
相続人の中に行方不明や音信不通の人がいると、遺産相続の手続きを進めることができません。
なぜなら遺産相続の手続きである遺産分割協議は「法定相続人全員が参加」しなければならないからです。
相続人が不明といっても「誰が相続人になるかわからない」だけなら「相続人調査」によって判明するので相続手続きを進められる可能性があります。
また、相続人が誰かわかっていても「行方不明や音信不通など」により、遺産相続手続きを進めることができないケースもあるでしょう。
相続人が不明のパターンとしては次のようなケースです。
- 相続人が「誰かわからない」
- 相続人が「行方不明」「音信不通」
- 相続人が「生死不明」
今回はこれらのパターンに応じた対処方法を相続の専門家が解説します。
目次
1章 相続人が「誰かわからない」の場合の対応方法
遺産分割協議を行おうと思っても「誰が相続人になるのかわからない」なケースがあります。そのようなときには、以下のように対応しましょう。
1-1 相続人が「誰かわからない」場合は戸籍を調べよう
相続人が誰かわからない場合、戸籍を調べれば誰が相続人かわかります。
民法はケースごとに「相続人になるべき人」を定めています。その人を「法定相続人」といいます。法定相続人については、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本を全部取得すれば調べられます。戸籍には結婚や離婚、子どもの誕生、養子縁組や認知などのあらゆる家族関係についての情報が記載されているからです。
たとえば亡くなった方に前妻・前夫との子どもがいたり子どもを認知していた場合も戸籍に記録されているので、調査すれば判明します。
1-2 戸籍の調べ方
戸籍の調べ方は「本籍地のある役所」へ、戸籍謄本の発行を申請します。直接役所に足を運んで申請することも可能ですし、遠方の場合などには郵送で申請する方法が便利です。
戸籍謄本の発行には、1通450~750円程度の手数料がかかります。
戸籍謄本は亡くなった人の出生から死亡までのものを集める必要があります。戸籍にも様々な種類があり、それらを「1通ずつ」取得していく必要があるので、通数が多くなると大変な負担になるケースもあります。
もしも自分で集めるのが難しいなら、司法書士や行政書士に依頼しましょう。法定相続人の人数にもよりますが、2~5万円程度が専門家への依頼費用の相場です。
相続人調査(戸籍収集)の詳しい手順は次の記事をご参考ください。
以上のようにして「相続人が誰か」がわかれば、判明した相手に連絡をして遺産分割協議に参加してもらい、相続手続きを進めていきます。
2章 相続人が「行方不明」「音信不通」の場合の対応方法
「相続人が誰かわかっている」けど「行方不明」や「音信不通」で連絡がとれないケースがあります。
具体的に言うと次のようなケースでしょう。
- 住所がわからない
- 連絡先がわからない
- 住所や連絡先はわかるけど音信不通で連絡がとれない
遺産分割協議は相続人全員に参加してもらう必要があるので、このようなケースでも何とかしなければなりません。
本章ではケースごとの対応方法をご紹介させていただきます。
2-1 相続人の住所がわからない場合
1つ目のパターンとして、特定の相続人の住所がわからないケースがあります。1章でご紹介した方法で「相続人調査」をして相続人の存在が判明したとしても、その人の現在の住所がわからないケースは多いでしょう。(例えば今まで接点のなかった前妻(前夫)との子供や認知した子など)
そのように相続人の住所がわからない場合は「戸籍の附票」を調べましょう。
住所がわからない人(相続人)の本籍地にある市区町村役場で「戸籍の附票」の発行をしてもらいます。
戸籍の附票には「本籍地」と一緒に「住所」も記録されているので「戸籍の附票」を取得することで住所もわかります。
戸籍の附票の発行には、役所によりますが1通200~300円程度の手数料がかかります。
2-2 相続人の連絡先がわからない場合
相続人の住所が判明しても、音信不通で連絡が取れないケースや、その住所に住んでいるかどうかわからないときは次のような方法をとりましょう。
2-2-1 手紙を出す
まずは手紙を出してみましょう。郵便が「転居先不明」や「宛先不明」などで返送されてきたら、誰も住んでいないか別の人が住んでいる可能性があります。
「受取拒否」などの場合には本人がその場所に住んでいる可能性が高いので、何度か手紙を送り続けたり次に紹介するように現地を訪ねたりして直接話をしましょう。
2-2-2 現地を訪ねる
手紙を送っても返送されてくるケースや受取拒絶されるケースでは、直接現地を訪ねてみるようお勧めします。現地に表札がかかっており確かに居住している様子なら、単に居留守を使われているだけである可能性が高くなります。
一方現地に誰も住んでいる様子がない、あるいは別の人の表札がかかっていて知らない人が居住している場合には、その住所にはいないということなので、本当に行方不明になっている可能性が高まります。
実際にどのような状況となっているかを確認するために、現地調査は非常に重要です。
2-2-3 SNSを駆使する
今は多くの方がSNSを利用しています。ツイッター、Facebook、インスタグラムやyoutubeなど何かに行方不明者がアカウントを作っていないか、居場所に関する情報を載せていないか調べてみましょう。それらしき人がいたらダイレクトメッセージ機能などを利用して連絡してみてください。
2-2-4 探偵に行方不明者の調査を依頼する
上記のような方法でもどうしようもなく連絡のとりようがないなら、探偵事務所や興信所の利用も検討しましょう。ただし、数十万から100万円程度の高額な費用が発生するので、状況に応じて利用してみてください。
2-3 相続人の応答がない・無視される場合
こちらからの手紙や電話などの呼びかけに応答がないような場合、次のようなケースが考えられます。
- 生存しているが応答してこない
- 生存が確認できない(生死不明)
上記②の場合は次章で説明する捜索願や失踪宣告の手続きをとることになりますが、①の場合は「単に協議に応じたくない・応じられない」という可能性が高く、このような場合は「遺産分割調停」を検討すべきです。
遺産分割調停は、相続人同士での話し合いができない又は進まない場合に、家庭裁判所を舞台に調停委員という第三者を交えて話し合いを行う法的手続きです。
遺産分割調停についての詳細は次の記事をご参考ください。
3章 相続人が「生死不明」の場合の対応方法
相続人の生死が不明の場合は、生死不明の期間が「7年以内」の場合と「7年以上」の場合で、対応方法が変わります。それぞれの対応方法について詳しく見ていきましょう。
3-1 相続人の生死不明が7年以内の場合
所在不明の相続人がいて、どのような手段をとっても連絡を取れない場合、遺産分割協議や相続手続きができません。相続人がいなくなって7年以内なら、以下のような手順を進めてみてください。
3-1-1 警察に捜索願を出す
まずは警察署に行って捜索願を出しましょう。行方不明者が何らかの事件に巻き込まれている場合、警察から連絡を受けたり状況を知らせてもらったりできます。
ただし捜索願を出しても、具体的な事件が起こっていない限り警察は積極的に捜査をしてくれません。
捜索願は「何かあったときに警察から連絡を受けるための手段」と考えておきましょう。
3-1-2 不在者財産管理人の選任
相続人と音信不通となって行方不明の期間が7年以内であれば、家庭裁判所で「不在者財産管理人」の選任を申し立てましょう。
不在者財産管理人とは、行方不明者の財産を管理する責務を負う人です。行方不明者に重要な財産がある場合や遺産分割協議を行う必要のある場合などに選任します。
不在者財産管理人が選任されると、本人がいなくても不在者財産管理人が遺産分割協議に参加して遺産相続の方法を決められます。
3-1-3 申立方法
不在者財産管理人の選任申立ては、行方不明者の最終住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
3-1-4 必要書類
- 不在者財産管理人選任の申立書
- 申立人の戸籍謄本
- 不在者の戸籍謄本
- 財産管理人の候補者を立てる場合、その人の戸籍謄本と住民票
- 不在者の財産目録
- 不動産の登記簿謄本等の財産資料
- 行方不明であることがわかる資料
- 申立人との利害関係を示す資料
3-1-5 費用
収入印紙800円と連絡用の郵便切手が必要です。
3-1-6 スケジュールと期間
不在者財産管理人選任を申し立てると家庭裁判所で審理が行われます。
本人が行方不明で財産管理の必要性があると確認されると不在者財産管理人が選任されます。選任までにかかる期間は申立てから約1~3か月程度です。
3-2 相続人の生死不明が7年以上の場合
音信不通の相続人が行方不明となってから7年以上が経過していたら、失踪宣告を申し立てましょう。
3-2-1 失踪宣告の申立て
失踪宣告とは、7年以上行方不明の人や、飛行機事故、難破などの緊急的な危難に巻き込まれて行方不明となり1年が経過した人について「死亡した」扱いにするための手続きです。
通常の場合には7年以上行方不明になっている場合に失踪宣告してもらえます。これを「普通失踪」といいます。
長年行方不明、あるいは危難に巻き込まれてしまって生死不明な人がいつまでも「生きている」前提だと、行方不明者名義の財産が宙に浮いた状態となるなど、残された人たちが不便を強いられます。
そこで失踪宣告により、医学的には死亡を確認できなくても死亡したとみなす失踪宣告制度が認められています。
3-2-2 申立方法
失踪宣告の申立ては、行方不明者の最終の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
3-2-3 必要書類
- 失踪宣告の申立書
- 申立人の戸籍謄本
- 行方不明者の戸籍謄本
- 行方不明になって7年以上が経過した事実示す資料
- 申立人との利害関係を示す資料
3-2-4 費用
収入印紙800円と連絡用の郵便切手が必要です。
3-2-5 スケジュールと期間
失踪宣告の申立てをすると、官報や裁判所の掲示板において失踪人や事情を知る人へ届出が促されます。
所定の期間内に届出がない場合には失踪宣告が下されます。普通失踪の場合、期間は3か月程度かかります。
4章 行方不明・音信不通の相続人がいるときは「遺言」を作成しておこう
行方不明、音信不通の相続人がいる場合、何も対策しないと上記のように「戸籍や住民票の調査」「不在者財産管理人の申立」「失踪宣告の申立」などが必要となり、相続人たちに大変な手間がかかります。
4-1 遺言書を作成しよう
行方不明や音信不通の相続人がいるなら、できるだけ生前に「遺言書」を作成しておきましょう。
遺言書があれば、遺言書に記載された通りに遺産相続を進められるので相続人たちが遺産分割協議をせずに済みます。
相続人に行方不明者がいてもその人を交えて話し合う必要がないので、住所調査や不在者財産管理人の選任、失踪宣告などの手続きをしなくても相続手続きを進められます。
4-2 遺言執行者を選任しよう
遺言書によって遺産相続をさせるときには必ず「遺言執行者」を選任しましょう。
遺言執行者とは、不動産の名義変更等の相続手続きを実行する人です。特に不在者にも遺産相続させるなら、本人が相続手続きを行うことを期待できないので遺言執行者が必須です。
行方不明の相続人がいる場合などの複雑なケースで遺言執行者を選任するなら、司法書士などの専門家を指定しておくと安心です。
4-3 専門家に相談するのがお勧め
遺言書の内容については、遺言執行者以外にもさまざまな注意点があります。
たとえば遺留分にも配慮すべきですし、遺言書が無効になったり破棄隠匿されたりしないよう配慮も必要です。無効になりにくく、より確実に遺言内容を実現できる「公正証書遺言」を作成するのが良いでしょう。
ご自身だけで取り組むにはハードルが高いと思われるなら司法書士がサポートいたしますので、お気軽にご相談下さい。
まとめ
相続人の中に行方不明者や連絡を取りにくい人がいて今のうちに遺言書を作成しておこうと思われている方、あるいはすでに相続が起こって音信不通の相続人がいて困っている方には、司法書士がアドバイスと具体的な手続きの代行をいたします。
グリーン司法書士法人では積極的に遺産相続への対応に取り組んでいますのでご安心してお問い合わせください。
よくあるご質問
相続人がどこにいるかわからないときにはどうする?
相続人の住所や連絡先がわからない場合には、戸籍の附票を取得し住所を調べ手紙を出してみましょう。
手紙を出したものの連絡が取れず行方がわからない場合はSNSや探偵を使った調査、それでもわからない場合には遺産分割調停を検討しましょう。
▶相続人がどこにいるかわからないときの対処法は詳しくはコチラ相続人がいないときにはどうすればいい?
相続人が誰もいない場合には、以下の順で相続財産が受け継がれます。
・債権者や受遺者
・特別縁故者
・国に財産が帰属される
▶相続人がいない場合の取り扱いは詳しくはコチラ