の問題点や課題は、下記の通りです。
- 申立てに手間と時間・費用がかかる
- 柔軟な財産管理を行えない
- 親族間で不公平感やトラブルに繋がりやすい
- 成年後見人の負担が大きい
- 家族・親族以外が後見人に選ばれることが増えている
- 専門家が成年後見人になると費用がかかる
- 成年後見人が不祥事を起こす恐れがある
- 相続対策を行えない
- 成年後見制度の利用は途中でやめられない
上記の問題を回避したいのであれば、家族信託などを活用することも検討しましょう。
成年後見制度に代わる手段を次の章で紹介します。
10章 成年後見制度を利用したくない人が知っておきたい代替手段
- 家族以外の人に任せたくない
- 報酬を支払いたくない
- 成年後見制度の業務が煩雑
などの理由から、成年後見制度を利用したくない方もいらっしゃるでしょう。
しかし、認知症などで財産管理できなくなった時のことは不安ですよね。
そういった方におすすめなのが「家族信託」の活用です。
家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産を託し、財産の管理や処分などを任せる方法です。家族間で自由に契約内容を決めることができ、柔軟な財産管理を行うことができるものメリットの1つです。
また、成年後見制度や遺言ではできない財産管理や相続対策などが家族信託では可能であり、自身の希望や、ニーズに合った認知症対策や相続対策が可能なので、家族信託を選択する方も多くいらっしゃいます。
家族信託については以下の記事で詳しく解説していますので、是非参考にしてください。
まとめ
成年後見制度とは、認知症などによって判断能力が低下した方の財産管理や生活に必要な契約を代理で行うことで、支援をするための制度です。
親が認知症などにより判断能力が低下し、財産管理が不安なときや、必要な手続きができないときなどに利用します。
成年後見制度は家庭裁判所に後見人を選任してもらう「法定後見」と、本人が元気なうちに後見人を指名する「任意後見」の2つがあります。
どちらも、後見人には指定された業務を行う義務があり、報酬も発生します。
もし、成年後見制度を利用しなくないという場合は家族信託の活用がおすすめです。
家族信託は、信頼できる家族に財産の管理や処分を任せる方法です。成年後見制度よりも柔軟性があるため、家族信託を選択する方もいらっしゃいます。
成年後見制度や家族信託について疑問や不安なことがあれば、司法書士などの専門家に相談してみてください。
よくあるご質問
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症や知的障がいなどにより、判断能力が不十分と判断された人が、不利益を被らないよう支援する制度です。
▶成年後見制度について詳しくはコチラ成年後見人はどんな人がなるの?
成年後見人になるために特に資格は必要ありません。
欠格事由(成年後見人になれない要件)に該当していなければ誰でもなることは可能です。
ただし、法定後見人の場合は、家庭裁判所が後見人を選定するので、希望した人が選任されるとは限りません。
成年後見人の欠格事由など、詳しくは下記リンク先で解説しておりますので、ご参考にしてください。
▶成年後見人になれる人、なれない人成年後見制度のメリットとは?
成年後見制度のメリットは、被後見人の不利益になる契約を防げる、契約後も後から解消できるなどがあります。
また、被後見人の財産の使い込みや相続発生時に財産の把握もしやすくなります。
▶成年後見制度のメリットについて詳しくはコチラ成年後見制度のデメリットとは?
成年後見制度のデメリットは、後見人に義務が発生し手間がかかる、柔軟な対応が難しくなるなどです。
また、専門家に成年後見人になってもらった場合、費用が発生します。
▶成年後見制度のデメリットについて詳しくはコチラ成年後見制度の利用にかかる費用は?
成年後見制度の申立て費用は司法書士に依頼した場合、10~20万円程度かかります。
制度の利用開始後は月額0~6万円程度の報酬がかかります。
▶成年後見制度の利用にかかる費用について詳しくはコチラ成年後見制度を利用する人は誰?
成年後見制度とは、認知症や知的障がいなどにより判断能力が不十分と判断された人が利用する制度です。