相談者「もし遺言書があればこんな事にならなかったのでしょうか?」
司法書士「そうですね。遺言書があればこのようなことにならなかったでしょうね。」
これは私が司法書士としてお客様と接する中で、何十回と交わしてきた会話の一つです。
この様に「自分の家族は仲が良いから大丈夫」と思っていても起こりやすい遺産に関する相続トラブル。
もちろん遺言書は相続において必ずしも作成しないといけないものではありません。
しかし今まで司法書士として多種多様な相続に関わってきた経験上、「遺言書1枚作成していれば、ここまでこじれる事はなかったのに・・」と思うケースが非常に多くあります。
そこで司法書士である私が、あらかじめ遺言を残しておいたほうがいいと思う人たちを16のタイプに分けました。
次のチェックリストで一つでも該当すれば、相続財産の大きさに関係なく、今後のトラブルを防止する意味で「遺言書を書いたおいたほうが良い人」に当てはまるでしょう。
あなたはいくつ当てはまりましたか?
チェックリストで紹介されているタイプに一つでも該当する場合は、遺言を書くことについて真剣に検討される事をお薦めします。
では1つ1つ詳しく解説していきますので、自分が当てはまった項目をしっかりと読んでみてください。
自分が亡くなった後、残された人達に余計な争いや手間をかけない意味でもこの機会に遺言について真剣に考えてみてはいかがでしょうか?
目次
- 1 1章 遺言を書いた方がいい人に共通する属性16選
- 1.1 1-1 夫婦間に子供がいない人
- 1.2 1-2 離婚した相手との間に子供がいる人
- 1.3 1-3 相続人に障がいや認知症により判断能力のない方がいる人
- 1.4 1-4 法定相続人以外に財産を残したい人
- 1.5 1-5 相続人がいない人
- 1.6 1-6 相続人に行方不明・生死不明の方がいる人
- 1.7 1-7 相続人同士の仲が良くない人
- 1.8 1-8 不動産を所有している人
- 1.9 1-9 自身の意思で残す財産の分配や割合を決めたい人
- 1.10 1-10 内縁の妻(夫)がいる人
- 1.11 1-11 相続人が大勢いる人
- 1.12 1-12 会社経営者や個人事業を営んでいる人
- 1.13 1-13 農業を営んでいる人
- 1.14 1-14 財産を寄付したいとお考えの人
- 1.15 1-15 自分の財産を条件付きで残したい人
- 1.16 1-16 祭祀財産の継承者を決めておきたい人
- 2 2章 遺言の書く前に知っておきたい遺言の【種類と特徴】
- 3 3章 遺言を書く際に知っておくべき3つのポイント
- 4 まとめ
1章 遺言を書いた方がいい人に共通する属性16選
遺言を書く主な目的は3つです。
- 「財産を残す人の意思の実現」
- 「相続トラブルの発生防止」
- 「円滑な相続手続きを行うため」
ここで改めて認識しておきたいのが、②と③はあなた自身ではなくあなたが亡くなった後、相続人である家族たちが直面する問題であるということです。つまり遺言を書く事は残された親族の手間を楽にするという意味でも意義のあることなのです。
これから紹介するケースに一つでも該当する人は「相続トラブルが発生しやすい人」とも言えるので、ご自身だけでなくご家族のためにも、ぜひ遺言を書いて欲しいと思います。
それでは属性ごとにより具体的に解説していきたいと思います。
1-1 夫婦間に子供がいない人
夫婦の間に子供がいない場合、残された妻(夫)と義理の父や母、もしくは義理の兄弟達が相続人になるため、全員で遺産分割協議を行う必要があります。そのため、夫名義の自宅や預金を妻名義に変更するには夫の両親または兄弟の同意が必要になってしまいます。
あまり関係が良くない場合や交流がない場合は遺産分割で揉める可能性が高くなってしまいます。
そのようなリスクを回避するため、夫婦間で相手にすべてを相続させるという内容の遺言を書き合っておくご夫婦も少なくありません。
血のつながりのない義父母や義兄弟との遺産分割協議を避けるため、遺言を書いておきましょう。
“遺産分割協議とは”
遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)とは、遺産をどのように分けるのか相続人全員で行う、話し合いのことをいいます。
亡くなった人が遺言書を残していれば、原則、遺言書の内容をもとに遺産を相続することになります。
1-2 離婚した相手との間に子供がいる人
離婚した相手との間に子供がいる場合、こちらに親権がなく、かつ何十年音信不通であったとしても、その子供は相続人の一人になります。
ですので再婚されている方は現在の配偶者と(再婚者との間に子供がいる場合はその子供も含む)離婚した相手との子供との間で遺産分割協議を行わなければなりません。相続人同士の関係を考えると、遺産分割協議で揉める可能性は非常に高いと言えるケースでしょう。
そのため、離婚した相手との間の子供に相続させたくない場合や相続財産の分け方を調整したい場合は遺言を書いておきましょう。
親権がなく、音信不通でも、子供である以上は相続人の一人になる。
1-3 相続人に障がいや認知症により判断能力のない方がいる人
遺言がなければ相続人全員で遺産分割協議を行うことになりますが、相続人のうち一人でも判断能力のない方がいると遺産分割協議ができません。
認知症や障がいによって判断能力に問題がある人は遺産分割協議に参加できないので、その人の代わりに遺産分割協議に参加してもらう人を家庭裁判所に選んでもらう必要があります。このような制度を成年後見制度といい、家庭裁判所に選ばれた人を成年後見人といいます。
成年後見人を選んでもらうための申立準備から遺産分割をはじめるまでは1年程度かかることもあるので、その間、預金を解約したり、不動産などの名義を変更をすることができなくなります。
また、司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人に選ばれた場合は報酬を支払う必要があるので、年間数十万円単位の費用がかかることになります。
相続人となる方が現在元気であっても、将来認知症になるリスクがあります。
1-4 法定相続人以外に財産を残したい人
お世話になった子供の嫁(夫)や知人友人に財産を渡したい場合や、法定相続人ではない孫や兄弟に財産を渡したい場合には遺言書を書いておくことにより、実現できることになります。
「自分が亡くなったときは〇〇さんに××××の財産を渡してね」と相続人に伝えておくだけでは、法的な効果は全くなく、実現されるかどうか不確かと言えます。
また、実現されたとしてもそのような個人的なやり取りだけでは税務署に贈与と認定され、せっかく財産を貰った人が多額の税金を支払うことになる可能性もあるので注意が必要です。
なお、貰う人からしても、本当にもらっていいのかどうか迷うようなケースもあると思うので、貰う側のことも考え、意思を明確にしておいてあげましょう。
法定相続人以外に財産を残したいときは法的な証明のために遺言を書いておきましょう。
1-5 相続人がいない人
相続人が全くいない方が亡くなった場合、その方の遺産は国が取得することになります。
遺産を国が取得(国庫に帰属)するのを避けるには遺言を書いておく必要があります。
下記のような方に相続してもらうことを検討してみてはいかがでしょうか。
☑法定相続人ではない仲の良い親族
☑お世話になった方、身の回りの世話をしてくれた人
☑恵まれない子供や被災地を支援する団体
相続人がいない場合、遺言を書いておかないと遺産は国のものになる。
1-6 相続人に行方不明・生死不明の方がいる人
遺言書が無い場合の相続では遺産分割協議による話し合いで相続財産の割合を決めるのが普通です。
しかし、もし相続人のなかに行方不明の方がいる場合、裁判所への申立てなど面倒な手続きを行う必要性がでてきます。
相続人の中に生死不明者がいる場合も同じく、失踪宣告という面倒な手続きが必要になってきます。
「とにかく面倒な手続きは避けたい」という人は遺言書を書いておくと安心です。
1-7 相続人同士の仲が良くない人
遺言がなければ相続人全員で遺産分割協議を行うことになるため、相続人同士の仲が悪いときは揉める可能性が高くなります。
子供同士の仲が悪い場合は親の影響がなくなることで態度が変わったり、兄妹の妻(夫)が意見して揉めるケースも少なくありません。
遺言を1つ書いておくことで、紛争の芽を事前に刈り取っておきましょう。
相続人間の仲が良くないときは財産を残す側の責任として遺言を書いておきましょう。
1-8 不動産を所有している人
不動産をいくつか所有している場合は誰が、どの不動産を相続するかについて争いが起こることがあります。
また、自宅しか所有していない場合でも売却しないと相続人間で平等な分配をすることが難しいケースも少なくありません。
とくに同居している相続人にとっては住むために必要な場所なので、売却して相続人全員で分配するとなれば非常に困ることになります。
なお、1つの不動産を仲良く共有するという選択肢もありますが、次のような理由からオススメできません。
☑維持管理に関する費用で揉める可能性がある
☑将来売却する際に全員の同意を得られない可能性がある
☑さらに相続が発生すると共有者が大人数になる
不動産は物理的に分けることができず、高価なため揉める原因になりやすい。
1-9 自身の意思で残す財産の分配や割合を決めたい人
自分で財産の分配方法を決めておきたいときは、誰に何をどれだけ相続させるかを遺言に書いて明確にしておく必要があります。
このように特定の相続人に財産を残すようなときは、遺言を書いた理由や経緯、ご自身の気持ちなどをあわせて書いておくことで、相続人間での無用なトラブルを未然に防げる可能性があります。
相続の分配方法を決めているだけ、子どもたちに伝えただけ、メモを残しただけであれば法的な効果はない。
1-10 内縁の妻(夫)がいる人
長年、一緒に生活しているなど事実上の婚姻関係があっても婚姻届を提出していない以上、内縁の妻(夫)は遺産を相続することができません。長年連れ添った相手に財産を残したければ遺言を作成しておくべきです。
内縁関係(事実婚)の相手に相続権はないので、遺言書がないと相続できない。
1-11 相続人が大勢いる人
相続人の人数が多いと、遺産分割協議が大変です。相続人が全国各地に住んでいたり、場合よっては海外に住んでいることもあるでしょう。遺産分割協議に参加する人数が増えればそれだけ揉める可能性も高くなります。
遺言のなかで遺言内容を実行してくれる遺言執行者を決めておくことで、スムーズに相続手続きをすすめることができます。
相続人が大勢いると協議で揉めたり、相続手続をするにも時間がかかるので遺言を書いておきましょう。
1-12 会社経営者や個人事業を営んでいる人
跡取りに事業経営をスムーズに引き継いでもらうには、遺言を書いておく必要があります。
なぜなら、事業経営を継続していくためには、必要な財産(株式、機械や設備、事務所など)があるので、必要な財産を跡取りがスムーズに相続できないと、事業経営に悪影響が出てしまうことになるからです。
遺言がなく遺産分割協議をすることになると、事業経営に必要な財産の価値大きい場合、相続人間で相続の分配が平等にできなくなるため、揉めることも少なくありません。
事業経営をスムーズに引き継いでもらうために遺言を書いておきましょう。
1-13 農業を営んでいる人
農家などの家業を営む家庭で農地や家屋、農業器具などを相続人で分割してしまうと、事業が継続できないケースが出てきます。
農地を分割してしまうとその土地の有効活用が難しくなり、また、農業はある一定以上の面積の農地がなければ事業として成り立ちません。
後継者が決まっているときは速やかに遺言を書いておきましょう。
遺言を書いて農地など家業を継続するための財産が分散しないようにしましょう。
1-14 財産を寄付したいとお考えの人
遺産を社会のため(遺児の支援や被災地への援助など)に使って欲しいとお考えの方は遺言を書いておきましょう。
各団体によっては寄付の受付方法が決まっていたり、現金以外は受け付けていないケースもあるので、どこに寄付をするか決めたら、寄付先の団体へ連絡して事前に打ち合わせしておきましょう。
なお遺言を書いたからといって自身の財産を使えなくなるわけではありません。
遺言に書かれている財産でも自由に使ったり、売却したりすることもできるため、亡くなる時点で残っていた財産が寄付されることになります。
遺産の寄付を考えているときは遺言を書いておきましょう。
1-15 自分の財産を条件付きで残したい人
仮にあなたが相続人に対して「財産を相続させてあげる代わりに、残された妻の看護をお願いしたい」など条件付きで相続財産を渡したい時に遺言を書いておくと便利です。
このように財産を与える条件として財産を受け取る人に対して一定の義務を負わせることもできます。(これを負担付遺贈といいます。)
遺言を書くときは財産を受け取る人に条件をしっかりと実行してくれるか、事前に確認をしておきましょう。
条件付で相続財産を渡したいときは遺言を書いておきましょう。
1-16 祭祀財産の継承者を決めておきたい人
お墓や仏壇など祖先の祭祀のために利用される財産は、通常の相続財産と区別されるため相続の対象にはなりません。
このような祭祀財産は慣習に従って祖先の祭祀を主催する人が相続することになります。
ただし、遺言により、誰に祭祀を主催して欲しいか書いておくことで、その人が相続することになるので、祭祀財産の継承者が決まっているときは遺言を書いておきましょう。
お墓や仏壇など祭祀財産は相続の対象外なので、継承者が決まっているときは遺言を書いておきましょう。
2章 遺言の書く前に知っておきたい遺言の【種類と特徴】
遺言には以下の3種類があります。
公正証書遺言・・・公正証書として作成する
自筆証書遺言・・・すべて自分で作成する
秘密証書遺言・・・内容を秘密にしておきたい
3種類ある遺言のうち、司法書士である私が薦める遺言は公正証書による遺言です。
なぜなら公正証書で作る遺言は公証人が関与して作成するので間違う可能性が非常に少なく、公証人役場で保管してくれるので、破棄や改ざんの恐れもありません。さらに自筆で書く遺言と比べ、裁判所で検認の手続きをする必要もありません。
公正証書にする費用はかかりますが、公正証書で遺言を作成しておけば安心です。
ではそれぞれのデメリット・メリットを解説いたします。
【公正証書遺言】
遺言書を公正証書にして公証人役場で保管してもらう方式を公正証書遺言といいます。
公正証書遺言は証人2人の立会のもと、公証人が遺言の内容を書面にしたものを読み聞かせ、遺言者と証人が確認して署名押印し、最後に公証人が署名押印して作成されます。
(メリット)
- 公証人役場で長期間保管してくれるので、紛失したり、内容を改ざんされたりする恐れがない。
- 家庭裁判所での検認手続をしなくてよい。
- 自筆で書く必要がない。
- 公証人が関与するため、無効になる可能性が非常に低い
(デメリット)
- 費用がかかる。
【自筆証書遺言】
他人の関与なしに一人で作成する遺言書のことです。
自分で遺言を書き法的効力をもたせるには、遺言者がその全文、日付、氏名を自筆で手書きし、押印する必要があります。
(メリット)
- 作成に費用がかからない。いつでも作成できる。
(デメリット)
- 様式の不備や間違いにより無効になる可能性がある。
- 作成した遺言を紛失したり、盗難される可能性がある。
- 死亡後に相続人が裁判所で遺言の検認手続きを行う必要がある。
【秘密証書遺言】
秘密証書遺言とは内容を秘密にした状態で、遺言書の存在を法的に証明しておく遺言です。
(メリット)
- 署名できればその他の事項を自署する必要がないので、自筆証書にくらべ負担が少ない。
- 遺言の内容を秘密にできる。
(デメリット)
- 費用がかかる。
- 自身で保管しないといけないので、紛失や盗難の恐れがある。
- 死亡後に相続人が裁判所で遺言の検認手続きを行う必要がある。
3章 遺言を書く際に知っておくべき3つのポイント
遺言を書くにあたって絶対に知っておくべきポイントを3つ紹介いたします。
3-1 遺言を書いたこと、遺言書の保管場所を家族に伝えておく。
遺言を書いたものの、その意思が実現されなければ書いた意味がありません。
遺族に遺言書を見つけてもらうために、分かりやすい場所に保管しておく必要があります。
また、配偶者や子供などに保管場所を教えておいたり、信頼できる家族や弁護士・司法書士に預けておくのもいいでしょう。
3-2 遺留分について検討しておく。
遺言を書いておく際に「遺留分」を検討しておく必要があります。
遺留分とは、法定相続人が最低限の財産を承継できる権利を保証する制度です。
例えば、亡くなった人が「長男にすべての財産を相続させる。」と遺言を書いていた場合、遺言の内容のとおり財産はすべて長男が相続することになりますが、残された他の子供が「おなじ子供なのに長男一人が相続するのはおかしい!」と言い出すことがあります。
このような状態を「遺留分を侵害されている」と表現します。
遺言を書くときは、このようなことにならないように遺留分に配慮した遺言書を作成する必要があります。
そうすることで相続トラブルに発展したり、紛争になって余計な費用や時間がかかるなど、負担を減らすことができます。
事情によっては遺留分を侵害する内容の遺言を書かざるを得ないこともあるので、そのときは遺留分を請求されることに備えて、遺言の内容をアレンジしたり、遺留分を請求されたときにスムーズに支払えるよう保険に入っておくなどの準備しておきましょう。
3-3 財産内容はできるだけ詳細に書いておく。
あなたが亡くなった後、相続人は遺言書を使って預貯金や証券口座、不動産の名義変更を行う必要があります。
例えば前妻との間の子供と現妻が遺産分割協議しなくていいように、遺言を書いておいたのに、手続きを行うときに財産を承継しない子供の協力が必要になれば、遺言を書いた意味がありません。
他の相続人の関与なくスムーズに手続きが行えるように、出口まで考えて遺言を作成しましょう。
また、財産の内容もできるだけ詳細に書いてあげないと、相続手続きの際に漏れてしまったり、調査に時間がかかったりするため、預金口座や不動産の所在は明確にしておいてください。
まとめ
皆さん該当する項目は見つかりましたか?
一つでも該当する事情があれば相続財産の大きさに関係なく、相続トラブルに発展する可能性があるので遺言を書いておくことをオススメします。
ここまで遺言を書いておくべき人、書いてもらったほうがいい人というテーマで書き進めてきましたが、これは特に書いておくべきケースを紹介したものであり、私個人的には全ての人が遺言を書いておくべきではないかと考えています。なぜならこれまで、どこに財産があるのかわからないと困る相続人、態度が急変する相続人、財産を隠す相続人など、年間数百件ご相談に来られる方々の様々なケースを見てきたからです。
現在、該当する事情がなかったとしても、将来的に状況が変化したり、リスクが潜んでいる可能性もあるので、本記事を遺言について真剣に考えるきっかけにして頂ければと思います。