
【この記事でわかること】
- 300万円の生前贈与にかかる贈与税はいくらか
- 300万円の贈与に使える控除・特例
- 300万円の生前贈与を行うときの注意点
年間110万円を超える贈与を受けると、贈与税がかかる場合があります。
贈与税の課税方法には、①暦年贈与と②相続時精算課税制度があり、それぞれ贈与税の金額が変わってきます。
300万円を贈与した場合には、0円から38万円の贈与税がかかる可能性があります。
贈与税には控除や特例も用意されているため、贈与税を節税したい場合には、利用できる控除や特例がないか確認してみましょう。
本記事では、300万円の生前贈与にかかる贈与税はいくらなのかを解説していきます。
贈与税については、下記の記事でも詳しく解説しているので、よろしければ併せてお読みください。
1章 300万円の生前贈与にかかる贈与税はいくら?
年間110万円を超える贈与を受けると、贈与税がかかる場合があります。
本章では、300万円の生前贈与を受けたときにかかる贈与税はいくらか詳しく解説していきます。
1-1 暦年贈与の場合
暦年贈与とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた金額に対して、課税される仕組みです。
基礎控除として年間110万円が設定されており、それを超える部分に対して贈与税が課されます。
また、暦年贈与の税率には①特例贈与税率と②一般贈与税率の2種類があり、税率はそれぞれ下記の通りです。
特例贈与税率は、直系尊属から18歳以上の直系卑属に対して行われた際に適用される税率であり、一般贈与税率はそれ以外の贈与に対して適用されます。
例えば、父親が18歳以上の子供へ300万円を贈与した場合の贈与税額は下記のように計算できます。
- 課税対象額を計算する(300万円-110万円=190万円)
- 特例贈与税率を掛ける(190万円×10%=19万円)
課税対象額が200万円以下の場合は、特例贈与税率も一般贈与税率も税率10%のため、贈与者と受贈者の関係にかかわらず贈与税額は19万円となります。
1-2 相続時精算課税制度の場合
相続時精算課税制度とは、最大2,500万円を非課税で贈与できる制度であり、60歳以上の直系尊属から18歳以上の直系卑属に贈与した際に適用可能です。
ただし、相続時精算課税制度を活用すると、贈与者が亡くなった際に、贈与財産を相続税の計算対象に含めなければなりません。
仮に、相続時精算課税制度を初めて活用し、300万円を贈与した場合には、贈与税がかかることはありません。
一方、すでに非課税枠を使い切っており、300万円を追加で贈与した場合には、贈与税を下記の方法で計算します。
- 課税対象額を計算する(300万円-110万円=190万円)
- 税率20%を掛ける(190万円×20%=38万円)
相続時精算課税制度を採用し、非課税枠を上回った分については、一律20%の贈与税がかかります。
また、2024年からは相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が追加されました。
基礎控除内の贈与であれば、贈与税もかかりませんし、贈与財産が相続税の課税対象になることもありません。
2章 300万円の贈与に使える控除・特例
贈与税には、いくつか控除や特例が用意されており、活用すれば贈与税を節税可能です。
贈与税の控除や特例は、主に下記の通りです。
- 配偶者控除(おしどり贈与)
- 相続時精算課税制度
- 教育資金の贈与税の非課税措置
- 結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置
- 住宅取得等資金の非課税措置
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 配偶者控除(おしどり贈与)
贈与税の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産やその取得資金を贈与した場合に、最大2,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。
この控除は、暦年贈与の基礎控除(110万円)とあわせて利用できるため、合計で最大2,110万円まで非課税で贈与することが可能です。
配偶者控除を活用すれば、夫婦間の贈与にかかる贈与税を軽減できるだけでなく、将来の相続財産を減らすことにもつながり、相続対策としても有効です。
ただし、配偶者にはもともと「相続税の配偶者控除」があり、最低でも1億6,000万円までの遺産には相続税が課されない仕組みがあります。
そのため、相続税対策として贈与税の配偶者控除を使う必要性は、必ずしも高いとはいえないでしょう。
2-2 相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、2,500万円までを非課税で贈与できる制度です。
非課税枠を超えて贈与を行った場合には、一律20%の贈与税がかかります。
なお、相続時精算課税制度を利用して行った贈与は、贈与者が死亡した際に、贈与財産を相続税の課税対象に含める必要があります。
そのため、相続時精算課税制度は贈与税の節税効果は大きいものの、相続税の節税効果は得られない場合もあるのでご注意ください。
2-3 教育資金の贈与税の非課税措置
教育資金の贈与税非課税措置を利用すると、子や孫への教育資金の贈与にかかる贈与税が最大1,500万円まで非課税となります。
非課税の対象は、学校への入学金や授業料だけでなく、学習塾や習い事など幅広い教育関連費用が含まれます。
制度を活用すれば、教育費を一括で贈与する際の税負担を抑えることができますが、いくつかの注意点もあります。
- 贈与財産を引き出す際には、対象となる費用の領収書や請求書の提出が必要となる
- 一度制度を利用すると、贈与の取り消せない
- 贈与者が制度の利用期間中に亡くなると、使い切れなかった残額は相続税の課税対象となる
- 贈与を受けた孫が30歳になるまでに、教育資金を使い切らなければならない(一部例外あり)
親子や祖父母と孫といった扶養義務者間での教育費や生活費の贈与は、通常であれば贈与税の課税対象にはなりません。
そのため、この制度を利用すべきかどうかは、「教育費を都度贈与するか」「一括で贈与する必要があるか」といった点を踏まえて、慎重に検討する必要があります。
2-4 結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置
結婚・子育て資金の一括贈与に関する非課税制度とは、両親や祖父母などが18歳から50歳までの子や孫に対して結婚や子育てのための資金を贈与した場合、最大1,000万円まで贈与税が非課税になる制度です。
非課税枠は大きいものの、教育資金の非課税制度と同様に、下記の点に注意する必要があります。
- 一括で贈与を行う必要があること
- 金融機関で専用口座を開設しなければならないこと
- 結婚資金として利用できるのは非課税枠のうち300万円までであること
結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置を利用する際には、生活費の都度贈与ではなく一括贈与する必要があるのかを考えておく必要があります。
2-5 住宅取得等資金の非課税措置
住宅資金贈与の非課税措置とは、親や祖父母などの直系尊属が子や孫などの直系卑属に対して、住宅の購入資金やリフォーム資金を贈与する際に、最大1,000万円まで贈与税がかからない制度です。
ただし、非課税となる金額は、取得する住宅の種類や性能によって異なります。
住宅取得資金贈与の非課税措置は、夫婦それぞれが利用することも可能であり、夫と妻がそれぞれ親や祖父母から贈与を受ける場合、合計で最大2,000万円まで非課税で資金を受け取り可能です。
住宅取得等資金の非課税措置の適用要件は、下記のように設定されています。
【受贈者の条件】
- 贈与者の直系卑属(子や孫)である
- 贈与を受ける年の1月1日時点で18歳以上
- 贈与を受ける年の合計所得が2,000万円以下(床面積40~50㎡の場合は1,000万円以下)
- 配偶者や親族など特別な関係にある人から住宅を取得していない
- 贈与を受ける時点で日本国内に住所がある
【取得する住宅の条件】
- 取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積が40㎡~240㎡
- 家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者が住むために使用される
- 使用歴の条件をいずれかひとつ満たしている
- ①建築後使用されたことがない
- ②建築後使用されたことのある建物で取得の日以前20年以内(耐火建築物の場合は25年以内)に建築された
- ③建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、耐震基準の証明がある
3章 300万円の生前贈与を行うときの注意点
300万円を生前贈与する際には、贈与税の申告だけでなく、下記についても注意しておきましょう。
- 現金手渡しの贈与は高確率でバレる
- 不動産・株式の贈与時には資産の評価をしなければならない
- 相続時精算課税制度は一度選択すると取り消せない
- 家族間の贈与であっても贈与契約書を作成する
- 名義預金にならないように注意する
- 不動産の贈与時には名義変更手続きが必要である
- 生前贈与時には遺言書を作成し特別受益の持ち戻し免除をしておく
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 現金手渡しの贈与は高確率でバレる
現金手渡しによる贈与であっても、高確率で税務署に知られてしまうので、ご注意ください。
税務書は個人の資産の流れや収入状況をある程度把握しているからです。
例えば、300万円を現金手渡しで贈与をするために、預貯金から引き出せば、そのタイミングで税務署に知られてしまいます。
他にも、受贈者が収入に見合わない高額な品物を購入した際に、贈与がバレる可能性もあるでしょう。
このように、現金手渡しであっても贈与がバレる可能性が高いので、贈与税の回避のために現金手渡しで贈与をすることは絶対にやめましょう。
後々のトラブルを避けるためにも、現金手渡しで贈与をするのではなく、振り込みなど証拠が残る方法で贈与をすることをおすすめします。
3-2 不動産・株式の贈与時には資産の評価をしなければならない
不動産や株式などといった現金・預貯金以外の資産を贈与する場合には、贈与時点での相続税評価額を計算しなければなりません。
例えば、購入時に300万円だった土地を贈与したとしても、贈与時点の相続税評価額が600万円になっていれば、贈与税の負担もそれだけ増します。
「昔、300万円で買った土地をあげるよ」と安易に考え、相続税評価額の算出をしないでいると、贈与税の過少申告や払い過ぎになってしまう恐れもあるのでご注意ください。
自分で、贈与財産の評価をすることが難しい場合には、贈与に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
3-3 相続時精算課税制度は一度選択すると取り消せない
相続時精算課税制度は一度選択してしまうと、二度と暦年贈与に戻すことはできないのでご注意ください。
そのため、相続時精算課税制度を利用する際には、贈与税や将来発生するであろう相続税をシミュレーションし、暦年贈与とどちらが得かを検討する必要があります。
自分でシミュレーションすることが難しい場合や、贈与税や相続税をできるだけ節税したい場合には、事前に相続や生前贈与に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
3-4 家族間の贈与であっても贈与契約書を作成する
親子や祖父母と孫といった近しい関係同士で行う贈与であっても、必ず贈与契約書を作成しておきましょう。
贈与契約は口頭でも成立しますが、後に贈与があったことを税務署や相続人に証明するために、贈与契約書を交わしておくことが大切です。
贈与契約書のサンプルは下記の通りです。
自分たちで贈与契約書を作ることが難しい場合やより信頼性の高い贈与契約書を作成したい場合は、生前贈与に詳しい司法書士に契約書の作成を依頼することをおすすめします。
3-5 名義預金にならないように注意する
預貯金の贈与を行う際には、名義預金と税務署に判断されないように注意しなければなりません。
名義預金とは、口座名義人と実際に預貯金を管理している人物が異なる口座のことです。
名義預金と判断された場合には、預貯金は口座名義人の資産ではなく、預貯金を実際に管理していた人物の資産として扱われます。
したがって、相続税の節税対策として預貯金を贈与していたとしても、名義預金と判断されると、節税効果が失われる恐れもあるのでご注意ください。
名義預金と判断されないようにするには、下記の対策をしておきましょう。
- 口座入金時に贈与契約書を作成しておく
- 贈与された人が通帳や印鑑を保管する
- 贈与された預金を少額でも使う
3-6 不動産の贈与時には名義変更手続きが必要である
不動産の生前贈与を行う場合、贈与契約書の作成だけでなく不動産の名義変更手続きも必要となります。
不動産の名義変更手続きは、下記の方法で登記申請を行います。
申請する人 | 贈与者と受贈者の共同申請 |
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申請先 | 不動産の所在地を管轄する法務局 |
費用 |
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必要書類 |
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贈与時に行う登記申請は自分で行うだけでなく、司法書士への依頼も可能です。
3-7 生前贈与時には遺言書を作成し特別受益の持ち戻し免除をしておく
生前贈与を検討している場合は、併せて遺言書を作成し「特別受益の持ち戻し」への対策を講じておきましょう。
特別受益とは、相続人の1人が故人から生前に特別な利益を受けることであり、生前贈与も含まれます。
過去に行われた贈与が特別受益と判断されると、遺産分割の際に、贈与財産を考慮して相続分を決定しなければならない場合もあります。
例えば「同居してくれた長女に多めに財産を遺したい」という思いで贈与していても、特別受益と判断されると、贈与が実質的に帳消しになってしまう可能性もあるのです。
このような事態を防ぐためにも、相続人に生前贈与する場合には、遺言書に「特別受益の持ち戻しを免除する旨」を明記しておきましょう。
生前贈与や相続対策に詳しい司法書士や弁護士であれば、贈与の実務だけでなく、将来の相続までを見据えたアドバイスが可能です。
生前贈与を行う段階で、一度専門家に相談してみることをおすすめします。
まとめ
300万円の生前贈与にかかる贈与税は、0円から38万円です。
贈与税には①暦年贈与と②相続時精算課税制度の2種類の課税方法があり、どちらを選択するかによって税額が変わってきます。
また、生前贈与をする際には、贈与契約書の作成や遺言書による特別受益の持ち戻し免除なども併せて行っておくと安心です。
これらの手続きを漏れなく行うことは難しいので、生前贈与に精通した司法書士や弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、生前贈与についての相談をお受けしています。
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