不動産を相続したら「相続登記」をしなければなりません。
相続登記とは、相続を理由とする不動産の名義変更です。たとえば父の自宅を息子が相続したら、自宅を父親名義から息子名義に変更するのが「相続登記」となります。
相続登記は法務局で行います。法務局は土地建物の登記情報を管理している国の機関です。法務局に名義変更の申請をして受け付けてもらえたら、不動産の相続登記(名義変更)ができます。
今回は不動産の所有者が亡くなったときにすべき相続登記の方法について、不動産登記の専門家である司法書士がわかりやすく解説します。
目次
1章 相続登記は管轄の法務局で行う
相続登記の手続きは法務局という役所で行いますが、法務局には「管轄」があります。
管轄とは、それぞれの法務局が「管理している地域」のことです。全国にはたくさんの法務局があり、土地建物の場所によって手続きを行うべき法務局が異なります。相続登記を申請するときには「その不動産の場所を管轄する法務局」を調べなければなりません。
1-1 相続登記の手続きは「窓口」「郵送」「オンライン」で行う
相続登記の申請方法には「窓口」「郵送」「オンライン」の3種類があります。
司法書士はオンラインで全国の法務局で申請できる環境(システムや権限)が整っているので、オンラインで行いますが、自身で手続きされる場合は、窓口か郵送で申請されることがほとんどです。
1-1-1 窓口申請
管轄の法務局に直接行き、窓口で相続登記を申請する方法です。事前に書類を揃えて法務局に持参し、その場で登記申請書と必要書類を提出して費用を払い、相続登記申請を受け付けてもらいます。
窓口で手続きするなら、不備があったときに訂正できるよう申請書に押印した印鑑を持参しましょう。
申請後、10日程度で登記が完了し登記識別情報通知書などの登記完了書類が交付されます。
特に登記識別情報通知書は、不動産の所有者であることを証明できる重要資料(いわゆる権利証)なので、大切に保管しましょう。
窓口申請のメリット・デメリット
メリットとして、郵送申請と比べると、相談窓口などを利用し、その場で質問をして不備を訂正できるので慣れない人にとっては安心感があります。
デメリットとしては、窓口で手続きをすると平日に時間をとって法務局を訪ねないといけないので手間がかかります。また、管轄の法務局が遠方の場合は訪れるだけで大変です。
1-1-2 郵送申請
管轄の法務局に登記申請書と必要書類を郵送して相続登記をする方法です。登記完了書類も郵送で取り寄せが可能です。ただし書類に不備があると受け付けてもらえない可能性があるので、登記申請書には申請者全員分の「捨印」を押しておきましょう。
郵送申請のメリットとデメリット
メリットとしては、郵送すると、開庁時間に法務局に行く必要がないので遠方の方や忙しい方には便利です。
デメリットとしては、その場で訂正したり、わからないことを教えてもらったりはできません。登記に慣れていない方は、足を運んで窓口で手続きする方が確実です。
1-1-3 オンライン申請
相続登記は、自宅やオフィスのパソコンからオンラインで申請することも可能です。
これができれば一番早いのですが、一般の方には利用しにくいのが正直なところです。
オンライン申請のメリットとデメリット
メリットとしては、オンラインで申請であれば、いちいち法務局に行く必要がなく、手間と時間を節約できます。
デメリットとしては、専用のアプリケーションをインストールして「電子証明書」を取得するなど、事前準備が必要です。パソコン操作に慣れていない方にはかえって手間がかかる可能性もあります。
2章 法務局で相続登記手続きが行える人は相続人本人か代理人です
法務局で相続登記できるのは、基本的に「相続人本人」か「代理人」です。司法書士を代理人に選ぶことも可能です。
2-1 相続人本人
基本的には相続人本人が相続登記を申請します。
ご本人が高齢などで不安がある場合、子どもなどの親族が書類の作成や収集を手伝ってあげたり法務局に同行したりしてサポートすると良いでしょう。
2-2 司法書士に依頼
ご本人が対応できない場合は、一般的に登記のプロである司法書士へ依頼することになります。
司法書士へ依頼するメリット・デメリットは以下のとおりです。
2-2-1 司法書士に相続登記を任せるメリット
自分たちではやり方がわからなくても司法書士が書類作成や登録免許税の計算など、必要な作業を行うので、確実かつスピーディに相続登記ができます。
また相続登記のために法務局に行ったりやり方を聞いたりしなくて良いので、手間が省けます。仕事をしている方の場合、休まずに済むのもメリットと言えるでしょう。
司法書士に任せていれば、相続人はほとんど何もしなくても良いので手間と時間も節約できます。
2-2-2 司法書士に相続登記を任せるデメリット
費用がかかります。ケースにもよりますが、8~15万円程度が相場になっています。
相続登記にかかる費用を詳しく知りたい方はこちら
2-3 親族に委任
相続人本人による対応が困難な場合で、かつ費用をかけてたくないときには、子どもなどの親族に代理を依頼することも可能です。
その場合、本人である親が代理人である子どもへ登記業務を任せるための「委任状」を作成し、子どもが主となって相続登記の手続きを進めます。
自分たちで相続登記しようとすると、手間がかかって面倒です。時間がないので後回しにしているうちに、相続登記せず放置してしまう方も少なくありません。
そうなると今の相続人が死亡してさらに相続が起こり、不動産の所有関係がわかりづらくなってしまいます。
以下の図を見ると分かりますが、3世代進むだけでこんなにも相続人が増えてしまいます。このように相続人が増えてしまってから相続登記しようとするのは極めて困難です。
混乱が発生しないように相続登記は早めに行っておくべきといえるでしょう。
そのためには司法書士に任せてスムーズに相続登記を終わらせておくことも検討しましょう。
当メディアを運営していますグリーン司法書士法人は、相続登記を数多く受注しています。
無料相談も実施しているので、ぜひお問い合わせください。
【相続登記義務化法案が可決されました。詳しい解説はこちら】
相続登記の義務化でどうなる?今知っておきたい相続登記のこと
3章 相続登記を行う法務局の調べ方
相続登記をするには、その不動産を管轄する法務局を明らかにしなければなりません。
法務局には全国8箇所の「法務局(本局)」とその管内にある「地方法務局」、さらにその下部組織である各地の「出張所」があります。
不動産の所在地域によって申請先の法務局や出張所が異なります。
こちらの法務省のサイトに全国各地の法務局の管轄情報がまとまっているので、相続登記の際にはぜひとも利用してください。
法務局:管轄のご案内
法務局管轄の具体例
たとえば大阪市中央区の場合には「大阪法務局(本局)」
東京都江戸川区であれば「江戸川出張所」が管轄となります。
管轄が違うと登記申請を受け付けてもらえないので、まずは正確に管轄を調べましょう。
4章 法務局での相続登記に必要な書類
相続登記を行うときには主に3つのパターンがあり、パターンごとに必要な書類が異なります。
- 遺産分割協議書によって行う方法
- 遺言書によって行う方法
- 法定相続分通りに共有登記にする方法
このうちどれになるかで必要な書類が一部異なるので、詳しく知りたい方はこちら
4-1 基本の書類
登記申請書
相続登記を申請するための基本の書類です。法務局HPからダウンロードできます。
遺産分割協議書によって登記するのか、遺言によって登記するのか、法定相続分で共有登記にするのかで書式が異なります。
こちらの法務局HP下部の「登記申請書の要式及び記載例」に見本と書式があるので、利用してみて下さい。
不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
対象不動産の登記事項証明書を入手しましょう。
全国の法務局や出張所で取得できます。
被相続人の住民票の除票
亡くなった方の住民票の除票が必要です。本人の最終の住所地がある市区町村役場で取得できます。
本籍の記載があるものを申請しましょう。
被相続人の死亡時から出生時までの戸籍謄本類
亡くなった方が生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本が必要です。それぞれの「本籍地の役場」に申請して集めましょう。
抜け漏れがあると相続登記の申請を受け付けてもらえないので、日付が連続するように慎重に収集する必要があります。
また被相続人が結婚や離婚を繰り返していたり本籍地を移していたりすると、量が膨大になる可能性があります。司法書士に依頼すればすべて司法書士が代行するので、困ったときにはお任せ下さい。
相続人全員の戸籍謄本
相続人の本籍地の役所で全員分の戸籍謄本を取得しましょう。
相続人の住民票
不動産を相続する相続人の住民票を用意しましょう。居住する役所で申請取得できます。
相続関係説明図
相続人や被相続人の関係を示した家系図のような書類です。
これも法務局のHPにひな形や例が挙がっているので、ご自身で事前に参照してみて下さい。
固定資産評価証明書
登録免許税計算のため、不動産が所在する市町村の役場で固定資産税評価証明書を取得しておく必要があります。
4-2 遺産分割協議書で相続登記する場合
遺産分割協議書によって相続登記するときには相続人全員が納得して実印で押印した遺産分割協議書が必要です。
相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書によって相続登記を行う場合、相続人全員分の印鑑証明書を取得しましょう。
それぞれが居住する市町村役場で入手できます。
4-3 遺言書で相続登記する場合
遺言書と検認済証明書
遺言書で相続登記するときには遺言書と検認済証明書(検認調書)を用意しましょう。公正証書遺言の場合、検認済証明書は不要です。
相続登記の必要書類とその準備方法を詳しく知りたい方はこちら
5章 法務局から指摘されやすい書類不備のポイント
相続登記を申請するときには、以下のような不備が発生しやすいので注意してみてください。
5-1 戸籍謄本が揃っていない
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本類が揃っていないと法務局から不備を指摘されます。1通でも抜けていると登記申請できないので、確実に収集しましょう。
自信がない場合には司法書士に任せるようお勧めします。
5-2 遺産分割協議書や登記申請書の間違い、誤字脱字
相続人が作成した遺産分割協議書や登記申請書の場合は次の点に注意が必要です。
①誤字脱字、②必要な記載の不足、③相続人(申請人)の押印がない
このようなことがあると登記申請の補正を求められたり、場合によっては却下されることもあるので注意が必要です。
司法書士には登記申請だけではなく遺産分割協議書の作成も依頼できるので、不備が心配な方は遺産分割協議書の作成と相続登記をまとめて依頼すると手続きが楽に進みます。
5-3 登記簿上の被相続人の住所と死亡時の住所が異なる
現在の登記簿上の被相続人の住所と死亡時の被相続人の住所が異なる場合、本人の同一性を確認できないので法務局から不備を指摘されます。
この場合、被相続人の住民票や戸籍附票を遡って取得し、登記簿上の住所と死亡時の住所につながりを持たせなければなりません。
住民票は登録されている市町村、戸籍附票は本籍地の役所で取得できるので、連続性を証明できる資料を集めましょう。
5-4 登録免許税を間違えて計算
相続登記の際には「登録免許税」という費用がかかります。金額は「不動産の固定資産評価額の0.4%」です。
不足すると法務局で相続登記の申請を受け付けてもらえないので、事前に取得した固定資産税評価証明書をもとに正確に計算しましょう。
まとめ
正直に申し上げて、相続登記は思っている以上に複雑で手間のかかる作業です。
自身でチャレンジしたい方はぜひ次の記事をご参考にしてください。
当事務所では法務局での相続登記だけではなく遺産分割協議書の作成など幅広く対応可能です。
不動産を相続して登記についてお悩みであれば、お気軽にご相談下さい。