夫婦が共有名義で所有していた不動産の持分も相続財産に含まれます。
故人が遺言書を作成していなかった場合、相続人で故人が所有していた不動産の持分を相続します。
共有持分の残りの所有者である故人の配偶者が他の相続人よりも優先して、故人が所有していた持分を相続できるわけではないのでご注意ください。
また、共有持分を相続したときには、名義変更手続きや相続税の計算や申告も必要です。
本記事では、夫婦の共有名義財産の相続手続きをわかりやすく解説します。
不動産の相続手続きについては、下記の記事でも詳しく紹介しています。
目次
1章 夫婦の共有名義の財産も相続財産に含まれる
夫婦で共有名義の不動産も相続財産に含まれます。
不動産の共有名義人の片方が亡くなった場合、残りの共有名義人が持分を相続できると考えがちですが、実際には違うのでご注意ください。
不動産の共有持分は他の財産同様に、下図の法定相続人に相続されます。
配偶者 | 常に相続人になる |
子供や孫 | 第一順位 |
両親や祖父母 | 第二順位 |
兄弟姉妹や甥・姪 | 第三順位 |
例えば、下記のケースで故人の共有持分を誰がどのように相続するのか見ていきましょう。
【条件】
- 夫婦で不動産を共有名義で所有していた
- 夫が死亡し、共有名義で所有していた不動産も相続財産になった
- 相続人は妻(共有名義人)と長男、次男
上記のケースでは、故人が遺言書を作成していなかった場合、相続人による話し合いによって遺産分割方法を決めなければなりません。
相続人が法定相続分で共有名義の不動産を相続した場合、それぞれの相続分は下記のようになります。
相続人 | 相続した共有名義の持分 | 最終的な共有名義の持分 |
配偶者 | 2分の1(全体の4分の1) | 4分の3 |
長男 | 4分の1(全体の8分の1) | 8分の1 |
次男 | 4分の1(全体の8分の1) | 8分の1 |
夫婦で共有名義で相続していた不動産だとしても、故人が遺言書を作成していない場合は、配偶者がすべて相続できるとは限りません。
不動産の権利関係を複雑にしたくない、相続トラブル発生のリスクを少しでも下げたい場合には、本記事の4章で紹介する相続対策をしておきましょう。
2章 夫婦の共有名義の財産を遺産分割する流れ
夫婦で共有名義の不動産を相続した場合も、他の財産や不動産を相続したときと手続きの流れは変わりません。
具体的には、下記の手順で遺産分割や相続手続きを進めましょう。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人の調査を行う
- 相続財産の調査を行う
- 相続人全員で遺産分割協議を行う
- 相続手続・相続税申告を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
STEP① 遺言書の有無を確認する
相続が発生したときには、故人が遺言書を作成していたかどうかを最初に確認しましょう。
故人が遺言書を用意していた場合、法定相続分と異なる割合で遺産分割を行えるからです。
遺産分割協議完了後に遺言書が見つかると、遺産分割協議や相続手続きがやり直しになり非常に手間がかかります。
遺言書には3種類あり、公正証書遺言以外は家庭裁判所での検認手続きが必要です。
そのため、上記のフローチャートに沿って遺言書の有無の確認や検認手続きを行いましょう。
STEP② 相続人の調査を行う
故人が遺言書を作成していなかった場合には、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
相続人全員で行わなかった遺産分割協議はやり直しになってしまうので、まずは相続人調査を行い、相続人の確定が必要です。
相続人調査は、故人が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本を収集して行います。
生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本を収集することで、相続人も知らなかった隠し子や婚姻歴の存在も明らかになるからです。
故人が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本を収集する際には、死亡時からさかのぼって収集していきましょう。
なお、相続人の中にすでに死亡している人がいるなど特殊なケースでは、故人以外の戸籍謄本の収集も必要になります。
戸籍謄本の取得方法や必要書類は、下記の通りです。
取得できる人 |
|
取得先 | 本籍地のある市区町村役場 |
取得費用 |
|
必要書類 |
|
STEP③ 相続財産の調査を行う
相続人調査や戸籍謄本の収集完了後は、相続財産の調査を行いましょう。
相続財産には、夫婦共有名義で所有していた不動産以外だけでなく、下記の財産も含まれます。
【プラスの相続財産】
- 現金や預貯金などの現物財産
- 不動産
- 借地権など不動産上の権利
- 自動車や貴金属などの動産
- 株式や国債などの有価証券
- その他証券
- 著作権などの知的財産権
- 亡くなった人が受取人の生命保険金
【マイナスの相続財産】
- 借金やローンなどの負債
- 連帯保証などの保証債務
- 損害賠償債務
- 未納の税金などの公租公課
- 買掛金
- その他、未払債務
上記のように、相続財産には借金などのマイナスの財産も含まれるのでご注意ください。
夫婦で共有名義で所有している不動産を相続した場合には、住宅ローンの有無も確認しておきましょう。
ほとんどの人は、住宅ローンを組む際に団体信用生命保険(団信)に加入しています。
団信に加入していた場合には、住宅ローン残債は故人が亡くなったときに消滅するので返済義務はありません。
万が一、故人が団信に加入していなかった場合には、相続財産の価値を評価し、相続すべきか相続放棄すべきかの検討が必要です。
STEP④ 相続人全員で遺産分割協議を行う
故人が遺言書を用意していなかった場合には、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
遺産分割協議とは、誰がどの財産をどれくらい相続するかを決める話し合いです。
遺産分割協議は、相続人全員で行わないと無効になりますが、全員で1ヶ所に集まり行う必要はありません。
電話やメール、LINEなどで話し合いを進める形でも問題ありません。
遺産分割協議が完了したら、決定した内容を遺産分割協議書にまとめましょう。
なお、遺産分割協議に期限はありませんが、この後に紹介する相続税申告を期限内に行うためにも、相続開始から10ヶ月以内に完了することをおすすめします。
STEP⑤ 相続手続き・相続税申告を行う
遺産分割協議書の作成が完了したら、相続税申告や各財産の名義変更手続きを行いましょう。
夫婦で共有名義で所有していた不動産を相続した場合には、名義変更手続きが必要です。
不動産の名義変更手続きをするには、法務局で相続登記の手続きを行います。
相続登記の流れは、下記の通りです。
- 相続した不動産の調査をする
- 遺産分割協議を行う
- 登録免許税を計算する
- 登記申請書の作成・必要書類の収集をする
- 法務局に相続登記の申請をする
相続登記の方法や主な必要書類は、下記の通りです。
申請する人 |
|
申請先 | 不動産の所在地を管轄する法務局 |
申請費用 | 不動産固定資産評価額の0.4%(登録免許税) (目安:1000万円の場合4万円、2000万円の場合8万円) |
必要書類 |
など |
なお、相続税の計算、申告方法は本記事の3章で詳しく解説しています。
これまで相続登記は義務化されておらず、長年にわたり不動産の名義変更をしていなくても問題は発生していませんでした。
しかし、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科されます。
相続登記の義務化は、過去に発生した相続に関しても適用されるので、まだ名義変更のおすみでない不動産をお持ちの人は、早めに手続きをしておきましょう。
グリーン司法書士法人では、税込8万8,000円から相続登記を代行できますので、お気軽にお問い合わせください。
3章 夫婦の共有名義の財産の相続税計算方法
夫婦が共有名義で所有していた不動産を相続した場合には、相続税がかかります。
ただし、相続税は不動産全体にではなく共有持分に対してのみかかります。
また、相続税は不動産の共有持分だけでなく、現金や預貯金、株式やその他の不動産などの相続財産をすべて合計して計算しなければなりません。
具体的には、下記の流れで相続税を計算していきます。
- 相続税の課税対象財産の総額を計算する
- 法定相続分で分けた場合の相続税額を計算する
- 相続税合計額を実際の相続割合に応じて按分する
故人が共有名義で所有していた不動産は、相続税評価額(路線価)によって計算します。
相続税評価額は国土交通省が毎年発表していて、国税庁ホームページ「路線価図・評価倍率表」で確認可能です。
ただし、不動産の相続税評価額は使用目的や土地の形状、広さによって評価額が変わることがあります。
相続税を納めすぎないようにするためにも、相続に詳しい税理士に依頼し、正確な相続税評価額を計算してもらうことをおすすめします。
4章 配偶者に不動産をすべて相続させる方法
本記事の1章で解説したように、共有名義で不動産を所有していた夫婦の片方が亡くなった場合、配偶者が共有持分をすべて相続できるとは限りません。
そのため、相続トラブルや権利関係の複雑化を防ぐために、相続対策をしておくことをおすすめします。
夫婦で共有名義で所有している不動産のおすすめの相続対策を詳しく解説していきます。
4-1 遺言書
遺言書を作成しておけば、法定相続分以外で遺産分割を行えます。
例えば、「配偶者に共有名義で所有している不動産をすべて相続させる」と遺言書に記載しておけば、不動産の権利関係が複雑にならずにすみます。
ただし、遺言書は法律によって決められた書式で作成しなければ、法的拘束力を持ちません。
相続トラブルを回避する目的で遺言書を作成するのであれば、形式不備のリスクを下げるために公正証書遺言で作成するのがおすすめです。
また、遺言書作成時に相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しておけば、遺言書に記載する内容についてもアドバイスをもらえます。
4-2 おしどり贈与を活用した生前贈与
生前贈与をすれば、共有持分をすべて配偶者に渡せます。
生前贈与は贈与者と受贈者双方の合意があれば、任意のタイミングで行える点が魅力です。
ただし、年間110万円を超える贈与を受け取ると贈与税がかかりますし、贈与税の税率は相続税の税率より高く設定されています。
そのため、夫婦が共有名義で所有している不動産の持分を贈与するときには、おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)を活用するのがおすすめです。
おしどり贈与とは、婚姻期間が20年以上の夫婦が自宅を贈与する場合、2,000万円までは非課税になる特例です。
おしどり贈与を活用すれば、共有名義の不動産を贈与したときにかかる贈与税を大幅に節税可能です。
生前贈与で共有名義の不動産を贈与するには、贈与契約書の作成や名義変更の登記手続きが必要になります。
司法書士であれば、贈与契約書の作成から登記手続きまですべてワンストップで行えます。
まとめ
夫婦が共有名義で所有していた不動産も相続財産に含まれます。
故人が遺言書を用意していなかった場合、相続人全員で遺産分割を行うので、共有名義人の片方である配偶者が優先して相続できるわけではありません。
不動産の権利が複雑化してしまう、相続トラブルを避けたいのであれば、生前のうちに相続対策をしておくのが重要です。
具体的には、遺言書の作成やおしどり贈与を活用した生前贈与が良いでしょう。
相続対策や本人の希望や資産状況によっても、ベストな選択肢が変わってくるので、相続に詳しい司法書士や弁護士への相談もご検討ください。
グリーン司法書士法人では、相続対策や相続手続きに関する相談をお受けしています。
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よくあるご質問
夫婦の不動産は共有財産になる?
夫婦が共有名義で不動産を所有していた場合、不動産も共有財産になります。
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