遺産相続には様々な手続きがあり、中には時効があるものもあります。
時効を過ぎてしまうと、手続きができなくなり、取り返しのつかないことになる可能性があります。
例えば、遺留分侵害額請求の手続きは、相続の開始を知ってから1年以内に行わなければ時効を迎え、時効を過ぎてしまうと、遺留分を請求する権利を失ってしまいます。
また、相続放棄の手続きは、相続の開始を知ってから3ヶ月が期限となっており、この期限をすぎると、遺産に借金があったとしても相続を放棄することができず、借金を相続することとなってしまいます。
このように、「時効」について理解しておかないと、様々なリスクやデメリットを被ることとなります。
遺産相続手続きはやることが多く、ばたばたしてしまうため、そういった期限を見逃してしまいがちです。
遺産相続に備えて、「時効がある手続き」だけでも最低限把握しておくようにしましょう。
この記事では、遺産相続における時効について解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
1章 遺産相続における時効
遺産相続で、時効のある手続きは以下のとおりです。
手続き | 時効期間 |
相続放棄 | 相続開始を知った日から3ヶ月 |
遺留分侵害額請求 | ・相続の開始を知った日から1年 ・相続の開始を知らない場合、相続開始から10年 |
相続回復請求 | ・相続権を侵害されていることを知った日から5年 ・相続権を侵害されていることを知らない場合、相続開始から20年 |
相続税の申告 | ・相続税の申告期限から5年 ・悪意がある場合相続税の申告期限から7年 ※相続税の申告期限は相続開始日から10ヶ月 |
生前贈与にかかる贈与税の申告 | ・贈与税の申告期限から6年 ・悪意がある場合は贈与税の申告期限から7年 ※贈与税の申告期限は贈与した日の属する年の翌年3月15日 |
債務の消滅 | ・2020年3月までに生じた債務:1〜10年(※) ・2020年4月以降に生じた債務:5年 (※)債務の内容によって異なる |
共同相続人による遺産取得 | 占有開始から10年または20年 |
1-1 相続放棄手続き
相続放棄の手続きは、相続の開始(被相続人が亡くなった日)から3ヶ月以内に行わなければいけません。
相続放棄とは、その名前の通り「相続権を放棄する」手続きで、遺産に借金があるなど、相続することにデメリットがある場合などに行います。
相続手続きの中で最も期限が早く、手続きをしないと遺産の内容に関わらず相続放棄ができなくなってしまうので注意してください。
なお、相続放棄だけでなく、限定承認も同じく相続の開始(被相続人が亡くなった日)から3ヶ月以内が期限となっています。
相続放棄や限定承認について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
1-2 遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求権の時効は、相続の開始(被相続人が亡くなった日)から1年、相続開始を知らない場合は10年となります。
遺留分侵害額請求とは、相続人であるにもかかわらず、遺言書などによって遺産を取得できない人が最低限補償されている取得分を請求することです
<p”>例えば、遺言書に「長男にすべての遺産を相続する」と記載されていた場合、長男以外の相続人は遺産を取得することができません。その際に、遺留分侵害額請求することで、最低限保証された取得分を請求することができます。
時効が過ぎてしまうと、遺留分侵害額請求はできなくなってしまいます。
また、遺留分が発生する可能性があるにもかかわらず、時効を迎える前に遺産を使ってしまった場合、あとから遺留分を請求され、自身の財産から遺留分に相当する分を捻出しなければいけなくなってしまうケースもあります。
遺留分が発生する可能性があるのであれば、その点を注意しておかなければいけません。
遺留分侵害額請求について詳しくはこちらをご覧ください。
1-3 相続回復請求権
相続回復請求権の時効は、相続権を侵害されていることを知った日から5年、その事実を知らなかった場合は20年です。
相続回復請求権とは、本来であれば相続人廃除や相続欠格などで相続権を失っているにもかかわらず、あたかも相続人として装って遺産を取得した人に対し、相続財産を返還してもらう行為です。
相続人廃除・相続欠格についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
1-4 相続税の申告
相続税の申告の時効は原則として相続税の申告期限から5年ですが、悪意を持って申告を怠っている場合は7年となります。
相続税の申告期限は、相続開始(被相続人が亡くなった日)から10ヶ月です。
この時効が過ぎると、例え相続税を申告していなくても、何のお咎めはありません。
とはいえ、相続税の申告漏れ(無申告)は時効を迎える前に発覚する可能性が高いでしょう。
申告漏れが発覚した場合、「無申告加算税」という税金が追徴されます。
無申告課税の税率は以下のとおりです。
期限後申告の時期 | 税率 |
申告期限の翌日〜調査通知前まで | なし |
調査通知以降〜調査による更生等予知前 | 納税額が50万円以下:納税額の5% 納税額が50万円超:納税額の10% |
調査による更生等予知後 | 納税額が50万円以下:納税額の15% 納税額が50万円超:納税額の20% |
また、税務署からの納税するよう勧告を受けてもなお申告せずにいると、「悪意がある」と判断され、40%もの重加算税が課されるだけでなく、最悪の場合、刑事罰に処される可能性があります。
ですので、時効を期待して納税しないという行為は決しておすすめできません。必ず期限内に申告し、納税するようにしましょう。
相続税についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
1-5 生前贈与にかかる贈与税の申告
贈与税の申告の時効は原則として贈与税の申告期限から6年ですが、悪意を持って申告を怠っている場合は7年となります。
贈与税の申告期限は、贈与をした日の属する年の翌年3月15日です。
贈与税も、相続税と同様時効を迎えたら支払義務はなくなりますが、ペナルティや罰則についても同じく課されます。
申告期限を守り、しっかりと納税しましょう。
生前贈与・贈与税についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
1-6 債務の消滅
債務の消滅時効とは、債務(借金)がある相手(債権者)に対して、元金の返済や利息の支払いなどをする義務がなくなる時期です。
なお、債務の消滅時効は、債務者が亡くなった日は関係なく、「債権者が権利を行使できる時期」から換算します。
「債権者が権利を行使できる時期」とは、例えば「支払期限に返済しなかった日」や「裁判所から債権回収手続きがなされた日」などです。
消滅時効期間は、債務が生じた時期によって異なるので注意が必要です。
【2020年3月までに生じた債務】
2020年3月までに生じた債務については、「債権者が権利を行使できる時期」から換算して10年とされています。
なお、2020年3月までに生じた債務のうち、相続する可能性の高い一部の債務は、時効期間が短縮されます。
具体的には以下のとおりです。
債務の内容 | 時効 |
商事債権(企業取引によって発生した売掛金など) ※借金の相手が消費者金融や銀行の場合 | 5年 |
医療費や調剤費の支払い義務 | 3年 |
弁護士や公証人の報酬 | 3年 |
個人商人等の買掛金 | 2年 |
教育者に支払う必要経費 | 2年 |
飲食店の「ツケ払い」 | 1年 |
【2020年4月以降の債務】
2020年4月以降に発生した債務の消滅時効は、「債権者が権利を行使できる時期」から換算して5年とされています。
2020年3月までの債務のように、相続によって短縮されるものはありません。
1-7 共同相続人による遺産取得
共同相続人が分割に応じず、遺産を占有し続けた場合、占有開始から10年または20年が経過すると取得時効が完成します。取得時効が完成すると、所有権はすべて占有者一人のものになるため、それ以降、共同相続人は占有者に対して遺産分割を請求することはできません。
しかし、このような時効が発生するのは、数次相続(1つの財産を対象とした相続が複数回発生すること)が発生した場合です。二次相続とも言います。
取得時効が成立するには、「占有者が占有物を自分の物だと確信すること」が前提となります。(ここでいう「占有」とは不動産に暮らしていることを指します)そのため、占有物にたいして遺産分割を求められている時点で占有者は「占有物が相続人の共有物」であることを知ることとなります。
このような場合には、「占有物を自分の物だと確信する」ことはできないため取得時効は発生しません。
例外的に、時効取得が発生しうるのは、占有者が死亡し、占有者の世代で遺産分割が必要なのにもかかわらず、それを知らずに次の世代が相続したケースです。
例えば、父親が遺産分割の済んでいない家に住み続け、父親が亡くなった際に子供が「父親の財産である」と確信し、引き続き住み続けている場合などは、「占有物を自分の物がと確信している」こととなりますので、取得時効が成立する可能性があります。
1-8 不動産の名義変更手続き(相続登記)
これまで、相続した不動産の名義変更手続き(相続登記)に期限はありませでした。そのため、相続登記をしないまま長年放置され、現在では誰が相続人なのか全く分からない土地が激増しました。
不動産の名義変更手続きをしないと以下のようなリスクやデメリットがあります。
- 新たな相続が発生し、相続人が増えることで遺産分割協議が複雑になる
- 相続人の気が変わり相続登記の手続きに協力してくれなくなる
- 相続人が認知症になってしまい、必要なときに相続登記ができなくなってしまう
- 売却ができない
この事態に対処するため、国会で相続登記の義務化について審議され、令和3年(2021年)に相続登記義務化の法案が可決され、令和6年(2024年)までに施行予定となっています。
2021年現在は、まだ名義変更をしなくても問題はないとしても、将来的には必要に迫られる可能性があります。次の相続の時には義務となっている可能性が非常に高いです。
そういった点からも、早い段階で不動産の名義変更の手続きを進めておくのがよいでしょう。
“相続登記が義務化されるとこのような制限がかかります”
- 自分のために相続があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
- 期限内に相続登記をしなかった者には、10万円以下の過料が科されます。
相続登記の義務化についての詳しい解説はこちら
2章 遺産相続において期限のない手続き
遺産相続の中には、特に期限が決められていない手続きもあります。
しかし、期限がないからと言って放置すると、さらに相続が発生した場合などにトラブルの原因となるので、注意しましょう。
2-1 遺産分割請求権
故人が遺言書を作成していなかった場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議は故人から相続人に名義変更手続きをする前に行う必要がありますが、遺産分割協議自体には時効はありません。
ただし、遺産分割協議を成立させ、遺産分割協議書に相続人全員が署名・捺印をした後は請求することはできません。
なお、遺産分割請求権に時効がないからと言って、遺産分割を成立しないまま放置することはおすすめできません。遺産分割が成立しなければ、いつまでも遺産は相続人の共有物となり、誰も自由に扱うことができない状態となるからです。
遺産分割協議は、可能な限り速やかに済ませて、遺産分割を完了させましょう。
3章 手続きに不安がある方は専門家に相談しよう
相続の中には、複雑な手続きや難しい手続きが多くあります。
そういった手続きに対して、不安があったり、面倒だと考えたりする方もいらっしゃるでしょう。
だからといって、手続きをしないまま放置すると、時効(期限)を迎えてしまう可能性があり、手続きによっては取り返しのつかないことになることもあります。
手続きをする時間がない方や、不安がある方は、専門家に依頼することも検討しましょう。
司法書士であれば、相続手続きの最初から最後まで一括で任せることができます。
グリーン司法書士法人では、相続手続きを一括でサポートするプランをご用意しております。
初回相談は無料ですので、お気軽にご利用ください。
よくあるご質問
遺産相続の時効は何年?
主な相続手続きの時効は、下記の通りです。
相続放棄:相続開始を知った日から3ヶ月
遺留分侵害額請求:相続の開始を知った日から1年
相続回復請求:相続権を侵害されていることを知った日から5年
相続税の申告:相続税の申告期限から5年
生前贈与にかかる贈与税の申告:贈与税の申告期限から6年
債務の消滅:2020年3月までに生じた債務:1〜10年(2020年4月以降に生じた債務:5年)
共同相続人による遺産取得:占有開始から10年または20年
▶遺産相続の時効について詳しくはコチラ亡くなった人の土地の名義変更手続きはいつまで?
亡くなった人の土地の名義変更手続きの期限は設定されていません。
ただし、2024年4月からは相続登記義が義務化され、相続開始後2年以内に名義変更手続きを終えないと罰則を受ける恐れがあります。
▶相続登記義務化について詳しくはコチラ親のお金を使い込んだときの時効は?
親のお金を使いこんだ場合の時効は、それぞれ下記の通りです。
【損害賠償請求】
・損害および加害者を知ってから3年
【不当利得返還請求】
・権利を行使できると知ってから5年
・権利の発生時から10年間
使い込みが疑われる場合は、早めに証拠集めをするのがおすすめです。
▶親のお金の使い込みについて詳しくはコチラ親のお金を使い込むと罪に問われる?
親の預金を勝手に使い込んでいたとしても、罪に問われることはありません。
ただし、子供の1人が親の預金を使い込んでいた場合には、親や他の子供が損害賠償請求を行えます。
▶親の預金の使い込みについて詳しくはコチラ