
自身が亡くなった時、自身の希望や遺産の行き先を記しておく「遺言書」。
相続時の親族トラブルを回避するためにも、遺言書の作成を検討している方もいらっしゃるでしょう。
しかし、作成した遺言書の内容が、自分の死後にきちんと実現されるのか、無効になってしまわないか心配になりますよね。
実際、遺言書が無効になってしまうケースはあります。
遺言書には主に以下の2種類があります。
- 自筆証書遺言(自筆で作成する遺言書)
- 公正証書遺言(遺言の内容を公証人に書面にしてもらう遺言書)
上記のうち、自筆証書遺言であれば、自身で作成することも可能です。しかし、いくつかの規定があり、1つでも誤ってしまうと遺言書が無効になってしまう可能性があります。
一方で、公正証書遺言の場合、公証役場に赴いて作成する必要がありますが、公証人が遺言書の作成をサポートしてくれる上、法的に公正な書類として作成してもらうことができます。とはいえ、「絶対に無効にならない」とは限りません。公正証書遺言であっても無効になる可能性はあります。
では、どのような場合に遺言書が無効となってしまうのでしょうか。
この記事では、遺言書が無効になるケースと、無効にならないための対策について解説します。
これから遺言書を作成しようと思っている方は、この記事の内容に留意した上で作成するようにしましょう
目次
1章 遺言書には主に2種類ある
冒頭でも述べましたが、遺言書には主に下記の2種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
それぞれ詳しく見ていきましょう。
※もう一種類「秘密証書遺言」というものがありますが、作成される方は非常に稀ですのでここでは割愛します。
1-1 自筆証書遺言
「自筆証書遺言」は名前の通り、自筆で作成する遺言書です。
「遺言を残そう」と思い立ったらすぐに作成することができるため、遺言を残す方法としてはとても手軽で簡単な方法です。
しかし、書き方や形式には、以下のような規定があるので注意が必要です。
- 遺言者に遺言能力がある
遺言者の遺言能力がなければいけません。15歳未満の人や、認知症などで判断能力が不十分な人が作成した場合は認められません。
- 遺言者の直筆で作成している
遺言者の「直筆」で作成していなければいけません。PCやワープロなので作成したもの、また、書面ではなく映像や録音で遺言したものも認められません。
- 作成日が明記されている
遺言を作成した日が明記されていなければいけません。「●年■月▲日」と明記されているのがベストですが、「●年の私の誕生日」のように日付が明らかになる書き方であれば問題ありません。
- 署名・押印がされている
遺言書には必ず遺言者自ら署名と押印をしなければいけません。遺言の内容を遺言者自身で書いていても、署名と押印がない場合や他の人になされている場合は認められません。
- 遺言者単独の遺言である
1つの自筆証書遺言には1人の遺言しか記載できません。夫婦の共同名義での遺言などは認められません。
- 裁判所による検認が必要
遺言者が亡くなった際、遺言を執行する前に裁判所で遺言書の検認が必要です。
遺言書の検認とは、相続人立ち会いのもと、裁判所で遺言書の内容を確認する手続きで、遺言書の発見者がこれを怠り、勝手に開封してしまった場合、5万円以下の過料に処される可能性があります。(なお、勝手に開封したからといって無効にはなりません)
遺言書の検認についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
1-2 公正証書遺言
「公正証書遺言」とは、公証人役場で、残したい遺言の内容を公証人に口頭で伝え、その内容を公証人が遺言書として作成する遺言です。
作成された「公正証書遺言」の原本は、遺言が必要になるときまで公証人役場で保管され、正本と謄本だけが遺言者に手渡されます。
もし、正本と謄本をなくしてしまっても再発行が可能ですし、遺言書を誰かに偽造されたり、隠されたりする心配がないため非常に安心です。
遺言書を作成してくれる公証人は、弁護士や裁判官など、法律に深く関わる経歴を持つ人の中から法務大臣によって任命された人たちです。そのような法律の専門家が遺言書の作成のサポートと法的に公正であることの証明をしてくれるので、不備によって遺言が無効になるリスクが非常に低くなります。
また、自筆証書遺言と異なり、遺言の検認が必要ないため、実際に遺言が執行される場面でも手続きがスムーズになるでしょう。
自筆証書遺言・公正証書遺言の作成方法について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
2章 自筆証書遺言が無効となるケース
自筆証書遺言は、自身で作成・保管するため、無効となってしまう可能性が高く、作成する際には、無効にならないよう注意が必要です。
ここでは、自筆証書遺言が無効になるケースについて解説しますので、作成する上ではこれらを十分に注意してください。
2-1 自筆で書いていない
自筆証書遺言は、遺言者自らが手書きで作成する必要があり、PCやワープロで作成されたものは無効となります。
ただし、2019年1月の法改正によって、財産の詳細を記した目録部分については手書きである必要がなくなりました。パソコンなどで作成した財産目録や、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付することが可能です。
とはいえ、現在でも、目録以外の全文、日付、氏名については手書きでなければいけないので注意しましょう。
また、「自筆」でなければいけないので、当然録音や動画などで遺言を残したものも無効となる可能性があります。
2-2 日付の記載がない
遺言書は「いつ書かれたか」ということが非常に重要であるため、日付がない遺言書は無効となります。
また、遺言書の書かれた日が明確でなければいけないため、「●年■月吉日」といった、日付が明らかではない書き方は認められません。一方で「●年の誕生日」や「還暦の日」といった、日付が明記されていなくてもいつなのかが明らかになる書き方であれば問題ありません。
とはいえ、問題なく確実にしたいのであれば、年月日を記載してくのが良いでしょう。
2-3 署名・押印がない
遺言書には、誰が書いたかを明らかにするために必ず「署名・押印」が必要です。これがない場合、遺言書は無効となってしまうので絶対に忘れないようにしましょう。
なお、遺言書への押印は、実印である必要はなく、認印やシャチハタのようなインク浸透印、拇印でも問題ないとされています。
ただし、遺言書には実印が望ましいと言えるでしょう。実印で押印し、印鑑証明書を同封しておけば「遺言書が誰によって書かれたか」を証明することもできるからです。
2-4 内容が不明確
遺言の内容が不明確な場合も無効となる可能性があります。遺言書を第三者(裁判官など)が見ても、どの財産がどれを指すのかが明確に分かるように記載しなければいけません。
例えば、不動産の場合、住所表記と地番では異なるため、住所を記載しただけでは土地や建物が特定できず無効になってしまうこともあります。
不動産について記載する場合は、事前に登記情報を取り寄せ、登記簿に記録されている「所在」「地番」「地目」「地積」「家屋番号」「構造」「床面積」などを正確に記載しなければいけません。なお、記載が難しい場合は、財産目録に登記事項証明書を添付し、日付と署名・捺印をするだけでも問題ありません。
2-5 加筆・修正の方法が適切でない
遺言書の中で、加筆・修正が適切にされていない場合、無効になります。
遺言書は、後々他人に改ざんされる恐れがあることから、一般的な文書よりも、加筆・修正方法が法律で厳格に定められています。
遺言書を修正する場合は、まず、修正する部分に二重線を引き、修正内容を横に記載した上で押印します。さらに、遺言書の末尾など空きスペースに、「●行目の●文字を削除し、●文字追加した」と、修正内容を追記します。
この工程を1つでも忘れてしまうと、修正した内容が無効となってしまいます。
万が一、遺言書の内容を書き間違えてしまった場合は、最初から書き直すことをおすすめします。
2-6 他の人の意思が介在している可能性がある
遺言書自体に何ら問題がなくても、遺言書作成時に他人の意思が介在している可能性が疑われると、相続人から「遺言無効確認の訴え」を起こされる可能性があります。
この訴えが認められた場合、遺言は無効となってしまいます。
例えば、遺言者が死亡時に認知症だった場合、遺言書作成日によっては既に認知症を患い、遺言能力がない可能性があります。その場合、他人の意思を介在して遺言書を「書かせた」と疑われてしまうのです。
遺言者の遺言能力を巡って相続人間で争いが生じた場合、「遺言能力の有無」を証明することは非常に難しいことであるため、争いが長期化するケースも珍しくありません。
これを防ぐためにも、遺言を作成している一部始終を録画して、「遺言能力があったこと」の証拠として残しておくことをおすすめします。
自筆証書遺言を誤って開封しても、遺言書が効力を失うことはありません。
ただし、封印されている検認前の遺言書を相続人が勝手に開封してしまうと、5万円以下の過料が科される恐れがあります。
3章 公正証書遺言が無効となるケース
公正証書遺言は、公証人を通して「公正であること」が証明された上で作成する遺言書ですので、無効となるケースは非常に稀です。
前章で解説した通り、無効になるケースが多い自筆証書遺言に比べて安心度の高いものですので、確実に遺言を実行したいのであれば公正証書遺言を作成することをおすすめします。
とはいえ、公正証書遺言であっても無効となる可能性は0ではありません。
ここでは、公正証書遺言でも無効となるケースについて解説します。公正証書遺言だからと安心せず、以下のようなケースがあることも念頭に置いて起きましょう。
3-1 作成時に遺言者の意思判断能力が著しく低下している
公正証書遺言を作成する際、公証人に加え、証人2名も立ち会います。そのため、遺言者の意思判断能力が著しく低下していれば誰かが気づくのでは?と思いますよね。
しかし、中には意思判断能力が著しく低下していても、公正証書遺言を作成されてしまうケースがあります。
公正証書遺言は事前に公証人と遺言の内容について、しっかり打ち合わせをして内容を固めます。
公正証書遺言の作成を司法書士や弁護士などに依頼すると、専門家が代行してこのような打ち合わせを行ってくれるため、作成日当日は、遺言者は口述で公証人へ伝えるだけでよいのです。
そのため、作成日において遺言者の判断能力について見落としてしまうこともあり得るのです。
遺言執行時にこの口述の有効性が疑われた場合、相続人から「遺言無効確認の訴え」がなされ、それが認められれば当然遺言は無効となります。
3-2 不適切な証人を立てた
公正証書遺言を作成する際には、必ず自身で2名の証人を手配しなければいけません。
証人に特に資格はないですが、以下のような人は証人になれません。
- 未成年者
- 相続人となることが予想される人
- 遺言内で財産を受け取ることを指定されている人とその配偶者、直系血族
- 遺言を作成する公証人の配偶者、四等身内の親族
- 公証役場の職員
上記の人を証人にして、遺言執行時に相続人からこれを指摘されてしまうと、公正証書遺言が無効になってしまいます。
自身で証人を手配する際には、上記に該当しない人を選任するように気をつけましょう。
4章 遺言書を無効にしないための対策方法
ここまで、遺言書が無効となるケースについて解説しました。
しかし、「気をつけよう」と思ってもなかなか難しいですよね。特に、自筆証書遺言の場合、手書きで作成しなければ行けないため、、完璧にすることがかなり難しいでしょう。
ここでは、遺言書を無効にしないための対策について解説します。
4-1 自筆遺言書の場合
自筆証書遺言には規定が多く、自身で作成するとすべてを完璧にすることは難しいでしょう。「遺言書が完璧であること」を司法書士や弁護士のような専門家にチェックしてもらうと安心です。
また、司法書士や弁護士は遺言書の作成からサポートしてくれます。遺言の内容が法的に問題ないか、相続トラブルの原因にならないかについても相談できるので、自筆証書遺言を作成するのであれば専門家に相談するのが良いでしょう。
また、自筆証書遺言は、法務局で預かってもらうことができます(「自筆証書遺言保管制度」といいます)。法務局で保管しておけば、失くしたり、他の人に改ざんされたりする心配はありません。
自筆証書遺言補完制度については、法務局が詳細を案内しています。
また、こちらの記事も合わせてご覧ください。
4-2 公正証書の場合
公正証書が無効になる可能性として最も高いのが「遺言能力がない」ことを疑われるケースです。
遺言作成日に遺言能力が証明するためにも、診断書取っておくのがよいでしょう。診断書は、判断能力等について記載する成年後見人の申立てに使う診断書が適切です。
この診断書は、主治医に作成してもらうことが可能です。
診断書について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
5章 遺言書を無効にしたいときの対処法
故人が作成した遺言書に違和感がある、無効ではないかと考えたときの対処法は以下の3つです。
- 相続人全員で遺産分割協議を行う
- 遺言無効確認調停
- 遺言無効確認訴訟
それぞれ解説します。
故人が遺言書を作成していたとしても、相続人全員が合意すれば遺産分割協議を行い財産を分けることも認められています。 一部の相続人に有利な内容の遺言書が作成されている場合などは、法定相続人全員で合意し遺産分割協議を行うことが難しい場合もあるでしょう。 遺言無効確認調停はあくまで相続人間の話し合いであり、調停で解決できない場合には遺言無効確認訴訟へと進みます。 遺言確認無効調停で解決できなかった場合、遺言無効確認訴訟へと進みます。 証拠の用意や裁判所との対応など、相続人のみでの解決は難しいので弁護士への相談をおすすめします。
ただし、故人が遺言執行者を選任していた場合には、遺産分割協議を行うには遺言執行者の同意が必要です。5-1 遺言無効確認調停
相続人全員の合意を得られず、遺産分割協議を行えない場合には遺言無効確認調停を申立て家庭裁判所にて話し合いで解決を目指します。
訴訟へ進む可能性があることも考慮し、遺言無効確認調停の段階で相続トラブルに詳しい弁護士への依頼がおすすめです。5-2 遺言無効確認訴訟
遺言無効確認訴訟では、裁判所が最終的に遺言書の有効性について判断を下します。
遺言が無効であると主張する相続人は、裁判所に対して遺言書が無効である証拠を提出しなければなりません。
遺言書を発見し、偽装・変造・破棄・隠蔽することは「相続欠格事由」に該当します。
相続欠格事由に該当すると、相続権を永久的に失います。
6章 遺言書の作成は専門家に相談しよう
遺言書は一生に一度、自身の希望を記載する大切なものです。自身が亡くなった後、問題なく遺言書を執行するためにも、司法書士や弁護士に専門家に相談することをおすすめします。
専門家に相談すれば、遺言書を無効にしないことはもちろん、財産の増減や相続人が先に亡くなるなど、イレギュラーなことが起こった場合でも対応できる遺言内容や、相続手続きをスムーズに行うことのできる遺言内容を提案してくれます。
また、相続が発生したときの手続きについても、同じ人に依頼できるので、スムーズな対応が見込めます。
なお、相続発生時には、遺言の執行が必要ですが、依頼した専門家を遺言執行者に指定しておくことも可能です。
遺言書を確実なものにしたい、安心して遺言を執行させたいというのであれば、司法書士や弁護士などの専門家に相談しましょう。
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