相続欠格とは?|相続できなくなる5つの要件と相続人廃除との違い

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司法書士中川 徳将

 監修者:中川 徳将

この記事を読む およそ時間: 7
 この記事を読んでわかること

  • 相続欠格とは何か
  • 相続欠格と相続人廃除の違い
  • 相続欠格の要件
  • 相続欠格となるとどうなるのか

「相続人の中で特定の人物にだけ相続させたくない」
「これまで何度も迷惑をかけてきた長男には財産を相続させたくない」
このように、お悩みの人はいないでしょうか?

相続欠格とは、相続に支障をきたす犯罪行為や不法行為を行った人の相続権を強制的に剥奪することです。
例えば、故人や相続人を殺害しようとした人物は、相続欠格となります。

相続欠格となった人物は財産を一切相続できなくなります。
ただし、相続欠格になった人物に子供がいる場合にはその子供が代襲相続人として遺産を受け取り可能です。

相続欠格になると、相続権を永遠に失ってしまうのでご注意ください。
本記事では、相続欠格になるケースやよく似た制度である相続人排除と相続欠格の違いについてわかりやすく解説していきます。

相続人廃除に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。

相続人廃除とは?相続させたくない人がいるなら相続人廃除をしよう

1章 相続欠格とは

相続欠格とは、相続に支障をきたす犯罪行為や不法行為を行った人の相続権を強制的に剥奪することです。
相続欠格は法定相続人のみに行われるのではなく、亡くなった人と全く血縁関係のない他人が遺言などによって遺産の取得を指定されている場合でも相続欠格の要件を満たした場合、遺産を取得することはできなくなります。

相続欠格の特徴は、主に以下の3点です。

  1. 相続欠格は亡くなった人の意思に関係ない
  2. 相続欠格で一度相続権を失うと永遠に取り戻せない
  3. 相続欠格はあくまで特定の故人との間にのみ適用される

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1-1 相続欠格は亡くなった人の意思に関係ない

亡くなった人が相続欠格に該当する人に「どうにかして相続させたい」と思い、遺言書を書くなどをしても認められません。
相続欠格は「法的に相続権を剥奪する」ものであり、覆すことは誰にもできないからです。

1-2 相続欠格で一度相続権を失うと永遠に取り戻せない

相続欠格の要件に該当し、一度でも相続権を失ってしまうと永遠に相続権を取り戻すことはできません。
相続欠格には時効などの期限もないからです。

1-3 相続欠格はあくまで特定の故人との間にのみ適用される

相続欠格は、特定の人の相続にのみ適用されます。

例えば、父の相続に支障をきたす犯罪行為を行い相続欠格となったとしても、母の相続にはなんの支障もきたしていないのであれば母の相続における相続権は保たれます。
「犯罪行為を犯したから、相続権をすべて失う」というものではありません。

なお、相続欠格とよく似た制度に相続人排除があります。
次の章では、相続欠格と相続人排除の違いを詳しく見ていきましょう。

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2章 相続欠格と相続人廃除の違い

相続欠格とよく似た制度に、相続人廃除があります。
相続欠格が要件を満たした場合に自動的に適用されるのに対し、相続人廃除は故人の遺志に基づいて行われるものです。
相続欠格と相続人廃除の違いを以下の表でまとめましたので、ご確認ください。

相続欠格と相続人廃除の違い
相続欠格相続人廃除
条件相続欠格の要件に該当したら、自動的になる故人が希望し、裁判所に認められるとなる
取り消し不可故人が認めれば可能

相続人廃除は、故人が生前に不利益を受ける、著しく不快にさせる行為を行った人が対象です。
そして、故人が裁判所へ申し立てるもしくは遺言に記すことで手続きを行います。

ただし、故人が希望したらすべてのケースで相続人廃除できるわけではなく、以下のような場合でのみ相続人廃除が認められます。

  • 故人を虐待した
  • 故人に対して重大な屈辱を与えた
  • 故人の財産を不当に処分した
  • ギャンブルなどの浪費による多額借金を故人に返済をさせた
  • 度重なる非行や反社会勢力へ加入
  • 犯罪行為を行い有罪判決を受けている
  • 愛人と同棲するなど不貞行為を働く配偶者
  • 財産を目的とした婚姻
  • 財産目当ての養子縁組

なお、相続人廃除は故人の意思に基づくものです。
そのため、故人が生前のうちに取り下げれば、一度廃除となった人も相続権を取り戻せます。

ただし、脅迫するなどして取り下げさせた場合には、今後は相続欠格にあたる可能性があるので、決してそのようなことはしてはいけません。

本章で解説したように、相続欠格は相続人廃除と異なり要件を満たすと自動で適用されてしまいます。
次の章では、相続欠格の5つの要件を確認していきましょう。


3章 相続欠格の5つの要件

相続欠格になる要件は、法律によって定められています。
具体的には、以下の5つです。

  1. 故人や相続人を殺害したもしくは殺害しようとした
  2. 故人が殺害されたことを知りながら告発・告訴をしなかった
  3. 故人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更・取消を妨害した
  4. 故人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更・取消をさせた
  5. 遺言書の偽装・変造・破棄・隠蔽した

それぞれ詳しく確認していきましょう。

3-1 故人や相続人を殺害したもしくは殺害しようとした

故人や相続人を殺害した、もしくは殺害しようとした人は相続欠格となります。
なお、「殺害した・殺害させようとした」と聞くと、殺人罪や殺人未遂罪を犯した場合のみのように思われるかもしれません。
しかし、介護が必要な人に対して食事を与えない、放置したなどの遺棄罪も相続欠格の要件に当てはまります。

3-2 故人が殺害されたことを知りながら告発・告訴をしなかった

故人が誰かに殺害された事実を知りながらも、殺害した人をかばうために告発・告訴しなかった場合にも相続欠格となります。

なお、告訴・告発ができない子供や殺害した人の配偶者や近しい親族(子供や両親、孫、祖父母など)の場合は例外です。

3-3 故人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更・取消を妨害した

遺言を作成・変更・取り消しをしようとしている人に対して、詐欺や脅迫をはたらきそれらを妨害した場合には相続欠格となります。

例えば、故人が「長男に遺産のすべてを譲る」という旨の遺言書を作成していることを知り、「自分にも遺産が渡るような遺言書にしろ。さもなくば殴るぞ」などと言い、妨害したケースは相続欠格に該当します。

3-4 被相続人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更、取消をさせた

すでに遺言を作成している人に対して、詐欺や脅迫をはたらきそれを妨害した場合には相続欠格になります。

例えば「長男に遺産のすべてを譲る」という遺言を作成した人に対して、刃物をつきつけながら「私が遺産をもらえるよう、遺言書を書き直せ」と脅迫した場合などがこれにあたります。

3-5 遺言書を偽装・変造・破棄・隠蔽した

遺言書を発見し、その遺言書を偽装・変造・破棄・隠蔽した場合には相続欠格となります。

例えば、「長男に遺産のすべてを譲る」という内容の遺言書を自分の都合の良いように書き換えたり、その遺言が無効になるように燃やしたりした場合にこれに該当します。


4章 相続欠格になるとどうなる?

相続欠格になると、相続権を永遠に失ってしまいます。
しかし、相続欠格になった人が法定相続人であれば代襲相続が発生する場合もあります。

相続欠格となった場合の取り扱いで注意すべき点は、主に下記の通りです。

  1. 相続欠格となるとその相続に対して相続権を永久に失う
  2. 子供が代襲相続人になる
  3. 相続開始後に相続欠格となった場合は相続手続きがやり直しになる
  4. 遺言書の内容よりも相続欠格が優先される
  5. 他の相続では相続欠格となった人物も遺産を受け取れる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

4-1 相続欠格となるとその相続に対して相続権を永久に失う

1章でも解説した通り、相続欠格になると、相続する権利を失います。
権利を取り戻す方法は一切なく、未来永劫で相続権はなくなります。

また、相続欠格となると相続権だけでなく遺留分についての権利も失われるのでご注意ください。

遺留分の計算方法をパターン別に具体例で簡単解説【法改正対応】

4-2 子供が代襲相続人になる

相続欠格になった人が法定相続人で、かつ子供がいる場合には代襲相続が発生します。

代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が、相続発生時に相続できない状況(亡くなっている、もしくは相続欠格になっている)にある場合に、その人の次の代の人が「代襲相続人」として代わりに相続する制度です。
例えば、故人の子Aが相続欠格で相続権を失っていた場合、Aの子(故人の孫)が代襲相続人となります。

  • 被相続人の子の子(孫)、さらにその子(ひ孫以下)
  • 被相続人の兄弟姉妹の子

代襲相続に関しては、以下の記事でも詳しく解説しています。

代襲相続人とは?対象の人や相続割合について徹底解説【イラスト付】

4-3 相続開始後に相続欠格となった場合は相続手続きがやり直しになる

相続が発生した後に、相続欠格事由となる事態が発生した場合、残りの相続人は相続手続きをやり直さなければなりません。
相続欠格になった相続人は相続権を失うため、残りの相続人の相続分も変更されるからです。

このように、相続発生後に相続欠格事由となる事態が発生した場合、相続欠格の効力は相続開始時点までさかのぼります。

4-4 遺言書の内容よりも相続欠格が優先される

遺言書に財産を受け継ぐように指定されていたとしても、相続欠格となった人物は遺産を受け取ることはできません。
相続欠格となった人物は、相続も遺贈も一切受け取ることができなくなるからです。

例えば、故人が相続欠格となった長男に対して「預貯金〇万円を遺す」と遺言書で指定していても、その部分は無効になってしまいます。

4-5 他の相続では相続欠格となった人物も遺産を受け取れる

特定の人物に対して相続欠格となった場合でも、他の人物の遺産については問題なく相続できます。
本記事の1章で解説したように、相続欠格はあくまで特定の故人との間にのみ適用されるからです。

例えば、父親の相続で相続欠格に該当したとしても、母親の遺産については問題なく受け取れます。


5章 相続欠格・相続人廃除の人以外に財産を相続させない方法

本記事の3章で解説したように、相続欠格は要件を満たさなければ適用されません。
また、相続人廃除は裁判所への申立てもしくは遺言書に記載しておく必要があります。
また、申立もしくは遺言書を作成してもすべてのケースで、相続人廃除が認められるわけではありません。

そのため、相続欠格や相続人廃除の要件を満たさないものの特定の人物に財産を相続させたくない場合には、自分で生前元気なうちに相続対策をしておかなければなりません。
具体的には、以下の4つの方法で相続対策をしておくのが良いでしょう。

  • 遺言書の作成
  • 遺留分対策
  • 生前贈与
  • 家族信託

それぞれ詳しく解説していきます。

5-1 遺言書の作成

遺言書で自分が希望する財産の受け継ぎ方を指定しておけば、その通りに相続してもらうことが可能です。例えば、下記のように相続分の指定や各相続人に受け継いでほしい財産も指定できます。

一方で、亡くなった人の配偶者や子供には遺留分が認められており、遺言書の内容が遺留分を侵害しているとトラブルに発展する恐れがあります。
また、所定の形式を守っていない遺言書は無効になってしまうので、注意が必要です。

ミスなく遺言書を作成したい、遺言書の作成だけでなく自分が亡くなった後の遺産分割までサポートしてもらいたい場合には、相続に詳しい司法書士や弁護士に依頼するのが良いでしょう。

遺言書に認められる10個の効力と遺言書が無効になるケースを解説

5-2 生前贈与

生前贈与をして相続財産そのものを減らしてしまえば、特定の人物へ財産を相続させなくてすみます。
また、遺言書と異なり自分が元気なうちに希望の人物へ財産を受け継ぐことができるのも、生前贈与のメリットです。

ただし、生前贈与をする際には以下の点に注意が必要です。

  • 死亡前10年間の生前贈与は遺留分や特別受益の計算対象財産に含まれる
  • 贈与を受けた側に贈与税がかかることがある
  • 不動産の贈与では名義変更手続きが必要になる
  • 贈与の無効を主張される恐れがある

税務署や贈与を受けていない相続人から「生前贈与なんてなかった」と主張されても反論できるように、生前贈与の証拠を残しておきましょう。
具体的には、家族間の贈与であっても贈与契約書を必ず作成しておくことをおすすめします。

生前贈与の手続きと必要書類まとめ【よくあるトラブル例も紹介】

5-3 家族信託

家族信託とは、家族間で信託契約を結び財産の運用や管理、処分を行ってもらえる制度であり、基本的な仕組みは以下の通りです。

認対策としてよく使用される制度ですが、家族信託では自分が亡くなった後の次の相続についても誰に相続させるのか指定できます。
自分の相続で特定の人物に財産を相続させないだけでなく、次の相続も指定して特定の人物に財産を渡さないようにしたいのであれば家族信託を検討しても良いでしょう。

ただし、自分の希望や状況に合う信託契約書を作成するのは難しく、専門的な知識が必要です。
家族信託の利用を検討する人は、家族信託や相続対策を熟知した司法書士や弁護士への依頼を検討しましょう。
グリーン司法書士法人でも、家族信託に関する相談をお受けしています。

家族信託とは|メリット・デメリットや活用事例をわかりやすく解説

5-4 遺留分対策

遺言書の作成や生前贈与、家族信託と相続対策について3つ紹介してきましたが、それらにあわせて遺留分対策も行うことが大切です。

先ほど解説したように、亡くなった人の配偶者や子供、両親には遺産を最低限度受けとれる遺留分が用意されています。
遺言書や生前贈与によって遺留分を侵害されていた場合、​遺産を多く受け取った相続人は、遺留分侵害額の金銭を請求される恐れがあるので遺留分トラブルを避けるために対策しておきましょう。​
具体的には、以下の方法で遺留分対策をしておくことをおすすめします。

  • 遺留分を計算しておき、遺産を多く受け取る人物の手元に資金を確保しておく
  • 土地活用などで銀行融資を受けて資産総額を圧縮する
  • 遺産を多く受け取る人物を受取人にした生命保険に加入しておく
  • 養子縁組で相続人を増やし遺留分の金額そのものを減らしてしまう

遺留分の計算や具体的な遺留分対策は、相続に関する専門的な知識が必要になります。
遺留分トラブルを避けたい、遺された家族の負担を減らしたい場合には司法書士や弁護士に依頼するのも良いでしょう。

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まとめ

相続欠格の要件に該当すると、相続権を永遠に失ってしまいます。
相続欠格は法律で定められた制度であり、故人が希望しなくなったとしても自動的に行われてしまう点にも注意が必要です。

なお、相続欠格に該当しないが特定の人物に財産を相続させたくない場合には、相続人排除も有効です。
ただし、相続人排除もすべてのケースで適用できるわけではなく、適用するためには裁判所での手続きなどが必要になります。

相続欠格や相続人排除をするのは難しいが、特定の人物に財産を遺したくない場合には遺言書の作成など相続対策をしておきましょう。
相続対策にはそれぞれメリットやデメリットがあり、自分に合う相続対策を選ぶためには専門的な知識や経験が必要になります。
遺された家族による相続トラブルを回避し、自分の希望する相続を行いたいのであれば相続対策に詳しい司法書士や弁護士への相談もご検討ください。

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