故人が賃貸経営をしていたアパートを相続した際には、相続登記の手続きが必要です。
また、相続人がアパート経営も受け継ぐのであれば、相続登記以外にも様々な手続きが必要になります。
そもそも収益性が低いアパートや将来的に赤字になる可能性が高いアパートの場合には、相続するかどうかも検討しなければなりません。
本記事では亡くなった人が所有していたアパートを相続した場合の手続きや注意点、相続すべきかどうか検討する方法を解説していきます。
目次
1章 アパートを相続する前に検討すべきこと
アパートを相続できるとなると「不動産を手に入れた!」と諸手を挙げて歓迎したくなりますが、まずはアパートを相続すべきかどうか検討する必要があります。
故人が所有していたアパートの情報を調べないままに相続してしまうと、アパートだけでなく借金も一緒に相続してしまう恐れがあるからです。
故人の財産を相続すべきかの判断は、下記を基準に行いましょう。
- プラスの財産が多いときには相続する
- マイナスの財産が多いときには相続放棄をする
また、上記以外にもアパート経営を続けるか判断するために、確認しておくべき情報を紹介していきます。
1-1 プラスの財産が多いときには相続する
相続では指定した財産のみを相続することはできないので、アパートや現金、預貯金などのプラスの財産と借金やアパートのローンなどマイナスの財産全てを相続することになります。
まずは、故人が所有していた財産の調査をしてプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかを計算してみましょう。
アパートのローンが残っていたとしても、それ以外の財産が多い場合にはアパート含め、財産を相続しても良いでしょう。
アパートを相続して賃貸経営を引き継げば、自分の収入アップにも繋がります。
ただし、相続したアパートの収益性が将来も維持できるかは確認しておくと良いでしょう。
アパート経営を続けるか判断する際の要素は、この後で詳しく解説します。
1-2 マイナスの財産が多いときには相続放棄をする
先ほど解説したように、相続ではプラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続してしまいます。
そのため、故人の遺したプラスの財産よりもアパートのローンなどの負債が多い場合には相続放棄を検討しましょう。
例えば、アパートなどの財産が5,000万円あるもののアパートのローンやその他の借金が1億円あるばあいには、相続放棄した方が無難です。
なお、相続放棄を行うには、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所での申立手続きが必要です。
相続放棄する前に相続した財産を勝手に処分してしまうと、相続放棄が認められなくなる点にも注意が必要です。
相続放棄の判断や申立手続きには、相続や法律に関する専門的な知識が必要です。
自己判断するのが不安であれば、司法書士や弁護士等の専門家への相談をおすすめします。
1-3 アパート経営を続けるか判断する方法
アパートを相続した場合、故人のように賃貸経営を続けたいと考える人も多いはずです。
しかし、アパート経営を続けるにあたり、収益が十分に確保できそうか検討しておきましょう。
具体的には、以下を調べておくとアパート相続後も賃貸経営を続けるべきか計画しやすくなります。
- ローンの残債
- アパートの維持費
- 修繕計画
- アパートの収益性と将来の予測
- 家賃滞納や住人とのトラブルの有無
調査の結果、将来的にはアパートの収益性が低下しそうとわかった場合には、賃貸経営をそのまま引き継ぐだけでなく出口戦略まで考えておくことも必要です。
ただ、相続したアパートの売却や処分をする場合にも相続登記を始めとした手続きは行わなければなりません。
また、相続人が複数いる場合には誰がアパートを相続するかも決定する必要があります。
次の章では、アパートの遺産分割方法を紹介していきます。
2章 アパートの遺産分割方法
故人が遺言書を作成していなかった場合には、相続人全員で遺産分割方法を話し合い決定しなければなりません。
法律では誰がどれだけ遺産を相続するかを「法定相続人」と「法定相続分」で定めていますが、アパートは現金や預貯金と比べて分割しにくく相続人同士で不公平感を持ってしまう恐れがあります。
そのため、相続財産にアパートが含まれる場合には、以下の方法で遺産分割をするのが良いでしょう。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
それぞれ解説していきます。
2-1 現物分割
現物分割とは、相続財産をそのままの形で相続する方法です。
相続したアパートを売却する必要がないメリットがありますが、相続財産の種類や金額によっては相続人間で公平な相続を行えない恐れがあります。
例えば、評価額5,000万円のアパートを兄が相続し、預貯金3,000万円を弟が現物分割したとします。
法定相続分通りの遺産分割であれば、兄弟ともに4,000万円の相続権を持っているので、弟が遺産分割方法に反発する可能性もあるでしょう。
現物分割では遺産分割がうまくいかない場合には、後述する代償分割や換価分割を行います。
2-2 代償分割
代償分割とは、法定相続分よりも多く遺産を受け取った相続人が他の相続人に対し、代償金を支払う方法です。
例えば、評価額5,000万円のアパートを相続した兄が預貯金3,000万円を相続した弟に対して、1,000万円の代償金を払うのが代償分割です。
代償分割は、相続したアパートを売却しなくてすみますが、不動産などを受け継いだ相続人が代償金を用意しなければならないデメリットがあります。
2-3 換価分割
換価分割とは、相続したアパートなどを売却して現金化して、各相続人で分ける遺産分割方法です。
代償金を用意することなく、各相続人で公平な遺産分割ができる点がメリットです。
その一方で相続したアパートを売却する必要があるので、将来的な賃貸収入を得られなくなってしまいます。
このように、相続人が複数いる場合にはアパートを誰が相続するかを決定し、相続手続きを進めていかなければなりません。
次の章では、アパートを相続したときの手続きを詳しく解説していきます。
3章 アパート相続時の手続きの流れ
アパートを相続した際には、故人から相続人へと所有者を変更する相続登記や相続税の計算、申告が必要です。
アパートを相続した際に行う手続きの流れは、以下の通りです。
- 遺言の有無を調査する
- アパートの不動産情報を調査する
- 遺産分割協議をする
- 相続登記をする
- 相続税の計算・申告を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
STEP1 遺言の有無を調査する
まずは、故人が遺言書を作成していたかを調査しましょう。
公正証書で作られた遺言であればどこの公証役場でも調べられます。
それ以外の遺言書を作成していた場合には、配偶者や身近な人に確認して調査を進めていきましょう。
なお、遺言書が見つかった場合には、原則として遺言書の通り遺産分割を行わなければなりません。
そのため、自分がアパートを相続したいと思っていても、遺言書にアパートは別の人へ相続させると書いてあった場合には、アパートは遺言書に書かれた人物が相続します。
STEP2 アパートの不動産情報を調査する
続いて、相続したアパートの不動産情報を調査しましょう。
具体的には、以下の情報を調べておくと安心です。
- アパートの権利関係
- 故人の単独所有か複数人の共有財産か
- 担保が設定されているかどうか
法務局で登記簿謄本(全部事項証明書)を取得すれば、アパートの権利関係を調べられます。
また、所有者情報の他には担保の有無についても登記簿謄本で確認しておきましょう。
登記簿謄本の取得方法は、下記の通りです。
取得できる人 | 誰でも可能 |
請求先 | 法務局 |
費用 |
|
必要書類 | 交付申請書 |
STEP3 遺産分割協議をする
故人が遺言書を遺していなく、相続人が複数人いる場合には遺産分割協議を行います。
遺産分割協議とは、誰がどの財産を相続するかを決める話し合いです。
遺産分割協議で決定した内容は、遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が実印で押印します。
作成した遺産分割協議書は、相続登記時にも必要になります。
なお、法定相続分で不動産を相続する場合には、相続登記時に遺産分割協議書は必要ありません。
しかし、不動産を共有名義で相続することはあまりおすすめできません。
共有名義で相続してしまうと、第三者への売却が難しくなり、共有者と固定資産税や管理費の負担割合で揉める可能性があるからです。
STEP4 相続登記をする
誰がアパートを相続するか決定したら、法務局にて相続登記を行い、名義変更します。
相続登記時には固定資産税評価額の0.4%が登録免許税としてかかります。
例えば、アパートが5000万円の評価額だとすると、登録免許税は20万円です。
相続登記の方法は、下記の通りです。
手続きする人 | 不動産を相続した人 |
手続き先 | 法務局 |
費用 | 登録免許税(固定資産税評価額の0.4%) |
必要書類 |
など |
なお、相続登記は自分でも行えますが、司法書士や弁護士に依頼した方が確実です。
司法書士や弁護士に依頼した場合の報酬相場は3~10万円程度です。
相続登記はこれまで義務化されておらず、罰則等もありませんでした。
しかし、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続登記がすんでいない不動産に関しては罰則が科せられます。
まだ、アパートの相続登記をすませていない場合には早めに手続きをすませましょう。
「手続きをする時間がない」とお悩みの人は、司法書士や弁護士等の専門家に依頼することもご検討ください。
STEP5 相続税の計算・申告を行う
アパートの相続登記が完了したら、相続税の計算を行いましょう。
相続税がかかる場合には、相続税の申告および納税もしなければなりません。
なお、相続税は相続が発生してから10ヶ月以内に現金で一括納付すると決められています。
相続した財産の中で不動産の占める割合が多い場合には、相続税の納税資金を用意するのが大変になる恐れもあります。
納税資金の計画を立てるためにも、相続税の計算は早めに行っておきましょう。
また、相続税には様々な控除や特例が用意されています。
控除を使えば相続税を節税できるので、活用できる控除や特例がないか専門家に相談してみるのもおすすめです。
どうしても、アパートの相続税が払えない場合にはアパートを含む資産の売却を検討も必要です。
しかし、急いで売却してしまうと逆に相続税が上がってしまう恐れがあるので、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
4章 アパート相続時の特有の手続き5つ
居住用の不動産ではなく、賃貸経営用のアパートやマンションを相続した場合には、以下の手続きも必要です。
- 賃料の分配を行う
- 賃借人への連絡をする
- 準確定申告を行う
- 賃貸経営の継続もしくは売却を検討する
- 金融機関とのやり取りをする
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 賃料の分配を行う
まずは相続発生前後の賃料の取り扱いを決定しなければなりません。
相続発生前後の賃料は、以下の人物の所得として扱われます。
時期 | 賃料の取り扱い |
相続発生前 | 亡くなった人の所得になる |
相続発生から遺産分割が完了するまで | 相続人全員が法定相続分で賃料を分ける |
遺産分割完了後 | アパートを相続した人の所得になる |
上記のように、亡くなった月までは賃料は故人の所得として扱われます。
そのため、相続人は相続開始から4ヶ月以内に準確定申告を行い亡くなった人の所得税の計算および納税をしなければなりません。
相続発生から遺産分割が完了するまでは、以下のように賃料を法定相続分に従って各相続人に分配する必要があります。
4-2 賃借人への連絡をする
アパートのオーナーが亡くなると、今後の段取りを賃借人に連絡しなければなりません。
オーナーが亡くなったままの状態では、口座が凍結して、賃借人が家賃を支払えなくなってしまったり、給湯器の修理など賃貸人としての義務が果たせなくなってしまったりするからです。
したがって、相続人で話し合って代表者を決め、賃借人との連絡係になる必要があります。
管理会社がいる場合には、管理会社に相談してみてもいいでしょう。
4-3 準確定申告を行う
準確定申告とは、被相続人が亡くなってしまっているので、生前の収入を相続人が確定申告してあげることです。
相続人は収益を計算し、準確定申告を行います。
準確定申告の期限は故人が亡くなってから4ヶ月以内と決められています。
4-4 賃貸経営の継続もしくは売却を検討する
アパートを相続した際には、賃貸経営自体を承継するかどうかの検討も必要です。
相続したアパートの立地がよく抜群の収益性があるということなら、迷うことはありません。
しかし、空き室もチラホラあるような物件の場合には、将来の世帯数減少による空き室増加や住宅過剰供給による賃料の下落なども考えておかなければなりません。
さらに、アパートを相続した年齢によっては、本業と兼業してオーナー業をしなければならない点にも注意が必要です。
賃貸経営は不労所得ともいわれていますが、実際には以下のような業務も多く「苦労所得」と揶揄される場合もあります。
- 賃借人からのクレーム対応
- 将来的なリスクへの対応
- 修繕の際の金融機関との折衝
年齢的に本業が忙しく、オーナー業に手が回らない場合には管理会社への委託やアパートの売却も検討しましょう。
ただし、アパートの売却を急いで行ってしまうと相続税が大きく控除される小規模宅地の特例が利用できなくなってしまいます。
アパートを売却するにしても必ず専門家のアドバイスを受けるのが重要です。
4-5 金融機関とのやり取りをする
アパートのローンが残っている場合、金融機関ともやりとりしなければなりません。
誰が返済するか、そしてどのような形で返済していくかを考えなければならないからです。
相続発生後にアパートのローンについて何もしないでいると、金融事故になってしまいますのでご注意ください。
また、故人が生前、団体信用生命保険(団信)に加入している場合もあります。
その場合は、団信でローンの残債を支払うので、負債は残りません。
ただし、団信の保険料が降りるのが通常2ヶ月程度かかるので、その間のローンを支払わないと金融事故になってしまう点には注意が必要です。
いずれにしても、ローンが残っている場合は金融機関に相談することが必須となります。
5章 アパート相続Q&A
アパートの価格がわからない・・・
相続に関係するアパートの価格というのは2種類に分けられます。
相続税の計算をする際に使用する相続税評価額と、相続するか・事業継続するかどうかを判断するための市場価格です。
相続税の計算をする場合、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基にします。
前者は国税庁のウェブサイトで、後者は毎年送られてくる固定資産税の課税明細で分かります。
市場価格については、不動産鑑定士を利用すれば確実ですが、かなりの金額がかかるので、不動産仲介業者に査定をしてもらうといいでしょう。
アパートの名義は家族の共有名義にしない方がいい?
アパートの名義は家族の共有名義にするととてもやっかいですので、共有は避けましょう。
というのも、共有のアパートは賃料の配分トラブルが起こりやすく、全員一致でないと売却もできないからえです。
今後日本では、世帯数の減少や大規模な宅地供給という問題を抱え、立地などの条件が悪いアパート経営は厳しい局面を迎えると言われています。
不動産市況を見て迅速な売却を要する際に「売れない」ということは大きな損失となりかねません。
アパートしか遺産がなく共有にせざるを得ないというような場合には、売却して金銭で分けたり、代表の相続人に家族信託したりすることで解決できるかもしれません。
このような場合には専門家のアドバイスをもらったほうがいいでしょう。
空室が多いけどどうしよう・・・
管理仲介会社がついているのであれば、管理仲介会社に相談してください。
空き室率の低さをうたっている管理仲介会社に変えてみるのも一つの手かもしれません。
ただし、プロであった故人も生前に空き室対策をしていたはずなので、相続人が引き継いで空き室対策をするのは生半可なことではありません。
大きな費用をかければ建物はなんとかなるかもしれませんが、立地が悪ければどうしようもありません。
近年の相続税対策の建設ラッシュで空き家率は増加しており、平成30年では16.9%にも達するのではないかと予想されています。
さらに、都市部には生産緑地という莫大な面積の宅地候補が眠っており、これが2023年に大量解放されるのではないかと言われております。
専門家の意見を聞いたうえの話ですが、空き室率の高いアパートは売却を検討してみてもいいかもしれません。
まとめ
アパートを相続した場合には、相続登記の手続きや相続税の計算が必要です。
また、相続手続きを行う前に「そもそもアパートを含め財産を相続すべきか」「賃貸経営を継続すべきか」も検討しなければなりません。
相続人が複数いる場合には、誰がどのようにアパートを相続するかも決める必要があります。
このように、アパートを相続した際に行う手続きや決定には様々なものがあります。
手続きや決定を行う際には、不動産や相続を始めとした様々な専門的知識も必要です。
「自分では判断がつかない」「相続登記などの手続きを自分で行う時間がない」と考える人は、司法書士や弁護士などの専門家に相談してみるのも良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、相続登記や相続放棄に関する相談をお受けしています。
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よくあるご質問
相続税を払えないときの対処法とは?
相続財産に不動産が多く相続税を払うのが大変なときは、不動産の売却も検討しましょう。
▶不動産の相続税が払えないときの対処法について詳しくはコチラ