
- 遺言書の付言事項とは何か
- 遺言書の付言事項で書かれる内容
- 遺言書で付言事項を記載するメリット・デメリット
- 遺言書で付言事項を記載する際の注意点
遺言書は、財産の分け方だけでなく、遺言者の「最後の思い」を伝えるための大切な手段です。
その中でも付言事項は、法的拘束力を持たないものの、家族への感謝や相続の意図を補足できる重要な要素です。
上手く活用すれば、相続人同士の誤解を防ぎ、穏やかな形で相続手続きを進められるようになるでしょう。
本記事では、遺言書の付言事項とは何か、書かれる内容、注意点を解説します。
目次
1章 遺言書の付言事項とは
遺言書の付言事項(ふげんじこう)とは、遺言者の思いや考えを自由に記載できる部分です。
遺言書の本文に書く財産の分け方や遺言執行者の指定などは法律上の効力を持ちますが、付言事項には法的拘束力はなく、あくまで気持ちを伝えるためや、遺言の意図を補足するため用いられます。
例えば、「長年介護してくれた長女に感謝して自宅を相続させる」「次男にはすでに生前贈与を行ったため、今回の相続財産には含めていない」など、遺言内容の背景を記しておくことで、遺族の理解を得やすくなります。
2章 【文例付】遺言書の付言事項で書かれる内容
遺言書の付言事項には、家族への気持ちや遺言内容の補足などを書くことが多くあります。
本章では、付言事項をどのように記載すればよいか、例文付きで紹介します。
2-1 家族への感謝の気持ち・メッセージ
付言事項として最も多いものは、家族への感謝やねぎらいの言葉です。
遺言は「最後の手紙」でもあり、直接伝えにくかった思いを残す場でもあります。
【文例】
「これまで支えてくれた妻○○に心から感謝しています。子供たちにはそれぞれの家庭を大切にし、仲良く助け合って生きていってほしいと願っています。」
このような一文を添えるだけでも、受け取る側の印象は大きく変わるでしょう。
2-2 遺産の配分を指定した理由
指定した遺産の分割方法に差がある場合、その理由を付言事項に記しておくと、誤解や争いを防ぎやすくなります。
【文例】
「長男には生前に住宅購入資金として援助を行ったため、今回の遺産分割では次男の取り分を多くしました。」
「長女には長年にわたり介護で助けてもらったことへの感謝を込め、自宅不動産を相続させます。」
こうした補足があることで、相続人全員が納得しやすくなるでしょう。
2-3 遺留分について
偏った内容の遺言書を作成している場合、遺留分侵害額請求をしないように付言事項で相続人に伝えることも可能です。
【文例】
「障害のある長男に遺産を多く譲りたいと考え、この内容にしました。次男や長女は遺留分侵害額請求をしないでもらえると幸いです。」
このような文面は、相続人が感情的に反発するのを防ぐ効果があります。
ただし、付言事項には法的拘束力がないので、次男や長女の遺留分侵害額請求を完全に防ぐことはできません。
2-4 遺言執行者を指定した理由
遺言執行者を選んだ背景を記すことで、家族の安心感を高められる場合もあります。
【文例】
「相続手続きを円滑に進めるため、信頼する司法書士〇〇先生を遺言執行者に指定しました。家族が負担を感じないようにするための選択です。」
第三者の専門家を指定する場合は、その意図を明確にしておくと、家族間の誤解を防ぎやすくなるでしょう。
3章 遺言書に付言事項を記載するメリット・デメリット
遺言書に付言事項を記載するメリットやデメリットは、主に以下の通りです。
| メリット | デメリット |
|
|
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 付言事項を記載するメリット
遺言書に付言事項を記載する最大のメリットは、遺言者の思いを家族に正確に伝えられるという点です。
遺言書は、単に財産を分けるための書類ではなく、遺言者の人生観や価値観を反映させる最後のメッセージでもあります。
法的な文言だけでは冷たい印象になりがちですが、付言事項を加えることで、温かみのある「人の言葉」として伝えられるでしょう。
付言事項を記載しておくことで、遺産の取り分が少ない相続人も納得しやすくなる場合もあります。
また、付言事項が自由記述であり、ある程度自由に記載できる点も場合によってはメリットといえるでしょう。
3-2 付言事項を記載するデメリット
一方で、付言事項には法的拘束力がないというデメリットがあります。
つまり、付言事項に「長男に全財産を譲る」と書かれていても、それが本文に明記されていなければ、法的効力は認められません。
また、付言事項の内容によっては、かえって相続人の感情を刺激してしまうケースもあります。
例えば「介護をしてくれなかったから相続を減らす」「生前の行動を不満に思っていた」など、否定的な感情をそのまま書くと、残された家族が深く傷つく恐れがあるのでご注意ください。
4章 遺言書に付言事項を記載するときのポイント
遺言書に付言事項を記載する際には、書く内容だけでなく、書き方にも気を配る必要があります。
本章では、付言事項を書く際のポイントを解説します。
4-1 付言事項も自筆で記載する
自筆証書遺言の場合、本文だけでなく付言事項も遺言者自身の手で書くことが基本です。
付言事項には法的効力がないとはいえ、遺言書の一部として扱われるため、他人が代筆することは避けましょう。
特に、自筆証書遺言の形式要件では、全文・日付・氏名を自書し、押印することと定められています。
付言事項が本文の後に続く形で書かれていれば、その部分も全文の一部とみなされる可能性があるため、自筆で統一しておくのが安全です。
4-2 付言事項は署名・押印の前に記載することが一般的である
付言事項を記載する際には、署名・押印の前に記載することが一般的です。
理由は、署名や押印の後に文章を追加すると、「後から書き足したのではないか」と疑われるリスクがあるためです。
したがって、本文の最後に付言事項を続けて書き、その下に日付・署名・押印を行う形が望ましいでしょう。
5章 遺言書に付言事項を記載する際の注意点
遺言書に付言事項を記載する際には、以下のようなことに注意しておきましょう。
- 遺族に否定的なことは記載しない
- 遺言内容を実現してほしいのであれば遺言執行者を選任する
- 付言事項に多くの内容を記載しすぎない
それぞれ詳しく解説していきます。
5-1 遺族に否定的なことは記載しない
付言事項には、遺族に対して否定的なことを書かないようにしましょう。
付言事項は、遺言者の気持ちを家族に伝えるための重要な部分です。
そこに否定的な内容や過去の不満を書いてしまうと、かえって家族間の関係を悪化させる恐れがあります。
例えば「長男は親不孝だった」「介護を手伝わなかったから相続を減らす」などと記載すると、遺された家族が深く傷つき、かえって相続トラブルに発展するリスクもあります。
付言事項では過去の出来事を責めるのではなく、これからの幸せを願う言葉を中心に書くことが大切です。
どうしても不公平に見える分配理由を説明したい場合には、「なぜそうしたか」を客観的に、かつ柔らかい言葉で補足するようにしましょう。
5-2 遺言内容を実現してほしいのであれば遺言執行者を選任する
付言事項には法的拘束力がないため、「こうしてほしい」「こう分けてほしい」と書いても、必ずしもその通りに実行されるとは限りません。
遺言内容を確実に実現してほしい場合には、遺言の本文で遺言執行者を選任しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言内容を実行する役割を担う人です。
例えば、預貯金の解約や不動産の名義変更、相続人への財産分配などを行います。
遺言執行者は家族の中から選んでも良いですが、相続人同士に利害関係がある場合には、司法書士や弁護士などの専門家を第三者として指定する方が良いでしょう。
5-3 付言事項に多くの内容を記載しすぎない
付言事項は自由に書けるとはいえ、あまりに長文になりすぎると、かえって真意が伝わりにくくなることがあります。
特に、感謝の言葉・財産分配の理由・今後の願いなどをすべて盛り込みすぎると、本文との区別があいまいになる場合もあるでしょう。
また、付言事項が長すぎると、読む側の心理的負担にもなるので、家族に伝えたいことが多い場合は、別途、手紙を残すことも検討しましょう。
まとめ
付言事項は、法的拘束力こそありませんが、遺族に対して自分の気持ちや感謝を伝えられる部分です。
家族への感謝や遺産分配の意図を穏やかに伝えることで、相続トラブルを防げる可能性もあるでしょう。
とはいえ、できる限り相続トラブルを避けたいのであれば、専門家を遺言執行者に選任したり、遺言内容を司法書士や弁護士に相談することもご検討ください。
グリーン司法書士法人では、遺言書の作成について相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
付言事項に法的効力はありますか?
遺言書の付言事項には、法的拘束力はありません。
そのため、付言事項の内容だけで相続分を変更したり、遺留分を制限したりすることはできません。








