
「遺言書を使って自分の意思を残したい」
そう考えているなら、遺言書の「効力」を意識しましょう。せっかく遺言書を作成しても、無効になってしまったら何の意味もありませんよね?
実は通常時に作成できる遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
- 自筆証書遺言
全文を自筆で書く遺言書(ただし財産目録のみパソコンなどを使って作成できます)
- 公正証書遺言
公証人に作成をお願いする遺言書
- 秘密証書遺言
全文を誰にも見られずに秘密にして保管するための遺言書
それぞれ無効になりやすいリスクの高さが異なります。
以下では遺言書の効力として認められる10個のことと遺言書が無効になってしまうケースについて、遺言書の専門家がわかりやすく解説していきます。
目次
- 1 1章 遺言書の効力で認められる10個のこと
- 2 2章 遺言の効力が無効になるケース
- 2.1 2-1 認知症で判断能力がない人が遺言書を作成した
- 2.2 2-2 遺言者が15歳未満である
- 2.3 2-3 無理矢理に遺言書を書かせた
- 2.4 2-4 騙して遺言書を書かせた
- 2.5 2-5 誰かが遺言書を書き換えた
- 2.6 2-6 遺言書が複数ある場合、前の遺言書は無効になる
- 2.7 2-7 自筆証書遺言で自筆していない部分がある
- 2.8 2-8 加除訂正の方法が間違っている
- 2.9 2-9 日付が入っていない
- 2.10 2-10 署名押印がない
- 2.11 2-11 遺言内容と実際の遺産内容が全く合っていない
- 2.12 2-12 何が言いたいのかわからない
- 2.13 2-13 公正証書遺言で証人の資格が欠格していた
- 3 3章 遺言の効力を発揮できるケース
- 4 4章 遺言書の効力の判断は専門家へ相談すべき
- 5 まとめ
1章 遺言書の効力で認められる10個のこと
遺言書では、「財産の分け方を決められる」と考えている方が多いでしょう。それも正しいのですが、実は遺言書を使うと、財産の分け方以外にもいろいろなことを決められます。
以下で遺言書の効力として定められることを10個、ご紹介します。
1-1 相続分の指定
どの相続人にどの割合の相続分を与えるか、遺言によって指定できます。たとえば長男に2分の1、次男に4分の1、三男に4分の1などです。
1-2 遺産分割方法の指定と禁止
遺産分割方法(遺産の分け方)の具体的な指定ができます。たとえば「長男に自宅不動産を相続させる」などが遺産分割方法の指定です。
相続分の指定は抽象的な「割合」を指定する場合ですが、遺産分割方法の指定は「具体的に何をあげるのか」を指定できます。また一定期間(ただし5年以内)相続人に対して遺産分割を禁止することも可能です。
1-3 遺言によって財産を分与
相続人以外の人、たとえば内縁の妻などに財産を与えることが可能です。
1-4 寄付
法人や団体などへの寄付もできます。
1-5 特別受益の持ち戻し免除
相続人のうち誰かに生前贈与した場合などには、放っておくとその相続人は贈与分を差し引いた分しか遺産を受け取れなくなります。相続財産の前渡しを精算するというイメージです。この差し引きのための計算方法を「特別受益の持ち戻し」と言います。
たとえば6,000万円の財産のある人が生前に長男に2,000万円を贈与したとします。その場合、遺産分割協議の際に、長男は先に受け取った2,000万円を差し引いて相続します。イラストのケースでは長男は相続で1,000万円(これとは別に生前贈与で2,000万円)を取得し、次男は3,000万円を取得します。
【長男の相続による取得額】
(贈与する前の財産額6,000万円)÷2-(生前贈与であらかじめ受け取った2,000万円)=1,000万円
【次男の相続による取得額】
(贈与する前の財産額6,000万円)÷2=3,000万円
遺言をすると、このような特別受益の持ち戻し計算を免除することが可能です。免除すると2,000万円の先渡しは無視して法定相続分に従って遺産を分けることになります。イラストのケースでは、長男は相続で2,000万円(これとは別に生前贈与で2,000万円)を取得し、次男は2,000万円を取得します。
【長男の相続による取得額】
{(贈与する前の財産額6,000万円)-(生前贈与の額2,000万円)}÷2=2,000万円
【次男の相続による取得額】
{(贈与する前の財産額6,000万円)-(生前贈与の額2,000万円)}÷2=2,000万円
生前に受け取った額も含めて平等に相続させたい方は持ち戻しの免除をしないべきです。一方、生前に受け取った額は無視して相続時の財産を平等に相続させたい方は持ち戻しの免除をするべきです。
1-6 相続人の廃除や取消し
被相続人を虐待していた相続人などがいたら、遺言で相続人の地位を奪う「廃除」という手続きができます。反対に、既に廃除していた相続人の廃除決定を取り消すことも可能です。
相続人の廃除についてはこちらの記事もご覧ください
1-7 子どもの認知
婚外子がいる方は遺言によって認知できます。
1-8 後見人の指定
遺言者が死亡することによって親権者がいなくなる場合などには、子どもの後見人(親権者に代わって子の監護養育や財産管理を行う人)を遺言で指定できます。
例えばイラストのように、離婚後に母親が単独で親権者となった後に母親が死亡しても、父親が親権者になるというわけではないので、遺言によって事前に後見人を定めておくと安心です。
なお、後見人について詳しく知りたい方はこちらを参照ください。
1-9 遺言執行者の指定、指定の委託
遺言内容を実現してもらうための「遺言執行者」を遺言によって指定できます。また遺言執行者を指定してもらう人を遺言で指定することも可能です。
1-10 祭祀承継者の指定
仏壇やお墓、家系譜などの先祖を守るための財産を承継する人を遺言によって指定できます。
お墓の相続について詳しくはこちらをご覧ください
2章 遺言の効力が無効になるケース
以下のような場合、遺言が無効になる可能性が高いので注意が必要です。
ポイントは2つです。
- 遺言者の意思内容が正確に反映されているか否か
- いつの時点の意思内容かが明確にされているか否か
せっかく目的をもって書いた遺言の効力が否定されることがないよう、注意しましょう。
2-1 認知症で判断能力がない人が遺言書を作成した
遺言をするには「遺言能力」が必要です。遺言能力とは、自分の遺言内容を理解できる程度の意思能力です。認知症が進行しており、最低限度の遺言能力すら失われていたら、その人が作成した遺言書は無効です。
2-2 遺言者が15歳未満である
遺言できるのは15歳からなので、14歳以下の子どもに遺言書を書かせても無効です。
2-3 無理矢理に遺言書を書かせた
相続人などが被相続人を脅して無理矢理に遺言書を書かせても無効です。遺言者の自由な意思決定が反映されたとは到底言えないからです。
2-4 騙して遺言書を書かせた
相続人などが被相続人を騙して錯誤に陥らせ、遺言書を書かせても無効です。こちらも、遺言者の自由な意思決定がなされたとは言えないからです。
2-5 誰かが遺言書を書き換えた
有効に遺言書が作成されたとしても、その後相続人などが遺言書の内容を書き換えたら無効になります。
2-6 遺言書が複数ある場合、前の遺言書は無効になる
遺言書が複数ある場合、以前の遺言書は無効になります。ただし後の遺言書と矛盾しない部分は有効です。
2-7 自筆証書遺言で自筆していない部分がある
自筆証書遺言は、財産目録以外の全文を自筆しなければならない遺言書です。日付やタイトルを含め、一部でも自筆していない部分があれば全体が無効になります。
2-8 加除訂正の方法が間違っている
遺言には、法律上定まった訂正方法があります。間違った加除訂正方法をしていたら、遺言書全体が無効になります。
2-9 日付が入っていない
自筆証書遺言でよくありますが、日付が入っていない遺言書は無効です。
2-10 署名押印がない
自筆証書遺言や秘密証書遺言で、署名押印を忘れたら無効になります。なお押印は認印でも有効です。
2-11 遺言内容と実際の遺産内容が全く合っていない
遺言した当時と死亡時の遺産内容が大きく変わっており、既に遺言当時の遺産がまったく残っていない場合には、遺産相続方法を指定した遺言書は無効となります。
2-12 何が言いたいのかわからない
客観的にみて、何が言いたいのかわからない遺言書は無効です。遺言書を作成するときは、自分の思いをぶつけるのではなく財産の分け方などの必要事項をわかりやすく淡々と述べていく必要があります。
ただしどうしても言いたいことがあれば「付言事項」として残すことができます。遺言書の最後の欄に「付言事項」と書いて、その後自分の思いを書くと良いでしょう。
2-13 公正証書遺言で証人の資格が欠格していた
公正証書遺言の場合、2人の証人が必要です。未成年者や受遺者、推定相続人、その配偶者や直系血族、公証人の配偶者や親族などは証人になれませんが、そういった人が証人となっていたら遺言書は無効となります。
なお有効な遺言書があっても、無視して相続人たちが別の方法で遺産を分けることは可能です。その場合、結果的に遺言書の効力が無視されることになります(ただし相続人全員の同意が必要です。)。
3章 遺言の効力を発揮できるケース
以下のようなケースでは遺言書の効力がなくなると思われているケースがありますが、実際には有効です。
3-1 勝手に開封された場合
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、発見したらすぐに家庭裁判所で「検認」を受けなければなりません。検認とは、遺言書の内容や状態を確認してもらう手続きです。検認前に勝手に遺言書を開封することは違法行為です。
ただ、検認前に勝手に開封された遺言書も有効です。開封によって効果が失われることはありません。
3-2 検認を受けていない遺言書
検認を受けていないからと言って、遺言書が無効になるわけではありません。相続開始後時間が経っていても、検認さえ受ければ不動産の名義変更などに利用できる有効な遺言書となります。
遺言書の検認手続について、詳しくはこちらをご覧ください
3-3 古い遺言書(遺言書に有効期限はない)
ものすごく古い遺言書でも効力はあります。時折、非常に古い遺言書が残されているケースがあるものです。たとえば20年、30年前に書かれた遺言書でも有効になります。遺言書には有効期限がないので、要式さえ整っていればどんなに古いものでも効果があります。
ただし、後に別の遺言書が書かれていたら、そちらの方が有効となるので古い遺言書のうち新遺言と矛盾する部分は効果を失います。
3-4 遺留分を侵害する内容の遺言書
相続人の遺留分を侵害する遺言書も有効です。
兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」が認められます。遺留分とは、一定範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。民法では「遺言によっても遺留分を侵害できない」と規定されているので、「遺留分を侵害する遺言書は無効」と思われているケースもあります。
しかし遺留分権利者が「遺留分侵害額請求」という請求をしない限り、遺言書通りに遺産相続されます。また遺留分侵害額請求があっても、遺言書が無効になるのではなく遺留分権利者が遺留分を取り戻せるだけです。遺留分侵害するからといって遺言書が無効になることはありません。
3-5 実際の財産の内容と異なる部分のある遺言書
現実に存在する遺産内容と異なる遺言書も有効です。
遺言書が古い場合、現実の遺産内容が遺言書に書かれている内容と異なっているケースがあるものです。遺言書に書かれている財産が一切残っていなければ遺言書は無効にならざるを得ませんが、一部残っていればその部分については遺言内容が有効となります。
効力を発揮させるための工夫1 「遺言執行者を選任しておく」
遺言書の効力を発生させるためには「遺言執行者」を選任することをお勧めします。遺言執行者とは、遺言書で指定された通りに遺言内容を実行する人です。たとえば不動産の名義変更や預貯金の払い戻し、相続人への分配、子どもの認知などの手続きを行います。
遺言執行者がいなければ、誰も遺言内容を実行せずに不動産などが放置されるリスクが発生します。それではせっかく遺言書を作成しても「ないのと同じ」になってしまいます。
きちんと遺言執行者を選任しておけば、相続開始後速やかに遺言執行者が遺言内容の実現に着手するので相続手続きが確実かつスムーズに進みます。
効力を発揮させるための工夫2 「公正証書遺言を作成する」
遺言書にはいくつか種類がありますが、公正証書遺言がもっとも無効になりにくく効力が強くなっています。公正証書遺言を作成するときには公証人がチェックしますし、原本が公証役場で保管されるので紛失したり隠されたりするリスクもないからです。
確実に遺言書を残したいなら公正証書遺言を作成しましょう。
4章 遺言書の効力の判断は専門家へ相談すべき
ここまでお読みになって「せっかく遺言書を作成しても無効になったら困る…」と考えた方は多いのではないでしょうか?そのようなとき、専門家に相談してみてください。以下でその理由をご説明します。
4-1 不備を指摘してもらえる
確実に有効な遺言書を作成するには、専門家に相談するのが一番の近道です。
自筆証書遺言を作成して保管前に司法書士に見せれば、不備がある場合には指摘を受けられますし、不備がなければ安心してそのまま保管できます。
4-2 保管を任せられる
自分で保管すると紛失してしまいそうな場合や、同居人に隠されたり書き換えられたりする心配がある場合には、司法書士に遺言書を預けることも可能です。
4-3 遺言執行者として選任できる
司法書士を遺言執行者に選任することもできます。専門家を遺言執行者にしておけば、相続開始後速やかに司法書士が不動産登記を始めとした種々の相続手続きを行うので、確実に遺言内容を実現しやすくなるものです。相続人たちに手間をかけることもありません。
4-4 本当に相続手続きができるかチェック
もう1つ、専門家としての観点から意見を述べるとすると、遺言書については「有効か無効か」だけではなく、「本当にその遺言書を使って相続関係の手続きができるのか」も重要です。
法律上有効な遺言書でも、具体的な相続手続きを受け付けてもらえない可能性があるのです。たとえば遺言書を銀行に持っていって実際に払戻を受けられるのか、法務局で名義変更に応じてもらえるのかなどの問題です。遺言書における表現方法が誤っていたら、銀行や法務局にて受け付けてもらえないケースもあります。
こういった判断は素人の方には難しいことも多いので、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが最善です。
まとめ
グリーン司法書士法人では、かねてから遺産相続対策に積極的に取り組んでおり、各種の遺言書作成、遺言執行者への就任、不動産の名義書換などのサポートを数多く行ってきました。
遺言書作成に関して疑問やお悩みをお持ちであれば、まずは一度、グリーン司法書士法人までお気軽にご相談下さい。