- 不動産の共有名義人が死亡したときの相続人は誰かがわかる
- 不動産の共有名義人が死亡したときの手続きの流れがわかる
- 不動産の共有名義人が亡くなったときの相続税の計算方法がわかる
不動産を共有名義で所有している人が亡くなったときには、不動産の共有名義の持分も相続財産として扱われます。
故人と共有名義人だった人物が相続人になったとしても、他の相続人よりも優先して故人が遺した共有名義の持分を相続できるわけではないのでご注意ください。
故人が遺言書を作成していなかった場合には、他の相続財産同様に相続人全員で遺産分割協議を行い、持分を誰がどれくらい相続するか話し合わなければなりません。
また、不動産の共有名義に関しても相続税がかかりますし、相続する人物や割合が決定したら相続登記の手続きが必要です。
本記事では、不動産の共有名義人の片方が死亡した場合の相続手続きについて解説します。
相続登記に関しては、下記の記事もご参考にしてください。
目次
1章 不動産の共有名義人の片方が死亡した場合の相続人は誰?
不動産の共有持分は相続財産であり、遺産分割の対象になります。
そのため、不動産の共有名義人の片方が死亡したときは、亡くなった人の相続人が共有名義を相続します。
相続人に残りの共有名義人が含まれる場合でも共有名義を優先して相続できるわけではないので注意が必要です。
また、共有持分を相続人が法定相続分で受け継ぐとさらに共有者が増え、権利関係が複雑になるリスクがあります。
法定相続人は下記のように優先順位が決められています。
配偶者 | 常に相続人になる |
子供や孫 | 第一順位 |
両親や祖父母 | 第二順位 |
兄弟姉妹や甥・姪 | 第三順位 |
上記を踏まえ、以下のケースを考えてみましょう。
【条件】
- 親と長男で不動産を共有名義で所有していた
- 親が死亡し、共有名義で所有していた不動産も相続財産になった
- 相続人は配偶者、長男(共有名義人)と次男
上記のケースでは、共有名義人である長男が親が遺した共有名義の不動産を相続し、単独所有したいと考えるケースも多いはずです。
ただし、相続時に共有名義人が他の相続人より優先される決まりはありません。
そのため、故人が遺言書を遺していなかった場合、相続人による話し合いによって遺産分割方法を決めなければなりません。
相続人が法定相続分で共有名義の不動産を相続した場合、それぞれの相続分は下記のようになります。
相続人 | 相続した共有名義の持分 | 最終的な共有名義の持分 |
配偶者 | 2分の1(全体の4分の1) | 4分の1 |
長男 | 4分の1(全体の8分の1) | 8分の5 |
次男 | 4分の1(全体の8分の1) | 8分の1 |
このように、故人が遺言書を作成していないと、共有名義の権利関係が複雑になってしまう恐れがあります。
共有名義に死亡後の相続トラブルを避けたい場合には、本記事の5章で解説する相続対策をしておきましょう。
2章 不動産の共有名義人の片方が死亡したときの相続手続きの流れ
亡くなった人が不動産を共有名義で所有していた場合には、誰が共有名義をどれくらいの割合で相続するか決定し、決定内容に従って名義変更の手続きをしなければなりません。
不動産の名義変更手続きを一般的に「相続登記」と言います。
共有名義の相続手続き(相続登記)の流れは、下記の流れで行います。
- 相続人を確定させる
- 相続人全員で遺産分割協議を行う
- 相続登記を行う
なお、故人が遺言書を作成してた場合には、相続人の確定や遺産分割協議が必要ないケースもあります。
本記事では、故人が遺言書を作成していなかった場合を解説していきます。
STEP① 相続人を確定させる
故人が遺言書を作成していなかった場合、誰が相続人になるのかを確定させなければなりません。
具体的には、故人が出生してから死亡するまでの連続した戸籍謄本を収集し、調査を進めていきます。
戸籍は結婚や本籍地の移動などにより作り変えられるので、生まれてから死亡するまでの戸籍が1種類しかないケースは非常に少ないです。
故人の戸籍謄本を収集する際には、死亡時の戸籍からさかのぼって取得していきましょう。
戸籍謄本には以前の本籍地が記載されていますので、新しい戸籍からたどっていけば出生時までさかのぼれます。
戸籍謄本の取得方法や必要書類は、下記の通りです。
取得できる人 |
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取得先 | 本籍地の住所地を管轄する市区町村役場 |
取得費用 |
|
必要書類 |
|
STEP② 相続人全員で遺産分割協議を行う
相続人が確定したら遺産分割協議を行い、共有名義の不動産の相続割合を話し合います。
遺産分割協議とは、誰がどの遺産をどれくらいの割合で相続するかを決める話し合いで、相続人全員で行わなければなりません。
1章で解説したように、共有名義人の一人が相続人であっても、法律上は共有名義人が他の相続人よりも優先して共有名義の持分を相続できるわけではありません。
ただし、遺産分割協議で相続人全員が合意すれば、故人が所有していた共有名義の持分をすべて相続することも認められています。
遺産分割協議が完了したら、決定した内容を文書にまとめ遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書は、この後で行う相続登記を始め様々な相続手続きの際に提出が必要となる重要な書類です。
STEP③ 相続登記を行う
遺産分割協議書の作成が完了したら、法務局にて相続登記の申請をしましょう。
相続登記の流れは、下記の通りです。
- 必要書類を収集する
- 登記申請書を作成する
- 法務局に登記申請書および必要書類を提出する
- 登記完了後に登記識別情報通知を受け取る
なお、相続登記は簡単なケースであれば上記の流れで相続人が自分で手続き可能ですが、司法書士への依頼も可能です。
司法書士であれば必要書類の収集から登記の完了確認まで任せられます。
相続手続きをミスなくスムーズに完了したいのであれば、依頼をご検討ください。
故人が遺言書を作成していなかった場合の必要書類や相続登記の手続きの概要は、それぞれ下記の通りです。
申請する人 |
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申請先 | 不動産の住所地を管轄する法務局 |
申請費用 | 登録免許税:不動産の固定資産評価額の0.4% |
必要書類 (故人が遺言書を作成していなかった場合) |
|
これまで相続登記は義務化されていなかったので、登記手続きをせずに長年不動産を放置していても特に問題はありませんでした。
しかし、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあります。
相続登記の義務化や罰則に関しては、過去に発生した相続に関しても適用されるので、現段階で相続登記せずに放置している不動産を所有している人は早めに手続きしておきましょう。
相続登記は自分でも行えますが、司法書士に頼めば数万円程度で手続きしてもらえます。
3章 不動産の共有名義人の片方が死亡したときの相続税の計算方法
不動産の共有名義人の片方が死亡した時、相続税は不動産全体にではなく共有持分に対してのみかかります。
相続税は不動産の共有持分だけでなく、現金や預貯金、株式など他の相続財産と合算して計算を行います。
- 相続税の課税対象財産の総額を計算する
- 法定相続分で分けた場合の相続税額を計算する
- 相続税合計額を実際の相続割合に応じて按分する
具体的には、上記の流れで相続税の計算を行います。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
STEP① 相続税の課税対象財産の総額を計算する
相続税は相続した財産ごとにかかるのではなく預貯金や不動産株式等を相続した財産全体にかかります。
そのため、まずは相続税の課税対象財産の合計金額を計算しましょう。
相続した財産によって、相続税評価額の計算方法が異なるのでご注意ください。
不動産の共有名義は相続税評価額(路線価)によって、計算します。
相続税評価額は国土交通省が毎年発表していて、国税庁ホームページ「路線価図・評価倍率表」で確認可能です。
例えば、下記のケースの課税対象財産の総額を計算してみましょう。
【条件】
- 共有名義で所有していた不動産の相続税評価額:6,000万円(故人は2分の1の持分を所有)
- 預貯金:4,000万円
- 相続人は配偶者と長男・次男の3人
上記のケースでは、6,000万×2分の1=3,000万円が共有名義の相続税評価額となります。
また、相続税の課税対象財産は共有名義の持分と預貯金を合計した7,000万円です。
相続税計算時には「3,000万+600万×法定相続人」の基礎控除枠が用意されています。
本記事で紹介した条件は法定相続人が3人なので基礎控除枠は3,000万+600万×3人=4,800万円です。
そのため、課税対象財産の総額は7,000万-4,800万=2,200万円となります。
STEP② 法定相続分で分けた場合の相続税額を計算する
課税対象財産の総額を計算したら、財産を法定相続分で分けたと仮定し相続税額を計算します。
法定相続分とは、法律で決められた相続分であり、配偶者と子供が相続人の場合は2分の1ずつ財産を相続します。
そのため、STEP①で紹介した条件の場合、法定相続分はそれぞれ下記の通りです。
配偶者 | 1,100万円 |
子供たち | 550万円ずつ |
上記の金額をもとに下記の税率表で相続税を計算します。
- 配偶者:1,100万×15%-50万=115万円
- 子供たち:550万×10%=55万円
上記をそれぞれ合算した115万+55万+55万=225万円が相続税の合計額となります。
STEP③ 相続税合計額を実際の相続割合に応じて按分する
最終的には、STEP②で解説した相続税合計額を実際の相続割合に応じて按分し相続税の申告および納税をします。
- 配偶者:2分の1の割合で財産を相続
- 長男:2分の1の割合で財産を相続
- 次男:相続はしなかった
例えば、上記のケースでは、相続人ごとの納税額は下記の通りです。
配偶者 | 225万×2分の1=112.5万円 |
長男 | 225万×2分の1=112.5万円 |
次男 | 相続税の納税は必要ない |
ただし、配偶者は相続税の配偶者控除が用意されており、1億6,000万円もしくは法定相続分までの相続であれば相続税は課税されません。
そのため、上記の割合で相続した場合、長男のみが112.5万円の相続税を納める必要があります。
相続税の計算は、相続財産の種類が増えると計算や申告手続きが難しくなり大変です。
さらに、土地の相続税評価額に関しては相続した土地の大きさや形状によって補正が入り、評価額を下げられる可能性もあります。
相続税申告をミスなく行いたい人や適切な相続税評価額を計算し、相続税を節税したい人は相続税申告に詳しい税理士に相談するのがおすすめです。
4章 不動産の共有名義人の片方が死亡したときの注意点
不動産の共有名義人が死亡したときには、通常の不動産の相続と異なりいくつか注意しなければならない点があります。
具体的には住宅ローンの有無の確認や相続トラブルが発生するリスクに注意しておきましょう。
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 住宅ローンの有無や団信の加入を確認する
不動産を親子もしくは配偶者の共有名義で所有していた場合、故人が親子ローンやペアローンに加入していた可能性があります。
親子ローンやペアローンといった債務も相続財産に含まれるので、故人が亡くなった後は住宅ローンの有無も確認しておきましょう。
具体的には、下記の方法で故人の住宅ローンの有無を確認可能です。
- 不動産の登記情報を確認する
- 故人の自宅や持ち物を整理し住宅ローンに関する書類を探す
なお、住宅ローンに関しては団体信用生命保険(団信)に加入しているケースも多いです。
故人が団信に加入していた場合、住宅ローンの借り入れ先の金融機関に必要書類を提出し、保険金支払いの手続きを行いましょう。
故人が住宅ローン返済中に亡くなったとしても団信に加入していれば、故人の死亡とともに住宅ローンの返済義務は免除されます。
4-2 相続トラブルが発生するリスクがある
1章で解説したように、共有名義の相続も他の相続財産と同様に、相続人で遺産分割を行うのが原則です。相続人の一人に共有名義人がいたとしても、共有名義人が優先して故人が遺した持分を相続できるわけではないのでご注意ください。
故人が相続対策をしていない状態で亡くなった場合、共有名義の相続で揉め相続トラブルに発展する恐れもあります。
相続トラブルを回避したい場合には、故人が生前のうちに相続対策をすませておくことが重要です。
次の章では、共有名義のトラブルを回避するための相続対策を紹介していきます。
5章 共有名義の相続トラブルを回避する方法
不動産の共有名義を所有している場合には、相続トラブルを避けるために生前のうちから相続対策をしておきましょう。
具体的には、下記の3つの方法で相続対策を行うのがおすすめです。
- 生前贈与
- 遺言書の作成
- 家族信託
それぞれ詳しく紹介していきます。
5-1 生前贈与
生前贈与を行えば、任意のタイミングで共有持分を贈与できます。
例えば、父親と長男で共有名義で不動産を所有していた場合、父親が亡くなる前に長男に共有名義の持分を贈与しておけば、相続トラブルの発生を防げます。
ただし、共有名義の持分を生前贈与するときには下記の点に注意が必要です。
- 年間110万円を超える贈与は受け取った人に贈与税がかかる
- 生前贈与の当事者間には判断能力が必要であり、認知症になると生前贈与できなくなる
- 特別受益の持ち戻しを主張されないように、遺言書対策もあわせてしておく
贈与を受けていない相続人が特別受益の持ち戻しを主張すると、贈与を受けた相続人が受け取れる遺産の額が少なくなる恐れがあります。
遺言書を作成しておけば、特別受益の持ち戻しを阻止できますので、生前贈与時には遺言書作成もセットでしておきましょう。
5-2 遺言書の作成
遺言書を作成しておけば、自分が希望する方法で遺産分割をしてもらえます。
例えば、不動産を共有名義で所有していた長男には自分の持分を相続させ、次男には預貯金を相続させるなどの指定も可能です。
遺言書を作成する際には、以下の点に注意しておきましょう。
- 遺留分対策をしておく
- 認知症などで判断能力が低下する前に遺言書を作成しておく
- 可能であれば、信頼性が高い公正証書遺言を作成しておく
遺留分とは、故人の配偶者や子供が遺産を最低限度受けとれる権利です。
遺留分は遺言書より優先されるので、遺留分を侵害した遺言書を作成してしまうと、遺産を多く受け取った相続人に対して遺留分侵害額請求が行われる可能性もあります。
また、遺言書は正しい方法で作成されていないと効力を発揮しないのでご注意ください。
公正証書遺言であれば、公証人が作成してくれるので形式不備による無効はほとんど心配しなくて良いですし、原本を公証役場で保管してもらえるので紛失や改ざんリスクもなくせます。
5-3 家族信託
家族信託とは、契約した内容にもとづき、自分の家族に財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
認知症対策として使われるケースが多い家族信託ですが、自分が亡くなった後の次の相続まで指定できるので相続対策としても活用できます。
例えば、自分と長男で共有名義で所有する不動産に対して、下記のように相続先を指定可能です。
- 自分が亡くなったときは配偶者に持分を相続させる
- 配偶者が亡くなったときには共有名義の片方の所有者である長男に持分を相続させる
上記のように指定しておけば、自分と配偶者が亡くなったときに共有名義の持分を誰が相続するかで揉めなくてすみます。
家族信託は高齢者の財産管理や相続対策に非常に有効な制度ですが、専門的な知識が必要かつ対応できる専門家が少ない点がデメリットです。
グリーン司法書士法人では、家族信託に関する相談を毎月20件以上受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
不動産の共有名義人が死亡すると持分も相続財産に含まれます。
ただし、共有名義人かつ相続人である人物が他の相続人に対して、共有名義の持分を優先的に相続できる決まりはないのでご注意ください。
故人が遺言書を作成していなかった場合、共有名義の持分も相続人全員で遺産分割協議をし、誰がどれくらいの割合で相続するかを決めなければなりません。
相続財産や相続人の状況によっては、誰が共有名義を相続するか決まらない、共有名義者が増えてしまい管理が難しくなるなどのリスクもあります。
不動産の共有名義を所有している人は生前のうちに、生前贈与や遺言書の作成、家族信託などの相続対策をしておきましょう。
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